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竜騎士見習いと“荷物持ち”












その日は私、普通に家のベッドの上で寝たんです。

季節は夏から秋へ変わる頃、ころころ変わる温度差に辟易しながら変えたばかりのシーツを整えてその中へともぐりこんだ筈なんです。

隣には最近ではそこらへんでみかけなくなった黒猫のキャラクターぬいぐるみが鎮座して半月型の目であらぬ方向を見ていました。

電気をリモコンで消してちょっとだけ携帯いじって、眠たくなったらぐっすりと闇の中へ落ちていく、いつも通りのいつもの事。




なのに何故


「うら、起きろこの“荷物持ち”が!」



何故私は



「げふっび・・・美少年」



美少年に足蹴にされてるのでしょう!?









【第一話 若手竜騎士と“荷物持ち”】





目が覚めて初めに飛び込んできたのが赤色の髪の美少年ということはいいとしよう、うん。

ただ何故私がその人に女王様に虐げられる豚のごとく蹴られているかが問題だ!!ああ、問題だ!


「ちょ、何するんですか!何故蹴るんですか!豚は蹴っちゃいけないんですよ!ちゃんとお世話しなきゃいけないんです!豚さんを見なさい!案外可愛い顔してるじゃないですかぁああ!!」

「何を言っているかさっぱりわからんが、お前の頭が豚以下なのか間違いないな。ついでに顔も以下だ」

「酷い!更に酷い!顔が豚以下ってそんな、一応普通の顔ぐらいはしてますよ!」

「頭が豚以下なのはいいのか」


だって学校教科オール2だもん。

それはともかくとして


「ここはどこなんですか?」


周りを見渡してみると薄暗い場所で、そこかしこに木で作られた箱が重ねてあってその整然さはどこかの倉庫のように見える。

けれどそのどれにも見覚えなどないし、ましてや木箱の中にわずかに見える物は今まで見たことも無いものだ。

透明な瓶にキャンプで使うようなランプのようなものから何に使うのかわからないものまでぐっちゃぐちゃに放り込まれたような木箱の数々、本当にここは倉庫のようだけど、私は昨日確実に自分の家で眠った記憶があるから夢遊病でもない限りこんなところに来ない。

いや、夢遊病であってもこんなところ来ない。ましてや目覚めが美少年の蹴りってどういうことよ!!

まだそこに拘っていたかと言われそうだけど、ええ拘りますとも!私は根に持つタイプだぁああ!!


「おい、何奇行繰り返してやがんだよ」

「へ?・・・うぉおお!?抜けない!!」


何故か木箱へダイブしていた私は頭と腕がすっぽり木箱にはまって抜け出せなくなっていた。

マジか!このまま木箱で窒息死とかダサい死に方やだーーー!!


「ぎゃああ!お助けぇええ!!」

「はあ!?何やってんだ!うげ、抜けねえし!」


足を引っ張ってくれる美少年!しかし比重が頭の方が上なのか位置が変わらない!

何故!?っていうか足が地についてない!完全に足が天井向いちゃってます!?


「お前、もうこのままでいろ」

「ワーオ、マジっすか」


ようやっと天井に向いていた足が美少年の手によって地面についたが、頭が木箱から外れないまま、視界は木箱の隙間から見える横長になっていた。

見事に木箱人間のできあがりだチクショウ!


「で、話を戻しますがここはどこの倉庫なんですか?」

「お前、図太いな」

「ええ、そりゃあもう鋼の心を持っています、誉めて」

「誉めねえよ、寧ろ恥じろ」


それは無理です。これこそ私のアイデンティティ。

にしてもこれは見にくい。

そのまま連れて行かれ奥へ行くと、狭い木箱などの間で広い空間へ出た。

そこには一つだけ大きな机があって色々な紙やら本やら、飲みかけの何かが入ったガラス瓶やら紙袋やらが散乱していてとてもちらかっていて汚い。

灯りは机の上にある燭台。形としては蝋燭に似てるが、一切揺らめきもなく白いその光りは蝋燭の形をした照明と言ったほうがわかりやすい。

そしてそこに突っ伏して寝ている人物一人。


「おいおっさん!起きろ!お望みの下働き連れて来たぞ!」


あの、聞き捨てならない言葉が今聞こえたんですけど。

下働き?誰が?私が?何で?

というかなんでここにいるかもわかっていないんですけど私。


「あぁあ?」


のっそり、という擬音がぴったりくる動作で机から顔を上げた人は年齢でいくと三十台くらいで無精ひげに少し垂れ目ですっごく眠たそう。

ぼっさぼさの茶色の髪に大きなめがねをかけている。

格好はどことなく気だるそうな科学教師のような雰囲気を漂わせているが見間違いだろうか。


「このおっさんはレット、この倉庫の番人だから詳しい話はこいつに聞けよ」

「え?あ、はい。ところでこれ取ってくれませんか?」

「面倒くせえからやだ」

「うぇえええ!?そんな!これ取らないと私の第一印象が頭部が木箱の変な人になっちゃうじゃないですか!」

「事実だな」

「事実無根!!」


私の訴えを全て却下して少年は背を向けてひらひら手を振って行ってしまった。


あー・・・えっと、どうしましょう。


「おい“荷物持ち”」

「・・・え?はい?」

「お前の最初の任務をいいつけるー」

「あれ、このまま普通に会話・・・?」


倉庫の番人らしいレットさん、あの、私頭部が木箱なんですけどこのまま会話するんですか?

