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「おい“荷物持ち”!こっちにユニコル!」

「はい!」

「替えの矢だ!」

「はい!」

「こっち救護箱!」

「はいぃい!!」


くるくる回る。ぐるぐる回る。

回復薬と傷薬が入った袋を抱いてくるくる走り回る。目が回る忙しさってきっとこういうことをいうんだ。

ちなみにユニコルというのは擬似ユニコーンの角の粉末。擬似ってところがよくわからないけど効果がユニコーンの角並みってことなんだと思う。一時的に怪我の痛みを消す痛み止めとして使われる。


一行は既に街を出て一日を経過していた。

予定では今日の昼頃につくはずなんだけど、道中幻獣に襲われちょっと往生している。

群れることはない幻獣というけれど、それも種類によっては違うらしく、今まさに私達はかの有名なオークに襲われているところである。

姿かたちは人、しかし背丈は子供ほどしかなく見事な中年男性体型に緑色の肌にとんがった耳、汚らしい布を巻きつけただけのような服に手には棍棒と私が知っているオークそのものが現れたのだ。

先輩の話しでは本来ここはオークの縄張りではないそう、しかしここ最近幻獣達の縄張りが変動しているようでこんなところにも出てきてしまったのだろう。

オークは対して強いわけではないがそれでも一般市民にとっては驚異だしここは村の近く、これ以上生息域を広げさせると村を襲いかねないということで討伐ということになったのだ。

初戦闘!とか思ったけどじっくり戦ってる姿を見る暇なんてない。冒頭でもいったように回復薬や替えの品々を持って竜騎士達の間を行ったり来たり、めまぐるしいったらありゃしない!!


「“荷物持ち”!こっちも頼む!」

「はい!!」


あ・・・でもこの頼られてる感はいい・・・かも。












「それにしてもこんなところに幻獣が出るなど最近は余計に活発化してきましたね」

「ああ、一部では幻獣が世界支配を目論んでいるのではないかなどと妄言も出てることだしな」


クロードさんのアルベイン様の話しを盗み聞きをしていた私。

そろそろと近づいて汗を拭く二人に鼻血を吹きそうになりながら問いかけた。だって色気が半端ない!


「あの~先輩が幻獣達の縄張りが変わってきてるって言ってたんですけど、それって本当ですか?」

「ん?ああ」


後ろになでつけた金色の髪が太陽光に反射してキラキラ光ってる。


「ああ、ここ数年・・・いや数ヵ月の範囲でか。幻獣達のおかしな行動が報告されている。今までもそんなことがなかっとは言わないが報告例が多過ぎるんだ」

「例えば海にいるはずの幻獣がさかのぼって川で観測されたり」

「山に棲むはずのものが森に出たり、今回のワイバーンもその例だ。ワイバーンは本来山岳地帯に棲む」

「世界中の異常気象のせいじゃないかと唱えるものもいますが、詳しいことはわからないのですよ」


異常気象、おお、こんな異世界でまでそんな言葉が出てくるとは思っていなかった。

地球温暖化とか二酸化炭素とかそんななさそうなのにこっちでも異常気象ってあるんだなー。

うんうん地球が異常気象なら異世界も異常気象か、世の中世知辛いね。


「中には精霊王がお怒りになった末の世界の終末などとのたまう者まで出る始末・・・」


どこにでもあるのね。世界終末説。空から恐怖の大王とかマヤカレンダーの終わりとか、好きな人って本当好きなのねー・・・って今精霊王とか言った?マジか、精霊って王様いるんだ・・・精霊自体もよくわからないけどその王様とかどんなのだろ。

こう・・・イメージ的には長い銀髪で~線が細い超儚げ中性美青年なんだけど!!うわっ鼻血出そう。


「構わん。終末が来ようと来まいと我らが成すことは一つ、総員態勢を整え次第行軍開始!!」


アルベイン様の一声で少し疲れ気味だった兵士たちの動きが良くなった。












結局村についたのが夕方になりかけてた頃、広場に場所を間借りしてゲルのような仮設テントを立てる。

私は荷物と在庫管理があるのでまた別のテントを立ててもらって運び込んだものの整理と数の点検を行う。その間に炊き出しが行われていい匂いがしてくるんだなーこれが!

食料は村から提供されるものを使って、珍しがった村人から差し入れとかもらってる人がいてちょっと羨ましかった。横目で見てたら若い女の人もいて、お!もしかしてこういうところからロマンスが生まれるんじゃないか!?とアンテナびんびん張ってたら何故か私にまで差し入れがきた。

おさげ髪のそばかすがついた純朴でかわいらしいお嬢さんが薄く頬を染めながらもってきてくれたクッキーおいしかったです・・・ごめんなさい!本当ごめんなさい!私女でごめんなさい!!

