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7話 敵前逃走はじめました

「えっと、つまり、俺が開いた通路に冬夜も落ちてしまったって事でいいのかな?」

「うん。たぶん、そういう事。前見てなかった私も悪いんだけどさ」

「ううん。俺こそちゃんと周りに気を配ってなくてごめん」

 私の下敷きになってしまった少年、空太(そらた)は、とても礼儀正しかった。そして左鬼と違い常識がちゃんと通じる。


 空太と現在状況を確認しあった結果、どうやら私はたまたま空太が移動しようとしているところにぶつかってしまったらしい事が分かった。

 どうやら空太がワンテンポ遅れて私の存在に気が付き、慌てて移動を止めた結果、転移が失敗し、中途半端な廊下へ落ちてしまったらしい。

「ちょっと今の場所を確認するから待ってね」

「確認?」

 そう言うと、空太は廊下の端により、壁をさわり始めた。そしてゆっくりと移動をしていくと、少ししたところで足を止める。

「良かった。情報処理部からそんなに離れていないみたいだよ。ここからなら、歩いて行けるかな」

「えっ、何で分かったの?」

 今の行動の何処に、場所を探る手がかりがあったのか。ここには探偵とかが場所を把握するために使いそうな、木の年輪も、時計もない。

「裁判所は広いからね。こうやって一定の場所ごとに、ここがどこか分かるように絵が書いてあるんだ」

 空太が指し示した場所には、桜のイラストと点がいくつか書いてあった。桜や点は凹凸になっているので、ただ書いてあるだけというわけでもなさそうだ。ぱっと見は壁を華やかにする飾りのようで、手間がかかっている。

「へぇ。でもこんなのより、見取り図の方が早くない?」

「うん、その通りなんだけど、見取り図がある場所まで行き着くのが大変なんだよね。もちろん一定の場所には設置してあるよ」

 それもそうか。

 大型ショッピングモールだって数歩おきに見取り図なんてない。あまり見取り図ばかりでも、景観が悪いだろうし、ここで働いている人達なら私のように遭難する事もないだろう。


「って、空太?何しているの?」

 今度は膝をつき、床に手を這わせる。もしかして隠し扉でもあるのだろうか。

 移動方法を絶叫系を選んでしまうぐらいの場所だし、制服も日本のサブカルチャーにやられたと聞いている。もしも『忍法○○っ!』とか叫んで床ががばっと開いても驚かない。

「えっと、情報処理部から預かった書類を落としたみたいで」

「書類?」

 くるりと見渡すと、少し離れた場所に封筒が落ちていた。

「書類ってこれ?」

「あ、うん。ありがとう」

 拾い上げ空太に見せると、少し空太は封筒を触った後に頷いた。空太の奇妙な行動に、私はあることに気が付く。

「もしかして目が見えないの?」

 よく考えると、さっきのイラストも、空太は点字を読み取るかのように指で確認してた。ボタンではないので、もしも目が見えるなら、触る必要はない。

「見えなくはないけど、これだけ暗いと、あんまり見えていないかな」

「暗い?」

 見た限り、それほど暗さはない。LED電球ですごく明るいという感じもないけれど……。

「ごめん、空太。一回病院に行った方がいいかも」

 もしかしたら、私とぶつかった衝撃で、目が見えなくなってしまったのかもしれない。冥界にも眼科があるのかどうかは分からないけれど、さすがに病気になったり、怪我した時に行く場所はあるはずだ。


「病院?……ああ、そうか。冬夜は神族出身だから、見えないという事がないんだっけ?」

「えっ。知ってたの?」

 私がじき閻魔王だという事を。もしかして、私ってかなり有名人?

 確かに、次期閻魔王なんて称号をもらっていたら、顔写真の配布が行われていてもおかしくはない。受付のお姉さんや新井さんも気が付いていたし。

 ……ん?だったら、何で私死神の制服を着てるんだ?もろバレしているのに、変装というか、コスプレしてますとか意味が分からない。

 というか、うわ。恥ずっ。気がつかれているのに、私だけ知らないと思って変装とか、マジ恥ずかしい。左鬼っ!!どういうことっ?!

