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3 「田村幸一の葛藤」

反応ないなぁ・・・つまんないかな・・・やっぱ第一話が酷すぎたかな?

「貰うもん貰って退散しましょう。」

境くんはさも愉快そうな笑顔で言う。この惨状に本気で愉悦を感じているようだ。何もかもが血まみれで、何もかもが赤黒く、何もかもが鉄臭く、私自身は吐き気を感じる。今更、と思う。この惨状を自ら作り上げておいて、何を言うと、心の奥の私が私を責める。わかっている。でも吐き気がする。そんな自分に安心する。まだ狂ってない。それだけでいい。

 背後から、人間の気配を感じる。青年に告げねばならない。

「誰かが来ます。」

青年に話しかけるときは、出来るだけ抑揚なく、棒読みになるように話す。この青年への贖罪を忘れていないと宣言するために。私がここに、贖罪のために存在することを、私自身に宣言するために。

「ふぅん。長居しすぎたかな。まぁひょっとして警察かもしれませんが、瞬殺しといてください。金目のもんは僕が集めますんで。」

境くんは奥へ行ってしまう。奥にもう人間がいないことだけ確認して扉に意識を向ける。まもなく、何者かが来る。

 扉が開き、そこから男が顔を出した。白いスーツを着た、中年の男性。一瞬で顔をゆがめ、躊躇しながら中に入ってくる。その後ろから、子分と思しき、若目の男性が入ってくる。気配からすると、とりあえず運の悪い闖入者はこの二人だけのようだ。部屋の壁に寄りかかった私に気づかず二人は中へ進む。致し方ないことだ。これだけの虐殺現場、目にしたことのある日本人はヤクザでもそうそういまい。どうしてもセンセーショナルな死体に目がいく。その上私は頭からつま先まで血糊でべっとりぬれて、この壁と同じ彩になっている。擬態というやつですね。闖入者の首を平べったい大きな刃物が切断するイメージをする。すると、音もなく二人の男性の頭と胴体は離れ離れになり、胴体から血がほとばしる。重力と関節の加減に従って、ふにゃ、ふにゃっと崩れる胴体を見る。心の中に不愉快を探し、それが見つかってほっとする。あぁ良かった。私はまともだ。それならいい。そうでありさえすれば。

 また、扉の方に気配を感じる。男性が一人、扉を開けて入ってきた。今度は警戒してなかなか入ってこない。部屋に入り込まれてすぐソファーの陰に隠れられてしまったので困ったが、相手の体が大きかったのが幸いし、少し尻の部分がはみ出ていた。その部分をきれいにそぎ落とすイメージをしたところ、悲鳴を上げて飛び上がったので、後の作業は簡単だった。最後の闖入者始末したところ、背後の窓に人の気配を感じた。誰か見ている。だが、今は窓から顔を出さない。窓をじっと見るが、どうにも顔を出さない。私の能力は人にしか通じない。私の能力はイメージ通りにあらゆることを実現する。しかし目に見えぬ人間に能力を行使するのは苦手だった。どうにもうまくイメージできない。今もどうにか壁の向こうにいるこの人物を真っ二つにしようとしているのだが、能力発動に至るほどイメージが固まらない。

「おぉ、やりましたねぇ。良かった。警察じゃないですね。こっちは片付きました。帰りましょう。」

窓の向こうにはまだ気配がある。この男、この事務所に属すならず者なら、今の男と同様に入り口から来たはずだ。窓から眺めている以上、第三者かもしれない。このような無関係のものをどうするかを境くんと取り決めてない。殺さない。私には殺せない。人殺しはいけないことだ。私にはその常識が息づいている。人を殺すようなことは出来るだけ避けるベクトルを私は備えている。そうだ、私はまともだ。

「うわっ」

「大人しくしててね、ぼっちゃん。悪いようにはしないからさ。」

窓の外の気配はいつの間にか入り口の扉の裏側に移動していた。思考に没頭しすぎた。気配は境くんを捕らえ、こちらに姿を見せない。私の能力は観察されてしまったのかもしれない。どうする。境くんに死なれたら、私は私は・・・どうなってしまうんだろう。


次回から後半です。

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