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それにしてもどの世界でも宗教問題って根強いもんだな。

まさか異世界にきてまでそんなことにでくわすとは思ってもみなかったけれど。


夜いつもどおり倉庫の木箱で迷路のように入り組ませた中心の自室、という名のフロアにしいた自作ベッドの中でごろごろしていた。

何か眠れなくてそうしていただけだったんだけど、目を瞑ると今日レイレに習ったことがぐるぐる巡ってくる。

精霊はこの世界にとって特別なもの、それを王様にして、寧ろ自分達が王様だなんてどんだけ歪んできているんだ。


―アイノコはつい100年くらいまで迫害の対象だったにゃ


迫害されて、自分達が差別されない場所がほしい。そう、考えたんだろうか・・・。


って、私が考えたって仕方ないことなのに。


もう一度布団で寝返りをうとうとしたその瞬間


かたん


どくんっと心臓が大きく跳ね上がる。


な、何何?風?何か当たった?今の搬入扉の方からだよね。


大型なものを出し入れするために大きめに作られた搬入扉、普段はその横に設置された勝手口から出入りするのだが、今鉄でできた搬入扉のほうから何かがあたるような音がした。

思わず起き上がってベッドの上に座った。

心臓が喉に上がってきていみたいにドキドキしてる。


か、風だよね!?風だよね!?木かなんかがあたった音だよきっと!!

でも、なんだろう・・・。


頭の端で何かが“違う”と叫んでる。

ガンガンと警鐘を鳴らされているような違和感と追い詰められている危機感が全身を駆け巡る。


どうしよう、どうしよう!!泥棒かもしれない!いや幽霊!?


幻獣の中にはほぼ幽霊と同じ存在がいると言っていた。もしかしたらそれかもしれない。


「・・・て・・・ぁく」


外から聞こえてくる声に私は30cmぐらい飛び上がった。

泥棒だ!まごうことなき泥棒だ!!

騎士団の人間ならこんなコソコソくるはずがない、大声で私を外から呼び出せばいいことだから。

それをしないということは私が中にいることを知らない人物、侵入者。


どうしようどうしよう!!

相手が複数だったら勝目なんて、ない。

テレビ番組でいっていた。泥棒が入ってきたら大声を出せばいい、と中に人がいるとわかれば多くの場合発覚するのを恐れて逃げていく。

けどこの場合は正解なのだろうか。

剣と魔法の世界、人の命が身近にある世界、例え中に人がいても殺せばいいやみたいな気軽さで刃を向けられやしないだろうか。


そう思っている間にガンガン!とノブを壊す音が聞こえてきた。


来る!こっちに来る!!


とうとう頑丈な材質で作られたはずのノブが崩壊したらしく、ドアが開かれ外のわずかな喧騒が聞こえてくる。

ドキドキバクバクと高鳴る胸を押さえて何かに安心したいのか毛布を体に巻きつけた。

人間、怖い時は狭いところにくるまると安心感を得るって聞いたことがある。それで現状は何一つ解決しないけど。

ああ、何か探してる、探してるけど場所がわからないんだ。


「見取り図はあるか」

「・・・ありました」


壁の側面に貼ってある見取り図だ。しかしそれは


「な、なんでしょうかこれは、文字じゃないようです」

「・・・なんだこれは」


そう、それは日本語で書かれた見取り図だ。

私と、文字を教えたおっさんにしか読み取れないようにできている。それを見たって無駄だ。

このままどうか帰ってくれますように!!

手身近なところに武器になりそうなものはない、予備はおいてあるけどまさかこんな事態になるなんて予想もしてなかったから手元に置いておくなんていう考えにいたらなかったのが災いした。


「まあ、いい手当たり次第探せ」


小さな返事がいくつか、合計何人いるかはわからないけれど結構な人数で来ているようだった。

外側から木箱の蓋を空ける音、床に下ろす音が聞こえる。

音を出さないためか丁寧に扱ってはいるようだけど、彼等は一体何を探しに来てるんだ。


「おい、こっち通路みたいになってるぞ」


ここここっちきたぁあああ!!

にに逃げなきゃどこへ!?

出入り口は一つ、作った通路も一本道、逃げ場がなかった。

私はベッドの上で毛布にくるまって侵入者がくるのをただただ待つしかない。

そして、真っ暗な影に突然光りが満ちた。

痛烈なそれに一瞬目が焼かれ思わず「うっ」と目を瞑ってしまった。


「総司殿!誰かいました!」

「連れてこい」


まだ視界が緑色にぼやけた中でくるまっていた毛布がはぎとられひんやりとした外気に晒される。

ぐっと腕を強く握られ無理矢理下ろされ、引きずられるように出口の方へと歩かされる。

勿論裸足だから石で作られた床が冷たい。

それよりも、さっきから頭の片隅がやたらと冷静だ。人間ある一定の恐怖を感じると振り切れて冷静になるらしい。

表面上はパニクってもう何がなんだかわからないのに、脳内と視界に硝子でもあるかのように他人事に見えている。

ようやく視界も慣れ、再び薄暗い暗闇に戻ると、そこにはランプを片手に持った男が立っていた。

身長は高い、フードつきのローブのようなものを着ていて今はフードを外し素顔が露わになっていて、どう見たってイケメンだった、ここ重要。

色はわからないけど切れ長の目に眼鏡、レンズがランプの光りを写して光っていた。

神経質そうな顔立ち、こんな無骨な倉庫よりも図書館とか研究室にいるほうがよっぽどにあっているような顔立ちをしたその侵入者は私の姿を見ると目をくっと細め、上から下まで観察するように見てきた。