 会ったらきっちり、落とし前はつけさせてもらわなければ。

「そりゃ、8位の制服なのに、それだけ光っていればね」

「げっ。テカってる?汗かいたかな?」

 生憎と死んでしまってからは、あぶらとり紙とか持ってない。

 とりあえず服の袖で、ごしごしと顔をぬぐう。

「えっと、ごめん。テカってるじゃなくて、光ってるだから。神族は生まれつき霊力が強いから、霊力の低い俺でもしっかりと光って見えるんだ。霊力が強ければ、霊気が強いこの場所で物が見えないという事もないだろし」

 おや?

 もしかして、私が次期閻魔王という事に気が付いたわけじゃない?

「最初の方の死神の講義で聞く話だと思うんだけど、もしかして冬夜は死神にはなりたて?」

「あ、うん。そうなの。私、ド新人で」

 左鬼、ごめん。とんだ八つ当たりだったわ。

 そう心の中で呟きながら、うかつな事を言わなくてよかったとほっと息を吐く。あと少しその事実に気が付くのが遅かったら、たぶん自分からばらしていた。

 兄にも隠し事には向いていないと太鼓判を押されている身だ。もう少し慎重にならなければ。


「何処かに行く予定だったなら一緒に行くけど、どうする?」

「えっと。できたら、はぐれたツレに会いたいし、情報処理部に行きたいな。空太も行ったばかりみたいだから申し訳ないんだけど」

 本当は迷子センター的な場所があれば、そっちに行きたいけれど、ここはショッピングモールではないので、たぶんないだろう。

 となると、はぐれる寸前まで一緒にいた場所に一度戻るのが一番だ。その場に左鬼がいなくても、新井さんに助けを求めれば何とかなる気がする。赤鬼は泣いた赤鬼のモデルとなったぐらいだし、いいヒト、いや、いい鬼だと思うのだ。

「冬夜がそういうことになったのは、俺の所為でもあるから別にいいよ。本当なら移動場所まで一気に空間を繋げてあげたいけれど、俺の霊力だとあまり何度も使えないから、徒歩になってしまうんだ。ごめんね」

「ううん。十分。連れて行ってくれるだけ、ありがたいし」

 それにぶっちゃけ、急速落下移動はしたくないので、歩きの方がありがたい。

「じゃあ、行こうか」

 空太はそういうと、壁を触りながら歩き始めた。ふとそこで、空太は目が見えないんだっけと思い出す。ここでの生活には慣れているだろうけど、目が見えないのは大変だろう。

 なので私は右手で空太の手を掴んだ。

「今日は私が空太の目になってあげるよ」

「えっ。あ、あのっ?!」

「というか、案内させて欲しいかな。助けてもらってばかりじゃ、私も気が引けるし」


「そ、そういう事なら……。でも、女の子があんまりむやみに男にくっつくものじゃないからね」

「そう?なんか、空太って、古いっていうか、おじいちゃんみたいな考え方だねぇ」

 ちょっと焦り気味の空太に対して、すごく純粋なんだなぁと思う。左鬼なんて、まったくなんて事ない顔で私の両手を握ったのだ。しかもその直後の、紐なしバンジー。

 まあ、あの顔だし、女慣れしてるのかもしれない。……イケメンなんて爆発してしまえ。

「お、おじいちゃんか……。ああ、でも。もしかしたら、冬夜からしたらそうかも」

「そうって、無理に合わせなくてもいいよ。それから別に悪い意味で言ってるんじゃないからね。ただ、純粋だなって思ってさ。草食系男子ってやつ?私はいいと思うよ」

 強気に女慣れしてますって男よりは、話しやすくてありがたい。

 それに私のことを、女として扱ってくれるというのも好感度が高い。今までそんなことされた経験がないので、少し気恥ずかしいけれど。

「いや。本当に、冬夜もそういうこと言わないで」

「あ、照れた?照れた?わぁ、空太、可愛いっ!」

 自分が照れていることを悟らせないように、私は空太をからかって誤魔化す。実際空太は純朴といった雰囲気で、からかいだけではなく、本当に可愛い。

 クラスメートの男子とは一味違う、少し落ち着いた雰囲気もあるのでついついそれに甘えてしまう。


「からわかないでよ。可愛いとか、男に対する褒め方じゃないから。まったく。あ、十字路に出たら、右に曲がって」

「了解。でも残念だなぁ。私なら可愛いとか言われたら嬉しいんだけど。もちろん男前扱いされても嬉しいけどさ」

 ぶっちゃけ褒められるのは好きだ。私の場合は、絶対褒めて伸ばす方がいいタイプだと思う。好きなことなら集中力も高いし。そう考えると好きでもない仕事、特に閻魔王とかなったら、周りに迷惑をかけるだろう。うん。この手で断ってみようか。

