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殺戮機械が思い出に浸るとき 19

「くそったれ! 」 

「オンドラさん。下品ですよ」 

 大きなバックを抱えたネネの姿は、まるで要塞のような警察署の前では実に不釣り合いではかなげに見えた。尖った縁の青いサングラスで隣で城塞を睨み付けているオンドラの姿も相まって通行人は思わず二人に目を向けてしまう。

 東和西部最大の都市、涼西。その遼南からの移民が多く住むスラムの警察署の前での女二人連れという姿はあまり用心の良いものでは無かった。通行人達はすぐにその視線を心配するような様子に変えるのを見てオンドラは咳払いをするとそのまま一人先だって道を港に向けて歩き始めた。

「これで破壊された軍用義体は12体。どれも所有者不明。脳は完全に破壊されて証言も取れない……さらにご丁寧に数日後には保管庫から盗まれた上に保存された資料もすべて抹消されているっていうんだ……吉田俊平って奴は相当慎重なんだねえ……」 

 吉田俊平を追ううちにネネ達は多数の軍用義体が破壊される事件を知ることとなった。しかも捜査官の証言では全員が同じ顔、吉田俊平その人の顔を持った義体だということがわかった。だがそれ以上の情報はまるで手がかりがなかった。証拠は完全に抹消され、犯人の目星どころか司法機関が捜査を開始する手がかりすら無い有様だった。

 早足で歩くオンドラに少女のような体格のネネがバッグを抱えて必死についていく。

「予想はしていたんですが……ネットを調べても無駄なわけですよ。すべての記録は改竄されて残っているのは取り調べに立ち会った人物の記憶だけ」 

「予想してた? さすが『預言者』! じゃあ次はどこで壊れたサイボーグを見つけた人物の聞き込みに行くんですか? もう東和は終わりにして遼南ですか? 大麗ですか? いっそのことベルルカンまで足を伸ばしますか? 」 

 半分キレ気味にオンドラは叫ぶ。元々が違法入国者である彼女が警察署での居心地の悪さにストレスを感じているのはネネも十分分かっていた。西園寺要からの三十万ドルはすでに半分がオンドラが東和国内で動けるための申請書類を偽造したり正規ルートでない移動手段を確保するために使われていた。そんな経費の計算もオンドラを苛立たせているのだろう。

 ネネはちょこまか歩きながらオンドラの背中を眺めていた。

「サイボーグが破壊される……どの義体もただじゃない。専門家じゃない初期捜査の捜査員が見ても分かるほどの高度な戦闘用のカスタムがされたものばかりって話だ……それが消えたのになんの連絡もない……一体でアサルト・モジュールが買えるような代物だ。金の計算ができないのかね」 

「それだけの無駄遣いが出来るのは政府機関と考えるのが順当な見方ですね……海外の諜報機関の諜報員の義体も混じっていたでしょう……でも数が多すぎる。東和はそれほど治安が悪いわけでも軍の力が強いわけでもない。強力な軍用義体を必要とされるような非正規作戦が展開されたのは東都戦争くらいですから……」 

 ネネの『東都戦争』という言葉にオンドラが立ち止まった。

「あの時にあの馬鹿と出会わなきゃこんなところでぐだぐだ言うことも無かったのによ! 」 

 そのまま目の前の空き缶を蹴飛ばすオンドラ。その空き缶はそのまま放物線を描いて正面の大通りに転がっていく。大型トレーラーがそれを踏みつぶし、あっという間に潰された缶を見てオンドラはにやりと笑った。

「でもおかげでお仕事がもらえたんですもの」 

「は? お仕事? ただ無駄遣い……」 

「費用が発生したのはほとんどオンドラさん絡みばかりですよ? 」

 ネネの言葉にオンドラは黙り込む。その様子を見るとネネは静かに抱えていた大きな黒いバッグを道路に置いて大きなため息をついた。

「ちょっと待っていてくださいね……」

 そう言うとネネはバッグを開けて中身をあさり始めた。

「何を始めたのやら……」 

 呆れるオンドラを無視してネネはそのまま中からビニール袋に入った小さなチップを取り出した。オンドラは驚いた表情でそれを見つめる。

「ネネ……それって証拠物件じゃないの? どうしたのよ……盗ってきたわけ? まずいよそれは……」 

「調査もしないで放ってあるんですもの。使わないと損ですわ。それに……たぶんこれは私の予想を裏付けてくれる大事な品物ですから」 

 そう言うとネネは静かに道を眺めた。オンドラはその先を見てみる。ただ続くあまり手入れの行き届いていない荒れた道。

「何か見えるのかよ……」 

「北です」 

 ネネの言うとおりその方角は北だった。オンドラは訳が分からずにただ北を見つめるネネを見下ろす。

「北に何があるんだよ……北と言えば最近遼北の避難船が何度も来港しているって話じゃないのさ。危ないよそりゃあ」 

「だから行かなければならないんですよ。答えはそこにあります」 

 ネネの力のこもった言葉にオンドラは大きくため息をついた。

「分かりましたよ……アタシはあんたの護衛、ナイトだ。地の果てまでだってついていきますよ」 

「私のじゃなくて私の持っているお金のでしょ? でもまあお願いします。もしかしたら危ないことになるかも知れませんから……」 

 一言一言確かめるように呟くネネ。その言葉に何か質問をするだけ無駄だと分かったオンドラはネネの足下のバッグに手を伸ばした。

「返してください! 」 

 慌てるネネにオンドラは笑いかける。

「いいじゃないのさ、荷物を持ってやろうって言うんだ。こんな気まぐれ滅多にないんだぜ!さあ我行かん!極北の大地へ! 」 

 軽快な足取りで歩き出すオンドラ。ネネは苦笑いを浮かべると手にしたチップをコートのポケットに押し込んでそのまま早足で歩き続けるオンドラの後をちょこまかとついていくことにした。


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