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13話 弟子申し込みはじめました

「とにかくきっちりかっちり、説明してくれない?」

「もう説明したつもりなんですけど」

 イラッ。

 何が分からないのか良く分かりませんな態度に、正直ムカつきしか感じない。説明になっていないから、叫んだのよ、コンチクショウ!

 そう思うが、さっきから、左鬼がボケる、私が叫ぶの繰り返しで、全然話が進まない。とにかく今は大人になる時なのだ。落ち着け私。


「私は分かってないから、順番に説明して。まずは、さっきの血を私の手に擦り付けたのは何?」

「あれは、契約ですよ。僕が冬夜に従うというね。病める時も健やかなる時も、ずっと僕は冬夜の為に生きるんです」

「それ、結婚式のお決まり文句だから」

 冗談……じゃなさそうなのが怖い。正直、左鬼が何を考えているのか、さっぱり理解できない。

「ああ、結婚したようなものですから、気にしないで下さい」

「気にするわっ!!結婚は2人の同意の元って決まってるのよっ!!」

「ええ。もちろん結婚ではないですよ。僕は冬夜の2番目でも3番目でもいいのですから。ただ、冬夜が僕の中で1番というだけで」

「……誰かっ!通訳できる人呼んで!全然意味分かんないっ!!」

 何で私がいきなり悪女になっているんだ。2番とか3番とか、ちょっと待て。そもそも、私と左鬼の関係はそんなんじゃなかったはずだよね?!

「どうどう。ほら、冬夜ちゃんも落ち着いて」

 地蔵菩薩の言葉に、私は大きく深呼吸をした。

 確かに冷静になろうとした矢先に叫んでいたら、意味がない。にしても、精神力を鍛えられるわ。この先、左鬼にどれだけすっとぼけられても我慢できるようになれば、いつかは悟りが開けてしまうかもしれない。


「簡単に説明すれば、左鬼がやったのは主従の契約。主が呼べば従者がそこへ行けるようにラインを繋いだ状態よ」

「へぇ」

 呼んだら行けるって、本気で忠犬みたいだなぁ。まあ、でも。私がまた迷子になってしまう事を考えるとそれもありか――。

「私は従者側になった事はないけれど、名前を呼ばれたり、褒められているすると、通常の数倍恍惚感が得られて気持ちがいいと聞いたことが――」

「ちょ、何それ怖い。か、解約!解約しよう。何か絶対危険だって!恍惚感とか色々駄目でしょ」

 ない。ない。絶対ないっ!

 数倍の恍惚感と気持ちよさって、麻薬かという感じだ。自分自身の意思とは関係なく、そう感じるというのは絶対良くない。麻薬は1度でもやっちゃ駄目だって学校でも何度も言われたのだ。


「まあねぇ。でも痛みで縛るより効力は高いのよ。どんな生き物でも快楽には弱いから、どんどん従順になるのよね。主人側も名前呼ぶだけだから簡単だし」

「いやいや。余計駄目でしょ」

 確かに西遊記みたいに輪っかで頭を締め付けて従わせるとかもどうかと思うけど、麻薬みたいな作用で従わせるとかも、アウトの領域だ。

「大丈夫です。僕は元から冬夜の犬ですから。さほど変わりません」

「んなわけあるかっ!というか、もうおかしくなっちゃってるんじゃないの?!大体、私を生き返らせたいんでしょ?!そうしたら、こんな契約無意味じゃないの?」

 そもそも、いなくなる予定の人間と契約結んじゃっていいわけ?それとも私がいなくなれば自然消滅するかなんかで、一時的なら別にいいということ?

 ああもう。死神の考え方って理解できないっ!!

「ええ。冬夜には生き返ってもらいますよ。でも冬夜が生き返ったとしても、また死ぬまでずっと僕はちゃんと待っていますから。僕は待てもできる賢い犬です」

「待つな。マジで、解約しろ。大体、左鬼はなんで私なんかと契約――って、喜ぶな。頬を染めるなっ!!」

 むきぃぃぃぃ。

 私が怒っても、名前を呼ぶだけでご褒美状態のこの状況。マジで、勘弁して。名前を呼ばなきゃいいんだろうけど、ついつい呼んでしまう。

 

「ああ。喜ばせたくないなら、頭の中でカタカナとかローマ字で名前を呼んでいると思って呼べばいいわ。左鬼は左に鬼と書くのが真名だから、サキってカタカナで呼んでるんだと思って呼べば、反応されないわよ」

