歓迎篇 第1幕
ちょっと短いです。
「あ~ちきしょう。周りの防御が高すぎだぜ……」
入学式を昨日終えたこの翌日の昼休み。瓢と哀川は2人仲良く机をくっつけて弁当を食べていた。
今日のスケジュールは、上級生との対面式と校内見学、それに昼食を挟んでの在校クラブによる新入生歓迎会が組まれていた。対面式は恙なく済んだのだが校内見学のとき、事件は起きた。担任の下田が新任のせいで彩四季高校の校内図を全く把握していなかったのだ。同じ廊下や教室をグルグル彷徨い、下田が教頭に「ここはどこですかァ!?」と携帯で助けを呼ぶ程の騒ぎとなった。この高校自体それほど大きいわけではないのだが、校内で遭難したのは貴方たちが初めてですと教頭に言われしまい、下田はかなりショックを受けたようでその後真白燃え尽きてしまった。(表面的状態)
その後、余った時間を使って生徒たちが主体となり教室で昨日の続きである自己紹介を行った。司会進行役は奈多くんが務め、教室の隅で燃えカスとなった下田を放っておいての自己紹介は、非常に有意義なものとなり生徒たちの絆はより深いものとなった。
途中、哀川がついうっかり妹の良さを語りかけようとして瓢が慌てて止めに入ったところを、教室の腐女子に目を付けられてしまったが、あとは平和そのものだった。
ついでに、瓢が昨日気になった女の子の名前は、杉崎彩音。声が綺麗で背も高くとてもおっとりとした性格の持ち主。その笑顔は破壊力抜群で、このクラスの男子(哀川を除く)全員が堕ち、全員が瓢の敵となった。
そして昼休み、瓢は一番乗りで杉崎さんに声をかけようとしたが、周りの女子の防壁及び男子の妨害を受けてやむなく退散する羽目になり、今に至る。
「……妖力を使え」
ボソリと哀川が呟く。
「いや駄目だろうこんなことに使っちゃ」
「……俺は妖力で妹たちに這いよって来る虫ケラどもを蹴散らしたことがある」
「具体的にはどんなことしたんだよ」
「……俺がいないときは近くの鴉たちを集めて妹たちを見守り、妹たちに半径2メートル以内に近づく虫が現れれば集団で攻撃させた」
「えげつねぇなおいッ」
「俺が近くにいる時は一瞬変化を解いて相手をビビらせたり、それでも近寄ってくる輩には旋風を起こして吹き飛ばした」
「それ場合によっちゃ傷害罪にならねぇかッ?!」
「……大丈夫。突然の風と書いて、突風として処理されたから」
正しく妖力の無駄使いである。一応、人間に対しての妖力の使用は原則として認められていないが、止むを得ない場合のみ、使用が認められることになっている。ただし、これはもう70年も前に住処を出た時の約束なので、今まで守ってきている妖怪はあまりいないように思える。
瓢の場合、周りに自分以外の妖怪と言えば母くらいなもので、母そのは妖力を使わない者だったから彼もそれを見習っていた。そのせいで瓢は同じ年齢の妖怪たちより妖力の発達が遅れている。
「そもそもオレにそんな妖力は御座いません」
「……九尾なのに?」
「使ってこなかったからなぁ。狐火くらいしか出せねぇや」
「……ショボ。そんなので例の劇団に入れるのか?」
「自分を磨くために入ることも考えてんだよ。前に言ったと思うけど、オレ小中と妖怪の友達いなかったからさ、妖力をどう使うかとか考えたこともなかったんだよ。母さんは真面目に取り合ってくれないしさ。だから、同じ妖怪ばっかのあの劇団に入って、妖力をどんなふうに操るとか教えてもらおうと思ってるんだよ。そんで、教えてもらったことを活かして、殻に引き籠ってる仲間をオレがまた導いてやりたいんだ」
全てを話し終えた瓢の顔は澄みきっていて、清々しかった。まるでずっと見つからなかった探しものが見つかったかのように。
「……いいんじゃないか、そういうの」
ずっと無表情で黙って聞いていた哀川が微かに笑っていた。
「あ、お前やっと笑ったな」
「……笑っていない」
「いや笑ったね。ちょっと待ってろ写メ撮るからそのままでいろよ」
「……やめろ」
二人の昼休みは非常に楽しいものとなった。
ただ、その二人の様子を腐女子たちが遠巻きで見つめて、妄想を掻きたてているのは気付けなかったが。