大物なのかそれとも大雑把だけなのかさっぱりわからないおっさんはやっぱり眠そうなままで頭をバリバリかきながら、ぐるりとこの倉庫全体を指差した。


「この倉庫の掃除と整理しろ」

「え、マジですか?」

「リストと倉庫内の図面はここにあっから」

「えぇえ・・・」


ぺらんと二枚の紙を置いて再びレットさんは机に突っ伏した。


ええい!こんな奴おっさんで十分だ!簡単に言ってるけどこの倉庫広そうなんだけど!!どうすればいいの!?っていうか一人でやるのぉおお!?


「ど、どうしよう・・・」














コンコン、とドアがノックされる。

机で書類に署名していた青年は翠石色の瞳だけを上げ、ゆっくりと顔も上げる。

下を向いていたせいで落ちた茶色の髪を後ろに撫で付けて「入れ」としっかりした口調で応えると、ドアの向こうから少年が入って着た。

青を基調とした真新しい騎士服に身を包み、大きな声で「フォルグ・レード、入ります」と言ってから中へ入る。

陽の光りに照らされて鮮やかな炎色の髪に金に近い茶色の瞳はこの世界であっても珍しい色彩を放っている。

面持ちは未だに幼さを残す少年然としたものだがしっかりとした意思のある顔立ちをしている。それは多分彼のつり上がった目は放つ眼光の鋭さ故だろう。


「新しく入った荷物持ちをレット管理官のところへ連れて来ました」

「ご苦労、で、様子はどうだった?」

「・・・あー、えっと・・・はっきり言っても?」

「ん?構わないが?」


物事をはっきり言う彼にしては珍しく言葉を出すことに躊躇している。


「使い物になるかどうかは、わかりません。着いた矢先木箱に頭を嵌らせてましたし何と言うか、言動が奇怪といいますか」

「ん、うん・・・まあ、それぐらいは見逃してやれ」

「はあ・・・」

「まあ、使い物になるかどうかはレット管理官に任せよう。使えなかったら容赦なく追い出す人だからな」

「わかりました」

「後もう一つ」

「はい?」

「あの“荷物持ち”の面倒はお前に任せる。町案内してやれ」

「え!?しかし自分はまだ見習いで!」

「良かったな。初めての後輩だ」

「いやいや、あいつは竜騎士じゃないでしょう!」

「ま、そういうわけでよろしくな」


さっさと行け、という風に手で合図をしながらフォルグを退室させて、はあ、と溜息をつく。

すると隣の部屋へと続くドアが開き中から長髪の男が出てきた。

とても長身で背を少しばかりかがめなければドアに頭がぶつかってしまうだろうその人物はレットとはまた違う型の横に細いめがねをかけており、その奥には切れ長の聡明そうなアイスブルーの瞳が見える。

フォルグと同じ青を基調とした服を纏っているが彼が着ていたのよりも裾丈などが長めで、フォルグのものが快活そうで動きやすいイメージならば彼が着ているのは図書館の司書のようなイメージをもたらせるものだった。


