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入学篇 第2幕

 「え~~新入生諸君、本校に入学まことにおめでとう。え~~これから新しい出会いや生活が待っているわけだがー」

 市立彩四季高等学校入学式。一応、入学式の時間に間に合った瓢は、集合場所である講堂の掲示板に張り出されていたクラス別けに従い、1年C組の場所に座っていた。

 360度どこを見ても黒髪一色である。黒にしといてよかったーと瓢は改めて思った。

 「ー以上で校長のご挨拶を終了いたします。新入生の皆さんは担任の教員にしたがって各教室に移動してください」

 どうやら、しょうもないことを考えている内に式典は終了したようだ。緊張がほぐれた講堂内は私語などに包まれ、騒めき始めた。

 「俺たちC組はB組が移動した後に教室に行くからなァ! まだ動くんじゃないぞォ!」

 C組担任の先生が瓢たちに向けて指示を飛ばした。なんか暑苦しい声である。

 瓢は先生の指示に従い椅子に座ったままじっとしていた。厳密にいえば、他クラスの女子でかわいい子を探しているだけであるが。

 「……!」

 と、そこで瓢は僅かながら妖気を感じ取った。どうやら瓢ほかにも妖怪が同じ高校に入学しているようだ。瓢は少しうれしくなった。自分だけ妖怪で、他のクラスメイトが人間だったらちょっと嫌だったからだ。仲間がいるのなら、この先きっと頑張ることができるだろう。

 「C組移動すんぞォ! 俺に付いてこいィ!」

 むさい先生(仮)が叫び出し、C組は教室へ移動した。




「俺がこのクラスを担任する新任の下田萌だァ! 1年間よろしく頼むゥ!」

 教室に移動して、まず最初に行われたのは担任の自己紹介だった。無駄に熱い性格のこの人物は下田先生。今年、教育大学を卒業した先生の卵である。長身にそれなりに引き締まった体格。頭には何故かオレンジの髪留めがしており、メガネをかけている。

 「ちなみに教える教科は化学だァ!」

 元素記号の覚え方をロックアレンジで演奏しそうな勢いである。しかも無駄に熱い。

 「これからお前たちと顔と名前を早く覚えられるように、自己紹介をしてもらうゥ! 順番は1番からだとつまらないから、真ん中の20番からだァ! 20番、名前と出身高校と今後の抱負を述べろォ!」

 「えッ?」

 完全に油断していた出席番号20番さんは、驚いた様子で顔を上げた。まぁ、普通に考えて20番から始まる自己紹介なんて、そうそうあるもんじゃないだろう。というか、これ番号上に行くのか下に行くのかどちらなんだろうか。

 「20番の次は19番だァ! そこから上に上がってその次は40番だァ! 自分の番が周ってくるまでに紹介文を考えておけィ!」

 なんかもう無茶苦茶である。しかも無駄に熱い。

 「あ、え、えと。出席番号20番のな奈多アキラです。えと、さ、崎森中学から来ました。よよよよよろしくお願いいたしますす!」

 奈多君はそう言うとすぐ席に座ってしまった。クラスの皆はよく頑張ったとエールを送った。心の中で。

 「奈多ァ! 抱負がまだ言えてないぞォ!」

 「言うんですかッ?」

 「当たり前だろうがァ! お前はこの1年間何を目標に生きていくんだァ!」

  話しが色々とぶっ飛んでらっしゃる。奈多君は小刻みに震えながら、引き攣った顔のまま硬直していた。思考ストップ状態である。

 「どうしたァ! 奈多ァ! 返事をしろォ!」

 なんだか雪山で遭難した生徒と先生みたいな会話になっている。

 クラスの皆は奈多君のことなんかそっちのけで今後の抱負を考え込んでいた。言わなかったら最後、下田先生のあつ~い視線とオーラを受けることになる。

 「奈多ァ! しっかりするんだァ!」

 「アババババババ」

 奈多君は未だに痙攣したままだ。むしろ悪化している。このままではいずれ極度の緊張感からくるストレスで気絶してしまうだろう。

 そのころ、瓢はというと隣に座っている女子に気を取られていた。ゆったりしたセミロングの髪に、純粋そうな大きな瞳。胸のサイズは瓢の手では掴めないくらいの大きさ。(ようは巨乳である)身長は座っているからよくわからないが、160前後くらいだろう。瓢の好みにぴったりだ。

 それにどこか浮世離れした雰囲気を纏っていた。言葉では言い表せれない何だか怪しい感じがしたー。

 「……あの先生。奈多君は今話せる状態ではありません。ここはひとまず、次の人に順番をまわしてみてはいかがですか」

 突如、この空間の雰囲気を裂く強者が現れた。声の主は廊下側の1番前に座った男子生徒からだった。黒髪で長身のイケメンである。

 「しかし……!」

 「……このままでは埒が明かないでしょう。……それに他のクラスはすでに終わっているみたいですよ」

 そう言うと黒髪イケメン男子は教室の外に目線を送った。

 確かに、廊下の方ではホームルームを終えたとみられる他の1年生が、固まってメアドなどを交換している姿が目に入った。

 「……仕方ないな。じゃあ奈多」

 「は、ハイッ」

 「明日までに今後の抱負を考えてこい。これは他のお前たちもだァ! 明日改めて自己紹介をしてもらうからそのつもりでいろォ! では、今日は解散!」

 なぞの重圧から解放された1年C組はドッと安堵の息に包まれた。これから1年間あの暑苦しい先生と共に過ごすことを考えると、それだけで疲れてくる。体育祭とかどうなるのだろうか。

 奈多君に至っては白目を剥いて口から魂が抜けそうな状態である。とても悲惨な姿だとは思うが、声をかけてくれる人がいないのでもっと悲惨に見えた。

 一方、そんなことは露知らずに瓢は、隣りの女子と取りあえず友達になろうと声をかけようとしていた、その時ー

 ブーブブッ

 携帯にラインの通知が来たようだ。普段、滅多に何も来ないので訝しげに開いてみると、母からだった。

 『瓢ちゃ~ん、入学式はどうだった~? うまく自己紹介できた~? 

え~とね、母さん朝言い忘れてたんだけど~校長先生に会ってきなさい。校長先生も妖怪だから挨拶くらいしておいた方がいいと思うから~。それじゃあ~晩御飯までには帰ってくるのよ~』

 内容はそんな感じだった。瓢は携帯をズボンにしまうと、隣りの席を見た。

 そこには、もうあの女子の姿はどこにもなかった。

 瓢は溜息を吐くと、教室を出て校長室に向かうのだった。





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