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9話 突撃三途の川はじめました

「だから、駄目だって。許可がねえと通せないんだよ」

「そこを、なんとか!このままじゃ私の沽券に関わるのよ!」

 喧嘩を吹っかけられて買い取ったはずなのに、何故かお願いして喧嘩を買い取る事になっている件について。可笑しくない?

「そもそも、喧嘩吹っかけたのは、アンタの方でしょうが!」

「俺は喧嘩なんて吹っかけてねえよ。自意識過剰じゃねえの?」

「あれで喧嘩吹っかけてないなんて、今までどんな教育受けてきたのよ?!」

「ままあ、二人とも。落ち着いて」

 唾を飛ばしながら怒鳴りあっていると、空太が間に入ってきた。流石に、優しい空太を怒鳴るわけにはいかず、私は一時的に口を閉じる。


「アロケスもちゃんと、冬夜に謝らないと。先に失礼な事を言ったのは、君の方なんだから」

「ええ。謝ったし」

「あんなの、謝ったに入らないっていうか、私は今は、槍を向けられたことを怒ってるんじゃないのっ!話をすり替えるなっ!!」

「はいはい。冬夜もちょっと冷静になろう?アロケス君は、悪魔の一族だから、素直になれないところがあるんだよね」

 私が噛みつきかけると、再び空太に止められた。

 むぅ。

「空太ぁ。だって、コイツが全然分かってないんだもん」

「狂犬みたいな女だな」

「そうよ。私は、幸田家の狂犬と呼ばれた女よ。手を出したら、ちゃんと噛みつくんだから」

 ふんと私は鼻息荒く、踏ん反りかえってやる。


「それ褒められた2つ名じゃねーだろ」

「ほっといてよ。私は気に入ってるんだから」

 確かに褒められた言葉ではない。でも私は幸田家の特攻隊長として、家族を苛めてくる奴は片っ端から蹴散らせてやったのだ。兄が頭脳担当だったので、配分的にもちょうどいい。

「それで、冬夜はどうしたら気が済むの?アロケスは意地っ張りだから、ちゃんと謝ったりしないと思うな」

「意地っ張りとかいうな」

「意地っ張り以外の表現だと、前に何か別の言い方されていたよね。えーっと、つ、ツンデ……ああ。ツンデレラッ!」

「ブッ!」

 たぶん空太が言いたかったのはツンデレだろう。でもツンデレラなんて言われると、私の頭の中でアロケスがドレスアップした姿が思い浮かぶ。

 筋肉隆々、顔面マスクのシンデレラ。たぶん問題点はツンツンしているとかそこではない気がする。


「てめえ。笑うなっ!!」

「だって。ツンデレラだもん。ツンデレラ」

「だから、笑うなっ!!」

 怒鳴られるが、相手がツンデレラだと思うと、怖さがない。笑い転げていると、怒鳴りにくくなったのか、アロケスが仮面に手をかけた。

「……アロケス。仮面に手をかけてるみたいだけど、やめてくれる?冬夜は新人だって、俺言ったよね」

 ふと空太からひんやりとした空気を感じて、私は笑うのを止めた。口調がきつくなるとかはない。それでも、ピリピリとした何かを感じる。

「じょ、冗談だよ」

「ならいいんだ。冬夜は神族かもしれないけれど、死神。俺の仲間なんだから」

 ……アロケスがおびえている?

 筋肉隆々な鎧男が、草食系男子に圧倒されているなんて、なんだか変な感じだ。

「あ、あのさ空太って、何位の死神なの?」

「8位の平社員だよ」

 8位?

 8位は新人が多いと左鬼に聞いたので、普通なら空太はもっと階級が上がっていてもいいのではないだろうか。頭もいいみたいだから、試験に受からなかったわけでもない気がする。むしろ空太のレベルで受からないなら、私は逆立ちしても無理という事だけど。


「その割に、知り合いが多いんだね」

「ここでの生活も長いからかな。さてと。じゃあ、アロケスも冬夜も納得できる落としどころを考えようか。確かに、アロケスが言う通り、地獄は許可書がないと入れないんだよね」

