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殺戮機械が思い出に浸るとき 11

「西園寺! 」 

 カウラは食堂から出て行こうとする要の腕を捕えた。ばつが悪そうに頭を掻く要を誠とアイシャはちらりと横目で見た。

 誠の前にはサーフェイサーで下準備を済ませた組みかけの女子校生のフィギュアがあった。久しぶりのフィギュア製作。もしもこれが謹慎中の暇つぶしでなければそれなりに楽しむことが出来たと思う。一方でアイシャは誠に下塗りをしてもらったアニメの五体合体ロボの仮組をしていた。

「焦ったってしょうがないじゃないの……それともなに? 吉田少佐の知り合いのプロデューサーでも捕まえて絞り上げるつもり? 一般人にご迷惑をかけてもしょうがないじゃないの。少佐はちゃんと仕事はしている。契約上、例え何日欠勤しようが文句は言えないのよ」 

 アイシャの小言に要はむくれた顔のままそのまま近くの椅子に体を置いた。明らかに不服。それは十分分かっている。しかし今は待つしかないのを一番分かっているのも要だと言うことは皆が分かっていることだった。

 心理を読むことに優れた法術を持ち、独自の情報ルートで様々な情報を入手して売り渡す凄腕の情報屋の『預言者ネネ』。そんな彼女でも二日程度で有効な情報が得られるとはその道のプロである要なら分かっているはずだった。だがそんなことを言っていられない状況ができあがりつつあった。

 カウラは要が落ち着いたのを見て取ると食堂の古めかしいテレビのスイッチを付けた。相変わらず流れているのは遼北と西モスレムの軍事緊張のニュースだった。

 実力行使の及ぼうとした両国が同盟軍事機構のエース、アブドゥール・シャー・シン大尉のパイロキネシス能力の前に優秀なパイロットを消し炭にされたことでとりあえずの正面衝突は避けられているものの、両者による外交的な徴発合戦は続いていた。

 西モスレムは化石燃料系の遼北とベルルカン大陸の親遼北諸国への限定的輸出制限を宣言し、対抗処置として遼北は国内のイスラム宗教指導者を拘束した。緊張が始まってから遼州同盟会議は両国による非難の応酬で実質的な機能は麻痺しつつあった。

「これ……どこまで行くかな」 

 テレビを見ていた要がぼそりとつぶやく。ようやく身勝手な行動を諦めたような要を見てカウラがテーブルの上に腕を組みながら話を始めた。

「根が深いからな。国境のカイエル川の中州……広さにしたら東都がすっぽり入る程度の広さだと言うが、それでも領土は領土だ。それに遼北の回教徒への圧迫には昔から西モスレムは不快感を隠していなかったからな。今回の西モスレムの越境行動で堪忍袋の緒が切れたんだろうが……」 

「だとしても私達には面倒な話ばかりね。もしこのままどちらかが同盟を離脱するとか言い出したら失業するかもよ」 

 ロボットらしい形を目の前に作って一息入れているアイシャがぼそりと呟く。確かに誠も同盟の主要国であるこの二国の一方が離脱という形になれば遼州同盟が空中分解することは容易に想像が出来た。

 だから何が出来るわけでもない。確かにこんな状況だからこそ要が別に関心があるわけでもない吉田の捜索に夢中になるのも分かる気がしてきた。

「保安隊解体……」 

 誠の言葉にアイシャは苦笑いを浮かべた。

「私はゲルパルト国防軍に戻ることになりそうね……あそこはネオナチを追い出したおかげでいつでも人手不足でヒーヒー言ってるから……カウラちゃんは東和軍?」 

「だろうな。おそらく陸軍だろう。士官養成課程は陸軍で受けているからな」 

 まるで既成事実のように語り始める二人。要はそれがいかにも気にくわないというように膨れた顔のままテレビの画面を眺めていた。

「同盟崩壊が決まった訳じゃないだろうが……」 

「もしもの話よ。いつだって最悪は訪れるものよ。こういう風に意固地になって民族主義に走り出した国がどうにも出来ないのはゲルパルトの例を見ればわかるでしょ? 排外主義に突っ走ってどうしようもなくなってドカン。よくある歴史の一コマよ」

 淡々とそれだけ言うとアイシャは仮組みしたプラモデルをうっとりとした目で眺めた。今の誠達に何かが出来るわけもない。出撃命令の出ていない武装組織はただの民間人。いや、それよりも情報に精通しているだけにそれ以下の存在だと言うことがひしひしと誠にも感じられてきた。

「吉田の野郎がいれば……」

「いてどうするの? と言うかあの人がこの状況を知らないとでも思っているの? 私の勘だけど……この状況と吉田少佐の失踪には何か深い関係があるような気がするんだけど……」 

「アイシャ。そのくらいのことはここにいる誰もが分かっていることだ」 

 平然と自分の名案をカウラに切って捨てられてアイシャが肩を落として俯いた。その光景が面白かったので思わず誠はフィギュアの右腕を持ったまま吹き出す。すぐに顔を上げたアイシャが誠を睨み付けてくる。渋々誠は何もなかったことにして右腕をアレンジするとしたらどうするかと言うことを想像するようにプラスチックの部品を目の前にかざしてみた。

「まあこれから先は隊長の……いや、同盟司法局の本局や同盟会議の首脳達の判断になるだろうからな。なんとか動けるようにしてくれればいいのだけれど……」

 愚痴るカウラ。彼女の気持ちは全員の気持ちだった。確かに自分達は現在つまらないことで謹慎中の身の上だった。そんな彼等でさえ現状はいても立ってもいられない状況。出勤していった隊員達がハンガーでこのニュースをどんな気持ちで聞いているかを想像すると逆に同情する気持ちすら芽生えてくる。

「まあ……世の中なるようにしかならねえよ! もし最悪を突き進めば遼北と西モスレムの全面核戦争。十億程度の人間が死んで終わり。同盟は瓦解し、地球の列強が隙間をついて各国にすり寄りベルルカン大陸は地球資本に浸食されて失敗国家がさらに失敗した社会になる。それだけの話だ」 

 そう吐き捨てると要は立ち上がった。

「どこへ行く! 」 

 カウラの強い語気に渋々振り返る要。

「煙草だよ」 

 それだけ言うと要はそそくさと食堂を出て行った。


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