みなさん鼻の下がデレデレしちゃって、ああこういうところからロマンスは生まれるのねー、私生産性ないけど。


「道具の在庫はどうだ」


見回ってきた騎士さんそのいくつかに聞かれた。もう顔を逐一覚えてられないので眼鏡のお兄さんと呼ぶことにする。この世界って元々の水準が高いのかと思ってたけど今まで出会った人が高すぎたのね。この人は日に焼けたせいかそばかす顔で榛色の髪をした眼鏡のお兄さん。互いに名乗らないし私は“荷物持ち”で通ってしまってるので名乗る必要がないもんだから結構名前を知らない人が多い。腕輪と制服を見てどこそこの人っていう風に見分けている程度。


「問題ないです。弓矢もえっと魔法具?も大丈夫です。結界は4個でいいんですよね」

「ああ、それで問題ない。作戦決行は明日になるからな点検怠るなよ」

「はい」


魔法具、というのは精霊石で稼働する道具のことで私がしょっぱなから暴走させた恐怖の掃除機もその一つ、そしてこの結界というのは相反する属性を持った幻獣を一定時間拘束することのできる、ほら、RPGでよくあるやつだ。

見た目は何だろう、鋼鉄のフリスビーみたいな。真ん中に石が入ってて、今回はワイバーンで火属性だから水属性、でも大きい精霊石を使ってるわけじゃなくて砂状に砕かれたものを練って固めてはめ込んであるんだって、粗悪じゃないけど使い捨てタイプ。

作戦は簡単、この結界をあらかじめ広い牧場に仕掛けておき牛を狙ったワイバーンが来たら誘導、動きを捉えて属性武器でめったうち、危険なのはワイバーンの爪と牙と羽ばたきによる暴風、いや結構危険なの多すぎでしょうとか思われるけどワイバーンの危険度はそんなに高くはないらしい。注意すべきはその力だけなのだから。

幻獣の中には夢を操って、い・・・いんこう・・・淫行したり、とか魅了してぐでんぐでんにしちゃったりとか、操って寿命吸い取ったりとか、単純な攻撃力じゃなくて特殊能力が厄介なやつがいたりして、そういうのは討伐難易度がかなりあがるとか。


「でも一回ぐらいサキュバスにとらわれてもいいかなー、理想の姿で超イイらしいぜ」


騎士団の人からそう聞いた時にゃあもう「へー」とかしか言えなかった。滅んでしまえ!!

全ての点検を終えて外に出ると日が傾いてきた。

ワイバーンが来るのは一ヶ月に一回ぐらい、丁度その時を狙ってきたからここ数日にカタがつく。


・・・先輩大丈夫かな。


この作戦での働き次第で先輩の未来が変わる。そう思うと複雑だった。

だからといって自分に何ができるわけでもないし、何かできるだなんて思ってもいないけど。


「よー“荷物持ち”!陰気な顔してどうしたよ」

「ああ、デュオさん。いや・・・先輩大丈夫かなって」


道具点検表をおいてきた後ゲルの外へ出た私待っていたのは人懐っこい顔をしたデュオさんだった。この人先輩っていうよりさんって感じがしてきたのでこれで通します。


「ああ、まーな、あいつの踏ん張りどきってやつだろ。あいつのおやっさんの話は聞いたか?」

「はい。クロードさんから・・・確か幻獣に殺されたんですよね」

「あの時は確か・・・そう、グリフィンだったな。村人をかばって死んだって話だが」

「知ってるんですか?」

「まあ、有名な話さ。俺はなんか引っかかるけどな」

「何が?」

「ん?村人をかばったって話、普通作戦結構するときにはみんなひとまとめに幻獣の目から遠ざけておくのが普通なんだよ。まあ逃げ遅れでもしたんだろうが、たった一人かばって死んだってのが印象的だな」

「いいじゃないですか。数なんて問題じゃないですよ」

「そうだな。ともかくも、今回はやつにとっては転機だ。これからどうするのか本気で考えなきゃいかん」

「・・・デュオさんってお兄さんですよね。なんか、根っから」

「おう、一応これでも5人兄弟の長男だ」

「多っ」


マジで兄ちゃんか。大家族!!


「俺が養わないかんからなー。うち父親いないし」

「先輩と一緒ですね」

「いや・・・あそこは父親死んでから確か母親もいなくなってるはずだ」

「え・・・」


あれ、そうなんだ。お母さんの話は聞いたことなかったから知らなかった。

でも確か家督って引き継がれないんだよね?土地とかは財産として引き継がれたんだろうか。

ああ、こっちの事情よくわかんないよ!!

こりゃ本格的に勉強しないといけないのかなー、もしこのままこの世界で生きるのだとすれば・・・。

ああ。気が重くなってきた。

ずん、と重たい空気を背負っていると「ま、気にすんなよ!お前が気にしたってなんにも始まらねえからな!」とでかい手で容赦なく背中を叩かれてしまった。痛い!!

でもその痛さで少しだけ気が楽になったのは秘密だ。なんか悔しいから言いたくない。





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