 にしても、空太とはいい友達になれそうだ。

 今後の自分の身の振りがどうなるかは分からないけれど、できたらまた会いたい。

「そういえば冥界ってケイタイとかあるの?」

「ケイタイ?」

「携帯電話の事だけど、その反応をみるとなさそうか。携帯電話っていうのは、離れた相手と話が出来る機械で、まあ友達と連絡取るのに便利なんだよね。今後空太で遊びたいなって思った時になにか連絡手段があるといいなぁって思ったんだよね」

 別に携帯電話の能力は電話だけではないけれど、メールとかまで説明し始めたらややこしそうだったので、適当に省く。

「ああ。電話なら分かるよ。一応、通信機がそれに近いかな?でも、その分だとまだ持っていないんだよね」

「まあね。でも今は持っていないけど、そのうちなんとか出来たらなんとかするわ。その通信機って番号とかで連絡し合うの?」

「番号というか、霊体波長登録かな。だからこの場にそれがないと登録ができないんだよね」

「へぇ。残念」

 霊体波長とかよく分からないけど、とりあえずできないらしい。せっかく友達になれそうなのになぁと思うが、連絡がつかないのではどうにもならない。

「えっと良かったら、情報処理部の新井さんに声かけてくれれば、連絡は取れると思うんだ。俺は一定の場所にいないからアレだけど」

「あ、新井さんと友達なんだ」

「うん。付き合いは長いかな。だから、別に冬夜と連絡したくないから教えないとかじゃないから」

 ああ。そっか。額面通りの意味じゃなくて、そういう考え方もあるっけ。

 なんか空太と話していると、嘘をつかれる気がしなくてうっかりしてしまう。空太パワー恐るべし。

 

「あ、そろそろ左に曲がれるところがあると思うから、そこを左に曲がって」

「見えないのに良く分かるね」

 空太が言ってすぐに、曲がり角が出てきて、感心してしまう。

「歩幅から計算すると、これぐらいかなって」

「……もしかして、空太って、頭いい?」

 歩幅から計算って、意味が分からない。

 だって既に私は自分が何歩歩いたかも覚えていないのだ。ずっと喋っていた空太と条件は同じだろうに。

「そんな事はないよ。長年住んでいる慣れかな」

「安心して。私、目が見えても覚えれる自信がないから」

 もう少し視覚に差があればここを曲がるとか覚えられそうだけど、壁にある小さなイラストが時折さりげなく変わっているぐらいで、その他に違いがないのだ。無茶言うなといいたい。


「大丈夫。俺の知り合いのすごい方向音痴も覚えたし。それに、最悪空間を繋げて移動をすればいいだけだから」

 その移動法が一番ネックなんだけどね。もっと怖くない方法を作れないものだろうか。

「あ、次を左に折れて、さらに右の道に入って」

「了解……。ん?何この音」

 先ほどまで無音に近かったのに、何やら、カサカサという音がする。……なんだろう。この音は、嫌な予感しかしない。よく、洋画とかのグロ系で聞くような――。

「音?」

「ほら、このカサカ――」

 ふと、その原因を見つけてしまい、私は固まった。

 時間が止まってしまったのではないかと思うぐらい体が硬直し、その音を立てていたものと目が合う。いや、実際合ったのかどうか分からない。だって、その眼の数は、私とは違いいくつもあって――。

「い、い、い、いっ!」

 ザワザワと痛いぐらい鳥肌が立つ。


「い?」

「いやぁぁぁぁあぁあぁぁぁぁぁぁっ!!そ、それだけは駄目えぇぇぇぇぇっ。無理、無理、無理っ!!」

「冬夜、落ち着いて」

 これが落ち着いていられるか。

 だって私の膝ぐらいある、巨大な蜘蛛が目の前にいるのだ。しかも、何匹も!

 私は空太の手を引っ張って、蜘蛛がいない道を走った。

「ダメダメダメ。あれだけは、ダメなのっ!!絶対無理。私、食べられるっ!」

「えっ、だから、冬夜っ!話を――」

「無理ぃぃぃぃぃぃっ!!あの足だけは無理っ!!」

 私は本能の赴くままに、天敵から逃走を図るのだった。

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