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先輩が若干傷心のまま話しは進みます。

あれから色々あって行軍の日になりました。目的の村までは二日かかる道のりです。途中休憩も入るのでもう少しばかり見たほうがいいようで、全員に今回の被害状況などの子細が入った紙が渡された。

村は山に近くにありその山には元々ワイバーンなど住んでいなかったそうで、しかしここ最近突然ワイバーンが襲ってきて放牧していた牛や豚などを襲っていくということで今回の報告にあいなりました。

ワイバーンという種についての記述も書いてあって、ワイバーンは単独で行動し番いでない場合を除き一体でのみ行動、肉食で体長は豚を丸呑みできるほど、本来人里ではなく険しい山岳地帯に棲むものでこうして人前に出てくることさえ珍しく獰猛で強い尻尾や足の爪での攻撃が厳しい。小さなドラゴンとまで言われる体格を持っているので注意が必要、あまつ飛び回るのでまずは引きずり落としてでの作戦になる。

それはレットのおっさんがかわりにこっちに入ってくれるそうだけど「これでまた娘との溝が」とかぶつくさ言ってた気がする。思春期の娘さんとの溝なんてそうそう解決できる問題じゃないんだからドンと構えてりゃいいのに。

当の私は倉庫の中で眠れなくてベッドの中でもそもそ、うぞうぞ。

どうしても眠れないのでしょうがないから外でぼんやりしてみることにした。

倉庫は大きく観音開きの鉄のドアに人が通り抜けしやすいよう別のドアがついている。そっちを中から鍵を開けて外へ出ると、木々の上に空が広がった。


改めて思うけどこの世界の空って不思議だ。

星はある。月ももちろんある。

しかし、元の世界で見てきた濃紺のビロードを広げたような空ではなくて紫や青、もしくは水色までもがグラデーションになったとても不思議な色合いの空なんだ。

空は明るくても直接地面をてらせるほどではないからやっぱりあたりは暗くなってしまうんだけど、この空は圧巻というか圧倒されるというか。最初の数日疲れと忙しさにかまけて空を見上げることすらしなかった自分がもったいない。

ちょっと散歩でもしてみようかな。

ワイシャツとちょっとぶかぶかのズボンというラフな格好だけどそこらへん歩く分には問題ないだろう。といっても冒険家でもないので見たことのある場所だけぶらりしていくつもりなんだけど。

行ったことがあるといえばこの先にある訓練場と宿舎と本部ぐらいなもんだ。この世界での私の行動範囲なんてそんなもの、街なんてまだちょっと怖くて一人で行く気にはなれないし。

そう思いながら夜道を歩いていると訓練場にさしかかり何か風を切るような音が規則的に聞こえてきた。

それは剣をすぶりする音のようでこんな時間に鍛錬をしている真面目な人がいるのかと興味がわいてこっそり木の影から覗いてみた。


振り上げられる剣、下ろされる剣、そしてその下にきらめく汗っ!ただよいイケメン臭!いる!あそこに美少年もしくは美青年がっ!!


私の研ぎ澄まされたゲゲゲっぽイケメンレーダーは確実に反応していた。そして言ってくる!草場の影からこっそりがっつり鑑賞しろと!!


そろーりそろーり木の影から這い出してできるだけ音を立てさせないように・・・うん、手もつけば身も低くなっていいかもしれない。そろーり・・・


「何やってんだお前は」

「ぎゃひっ!!」


地面ばっか見てたから近づいてきていたことに全く気づかなかった!っていか今の声は先輩じゃないか!

そう思って見上げるとそこにいたのは首元がゆるゆるになった丸襟Tシャツをきた先輩、月光を背にしているから色はほとんどわからなかったけど悪い目付きとかいやに整ってる顔立ちとか、後私を蔑むような眼差しとか間違いなく先輩だった。


「お前、荷物持ちやめて虫にでも転職したのかよ」

「そんな嫌なジョブチェンジはしてません!!ただ夜の散歩を楽しんでただけですよ!」

「地面に這いつくばってか、それはえらく高尚な遊びだな。俺には真似できねえよ」

「うぐっ言い返せない・・・」


確かに今の私は地面に這いつくばった虫です。見事な罵倒の連携プレイに息が詰まりそうだ!