何だろう・・・この人凄く嫌だ。


いつもなら「イケメンやっほうぃい!!不法侵入だけど出会えたことに感謝!!」と叫ぶ私も、何故かそんな気分になれなかった。

彼が侵入者で泥棒だってことじゃない、何だろう、もっと根本的な何かが嫌なんだ。


「ここの倉庫番ですか」


さっき彼等に指示していた時とは違う、声色を変えたのか幾分トーンを上げたゆっくりとした口調だ。

けれど、私の鼓動は余計に早くなってお腹にぐるぐると何かが渦巻いていく、これが怒りなのか不安なのか焦りなのかわからない、けれどそれは確実に感情のうねりだ。


「ではこの記号が読めますね。我々はあるものを探しています。それがどこにあるか教えてくれませんか」


何を探している?何が欲しい?できるだけ情報を


「な、何をさがかしぃて」


頭の中は冷静でも体の方はさっきから硬直しているように堅い。

口元もおぼつかなくて喉がひくりと息を逆流させて変な声がでてきた。


「そうですね。魔剣とありったけの精霊石を」


にっこり、と擬音がつきそうなほど綺麗に微笑まれた。


何故か、ぞっとするような笑みだった。

底が知れない、そんな笑み。

ここで逆らったらきっと、殺される。

でも、従ったら、私、ここ任されてるのに、守らなきゃいけないのに、奪われる。

戦闘では役立たず、精々薬を運んだりするだけしかできない、騎士団のみんなみたいに鍛錬をしてるわけでもなくて、知識をもっと増やそうとか努力してるわけでもなくて。

私に出来ることは、ここでアイテムを守ることだけなのに。


「ぁ・・・かりぁえん」

「はい?」

「わ、わかり、ません。私ただの倉庫番です。管理は管理官がやってるんです。その記号も管理官しかわからないようになってます!」

「ほう?」


口をついて出てくる嘘に侵入者は少し考えるように口元に手を当て、やがて


「なかなかに健気なものですねぇ?少しでも情報収集をというつもりですか」


・・・バレた・・・。

早い、早すぎる。何で速攻モロバレしてんだよ私!!


「わからないとでも?こちらの情報を引き出しておいてからわからないだなんて言うのは情報だけが欲しかったんですと言うようなものなのに。やるならもっと巧妙になさい」


う・・・何か先生に怒られてるみたいなんですけど・・・。

敵前なのに若干凹みそうになったところに倉庫の外から甲高い空気を貫くような音が鳴り響いた。


「時間をかけすぎましたか」

「総司殿」

「ここは退却しますよ。ああ、とりあえずこの子は殺しておきましょう」


さらり、とまるでちょっと「ここの売り物買いましょう」みたいな気軽さで死刑宣告された。

ああ、そっか、ぞっとする訳がわかった。

この人にとって誰かの命なんてそこらへんにある木の枝と同じなんだ。

邪魔ならへし折る、ただそれだけの役に立つか立たないかの軽いもの。


「では私が燃やし尽くしましょう」


ここにいる奴みんな同じ感覚だ。

男の一人が黒いローブの袖をグッと上へとまくった。

そこには何か変な模様のようなものが刻み込まれていた。

炎が上へ上へと燃え盛るようなその紋様が、ぼんやりと赤い光りを灯し男は低い声で


「我が誓約、炎の精霊インフラグ、燃やせ塵芥すら残さぬままに」


とんでもないことを言い出した。

炎が、立ち上る。文様から鼓動みたいにぼう、ぼうと燃え上がりそしてそれは腕ぐらいの大きさの子供の姿となった。

どこもかしこも真っ赤で火で作り上げられたその体に照らされ周りがはっきりと明るくなった。

逆立つ髪の毛のような火、目はそれに隠れて見えないけれど口元が半月に上がっている。


炎の精霊・・・先輩のお母さんと同じ。


これを見て思うのはそれぐらいだった。

熱くはない。炎がすぐそこにあるのに全く感じない。

先輩のお母さんもこんな感じの精霊なのだろうか、なんでだろうちょっとがっかりする。精霊ってぐらいだしすごい美人を思い描いてたせいかもしれない。


「早くしろ」

「はっ行け」


男が命令すると精霊は勢いをつけてこちらに向かってきた。

それと同時くらいに炎の向こうで男たちが踵を返して出入口から出ていく、こちらが消し炭になる様子は見るつもりがないらしい。


「・・・っ」


目の前に赤い赤い炎が迫ってくる・・・と思ったが、それは起こらなかった。

精霊が私に手を伸ばす瞬間に急ブレーキをかけて動きを止めてしまったからだ。

目があったわけじゃない、けれど精霊はこちらをはっきりと見ていた。

笑みは消え、表情に浮かんでいるのは困惑の色。

何故、何で?そんな感情が喋ってもいないのに伝わってくる。


「・・・ぉ・・・」

「何をしている!早くそいつを灰燼とかせ!!」


精霊は命令する男と私を交互に見比べ、やがて男の方を見てから。


しゅるん


消えてしまった。


遠くから金属音が聞こえてくる。

精霊を呼び出した男は「何!?馬鹿な」とか何か喚いていたけれど、足音が近づいてくる前に姿を消した。

残された私は灯火一つ残っていない倉庫の中、呆然と一人で立ち尽くしたまま。




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