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施設は三つ、一つは私がいた倉庫。もう一つは医療塔、騎士団での病気怪我はこちらで見ることになる。

そして先輩たち騎士が寝泊りする宿舎、宿舎は本部と渡り廊下でつながっていて一つの建物だ。

本部は資料や執務室なんかがある場所、後は食堂とかそういうのがまとめてあるところ。

食堂はやっぱり有料だったけど給料から格安で引かれるらしい。

けれど、できるだけ給料使いたくない、やすく収めたいって人は街に繰り出してもっと安くって量の多い店を探すんだとか。

さっきデュオさんが言ってたのはだからなのか。

体力勝負の彼らは定食ワンプレートだけでは絶対足りないんだろうな。

一通り施設内を散策していると、T字の廊下の向こうからコツコツと靴の音が聞こえてきた。


「んはっ!!イケメンの気配!!」

「何言ってんだテメェは」


その頃になると先輩の機嫌もそこそこ浮上したのか相変わらずの毒舌を吐いてくれます。

毒舌吐かれて少し安心するとかどういうことでしょう?でもいいんです!元気ないとか不機嫌よりも通常運転がいいんですから!!


ちょっとドキドキしながら廊下を見ているとそこから歩いてきたのは。


「間違いなくイケメエエエン!!」

「待てこのやろどこ行く!」

「ぐへは!!」


大当たりでした!私の勘はイケメンに限り的中率が上がるんですよ!

思わず走って周りを回って空気をはあはあとか思ってたら、いきなり床に叩きつけられた。

痛い!床痛い!全部石だから!めっちゃ痛い!


「おや、フォルグ」

「クロード竜騎士公補佐官お早うございます! 朝から騒がしくて申し訳ありません!」

「ええ、騒がしいのは嫌いではないので大丈夫ですよ。ところでそこで打ち上げられた魚のようにばたついてるのは・・・?」

「先日総務に入った“荷物持ち”です!今館内を案内していたところです!」

「それはそれはご苦労様です。顔を見たいのですがよろしいですか?」

「はっ!」


このままずっと会話するのかと思ってたよ!!

背中から重みと押さえつけられていた顔の重しがどいてやっと地面に立つことができた。

一通りついた埃を払って見上げると。


「ぶふっ」


思わず鼻を抑える事態になりました。


「どうしました?」


不思議そうに小首を傾げる姿が何だかかわいらしいけれど、その白い頬にさらりと流れる長い黒髪だとか、綺麗なアイスブルーの切れ長の瞳だとか、もうモロに輝いてらっしゃるんですけど!!

先輩が燃える炎を意味するのならこの人は冷たい氷みたい。

フレームの細い横長の眼鏡がよりいっそう冷たい雰囲気をかもしだしているのに仕草が小首を傾げるってすっごく子供っぽくてギャップがすごいことになってる。

しかもこの人でかっ!私と並んだら子供と大人ぐらいに背丈が違う。

先輩もそれなりに背が高いってのにこの人はその上をいく、多分もう2m近いんじゃないだろうか。

大柄ってわけじゃなくて長い、というか細い、全体的に細くて長いイメージ、青い制服は私のとも先輩のとも違っていて裾が長めで特注品なんだろうか、どこか騎士っていうよりどこかの図書館とかにいそうだ。

窓辺で本とか読んでるのすっごく似合いそうなんですけど。


「いえ、ちょっと生理現象が」

「そうですか床を汚さないようにお願いしますね」

「ぜ、善処しますっ一応先日入りました」

「倉庫番兼荷物持ちです」

「そうですかあなたが“荷物持ち”ですか。私は竜騎士公補佐官クロード・シュタインです。これから全ての荷物を背負ってもらいますのでよろしくお願いしますね」

「そこで納得!?しかもすごい重荷課せられたっ!」


全部!?全部っていった!?


「個人のものは仕方ありませんが、我らはできるだけ軽装備でなければなりません。戦闘の際邪魔になりますからね。なので一人補給物資や道具などを背負う人間が絶対に必要なんですよ。しかも、道具の全てを管理し理解している人間が」

「それで騎士としてじゃなくて一般から選んだんですか」

「ええ、その通りです。見かけによらず頭の回転がよくて助かります」

「あれ・・・さらっとけなされた・・・?」


すっごく笑顔、アイスというよりイメージが雪のように近くなった・・・けれど何かすごい毒舌!?

何かすごい気にかかるけど・・・イケメンだし、何かギャップ萌えだし、許す!っていうかこの騎士団レベル高すぎじゃないですかね!

さっき会ったデュオお兄さんもなにげに好青年でポイント高いし、この世界の顔の水準って滅茶苦茶高いんじゃなかろうか。


「あの、質問です」

「はいどうぞ?」

「りゅうきしこうってなんですか!」

「・・・おや、昨日公にはお会いしてないんですか?」

「コウさんにはお会いしてないです!昨日会ったのは先輩とおっさんとアルベイン様だけです」

「おまっ!その方が竜騎士公だよ!!」

「へ?あ、あれ?」


慌てたように言う先輩。

あれ?そうだったの?てっきり隊長さんで・・・竜騎士公で・・・あり?竜騎士公って何?