「公、あの者に任せても大丈夫ですか」

「まあ・・・あいつも後輩ができれば落ち着くだろう。それよりクロード、あの件被害はどれほどだ?」

「近隣の村に三度ほど、畑の被害は甚大です。後は牛や馬、羊なども相次いで」

「そうか・・・」


補佐官であるクロードの話を聞きながら、彼アルベインは仕事に戻っていった。





















ズカズカとフォルグは苛立ちを隠さないまま大股で宿舎の回廊を歩く。

そしてそのまま外へ出ると真っ直ぐ先ほどまでいた道具倉庫へと向かった。

道具倉庫は宿舎の南に位置しており、駐在所として使っているこの土地の端にあった。

それなりに大きな倉庫には昔から貯めに貯めこんだ備品消耗品などなどがあったが、その全てを把握しきれているのは道具の管理官であるレットしかいない。

道具はいわば騎士団の要となるところ、しかし当のレットは片付ける気が一切ないし、人員を割こうにも「下手な奴が入るんじゃねえ」と突っぱねられる始末。

ならばどうすればいい?ならば外から専用の人間を雇えばいいのだ、という結論へ至りあの人物を雇った。

その人物の位置づけは荷物持ち、つまり倉庫管理官であるレットの補佐という名の下働きかつ遠征時に荷物を持って歩くという役目。

今までは各個人が持っていたのだが、これでは戦闘時に消耗品などを出している暇がない。

故にそれ専用の人物が必要だったのだ。


「だ・か・ら・といって!何故俺があいつの世話をせにゃならんのだあぁああ!」


うがー!と獣の如く一人で咆哮をあげる。


「あいつって誰です?」

「あいつだあいつ!今日入った“荷物持ち”だチクショウ!」

「ええ!?私のことですか!?」

「は?」


独り言のはずなのに返事が返ってきて、しかもその当人が後ろに立っていた事実。

先ほど倉庫まで案内したばかりの“荷物持ち”がそこにアホ面ひっさげて立っていた。どうやら木箱は取れたようだ。

背中には大量の敷布を背負いながら。

数人の男で持つはずの大量の敷布を背中に背負えるということはそれなりに力があるのだろう、アルベインの人選は人格はともかくも能力的な意味では最適だったといえる。


「何やってんだ、お前」

「え・・・ああ、何かおっさんから倉庫整理いいつけられてしまいまして、本気で不本意なんですけど一応仕事はやっとこうかと、なんで一回中の物出そうかと」

「あれを全部か!?」

「え?はい」


あの倉庫は今も使われているとはいえ、レットがあの倉庫の管理官として就任して早十年全く掃除も整理も行われていないらしく中で眠っているものは当時からの年季が入ったものばかり。

それを一人で整理しろなどと、レットも無茶なことを言う。


いや・・・寧ろ無茶だからこそ、か?


使えるか、使えないかを判断するためのこれはもしかしたらレットなりの試験のつもりなのかもしれない。

あの一人倉庫を一人で片付けることが出来るとしたら、それはきっと大分使えるだろうから。

それに中身を全て把握してどこに何があるかわかっている人間が増えるのはいいことだ。


なら・・・


「おし、やってみろ明後日までに」

「ふぎょえぇええ!?明後日!明後日ですとぉおおお!?」

「そうだ明後日だ」

「ちょちょちょ、無茶・・・」

「できなきゃクビだな」

「鬼畜!この人鬼畜!鬼畜上司め!あらやだ何か萌えるっいやいやそんな場合じゃない!」

「・・・何だあいつ・・・」


鬼畜、無理、と言いながらもやる気はあるのか若干エコーがかかりながら走り去っていく“荷物持ち”を見送りながらひきつる顔のままフォルグは立ち尽くしていた。













1、私は誰だ

A、私は私だ。それ以下でもそれ以上でもない。あらやだ何かかっこいいわ。


2、ここはどこだ。

A、わからない知らない、知りようがない。


3、私は何をしている?

A、倉庫整理。しかも二日間で全部を済ませろと言われ不眠不休。



倉庫から荷物を「えっこらせ」と持ち上げながら悶々と頭の中をかき回してみても、自分が何故こんな状況に陥っているのかさっぱりわからなかった。

ベッドで寝ていて突然美少年に足蹴にされあげくに気だるいおっさんにこき使われ何だこのプレイは?とか思う暇もないままに馬車馬のごとく働かされている。

どうやら話しに聞く異世界トリップとかのようだけど、今は本当に倉庫整理だけで全てが終わってしまいそうな気がする。

こういう時って何かミッションクリアしたら戻れるとか、例えば世界を救う!とかさ。

まあ、かといって何もできない私が世界を救うとか本当、無理、無理です勘弁してください。世界を救うなんて正気の沙汰じゃない。


「ふう、後は木箱の中身をどっかに書いて、表を作って・・・」


ある程度固めて置いて図面を作るだけでいいだろう。

うん、我ながら勉強以外では案外頭が働くもんだ。

人間好きなことには頭が回るもんね。勉強嫌い、数学とか特に嫌い、この前2点取った。母が泣いた。うん、この話しは、まあいいや。


倉庫の中を動き回ると、大きな姿見が木箱に支えられるようにそこにあった。

うす暗い倉庫の中だ、あまりはっきりとは見えないがその中には自分の姿が移しこまれていた。

薄い紫色の髪は何故か不思議に真珠色がかっていてちょっとした光りでも輝いてみえ、それをも深くしたような黒い瞳が神秘的な、わお美少年・・・ってなんでやねん。


「うん!?あれ?うぉ?」


思わず大股開いて自分の顔をぺたぺたと触ってみる。

鏡の中でも同じように触っている人影、せっかく美少年なので顔が大きく崩れているのでとっても間抜け面にしか見えないけれどそれは確かに正対称な己の姿で・・・。

次に触ったのが胸、前までつきすぎるぐらいのお肉や腕のたるみがない、どこか筋張っていて欠食児童のような細さを思わせるその体、そして最後に・・・最後に・・・その、えっと・・・あそこを・・・。

本当に、本当にそろりそろりと布越しに・・・。


「・・・っ!!」


そして私は絶望した。


何で異世界トリッププラス男体化やねえええええん!!






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