むすーとしながら立ち上がってついた葉っぱや土を払い落とす。


「先輩こんな時間に何してたんです?明日行軍じゃないですかねなくていいんですか?」

「・・・眠れないからちょっとすぶりをな」


視線を外しながらいうその様子がどこかふてくれされているような気がして何となく「もしかして属性が炎だったの根に持ってます?」と言った。


「根に持つも何もねえよ」


属性は生まれ持っての素養、多少は後天的なものもあるけどほとんど先天的なものが関わってくるらしい。

それは大まかに火、水、風、土に分かれていて人間が扱える属性には限りがありいまのとここの四属性、それぞれに特色があり、前に私が思ってた感情的だから火だねっていうのは間違いじゃなくてやっぱり火属性の人は感情型ですぐ熱くなりやすい人が多いんだって。

そんでデュオ先輩みたいな土はおおらかで、かつ頑固な人が多いって話し。火と土は結構相性悪くって火がいくら土を燃やしても燃えない、だから逆に人間関係においては感情的な火属性の人を土属性の人がカバーしてるってのは珍しい話しじゃないみたい。あれか血液型と似たようなもんか、BとOは相性いい、みたいな。Aだと突っ込まれ型とか、先輩B型っぽいよね。


ああ、やっぱり先輩はふてくされてるな。

ワイバーンは火属性、先輩も火属性、今回作戦の中心核になるのは水属性の人たちだ。同じ属性同士ではほぼ相手にダメージを与えられない、もしくは相手を増長させてしまうから。あるいは相手をも圧倒的に凌駕するほどの力をもってすれば勝てないことはない・・・らしい。

けど見習い兵で、しかも今回初めて魔剣を持ったぺーぺーが幻獣の中でも中の上クラスのワイバーンを凌駕するなんてことできわけもなく、見事に今回も作戦中心核から外されてしまったわけだ。

それがどうにも気に食わないらしい。

生ぬるい空気が流れる中、私は空を見上げた。

何となく、このまま寝るには惜しい気がして、だからといって何か言えるわけでもなくてただ青と紫が混ざり合う星空を見ることしかできない。


こうして見るとここって本当に異世界なんだなぁ。

今まで会ったのは人間ばかりで、外には幻獣が溢れているなんて言われても全く実感が沸かない。

街に出てもレンガ造りの街並みはヨーロッパの写真集なんかでも何度かお目にかかっていたからそんなに物珍しいものじゃなかったし、騎士団っていっても筋トレしている人々ばっかりだし、こうして明らかに異物を見ると心のそこから何かが湧き上がってくるような気がする。

それは寂しさとか、悲しさとか切なさとか胸の中をグルグル回ってる。



「本当は、さ・・・」



ぽつりと呟くように先輩が言った。

今までの強い口調や罵るような口調じゃなくて、本当に消え入りそうな声であやうく聞き逃すところだった。

何かこぼれそうになって先輩を見ることはできない、視線は空に向けたまま続きを聞く。



「あんまり覚えてねぇんだよな・・・親父の最期・・・・・・ボロキレみたいに殺されたのは覚えてんだけどな」


それは多分・・・。


「人は、あんまりにも心に負担がかかるとその出来事を忘れてしまうらしいです。だから、多分」

「そう、か・・・」



何となくこの雰囲気を打破したくて別のことを口に出した。


「そーいえばね。先輩、私外に出て初めてこの竜騎士団がちょっと変なんだって知りましたよ」

「あ?ああ、あの巡回騎士が言ってたことか」


本来街の治安は騎士団が守るもの、もちろん派遣先の住人の安全確保もまた騎士団の仕事で、本来騎士団が十人くらいついてくるらしい。それが常。

けれどこの支部ではすべてをこの竜騎士団で全て行ってしまう、住民安全第一、討伐はできればする、みたいな。いやするんだけど安全確保が最優先されるって他ではないことなんだって。

そりゃあ住民のみなさんは幻獣が討伐されるほうが嬉しいだろうけど、そんな安全じゃないところでドンパチやられても迷惑だろう。


「でもね。先輩、私そっちのがいいなって思ったんです。幻獣討伐第一より人が第一っていうほうがかっこいいっていうか。素敵っていうか」

「・・・竜騎士団の本分からそれてんのにか」

「うん、それでもそっちのほうがきっとかっこいいんです。竜騎士団だからこそ守れることもあるだろうし、守ったものもきっとある。先輩、私ね。なんとなーくなんですけど先輩がきっちり竜騎士になったところ見たいです」

「・・・」

「見たいです!」

「何度もいうな、聞こえてる」

「だから、明日から頑張りましょう。私も荷物持ちとして初仕事頑張りますから!」


本当に、こういう問題はデリケートすぎて何を言っていいかわからない。

下手に突っ込んで踏み外すのが怖いから。

こういうの、乙女ゲーの主人公とかだったら外さない台詞とか、会話とか、慰めとか景気づけとかの言葉が言えるかもしれない。

けど、これはそんなんじゃないから。彼にかける言葉がわからない。

本当・・・情けないけど。


「明日、頑張りましょう。騎士になりましょう」


きっとそこに答えがあるような気がする。





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