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殺戮機械が思い出に浸るとき 35

「各部チェック」 

 誠はいつものアサルト・モジュール起動作業を始めた。薄暗いアサルトモジュール05式のコックピットの中。実践となるといつもの稼働とは緊張感が違った。

『例の砲台。どう動くかね』 

 同じように作業を続けている要から通信が入る。

『現在L23宙域から動かないそうだ』 

 カウラの言葉に要の苛立ちを感じながら誠は作業を続けた。

『なあに、24機の無人機落とすだけだ、簡単じゃないの』 

 浅黒いフェデロの顔がモニターの一隅でにやけていた。

『フェデロ、軽口は止めろ』 

 第四小隊のフェデロ・マルケス中尉の言葉に隊長のロナルドが苦笑いを浮かべる。

『お姉様は私が守ります』 

『私も』

『オメエ等は静かにしてろ』 

 楓と小隊員渡辺かなめ大尉の言葉に要が心底嫌そうな言葉を紡ぐ。誠は苦笑いを浮かべながら脚部のアクチュエーターの動力の確認を行っていた。

『じゃあ僕も』 

 第三小隊のシャム言うところの『期待の新人』アン・ナン・パク曹長の言葉に誠は背筋に寒いものが走るのを感じていた。誠には同性愛のけはないが何度となくアタックしてくるアンにはただ苦笑いを浮かべるだけで済ますことを心に決めていた。

『オメー等今回の相手はあの吉田だ。相手が相手だけに相当苦戦するだろうからな。シャム、おい!シャム!』

 部隊長であるクバルカ・ランの言葉に呆然としていたシャムが一気に意識を取り戻したというように目を見開く。

『大丈夫なのかよ』 

 カウラの言葉に一瞬目を見開くが再び腑抜けのような表情に戻るシャムに、誠は不安のようなものを感じた。

『アタシは神前のフォローに入るからオメエはそのまま一人で突入する形になるんだ。気合い入れろよ』 

『ランちゃんに言われなくてもわかってるわよ』 

 多少腹が立ったというように口を尖らせるシャムに誠は安心感を覚えてにやりと笑った。

『本当に一人で大丈夫なのかね、あのお子様』

 閉鎖通信で要が誠にだけ本音をつぶやく。ただ誠は根拠はないが何故か大丈夫なように感じていた。その直感が全く根拠が無いことはわかっていたが、全てがうまくいくような気がしているのに誠自信少し不思議に感じていた。

『各機へ、現在目標はL24宙域へ移動中、繰り返す、L24宙域へ移動中』 

 管制官のパーラ・ラビロフの言葉にこれまでにない緊張感がハンガーを支配した。

『L24宙域。胡州系コロニー狙いか……それとも東都でも狙うつもりか?』 

『西園寺、予想屋の真似はやめることだ』 

 要の軽口をカウラが軽くたしなめた。誠は右下のブリッジを映す画像の中の艦長席で無意味に手を振る艦長代理のアイシャの姿に呆れながら苦笑いを浮かべていた。

『吉田のコピーだからな。P24宙域に侵入してそのまますんなり遼北、西モスレムあたりに一撃っていう正攻法は取らないとは思っちゃいたが……』 

 ランが静かにつぶやく。彼女の出撃の命令を待ちつつ誠はただじっと時間が過ぎるのを待っていた。

『いえ!L24から方向を転換!目標は急旋回しています!』 

 ピンク色のパーラの髪が揺れてブリッジのパイロット達に緊張が走った。

『目標はP24宙域へ侵入!繰り返す!目標はP24宙域へ侵入!』

 パーラの言葉にパイロット達はそれまでの軽口をやめた。ランからの連絡事項とネネからの報告では主砲のエネルギーチャージまでの時間は30分だった。

『おい、カタパルトはまだ準備ができないのか?』

『馬鹿か貴様は。この段階で展開してもこちらの戦力が拡散されるだけだ』 

『誰が馬鹿だ!誰が!』 

 要とカウラのやり取りをパイロット達は漫然と聞き流している。

『作戦宙域まであと5分です!我慢してください!』 

 整備完成室から島田が声をかけてきた。それを聴いたことを合図とするように迎撃部隊の第一波であるロナルドが機体の固定具をパージした。

『お姉様は私がまも……』 

『いいから黙っていろ!』 

 迎撃部隊に振り分けられている第三小隊長の楓の言葉に明らかにめんどくさそうに要は答えた。

『目標はP24宙域で停止。急速にエネルギー反応が跳ね上がってます!』 

『いよいよ始まりってことか?』 

 パーラの言葉を合図にするようにロナルド、岡部、フェデロが出撃していくのを見ながら要が軽い調子で口走る。誠のモニターからも明らかにカウラは苛立っているように見えた。

『デブリが濃いな』 

 ロナルドの声に誠はここが東和宇宙軍の演習で使った宙域だということを思い出した。

「ここって結構サーチが難しいんですよね。デブリが濃くて」 

『なんだよ、来たことあるのかよ』 

「ええ、宇宙軍の戦闘訓練で何度か……」 

『だったら早く言えよ!』

 要が吐き捨てるように言う。誠はただヘルメットの上から頭を軽く叩いてカタパルトの発射準備態勢に入るシャムのクロームナイトを眺めていた。

『ナンバルゲニア・シャムラード、アルファー・ツー出撃!』 

 それだけ叫ぶとシャムの銀色の機体は射出されていった。

『オメー等も覚悟決めろよ。一番肝心なのはオメー等なんだからな』 

 ランはそう言うと専用機のホーン・オブ・ザ・ルージュのパーソナルカラーの赤をあしらった05式をカタパルトに固定した。

『アルファー・ワン!出る!』 

 そのままランの機体が射出されるのを確認すると静かに誠は機体をカタパルトへと勧めた。

「僕が一番ですよね」 

『言うまでもないことを言うんじゃねえ。こういうのはベテランが最後に出るもんだ。二機め以降が的にされる可能性が高いからな』 

 誠の間抜けな質問に呆れ果てたというように要が呟いた。そのまま苦笑いを浮かべながら誠はそのまま乗機の05式を、ランの機体の射出のために前進していたカタパルトが戻ってくるのに合わせて前進させ、脚部を固定した。

「じゃあ行きます」 

『おう!行ってこい!』 

 ハンガーのコントロールルームから島田のどら声が響いた。次の瞬間、期待は足を中心に一気に艦外へ射出された。白ぽい艦内の景色から星空へと世界が一気に切り替わった。


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