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はい、あいも変わらず私です。
自分が予想以上に能天気ということに驚きました。
ごめんなさい!!
本当ごめんなさい!!
「なので頭ギリギリするのやめてくださいごめんなさい!いきなりすんませんっした!!」
「ふん!」と乱暴に掴まれていた頭を離された。
彼は手持ちのハンカチで私の・・・鼻血、を拭いてぽいと捨てる。ポイ捨て禁止ですよ!とは言えなかった。
「で、先ほどの質問が返されていないが?」
「え?あ、いや、何か一息ついたら里心が出てしまって」
「それで泣いていたわけか」
理由は決してそれだけじゃないけどそれも理由の一つだ。
完全なホームシックというものにかかってしまっている。しかも私の場合直しようがないものなのだか。
青年は外見に似合わず、わざとそうしているのか少し乱暴に私が机として用意した木箱に座って長い足を組んだ。
そういえば私この人の名前も知らない。
「あの、貴方の名前私知らないです」
「ん?ああ、アルベイン・クロス・ユージアだ。ここの隊長を務めている」
「名前ながっ」
「まあ、竜騎士称号が祖父の代からだからな、名前が長くなるのも仕方ない。アルベインで構わない」
祖父の代から称号があると名前が長くなるの?
と、疑問は浮かんだけど下手に質問してそんなことも知らないのかと疑われたらここでの立場が悪くなるので黙っておく。
それにしても、先輩といいアルベインさんといい、まあ、百歩譲っておっさんといいここの人たちほんっとうにイケメンばっかだな!この人の場合美丈夫?のほうが合うけれど。
暗闇でも目がキラキラ光ってるのがわかる。寧ろちょっとの光りの方がどこか神秘的な色に見えるような、エメラルド色・・・目がつり目だけど、何か眉にシワ寄ってるし、これは素なんだろうか?ちょっと無理してるような気がするなー。隊長って大変そうだもんね。体面守ったり威厳とかなきゃいけないし。
何歳なんだろう?十代・・・は言いすぎか、二十代だろうな、でも若いよね。若い隊長さんって大変じゃないだろうか、エリート?なのかな。
あ、でもこう、なでつけたオールバックは似合わない、気合入りすぎて「ぶっこむぜ!!」みたいな人になってるから。髪型変えればいいのに。
「おい“荷物持ち”!」
「へあはい!!」
思わずガン見しながら考え事してたからヨダレがっ
「全く、いきなり寝ていたのか?器用だな。全く新入りだから様子を見に来ていれば泣くわ何か出るわ喚くわ、お前は一体何がしたいんだ」
「本当にすいませんっしたっ」
「全く、今度の遠征もそんな調子では困るからな」
「遠征?どこかに行くんですか?」
ってか初めて入ったのに数日に遠征とかサバイバルだな。
「一週間ほど先になるが遠方の村でワイバーンによる家畜被害が出ているようでな。見習い昇格試験を兼ねて遠征に出る。そのための用意を少しずつ頼みたい。ここに来て数日ですまないが気構えをしておいてもらいたい」
もしかしてそれを言いに来てくれたんだろうか、わざわざ・・・いい人っ!!さっきはぶっこみの人とか思ってごめんなさい!
それにしてもワイバーン!?この世界そんなものがいるのか!精霊といいワイバーンといいまさしくファンタジー異世界!!
「ところで、この倉庫の様子は何なんだ?数日前まではもっと乱雑になっていた筈だが?」
「ああ、それは私が先輩に言われて片付けました」
「片付けた!?あの量をか!?」
「ええ、二日間不眠不休で血反吐はきながらやりましたとも!これこそ馬車馬のごとく働くってことですよね!本当にありがとうございます!」
もう馬鞭で叩かれる馬の気持ちがとてもよくわかる!本当私ってMだよね!
「何をいきなり礼を言っているのかは知らんが、一応隊規則に目を通しておくように、後これが必要物品のリスト、それとこれが今年の予算案、後外にあるゴミの山は後で業者に連絡しておくように詳しくはレット管理官に聞くこと、というよりあの人はどこへ行った」
「ああ、新しい倉庫番できたんだから俺いらねえよな、じゃあ嫁さんと娘のところに帰るぜと言って帰られたので、娘にお父さんと洗濯物一緒にしないでよーとか影で言われるところを目撃してへこんできてくださいとお見送りました」
「何だお前達早速上下関係に難ありか・・・?」
「いえ、部下の愛あるいじりということで」
何かあのおっさんに対してだけはMよりSっけがでてしまうんだよなー、なんでだろ。
基本的にいい人なんだけどね。適当具合と丸投げ感半端ないけど。
ぽいぽいと投げられた分厚い紙の束を見ながらこの倉庫が案外暗いことに気づいた。文字が読めない。
っていことはもう夜かー、そりゃそうだよね。先輩来たとき既に日暮れだったもんね。
「夜になっちゃいましたね」
「そうだな。私が報せたいことは以上だ。明日からよろしく頼む“荷物持ち”」
「はい、よろしくお願いしますアルベイン様」
一礼すると立ち上がったアルベイン様がすぐ近くに来て、ぽんぽん、と頭を二度軽く叩いた。
多分それは弟とか、小さい子供に対してやるような優しいもので、今の私にはじんわりとあったかいものが流れ込んでくるようだった。
そしてそのまま入口の方へ向かう背中を見送る。
本当にこの人これのためだけにきてくれたんだ。
いい上司じゃないか!直接的な上司はあんなだけどその上がこういう人なら安心して仕事できる職場ってやつだね!
こつこつと歩く足音を聴きながら「あ、暗い」と改めて思い、会議場から燭台を持ってきた。
だがこの燭台、どうやってつけるのか・・・。
見た目的には燭台の形をした電飾という感じ、三本の又別れに火を灯した形。んー、オブジェっぽいけどこれ使えるんだよね?
「んー、光りつかないなー、つけよー」
何かイライラして独り言を言っていたら、突然ふわんと燭台の火の部分が淡く光った。
「おお!やった光った!!」
何だ、音声認識機能つきだったのか!何かハイテクなんだかなんなんだかわかんないけど!
とりあえずこれで書類は読める。
意気揚々とベッドに座り放り出していた書類を取って、ベッドの脇に燭台を置いた。
間接照明程度の光りだったけど近くで照らせば十分に見える。
そして、ふ、と気づいた。
「あ・・・ご飯食べてない」
それどころか私一文無しだったということ。