表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/20


ようやっと倉庫の掃除が終わったのは期限の夕方だった。

空がオレンジ色の染まり始める頃、最後の木箱を所定の位置に下ろす頃最初に会った美少年がふらふらとやってきてこの倉庫の様子に驚いていた。

それはそうだろう、空き箱が散乱し放題、無秩序に積み上げられた木箱、何がどこにいったのか倉庫番でさえも把握しきっれなかった量の物、物、調べたら期限切れのものも多く存在してそれを一気に捨てたら物がなくなったのかと思うくらいすっきりした。

真ん中にスペースを作り、おっさんがうつぶせに倒れていた椅子と机、それと壁際においやられていたキャスターのついた黒板を引っ張り出して何だか会議室みたいになった。

それと、どうやらおっさんはここで寝泊りをしているそうで・・・倉庫の中には空箱で作られたベッドがあった。お前ここの主か・・・。

今度からはおっさんの代わりに私がここの倉庫番兼遠征時の荷物持ちとして働くことになったので、結構奥まったところに自分の部屋、っぽいものを作った。

もう自分でいろいろ配置したもんだから全部自分の領土のような気がしてくる。何がどこにあるか今のところ私しか知らないわけだしね!

中心の会議場から倉庫右奥に自分のスペースを作ってしっかりとした木箱をいくつか並べベッド台代わりにし、向かい側に木箱を二つつなげた。これは机替わりだ。これからもうちょっと自分の色をつけれたらいいなーとか思ってる。


「何か・・・すごいな。本当にやったのか」

「ふふん!どうですか私の不眠不休の自信作!どこに何があるか完璧に把握してますよ!」


といっても消耗品類は全て捨ててしまっているのでここにあるのは刀剣の類と私を吸い込みやがった掃除機、その他どうにも捨てれそうにないものばかりなんだけど。


「まあ。その・・・うん、豚にしてはよくやった」

「まだ豚扱いですか!?人間に昇格してくださいよ!」

「おこがましいぞ」

「どこがー!?」


何故に人間に昇格してくれと言っただけで!?


「ま、言ったことはできる程度の実力はあるわけだ・・・まあ、認めてやらんこともない」


ポツリ、と小さな声で言ったつもりだろうがこの倉庫の中ではやけに大きく響いた。

お、お!?デレ!?デレきた!?人間昇格まだだけど!!

そのちょっと視線外して言いにくそうにしてる姿が何か萌えるっかわいいっ


「何鼻抑えてんだよ」

「生理現象です」

「は」

「お気にせず」


今離したらきっと鼻から噴水が出るからね!


「それよりも一応支給品が届いたから持ってきてやった。有り難く思え」

「上から目線が仕様ですか。支給品?」


何だろうと倉庫の前に出ると大八車が停まっていてその上に布団一式と箱が一つ。

布団はありがたい。あの硬い木箱の上では寝れないからね。正直布団だけでも辛いっちゃ辛いけど。

箱の中を開けると青い服とズボン、そして羽ペンとインク、そして一番上に銀色に輝く太めのブレスレットがあった。

その装飾は細やかで透明な石を咥えたドラゴンを交差するように剣が貫いている。どこか怖いデザイン。けれど、ドラゴンの鱗一つ一つ、剣の装飾、周りを彩る彫りに至るまで一つの芸術作品かと思うぐらい細やかで繊細だった。


「ドラゴンだ・・・」

「俺達竜騎士にとってドラゴンは特別なものだからな。ちなみにそれは絶対に無くすなよ、二度と支給されないからな」

「え!?マジですか!?」

「階級は総務班だから無色」

「えっと、貴方は?」

「俺は黄色。これは見習いの証」

「・・・見習いだったんですか!?」

「形だけだっつの!今に階級上がるからな!」


ビシッと目の前に人差し指が差されてより目になる。何かその指いたずらで噛み付きたくなったけどドン引きされるよね!


「えっとーそれとなんですけど聞きたいことが山ほどあって」

「あー・・・明日。明日からな」

「明日になったら答えてくれるんですか!?」

「まあ、な。一応、不本意だが、まったくもって不服ながら俺がお前の世話係になったようだからな」


明後日の方向を見ながら腕を組みながら言われた。その姿は本気で不満そうだ。どんだけだよ!!

っていうか世話係ってなんだ、私は犬か何かか!


「キッチリ面倒は見ないとな?」

「何か怖い、怖い怖い超怖いです・・・あ」

「あ?」


そういえば思い出した。私この人の名前知らない。


「貴方の名前を知らないです」

「・・・お前ごときに教える名はない!」

「そこは素直に教えとこうよ!!」

「敬意を払って先輩と呼べ」

「へーい、せんぱーい」


素直に手を上げて応じておく。

何ていうかこの人初めて後輩をもって嬉しいんじゃないんだろうか。ちょっと自慢げだ。

「じゃ」とか言いつつ、先輩は背を向けてさっさと倉庫を出ていってしまった。

あれ・・・私これからどうすればいいんだろう。

一人残された広い広い倉庫の一角に作った自分だけどのスペース、けれど自分のものと自覚できるものは無く、今の体でさえ自分のものじゃないなんていうこの自体、今まで倉庫整理をしていて考える暇なんて無かったから何も思わなかったけど、この状況ってかなり異質だよな・・・。


腕をまくる、筋張った手、ちょっとひょろい体型、今まで柔らかい脂肪にくるまれていた時とは違う、体は軽いし何も無い。

肩を触る。

感覚は確かにそこにあるのに、硬い感触が伝わってくる。

慣れない、変な感覚。


「あ・・・私、じゃない」


静かな倉庫の中で自分じゃない声が響いた。

男にしては高めのテノール。綺麗な声だと思った。

けれど、私じゃない。

手も、足も、肩も顔も、声も、私じゃない。


改めて自覚する。


私じゃない、これは、私じゃない。

私は、誰だ。

何で私はここにいる?私じゃないのに。

あれ?じゃあ、私って何だ、何でここにいるんだろう。


お腹の中に何か重いものを投げ込まれたような感覚、ずしんとくる。

頭の中が交錯して全部堂々巡りする。


「ぅ・・・あ」


涙が出た。


怖い、寂しい、わからない。

色んな感情がごちゃまぜになって一気に溢れ出してくる。

情けないぐらいにぼたぼたと地面を濡らしていくそれを拭うことも忘れて、ただその軌跡を目でたどった。


ああ、何だろう。静かになったらいきなりお母さんとか、お父さんとか恋しくなってくる。

異世界トリップとかしてさあ、やったねウハウハとか言ってられるのなんてさあ、本当一部の能天気だけだと思うんだよぉ本当。


「君、どうした?何故泣いている?」


突然声をかけられ流した涙もぬぐわずに顔を上げると





わおイケメン



透明な涙は赤い液体になって空中に散布されました。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