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先輩は何故か低体温症に陥っていて少し危なかったが衛生班のおかげでなんとかなった。
あれから、クロードさんが率いる応援部隊がやってきて私は全ての事のあらましをわからないなりに必死に話した。
炎は民家や森には一切の火の粉を飛ばしておらず不思議なまでにワイバーンと先輩を包むだけの範囲で留まっていたそう。
騎士団の本部に帰った後でも先輩は休養のために寄宿舎にこもりっきりで倉庫へは現れなかった。
レットのおっさんの下、倉庫管理の仕事が手馴れてきた頃アルベイン様に呼び出され、彼の執務室へと足を運んだ。
本部の構造がよくわからなくて人に聞きつつ向かっていたんだけど、その途中長い廊下で光りに照らされたあの日の炎のような色の髪をした青年を見つけた。
「先輩!」
廊下に響く声、それに振り返る先輩の顔つきがいつもとは違っていたことにすぐに気がついた。
何ていうか、つきものが落ちたっていうの?なんだか妙にすっきりして毒も険もなくなったようなそんな顔。
「おう、相変わらず間抜けな顔してんな」
「出会い頭から罵倒!?もう、そんなことはいいんですよ。怪我大丈夫だったんですか?」
「怪我?」
「ああ、怪我じゃなかったんだっけ、衰弱?低体温症?とにかく体大丈夫なんですか?」
「まあ、ただの使いすぎだからな。特に問題はねえよ」
「?使いすぎ?」
何を使いすぎたというんだろうか?
そう聞きたかったのを「呼ばれてんだろ。行くぞ阿保面」と流れるような罵詈雑言に流されてしまった。
なんだかすっきりしないまま先輩のあとに続きアルベイン様の執務室へ到着する。
四度ノックして「見習い騎士、フォルグ参りました!」「・・・え?あ、えっと“荷物持ち”がきましたー!」と真似して言ってみたがなんでか頭を叩かれた。
中に入ると前には大きな机の上いっぱいに紙が散乱していると部屋が広がっていた。どうやらアルベイン様片付け下手だな?
右にある棚も一見整理されているように見えて本の向きが反対だったり一部きちんと入っていなかったり所々にずさんさが目立つ。
こんな完璧な騎士を描いたような人も完璧じゃないんだなー。
入ってからも何か書類にペンを走らせていたアルベイン様は「ちょっと待てこれが終わって・・・よし」と終わらせるとこちらに目を向けた。
切れ長のエメラルドがきらりと光った。
「隊長。お呼びでしょうか?」
「ああ。体調はどうだ?」
「異常はありません」
「そうか、なら僥倖、ところで今回お前たちを呼び出したのは前回の遠征での話をもう少し詳しく聞いておきたくてな」
あれ、その話なら散々アルベイン様に話たような気がするんだけどまだ聞く必要があるんだろうか。
「話は、そうフォルグ、お前の両親についてだ」
「・・・」
「一人は“荷物持ち”、お前も知っての通りレード団長、この街の騎士団つまりここの前団長なわけだが」
「え。何それ聞いてないです」
「・・・言ってなかったか。まあそういうことだ」
そういうことだで流されたーーー!!
「問題は母だ。お前、アイノコだな?」
「アイノコ?」
どっかのきのこみたいな名前だなー、はて、それって何だ?
小首をかしげていると、先輩は頷いて「そうです」と応えた。
「俺の母は父の親友の契約精霊でした。しかし幻獣を倒すため街中で力を暴発させ父が死んですぐ強制送還されてしまいました」
ん?んー?よくわかんないぞー?
「そこで馬鹿まるだしに教えておいてやる。精霊との間にできた子のことをアイノコって言うんだよ。俺は炎の精霊の子だ」
「・・・え?え?えぇええ!?精霊って、あの精霊!?っていうか子供できるの!?」
「ある程度力がある精霊だけだけどな。父の親友は強い精霊師でしたので」
「やはりそうか。あのワイバーンを燃やし尽くした炎は何かと思っていたが覚醒したからか。なるほど・・・いや、これを確認したかっただけだ。すまなかったな」
「構いません。ですが確か履歴書にはちゃんと書いておいたはずですが」
「・・・ああ、もちろん。確かめてある」
「公、嘘つかないでください。向こうの部屋の引き出しにありましたよ」
机の隣にあった扉を開けてひょっこり顔を出した長身のクロードさん、手には見せびらかすようにひらひらと一枚の紙がある。
「あーまあ、うん。そういうことだ」
またごまかした!?この人そういうことだで誤魔化すよね!?
その時
「フォルグ!“荷物持ち”!」
唐突に発せられた号令のような言葉に空気が一気に変わった。
何も見えないのに肌がピリピリするほどの緊張感が広がって自然と背筋が伸びる。
「は!」
「はい!」
「今回の件、お前たちは命令にない行動を取った。“荷物持ち”は持ち場を勝手に離れ己の役目を放棄した。これは騎士団の統率を乱す行為であり規定、規律を無視する行為である。現場では各々が責任を果たし行動しなければならなかったのにもかかわらずこれを放棄した。よって厳罰として減俸とする、期限は追って報せる」
「は、はい」
給料もらった覚えがないのにいきなり減俸っ!!
「続いてフォルグ、君の行為は命を捨てるとも思える行為であり己の命を軽んずる愚かな所業である。援軍を待たず勝手な行動をとったあげく後一歩で村にも甚大な被害を出すところであった」
そんな・・・先輩は一刻も早く村人からワイバーンを引き離したかっただけなのに。
抵抗しようと口を開くが、睨みつけられたエメラルドに言葉を飲み込まざるをえない。
「君の行動は実に身勝手、無謀な行為である。よって罰として」
まさか、除隊処分とかになるんじゃないだろうね!?
ドキドキしながら次の言葉を待つ
そして
「これから最も命の危険が伴う前戦に出ることを命ずる。命のやりとりの最前線でせいぜいありがたみを噛み締めるんだな?」
「・・・・・・は」
「・・・あ?」
呆気
あぜん
ぽかんと口を開けたままの私達が面白かったのかアルベイン様は口元を緩め「おめでとう」と言った。
「村人の危険を真っ先に遠ざけようとした君の行為は我らが目指す竜騎士の本分に沿ったものだった。そして奇しくも、君の父君が取った行為をまるきり同じものであった。
フォルグ、無意識に君は父君と同じことをしていたのだよ、君を、そして人を守った君の。
これから君はもっと知ることになるだろう、無力さも、だからこそ君は戦わなければならない。君の父君が目指したものを見るために」
「は・・・い」
「例え周りにとやかと言われても我々は君の父君が目指したものを引き継ぐ。それがきっとあるべき姿だと信じているから。君も、共に見るといい。私達と共に」
「はい」
「おめでとう。フォルグ、今回の昇級試験合格だ」
「はいっ」
もう言葉も出なかった。
ただ、胸の中からこみ上げてくるものが苦しくて、そして嬉しかったんだ。




