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歓迎篇 第3幕

インフルエンザと大学の課題で遅れました。すみません。

 「あれはヤバかった~!! すっげーわ、劇団百鬼夜行!」

 5・6限目の新入生歓迎会が無事でなく終わった放課後の渡り廊下。そこに興奮冷め止まぬ瓢と、見た感じ無表情な哀川の姿があった。

 「……確かに。あれは俺でも見入ってしまった」

 「だろう? あれって妖怪の俺たちしかわかねぇよな、きっと」

 「……人間から見ても普通にすごいと思うぞ。あのパフォーマンスは」

 「ああそうかも知んねぇな。でも、最後まで観れなかったのが本当に残念だぜ」

 体育館で行われた新入生歓迎会で、一番最後に登場する予定だった演劇部を突如ジャックして登場した劇団百鬼夜行。彼らは舞台上で様々な妖力を使ったパフォーマンスを新入生に魅せつけた。いや、厳密には今年新入生としてこの高校に入ってきた妖怪たちにだ。正体がばれることを恐れずに、己の妖怪としての本性を堂々と晒し出していた彼らは、光り輝いていた。決して照明の力によるものではない、本当の輝きを身に纏いながら。その輝きにあてがわれた者たちは皆、舞台上の彼らを魅入ってしまった。それだけ人を引き寄せる力があるということだ。

 妖怪という普通の人間と違うことに自己嫌悪して、自らの殻に引き籠っている若い妖怪たちはこれをみてどう思ったのだろう。彼らの光を見てどう感じたのだろう。妖怪とは本来闇の中に生きるもの。そのものがあんなに眩しく光を放っている姿をみて、暗い殻に籠っている自分とどう向き合えたのだろうか。

 その答えを引き出す前に、劇団百鬼夜行は舞台上から強制退去(?)させられてしまった。館外を封鎖していた風紀委員と柔道部の連合部隊が、館内の異変に気づき突入してきたのだ。しかし、劇団百鬼夜行の団員はそのことを読んでいたらしく、妖力を用いた閃光を使って連合部隊を少し足止めした後、一瞬にして舞台上から姿を消したのだった。

 「……そうだな。でも、あれはあれでよかったのかもしれない」

 「そうだな。未完のままの方が、先のことを自分で考えて完結させないといけないからな」

 「……そういうことだ」

 「で、オレたちはその劇団百鬼夜行に入りたいんだけど、完全に迷子だなこりゃ……」

 この彩四季高校は同窓会も含め部活動が多い。そのため、部室棟たるものまで建設されているのだが、いかんせん数が多すぎてどれがどこの部活なのかわからないくらいだ。

 「……地図に載っていないから仕方がないだろう。それにここにあるのかも怪しい」

 「いや絶対ここだって。下田先生が学校のクラブ(同窓会も含む)の7割はこの部室棟にあるって言ってたもん」

 「……あの担任は信用ならん」

 下田先生ひどい言われようである。しかし、前科があるのであながち間違ってはいない。

 「そう言われたら言い返せねぇんだよな……」

 「……取りあえず一旦ここを出よう。何か嫌な予感がする」

 「なんでだよ?」

 「さっきから不審な視線を感じる。誰か俺たちを見ている」

 「え!?」

 瓢は慌てて周囲を見渡す。しかし、周りには誰もいない。

 「気のせいじゃないの? ここ結構人通りも多いみたいだし……」

 「……いや確かに感じた。数はおよそ2人」

 「数までわかってんのかよ……ッ?!」

 突如、瓢の背中に悪寒が走った。何かねっとりとするような気持ちの悪い何かに背中を舐められた感覚だ。体中の毛が総立ちになり、狐耳と尻尾が飛び出そうになったほどだ。

 「ななな何か感じたぞ!? 何だ今の?」

 「……走るぞ」

 哀川は瓢の腕を掴むとその場から走り出した。

 「グェッ!?」

 いきなり腕を掴まれとてつもない力で引っ張られた瓢は、肺から空気が抜ける音がした。そんな瓢に構わず、哀川は風のような速さで廊下を走り、階段を飛び下りる。階段を飛び下りるたびに瓢の腕はもげそうになったが。やがて一階に辿り着き、校舎を出た。

 「……あそこの茂みに隠れるぞ」

 そう言って瓢を先に校内にある庭の茂みへ投げ込むと、哀川も続いてその茂みにダイブした。

 「お前この俺を軽々と投げやがってからに……」

 言い忘れていたが、瓢もそこそこ背が高く、170センチちょっとある。

 「……黙っていろ」

 哀川が睨みを利かせてきた。仕方なく瓢は口を閉ざした。

 すると、校舎の出口から二人の女生徒が小走りで出てきた。2人とも見覚えがある。確か、瓢のクラスメイトの女子たちだ。一体何事なのかと耳を澄ましているとこんな会話が聞こえてきた。

