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殺戮機械が思い出に浸るとき 33

「以上、質問はって……西園寺。そのツラはなんだよ」 

「何でもないですよ」 

 少女の言葉に西園寺要は明らかに不機嫌そうに呟いた。要がそれなりの金額を叩いて手に入れた情報をつらつらとあっさりやっつけで説明した少女の態度に明らかに苛立っていた。

「さっと立ってタバコでも吸いにいかないの?」 

「これでもかなり進歩したんだろ」 

 アイシャ・クラウゼとカウラ・ベルガーはそうやって要を冷やかしてみせる。その態度がやはり気に入らないのか、隣に座る神前誠を押しやって立ち上がろうとするが、再び思い直したように静かにブリーフィングルームの堅い椅子に座りなおす。少女ことクバルカ・ラン中佐はその様子に満足したように笑みを浮かべた。

「アタシもなあ、心配してたんだよ。お前さんが懸命なのは分かってたし……まああの御仁を叔父に持ったのが不幸だったってことだよな」 

「全部知っててあたしの背中を押したのか?あの中年……」 

 ぐっと右手を握って立ち上がろうとする要をカウラと誠が両脇から掴んでようやく座らせる。本気を出せば生身のカウラや誠など振りほどけるサイボーグの要だが、なんとか自分に言い聞かせるようにして再び着席した。ランの説明をその後ろで聞きながら端末にメモを残していた技術士官許明華大佐は静かにうなづきながらランを見上げる。

「正直アタシも聞いたのは出発直前でね。まあ隊長も事実を知ったのは恐らくお前さんたちが真実にたどり着いた後の話だと思うぞ」 

「そりゃそうだ。しかも本人からのリークだろ?」 

 わかりきっているというように要が吐き捨てる。誠はこの女性達の葛藤をどうにかできないかと影に隠れるように様子を見ている先輩の島田正人技術准尉やキム・ジュンヒ火器担当少尉の方に目をやるが、どちらもかかわり合いになるのはゴメンだというように目を合わせようとはしない。

「中佐、わかったことは全て話してもらえたんだね」 

 第四小隊小隊長のロナルド・J・スミス特務大尉はそれだけ言うとうなづいたランを確認しただけでそのままブリーフィングルームを後にした。

「お姉さま……」 

 いつの間にか要に寄り添っていた嵯峨楓の存在に気づいて要が大げさに引き下がる。

「もしおこずかいが足りないなら……僕のを使ってくれてもいいんですよ」

「足りてる!足りてるから!」 

 いつものように迫ってくる従姉妹に冷や汗混じりで叫ぶ要。それを見てにやると笑ったランはそのまま足早にブリーフィングルームを後にした。

「逃げやがった!このバカ!」 

 要が軽く身を乗り出してきている楓の頭を叩く。楓はその手を軽く払うとそのまま何事もなかったかのように場を後にした。

「あいつのせいで逃げられた!楓の野郎……」 

「違うわよランちゃんを逃がしたのよ。どこまで行っても隊長の娘よ。食えないわよ」 

 アイシャの言葉に要は力なく振り上げた拳を机の上に静かに下ろした。

「それより……」 

 アイシャのその言葉の先には茫然自失としているナンバルゲにア・シャムラードの姿があった。何もない空間をぼんやり見つめてランの講義がまだ続いているように座り続けている。

「コンビ組んでた相手が人間じゃなかったんだ。多少の動揺はあるだろ」 

 ただぼんやりしているシャムに誠は立ち上がるとそのままそばへと歩み寄った。

「誠ちゃん……」 

「やっぱりショックだったんですか?」 

 誠の言葉にシャムは曖昧な笑みを浮かべるとそのまま静かに首を横に振った。

「ショックとかそういうのじゃないんだ……あえて言えば少し寂しいかな。もう十年以上の付き合いなのに……何も話してくれなかったなんて……」 

 珍しくセンチメンタルなシャムの言葉に先程までのいじけた表情を浮かべていた要がにじり寄った。

「おい、オメエのことだからただ単に鈍感だっただけじゃないのか?」 

「そうかもしれないね」 

 反発を予想していた言葉をあっさりと肯定された要はつまらないというように立ち上がって大きく伸びをした。

「それより神前。大丈夫なのか?相手のインパルスカノンの砲身が焼きつくまで6発。まあ後半は砲身が傷んでいるだろうから威力はそれほどでもないだろうが初弾と二発目は月をぶち抜く威力だぞ。それを干渉空間で受け止めるって……」 

「そうだよ!誠ちゃん大丈夫なの?」 

 自分の殻に閉じこもっていたシャムが要の言葉で我を取り戻したかと思うと誠に向けて感情を爆発させたような大声を発した。誠は驚きながらカウラとアイシャに目をやった。

「どうなの誠ちゃん。大体わざとインパルスカノンを撃たせるなんて……計算上は受け止められるって話だけどあくまでも計算の上での話」 

「砲台の自衛戦闘モジュールは24機。掻き回されて集中力が途切れたらジ・エンドだ」 

 アイシャとカウラの話に誠は今ひとつ理解しかねるというように首をひねった。そんな誠の首に手を回した要はそのまま誠にヘッドロックをかける。

「オメエのことなんだよ!オメエの!」 

「クッ苦しいですよ、西園寺さん!」 

「苦しいのは生きてる証拠だ。カウラの言うようにオメエが展開した干渉空間に多少のゆらぎがあっただけでアタシ等全員蒸発することになるんだぞ!」 

「多少は威力は緩和されても遼北、西モスレム国境にでも当たればそれこそ核戦争勃発ね」 

 要の言葉もアイシャの言葉も誠はよく理解できた。ただ、余りにも物事のスケールが大きすぎて要がヘッドロックを止めて立ち上がることができても、浮遊感のようなものを感じるだけで今ひとつピンと来なかった。

「誠ちゃん。安心していいよ。誠ちゃんは独りじゃないもん。要ちゃんがいて、カウラちゃんがいて、アイシャがいる」 

「シャムちゃん、なんで私だけ呼び捨てなの?」 

 アイシャの茶々を無視してシャムは誠を見上げながら立ち上がった。

「アタシもみんなも頑張るから……ね?」 

 シャムの言葉に誠はようやく自分の役割が数億の命を背負ったものだと理解することができて足が震えているのを感じていた。


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