「何で?」

「中から囚人が出てきてしまうリスクがあるからかな。一応アロケスみたいな門番はいるんだけどね」

 なるほど。

 確かにむやみに出入りをすると確かに、中にいる囚人が出てきてしまう可能性もある。

「そうか。なら仕方ないね」

「何で俺の時は聞かなくて、空太の時は話を聞くんだよ!」

「えっ。そんなの、人徳に決まってるじゃん」

 優しい空太と、ツンデレラだったら空太を選ぶに決まっている。

「でもさ。これだけ馬鹿にされると、見返したいんだよね。行ったり話しただけで汚れるとか、私はそんなもやしじゃないし」

「うーん。だったら、三途の川なんてどうかな?地獄ではないけれど、色んな霊が集まる場所だから。そこで冬夜が普通だったら、アロケスも口だけとか言わないよね」

「あれ?三途の川って観光名所じゃないの?」

 確かまっ●るや、る●ぶっぽい雑誌にデカデカと特集を組まれて掲載されていたはずだ。

 そんな観光地を回ったぐらいで、見返してやれるとは思えない。


「もちろん観光地だが、危険がないわけじゃないからな。……まあ、そこへ行って、平然としている神族様なら、口先だけじゃなく、普通とは違うんだと覚えておいてやるよ」

 危険なんだ。

 いまいちどんな危険があるのか想像できないが、川なのだし流されたりしなければいいだろう。死んでまでドザエモンにはなりたくない。

「分かった。そこで手を打つけど、確か三途の川って遠いんだよね。……今、まだ迷子中だから、ちょっとマズイかも」

 空太と話していると、だんだん気持ちが落ち着いてきて、思考も冷静になる。すると、さすがに長距離の移動はまずいのではないかと思えてきた。

「なんだ、まだ空間移動できないのか」

「そうみたい。霊力は高いし、これからだと思うんだけどね。アロケスが無駄に突っかかったのがいけないんだし、ちょっとそこまで繋げてよ」

「げっ」

 繋げる、だと?!

 私は急速落下の感覚を思いだし、少し血の気が引く。空太が使えないと言われたことにすごくホッとしたのに、自分の短気の所為で、結局あの恐怖をもう一度味わう事になるとは。

 自業自得とはいえ、つらい。

「何だよ。やっぱり嫌なのか?」

「いや、えっと。三途の川に行くのは良いんだけどさ……行くまでの方法がね」

「はあ?」

 ううう。

 あの落下する時の恐怖は、冥界の人は感じないのだろうか?確かに落ちたりしても死なないので、ないのだろうけど。

 元、人間としては、とても怖い。


「あ、もしかして冬夜って、空間を繋げる系の移動がダメなんだ」

「うん。どうしても急速落下は苦手で」

「はっ。軟弱なやつめ」

「うう」

 言い返したい。言い返したいけれど、怖いものは怖いのだから仕方がない。

 ここで生活するなら、あの移動方法に慣れなければいけないのだろうけれど。……やっぱり冥界での生活は、私には向いていないのかも。

「アロケス」

「わ、分かったよ。俺が使うのは、死神が使うのとはちょっと違うから安心しろ」

「違うの?」

「少し移動しないといけないけどね。冬夜、行こう?」

 空太なら、嘘はつかない気がする。

 というか、今の私は空太に頼るしかないわけだし。これ以上我儘を言っている場合じゃないだろう。私は先ほどとは違い、今度は空太に手を引いてもらう。


 少し歩くと、無限に続くのかと思っていた廊下が突然突き当たった。

 そしてその突き当りには、厳つい鉄製っぽい扉がある。

「もしかして、この先に地獄があるの?」

「半分正解で、半分不正解といった感じかな。確かにこの先には、地獄があるけれど――」

「天国にもつながってる」

「は?」

 地獄に繋がっているけれど天国にも繋がっている?