 「あ~~見失っちゃったか。どうして気づかれたんだろ」

 「尾行の仕方に問題はなかった。向こうの周囲探知能力が恐ろしく高かったと思われる。妖怪レベル」

 「折角いいネタが近くにあったのに惜しいことしたな」

 「問題ない。収穫はあった。2人は逃げる時、片方の相手の腕を無理矢理引っ張っていった。あの有無を言わせない感じ、堪らない」

 「引っ張ったのは哀川くんね。もう1人は葛葉くんよ。あの2人入学してから二日しか経ってないのにもうあんなに親しげに話して。きっと2人の関係に何かあるわ」

 「私の妄想の中では、哀川くんが攻めで、葛葉くんが受けとしている」

 「あ、あたしもそれ思ってた。でも、逆もありかもしれないわよ。デュフフフフフッ」

 「デュフフフフフ」

 不気味な笑い声を発生させながら、2人の女生徒は校舎の影に消えていった。

 「「……」」

 2人茂みの奥に残された瓢と哀川はとても気まずい雰囲気になっていた。

 「なぁ、あいつらって一体何だったんだ?」

 「……世の中には知らない方が幸せなこともある」

 「逆にすげー気になる返事だな。受けとか攻めとかなんなんだよ、ッたく」

 「教えてあげようか?」

 突如、頭上から声が聞こえたので慌てて顔を上げると、茂みの外から瓢と哀川を覗く顔と目が合った。首を伸ばし、茂みの中まで入ってきている。リボンの色からして上級生の女子生徒のようだ。そして、その女子生徒には何だか見覚えがある気がした。

 「そんなとこに隠れてたらまた変な噂が立つから、ひとまず出てきたら? 今なら私以外誰もいないわよ?」

 女子生徒にそう提案され、2人はのそのそと茂みから這い出した。

 「へ~案外イケメンじゃない、あんたたち。こりゃあんな噂もでるわけだ」

 「何なんですか、あなたは? 上級生ですよね」

 「うん。私の名前は白石茜。2年生だよ」

 そう言うと、茜は軽く頭を下げにっこりと微笑む。かなりの美少女だと瓢は思った。

 「ちょっとすごい速さで人を引っ張って走る男子が向かいの校舎から見えたから気になって出てきたらビンゴだったみたいね」

 「……どういう意味ですか?」

 「あんたたち、妖怪だよね。もしかしたら劇団百鬼夜行を探してるんじゃない?」




 「劇団百鬼夜行の部室はあの校舎にはないのよ」

 少し傾いた西日を浴びて体育館に向かう廊下を歩きながら、茜は後ろを付いて来ている瓢と哀川に対して言った。

 茜は2人を妖怪だと見破った後、ついて来て、とだけ言うとさっさと歩きだしてしまった。話に付いていけなくなった瓢と哀川は仕方なく彼女の後を追ってきた次第だ。

 「そうなんですか? じゃあどこに」

 「ま、一緒についてきたらわかるわよ」

 廊下を歩く瓢は、この道を知っていた。さっき新入生歓迎会が行われた体育館に続く道だ。でも、体育館は風紀委員に封鎖されたと担任から聞かされていたが。

 「なぁ哀川。俺たちどこに向かってるんだろうな」

 茜は取り合ってくれそうもないので、哀川に聞いてみる。

 「……わからん。だが体育館に向かっていることは確かなようだ」

 「いやでもここ1階だよな。体育館は2階にあったよな」

 「2階は風紀委員が封鎖して見張ってるから、下からいくのよ」

 やはり行き先は体育館のようだ。だが、正面から行く気ないみたいだ。

 体育館は部室棟から渡り廊下を伝い、本校舎を通ってから連絡通路を渡らないとたどり着けない、独立した建物だ。1階は主にダンス室と食堂、男女更衣室が設置してある。

 「1階は警備が薄いから一気に裏まで走るわよ」

 「え? 走るんですか」

 「ついて来て!」

 言うか早いか、茜は姿勢を低くして走り出した。そして一気に体育館1階の隅に辿り着くと2人を手招きする。

 瓢と哀川は互いに顔を見合わせてから、茜の元へ走った。

 「よし、じゃあいくわよ」

 「あの、ここ立ち入り禁止って張り紙がありますが?」

 「気にしない気にしない。ここからじゃないと入れないから。奥にいって右に曲がったところに階段があるからそこを上がるの」

 通い慣れているのか少し薄暗い道をものともせずに進んでいく茜を追いながら、瓢はこの人は一体何の妖怪なのか考えていた。見た目は人間と全く一緒だから瓢や哀川と同じく変化をしているのか、それとももともと人間と対して変わらないのか。もしくは……。

 「さ、着いたわよ」

 「……ここは?」

 そこは体育館舞台裏の入り口だった。そして辺りには妖気が漂っている。何か発動しているようだ。

 「……幻術か」

 「お、よくわかったわね。風紀委員を欺くために張ってあるの。ま、あいつら馬鹿だからここまで来れやしないんだけどね」

 茜は肩を竦めると、入り口の扉に手をかけた。

 「さあて、君たちが探し回った劇団百鬼夜行の活動場所に辿り着きました。今からこの扉を開けます。準備はいいかな?」

 「はい!」

 「……いつでも」

 瓢は期待に満ちた表情で、哀川は無表情のまま答えた。

 「じゃあ、開けるよ。中には他の部員もいるからね。みんなあんたたちを歓迎してくれると思うから」

 ガラリと、その重そうな扉が開かれた――。

まだまだ続きます。

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