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ゲーム(物語)は終わらない

作者: 明田いくみ

筆者は乙女ゲームをほぼやったことがありません。

最近よく見る『乙女ゲーム悪役転生』を書いてみたかったので……。気晴らし程度に書きました。

私は、主人公がむやみやたらに不特定多数から好意を寄せられるという、乙女ゲームやらギャルゲーといった類いのものが苦手だ。

あっちにふらふら、こっちにふらふら。みんなに良い顔するのは男らしくないし、女でもイラッとする。

どうせなら、最初に攻略したいキャラを選び、そのキャラ専用の主人公でゲームに挑むのならまだよかったのだが……。

それは乙女ゲーム等とは言わない?まあ、その話は置いておこう。


とにかく、そういった類いのゲームには関わることなく、人生を終えた私だが、何故か今、その乙女ゲームの世界に転生してしまっていた。

ただし、主人公ではない。主人公が攻略キャラとくっつくきっかけになる当て馬の悪役キャラだそうだ。

乙女ゲームと関わってこなかったのに、何故わかるって?いるんだよ、私の他に転生者が。しかも、ディープなところまで知っている、ゲーム開発者の一人らしいのだ。



その人が言うには、ゲームの舞台は日本の都内の高等学校。私は、そこに通う女子高生で、自分で言うのは違和感があるのだが、才色兼備の社長令嬢。厳格な父親に認めてもらうために努力する真面目な子だった。しかし、突然現れた主人公がドジで成績も悪く、お人好しで常にトラブルを持ち込むような子なのに、多くの友達に囲まれ、学内で人気者の男子生徒(攻略対象)を侍らせていることに私は嫉妬し、嫌がらせを始めた。そして、攻略対象はその嫌がらせを健気に耐える主人公にますます好感度を上げ、最終的には共に私を糾弾することで、ラブラブハッピーエンドを迎えるのそうだ。


「全然行動を起こさないからおかしいと思ったら、転生者だったのか……」


ゲームの中の私はそろそろ思い詰めて行動を起こしているらしいが、おあいにく様。前世では成人し、社会人も経験済み。恵まれている人を妬み恨んでも何も変わらないことは十分わかっている。それに、前世で一般家庭で育ち、顔も才能も平凡女子だったのに比べ、今の私は大きな会社の社長の娘に生まれ、容姿も前世と比べ物にならないくらい恵まれていると思う。勉強もせっかく生まれ変わったのだから前世より頑張らなくては、と学年二位をキープしている。卒業までには一位の生徒会副会長を抜くことが密かな目標だ。父親はやはり厳しいが、それでも主人公を逆恨みするとか、思春期を拗らせたようなことをする精神年齢ではないのだ。

せっかくの第二の人生、そこそこ順調に生きているのだ。ゲームの世界だかなんだか知らないが、妙なことに関わって余計な波風を立てるのはごめんだ。


だから、ハッピーエンドのために私に悪役を演じろ、と言われても……答えは当然「断固拒否!」だ。


「でも、主人公がこの学校にやって来たことでゲームは始まってしまった。君は嫌でもゲームに関わらざるを得ない」


その人曰く、ゲームの強制力が働くらしい。


普通であればそんな話を信じないだろう。しかし、その人は初対面であるはずの私のことを全て知っていて、その後の出来事も的確に言い当てた。

それに、私は転生者で、乙女ゲームというものを知っている。全くの嘘だと突っぱねることは出来ない。


「例えば、誰かに嵌められて、罪をでっち上げられたり……だったら自分の意志で、少しでもマシなように立ち振舞わない?」


その誰かとはあなたのことじゃないでしょうね?

その笑顔は、「この人ならやりかねない」と思わせる迫力があった。


「安心しなよ、どんなに悪い展開でも、君が学校から追い出されたり、君のお父さんの会社がどうにかなったりしないから」



そんな脅しのように命じられ、私は頑張った。

鏡の前で「私は女優。女優」と唱え、部屋に吊るした“奴”の写真を貼ったサンドバッグがボロボロになるまで頑張った。




その結果、主人公は見事、お馬鹿な俺様生徒会長とのハッピーエンドを迎えた。

お馬鹿な俺様とは言葉のまま、勉強は出来るのに、おつむが残念なのだ。正直、私だったら彼を攻略しようとは思わない。



ゲームの嫌がらせは本当に酷いもので、教科書に剃刀を仕込んだり、鞄の中に墨汁をぶちまけたり、ロッカーの鍵を壊して中の体操服等をズタズタに引き裂いたり……最終的には、主人公を池に突き落としたりしてしまう。怖っ!

私はいくら役割とは言え、そんな怪我をさせたり、物を壊したりなんて出来ません。せいぜい物を汚れないところに隠したり、不幸の手紙を書いたり、匿名で裏庭に 呼び出して放置したぐらいだ。これでも大分心が痛かった。


そんな小学生並みの嫌がらせに、主人公は大したダメージを受けていないのだが、お馬鹿な俺様には効果覿面で、「犯人、許すまじ」で燃え上がり、そのまま会長ルートに突入したそうだ。

他の攻略キャラは、あまりに幼稚な嫌がらせを仕掛ける犯人(私)を可哀想な子だと憐れんでいたようだ。……地味にへこむ。



ハッピーエンドを迎え、今までの嫌がらせが全て露呈した私は、会長と主人公に謝罪し、二度と彼女に近づかないということで許してもらえた。言いふらしたりもしないらしい。良かった、二人とも良い子で。小学生並みの嫌がらせするとか言いふらされたら、この学校で生きていけない。

これでようやく、私は悪役から解放されるのだ!








「悪役、お疲れ様」



私が思わずスキップしながら昇降口に向かっていると、下駄箱で待ち構えていた人物がいた。


「主人公が無事会長ルートを終えてくれて良かったよ」


常に柔和な笑みを浮かべるこの爽やか美少年は、攻略対象の一人、生徒会副会長。しかし、その正体は私と同じ転生者で、私に指示を出していた、このゲームの開発者だ。


「これで私は悪役なんてしなくていいんでしょ?」

「うん。ここはゲームと違って、現実だ。一度進んだ時間を巻き戻って、別のキャラを攻略出来ないからね」

「良かった。じゃあ、明日からは私は普通の学校生活に戻るんで!主人公とか攻略キャラには今後一切関わらないから!」


そう言って、副会長の横を通り抜けようとするが、何故か腕を捕まれてしまった。


「ちょっと……?」

「実はね。俺が担当してたのは、続編なんだ。まあ、構想中に死んじゃったけど……」


続編!?そんなの聞いてない!

ここに来て、悪役続行とか冗談じゃない!


「攻略キャラにはそれぞれ専用のヒロインを用意してたんだ。生徒会長は従来のヒロイン。不良少年には幼なじみのお姉さん。バスケ部エースには敏腕マネージャー。新聞部部長には放送部のマドンナキャスター……ってな具合にね。副会長の僕は……誰だと思う?」



副会長はいつもの柔和なものとは違う、悪戯っぽい笑みを浮かべ、腕を掴んでいた手を滑らせ、私の手の甲を持ち上げる。流れるような動作に見とれていると、手の甲に口付けられた。




「さあ、ゲームを始めますか?──“僕の悪役(ヒロイン)”さん」

設定を詰め込みすぎて生かしきれてない……。

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