「そんなあっさりバラさないで下さいよ」

「地蔵菩薩様、ありがとうございます。サキ、バラさないじゃないわよ。アンタ、そんな事やってたら、終いには変態扱いされるわよ!」

 抜け道があって、本当に良かった。

 本当は解約してもらいたいが、呼ばなければ効力がないというのはありがたい。私は美形を膝まつかせて喜ぶよような趣味はない。

「別に変態と呼ばれてもいいです。僕は冬夜に首輪をつけても――」

「それで、どうして私と契約なんかするの?」

 これ以上、きわどい発言を言わせてたまるか。

 私は咄嗟に左鬼に質問をした。マジでこれ以上、残念イケメンにならないで欲しい。

「えーっと。ほら。冬夜が自分の身を挺して、悪霊に身を落とした少女を救おうとした事に感銘を受けたりなんかりしたような、しなかったような?」

「嘘でしょ、それ」

 したような、しなかったようなって、結局どっちだ。

 絶対、何かを誤魔化している。


「嘘ではないですよ。ただ、違う理由もあるというだけで」

「違う秘密って何?」

「それは、秘密です。黙秘権を行使します」

 秘密ってなんだ、この野郎。

 あれか?私が次期閻魔王だから、大人の事情があるとかそういう事か?……まあ、それに関してはどうでもいいけど。

 そこにどんな大人の事情があったとしても、現実的に今どうなのかの方が大切だ。

「分かった。とりあえず、理由は何でもいいから、解約して」

「嫌です」

 左鬼はにこりと邪気のない顔で微笑んだ。

「忠犬じゃなかったんかい!」

 美形だからって舐めんな。

「僕はとっても賢い忠犬ですけど、冬夜の為にならない事はしません」

「って、おい!私の為になるかかどうかは、私が決めるからっ!……とにかくよく考えて。今のままだと私みたいな小娘に、突然呼び出されて顎で使われるって事でしょ?例えば、ちょっとお茶入れてくれないとか、肩もんでくれないとか命令されちゃうかもしれないという事よ?いいの、それで」

「素敵ですね」

 駄目だこりゃ。

 とりあえず、解約の件は、また後に回そう。大人の事情というのは、根深そうだ。とにかくサキと呼べば特に問題があるわけではないのだし。


「じゃあ、次の質問。サキ、良くこの場所分かったね。どうやったの?」

 ここが三途の川だとすると、私は最初の場所からかなり離れてしまった事になる。普通なら、絶対分からないだろう。……これで匂いをたどりましたとか言われたらどうしよう。

 さっきまでの発言を思い返すとそんな言葉が出てきてもおかしくない現状が物悲しい。イケメンのはずなのになぁ。なんて残念。

「ああ。アラクネさんに協力を願ったんですよ」

「えっ?アラクネさん?」

 アラクネさんって、あのアラクネさんだよね。巨大蜘蛛の。

 思ってもいなかった名前に、私はキョトンとしてしまう。

「アラクネさんは、お子さんが多いですし、糸を使って遠くの場所の子供とも連絡が取れるんですよ。ほら、糸電話の要領です」

「糸電話?」

「音は空気の振動。逆に言えば、振動さえさせられれば伝わるんです。ですから彼女は冥界でもかなりの情報通ですよ」

 ……ははは。

 なるほど。ならあそこにアラクネさんがいたのは、偶然ではなかったのか。

 逃げてしまって悪かったとは思うが……、いろいろ私の事を調べ上げているならば、ちゃんと私が蜘蛛嫌いだという情報を事前に知っておいてほしかった。

「アラクネさんおかげで、再び僕たちは再会する事ができたんです。後で一緒に、お礼を言いに行きましょうね」

「あ……ああ。うん」

 アラクネさんと会うのか……。空太とも約束しちゃったしなぁ。

 人は外見じゃない。頑張れ私。


「えっと、後は……そうだ三途の川に落ちちゃった子は大丈夫なの?」

 というか、左鬼のトンでも発言などがなければ、真っ先に聞かなきゃいけないはずだった話だ。それどころじゃない話ばかりで、今まですぽ抜けてしまっていたけれど。

「ええ。冬夜のおかげで無事というか、より元気になりましたよ」

「そっか。良かった」

 目の前で水難事故をされて気にしないでいられるほど私は図太くない。

「でも、あんな無茶はもうしないで下さいね」

「そうよ。冬夜ちゃん。今回は上手くいったけれど、いつでもそうとは限らないんだから」

「分かってる。服着たまま川に飛び込むとか、危険だもんね」

 毎年、流された子を助けようとして、二次災害を引き起こす事件が起きていると、夏休み前は学校でもくどくど言われていた。いくら死んでいるからとはいえ、ちょっと軽率だったと思う。