 地獄と天国って反対のものではないのだろうか。

「えっと、もしかして謎々?下は大火事、上は洪水みたいな。それとも、実は天国と地獄は隣りあわせとか?」

 ううん。

 謎々はあまり得意ではないので、さっぱりだ。

「謎々じゃないし、天国と地獄がご近所という事もないよ」

「鍵を使って、行先を決めるんだ。だから、この扉は天国にも地獄にも繋がっている。そして、三途の川にもな」

 そう言って、アロケスは鍵を差し込むと鉄製の扉を開いた。分厚くて重そうな扉だが、アロケスはゆっくりと、でも一人で押し開ける。

 開かれた向こうには、河原の砂利が見え、川の流れる音が聞こえた。 


「ど、どこにでも繋がるドアだとっ?!」

 青い猫型ロボットの、『ど●で●ドア~』と間延びした声が脳裏をよぎる。

「いや、どこにでも繋がるわけないだろ。繋がるのは俺が持っている鍵の場所だけだ」

「いやいや。それでも、十分すごいって。今初めて、アロケスができる男だと認識した!なんて画期的っ!!」

 そうだよ。普通は移動的魔法なら、こういうドア的なものとか、魔法陣と相場が決まっている。死神の移動方法は邪道な上に、斜め上に吹っ飛んでいるのだ。

「気が付くのが、遅いんだよ」

 そういいつつも、アロケスは嬉しそうだ。なんだ。意外に、悪い奴じゃないのかもしれない。

「じゃあアロケス。また戻ってくるから、しばらくしたら開けて」

「おう、任せとけ」

 胸を張るアロケスの横を通って、私と空太は扉をくぐった。すると、さっきよりも大きく川の音が聞こえた。


「……すごっ」

「だよね。きっと、天の川とかには負けるんだろうけど、でもここも十分すごいと思うんだ」

 すごいなんてものじゃない。

 目の前を流れる川はとても大きくて、まるで海だ。

「こんなの初めてみた!まるで海みたいだよ!!」

「うん。俺も死んで初めてここを見た時、すごく驚いたよ。近づいてもいいけど、落っこちに様にね」

「分かってるっ!」

 確かにここで流されたら、発見されるまでにすごく時間がかかりそうだ。流れが急なので少し怖いが、それでも好奇心の方がまさって、私は河原の石を踏みながら、川へ近づいた。


 水は泥などで濁ってはおらず、下に生えた藻が見えるほど透き通っていた。この藻がエメラルドグリーンに見える理由のようだ。こんな激流の中、よく生えてられるよなと思う。

「よくしがみ付いていられるよね。雑草よりも強そう」

「きっと、ここにしか彼らの居場所がないからじゃないからじゃないかな?ここより上流だと生え続ける事ができないし、ここより下だとこの藻を食べる魚が多いからね」

「ふーん」

 ここでしか生きられないから頑張るかぁ。

 ……私は、頑張ったのかなぁ。

 思い出すのは、生前の事。本当はもっと家族や友達と一緒に居たかった。あそこが、私の居場所だったから。でも唐突に手放さなければいけなくなって……。

 左鬼は私を生き返らせてくれると言った。しかし、私はそれを受け入れられなかった。あの体で生き返ったら、迷惑をかけるだけだと分かったから。

 どんな奇跡が起こったとしても回復の見込みのない体。もしかしたらずっと病院で痛みに苦しみながらチューブに繋がれて生きることになったかもしれない。それを選べなかった私は頑張れてなかったのだろうか。手放したくて手放したわけじゃない。でも、しがみ付くこともできなかった。

 

「そういえば、どうして空太は死神をやってるの?」

 空太にとって、死神というこの場所はちゃんと居場所になっているようだ。でも元は人間と言っていたので、私と同じ死霊立場だったはず。知り合いが多いのは、空太の人徳なのかもしれないけれど。

「普通って天国や地獄に行ったり、生まれ変わったりするんじゃないの?」

「そうだね。俺は、妹に会うためかな」

「妹?」

「そう。俺は妹よりも先に死んでしまったから。もう一度会いたいんだ。でも生まれ変わってしまったら、もうそれは俺じゃないし、天国に行ったら会えない可能性の方が高いからね」

 そっか。

 冥界は確か一定期間しかいられないと左鬼が言っていた。私ももう一度申請を出さなければ49日しか留まる事ができない。

「私も兄がいるんだけど、空太みたいなお兄ちゃんがいたら、妹さんは幸せ者だね」

「そうかな?」

「だって空太、優しいし、常識あるし。うちの兄は頭はいいんだけど、色んな物が欠落しているというか、空太に比べると月とスッポン」

 春兄は優しくないわけではないけど、色々問題の多い兄だった。とりあえず、二次元の妹と現実の妹は違う事に早く気が付いて欲しいと思っていたものだ。兄の愛は基本いつでも痛い。


「キャーッ!!」


 突然甲高い悲鳴が聞こえて、私はそちらを向く。

 すると少し離れた場所で、小さな女の子が座り込んで泣いていた。そんな女の子の前には、新井さんのような大柄の男がいる。頭には新井さんよりも大きな角が生えていて、その手には金棒が。

 もしかして、あの鬼に泣かされているのだろうか。

「えっ、ちょっと。冬夜?!待ってっ!」

 気がつけば私は考える前に走り出していた。空太の私を止めようとする声を背中で聞きながらも、その足は止まらない。だって小さい子が苛められているのをみて、私はじっとなんてしてられないから。

 弱い者は守れ、強いものは噛みつけが、我が家の家訓。例え家族と離れてしまっても、私が変わったわけではない。


「ちょっと、こんな小さい子に何してるのっ?!」

 幸田家の特攻隊長として、私は女の子と鬼の間に立ち、怒鳴りつけた。 

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