「竜騎士公とは位の名前ですね。ある程度国に貢献した竜騎士に与えられる爵位で、地位としてはそんなに高くありませんし領地は与えられることはありませんが、一般人が目指すことができる爵位としては一番知られているものです。

アルベイン・クロス・ユージア様は祖父代からの連綿とその爵位に達しておられるのですね」

「基本的に竜騎士公はその代のみだからな。名前が三つ続いてるってことは隊長の父上様も竜騎士公としての爵位を拝命してるってことだ」


ん?んー?ちょっとわかんなくなってきたぞ。

えっと、竜騎士公ってのは伯爵とか公爵とかと同じ爵位、なんだよね。

なれるのは竜騎士ってことは手柄とか立てたらその名前がもらえて一般人でも目指すことができる。おお、何か人気ありそうだ。

でもその爵位は領地は与えられなくて、しかもその爵位はその代だけ・・・えっと、お爺さんが竜騎士公の爵位をもらったらその息子さんには引き継がれない。

んで、名前が三つ続いてるってことは爵位が続いてる?なんで?えっと、なんで?


「ちなみにここにいるフォルグの父上も竜騎士公でしたよ」

「ん?でも先輩の名前って」

「フォルグ・レード、レードがオヤジの名前だよ」

「優秀な竜騎士公であらせられた。私は彼のことを今でも竜騎士の誇りだと思ってるよ」


ふーん、つまりお家が続くと先代の人の名前が自分の名前の後ろにくっつくのか。

おお、これならどこそこの誰々さんってすぐにわかるわけね!

だからアルベイン様はお爺さんとお父さんの名前をもらってると、納得納得。


「・・・めてください」


小さく、絞り出すような声が聞こえた。

それにつられるように先輩の方を見ると、うつむいて何かを耐えるように手を震わせていた。

あ・・・これ、さっきと同じだ。


「何故です?」

「ち、父は、倒すべき幻獣に殺せずに殺されましたっ!食いちぎられ、あっという間に!あれが竜騎士たるべき死に方でしょうか!?」


食いつくようにクロードさんに言うとクロードさんは一度軽く首を横に振ったあと、先輩に説いた。


「レード竜騎士公は村の人間の安全を第一に考慮し動かれたと聞く。それこそ竜騎士の本分だ。何も間違ってはいないよ。

君がどう思おうとそれは勝手だが、ただ幻獣を狩りたいだけならばハンターにでもなるべきだ。ここはそういう場所ではない」


ハンターって何だろう?という疑問は浮かんだけれど、この雰囲気全く聞けるような場合じゃない。


「フォルグ・レード、君には後がないよ。次の昇進試験で騎士見習いから脱しなければ君は除籍処分となる。竜騎士たるは何か、ちゃんと考えて行動しなさい」

「・・・失礼します」

「え?あ、ちょ、おお!?」


くるりと踵を返して大股で帰ってしまう先輩、ちょっと置いていかないでくださいよ!?

慌てて追いかけようとすると後ろから「“荷物持ち”」と声をかけられた。

振り返るとクロードさんが困ったように笑っている。


「君を彼の下に置かせたのは、彼が後輩というものがあることで少しでも竜騎士の本文をわかってくれればと思ったからです」

「えっと、幻獣を倒すより人を助けろってことですよね?」

「ええ、彼は憧れていた父上が幻獣に無残な殺され方をして憤っているのです。幻獣にも、その幻獣を倒すことができなかった父上にも、竜騎士そのものにも」

「なのに、先輩はその竜騎士を選んだんですよね?」


何だか変な話だ。

クロードさんの話からただ幻獣を倒したいだけならもっと別の職業もあるんだよね。確かハンターって言ったっけ。

なのに竜騎士をあえて選んでるのは。


「先輩は、本当はまだお父さんみたいに、って思ってる・・・?」

「かもしれません。答えは彼以外には持っていないことですから・・・」

「えっと、つまりアルベイン様もクロードさんも先輩に少しでも誰かを守るってことを知ってほしい。だから後輩っていうくくりをつくって、私の世話を見させた。ってこと、でいいんですよね」

「ええ、その通りです。利用する形になって申し訳ないですが、私も公も、あの子には潰れてほしくないんです」


うん、それは、何となくわかる。

潰されたり罵られたりしたけど、何となく、何となくだけど先輩はきっといい騎士になれると思う。

こんなところで潰れたらもったいないって思う。


「いいえ!ガンガン利用しちゃってください!私も先輩には竜騎士になってもらいたいです!そしてそれを草場の影から見て全力で萌えたいです!!」

「焼身自殺を希望ですか?」

「怖っ!違いますよ!えっと、悶えるってことです!」

「腹痛に?医務塔なら訓練場を横切ったところですが?」

「それもちがーう!!とにかく、私は先輩の竜騎士姿を見たいってことです!そのためならこの体いくらでも利用してくださってかまいませんよ!」

「ふむ、まさしくその身を捧げるというわけですね。私としては恋愛は自由だと思っていますがあまり衆道は推奨していないのですが」

「衆道!?そういう意味じゃなくて・・・あーもう何で通じない!?」


何でこの人言葉の綾とか言葉遊びとか例えとかそういうのが通じないの!?


「そういうことじゃなくて、先輩に竜騎士になってほしいので、がんばりますってことです!」

「ああ、そういうことですか、ええ身を粉にして頑張ってください」

「そ、そこまで・・・?」


くすくすと笑いながらクロードさんはそのままT路を横切って行ってしまった。

な・・・何だろうあの人・・・何かすっごく疲れたよ・・・。





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