「違うよ」

「あ、空太。さっきはありがとうね」

 声の方を向けば、さっきまで悪霊退治をしてくれていた空太がいた。そういえば、木田さんにもお礼を言わないといけないなぁと思い出す。

「左鬼様や地蔵菩薩様はそんな事を言ってるんじゃないから」

「へ?何が?」

 どうして、空太が怒っているのだろう。

 さっぱり分からない。

「何で、悪霊なんか助けたの?!」

「何でって。そりゃ、川に落ちたら、普通助けない?」

 飛び込んだのはちょっとやりすぎたかもとは思うけど。でも手元に浮き輪もなかったし。あったとしてもあの希薄な気配の女の子が、浮き輪掴んでくれる気がしないので、仕方がないと思う。

 それとも、私も何か空太達が使っているような魔法を使えとか?……いやいや、無理無理。普通の女子高生は、呪文を唱えてシャランラなんてやらない。

 そもそも魔法少女は、小学生とか中学生の役目だ。


「助ける必要なんてないだろ?さっき、冬夜だって襲われたじゃないか」

「何を、ムキになってるのか分かんないんだけど。でもさ、地蔵菩薩様が、えっとジョウカだっけ?まあ、良く分かんないけど、何かしたんでしょ?私が助けに行った時は、黒い靄もなかったし」

 ぞわぞわとか、そういうのもまったく感じなかった。

 だからたぶん、川に落ちた時のあの子は無害なんだろうなと思う。それに……あの川の中で体験した映像がもしも本当にあった事だとすると、すごく辛そうに感じた。

 飛び込んだあの時は分からなかったけれど、今思い返せば、あの子を独り寂しく川で漂わせずに済んで良かったと思っている。

「アイツは、勝手に不の感情を抱え込んで、自分から飛び込んだんじゃないか。あんなの助ける価値もない」

「えっ?自殺だったの?それなら、なおさら助けないと」

 死んでから、また自殺しようとするなんてよっぽどだ。

 そんな逃げるしかない現実しかないなんて、寂しすぎる。


「助けるじゃないだろ。自分のことだって守れないくせに」

「……それはそうだけど」

 確かに私は逃げてばかりで、守ってくれたのは、空太や木田さんだ。確かに、足を引っ張ってばかりだし、私自身失敗したなと思った。思ったけど、だから助けなくていいとか、納得できない。

「でも空太はあの子を助ける気なかったんでしょ?」

「当たり前だよ」

 そう。あの時、私以外は誰も、あの女の子を助けようとはしなかったじゃないか。

 まあそんなことを考える前に動いちゃったんだけどさ。確かに結果を見れば私まで溺れて何やってるんだという感じだし、空太も心配して怒ってくれているのかもしれない。

 でも――。

「だったら、私はあの子を見捨てない」

 だって、あの子は悪霊だったかもしれないけれど、ずっと助けを求めてたんだ。何も知らなかったなら仕方がないし、私だって自分がすべてを救ったりできるスペシャルなヒーローではないことぐらい分かっている。

 でも私は知ってしまった。

 

「もしも私が何もできないから駄目だっていうなら、できるようになるから」

 そう。できないから見捨てていいなんて、納得できない。納得できないなら、そんな現状を変えるしかない。

「地蔵菩薩様!」

「へ?私?」

 あの時誰が一番強かったのか。

 すべての盤上をひっくり返せたのは誰だったか。

「私も地蔵菩薩様みたいに強くなりたいです!色々教えて下さい!」

「えっ?!冬夜?!」


 私を生き返らせたがっている左鬼が素っ頓狂な声上げた。まあ、そうだよね。でも左鬼には悪いけど、こんな状態で引き下がったら、私は家族に合わせる顔がないのだ。

 というか、口だけなんて私自身が許せない。 

 私は私の為に、地蔵菩薩様に頭を下げ、弟子入りを申し出た。 

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