第七話 暴走
ギンリュウは記憶をさかのぼっていた、どんなに楽しい事があろうと嬉しい事があろうと絶対に忘れない一人の男の顔を……。
「な、なんで」
ギンリュウは怒りと驚きが両方の感情が入り交じっていた。
「三年ぶりかな?私の事は覚えているかい?」
残虐な笑みを浮かべる男の名、ギンリュウとミリアは一瞬たりとも忘れない、三年前、二人で脱走した研究所の中でも一番の功績を残した男だった。
「お前はガゾーマ!」
リエ達はわからなかった、この二人の間に何があったのかを・・・・・・。
「久しぶりね、ギンリュウ、ミリア」
ガゾーマの隣にいた女性がしゃべり出した。銀髪でギンリュウ達と同様に長髪だが後ろに束ねていた、顔つきはミリアを大人にした感じであった。
「姉さん……」
そう彼女こそがギンリュウとミリアの姉である、名前はナミア。
「ギンリュウとミリアのお姉さん?」
「ふ~ん、今回は五人で来たんだ。この前、見た二人がいないや」
今度は黒い髪で前髪で片目が隠れている少年が口を開いた、顔つきはギンリュウに似ていた。
「ショウ、お前まで」
「この前って何の事よ!」
リエはショウと呼ばれた少年に聞いた。
「お前らがヒトナキの森で僕のワイバーンを倒したでしょ?」
「そうか、あれはお前が……」
「そうだよ、僕はついに弱点を克服したワイバーンを作り出せたんだ。まぁ、ギン兄とミリア姉に倒されちゃったけどね」
ショウは肩をすくめた。
「今回の砂嵐はお前らがやった事か!」
アスカはガゾーマ達に向かって聞いた。
「そうだよ、大事な実験の邪魔はされたくなかったね」
「あなた達は何者なの?」
「“レックス”……」
リエは聞く、しかし答えたのはガゾーマではなくギンリュウだった。
「“レックス”?」
「そう、私達は古の魔法及び聖鬼神を研究している者だよ」
「古の魔法?」
リエは訓練生時代の時に聞いた事があった。大昔にあまりに強大すぎる力故に封印された魔法系統の事を。
「この前、ヒトナキの森で使ったでしょ?あれがそうです」
ミリアが少し強ばった声でリエに言った。
「あれって、確かに見た事もない魔法だったけど」
「そう、ギンリュウくん達、姉弟にはそれぞれ違う古の魔法を使えるのだよ」
「だから、俺たちは実験体にされてたんだよ」
「古の魔法の事はわかったわ、でも聖鬼神って」
ガゾーマはさらに残虐な笑みを浮かべ始めた。
「聖鬼神、それは古の魔法を扱う者達の事を言っているんだよ」
「僕たちは大昔に消えた聖鬼神一族の血を引く者なんだよ、まぁ、何が出るかはわからないけどね」
「俺たちにはそんなの関係なかった、なのに」
ギンリュウは怒りを込めて言った。
「そうそう、君たちの妹の事なんだけど」
「……!」
「彼女の魔法はもう少しで目覚める、見たいかい?妹の姿」
ガゾーマは字自分の後ろにあった大きなディスプレイにギンリュウ達の妹を写した、そこには……。
「うそ、でしょ?」
「こんな事って」
「……」
ミリアは絶句してしまった、カプセルの中で生命維持装置を付けられた妹の姿を……。
「彼女は四年前の事故から未だに意識は戻らないが、順調に回復しているよ」
「あ、あぁ……」
ギンリュウもまた絶句してしまった。
「まぁ、彼女は特殊だからじっくり研究したいがね……」
「……!」
ギンリュウは思い出した、四年前の事故、妹の暴走、自分の暴走……。
「あ、アァァァァァ!」
「なっ……!?」
ギンリュウは叫んだ、するとギンリュウの背中から黒い翼が出てきた。
「ギンリュウ!?」
「おい、どうしたんだよ!?」
ギンリュウは黒いオーラに包まれ、目が灰色から赤に変わり、髪も黒に変化していった。
「ま、まさか!?」
「ギンくん!」
ミリアとガゾーマは見た事があった、四年前に一度に二人の聖鬼神が自分の力が抑えきれなくなった時に暴走した姿を……。
「カエセ!ハルヲカエセェェェ!」
ギンリュウはガゾーマに向かって、グラビティ・レイを放った。
「くっ……」
「ガゾーマ様!」
ナミアはガゾーマに飛びつき、グラビティ・レイを避けた。レイはそのまま後ろのディスプレイを貫き消えた。
「え?今、唱えてなかったよね……」
リエ達は驚く、普通、魔法はその魔法の名前を言わなければその魔法は出ない、しかしギンリュウはグラビティ・レイの名前を言わずに出した。
「あれがギンくんの“古の魔法”、重力系」
ミリアはギンリュウの魔法系統の名前を言った。
「そして、今、ギンくんは邪神状態になっています」
「邪神状態?」
「はい、簡単に言えば暴走している……、きゃぁ!」
ギンリュウは周りが見えていないのかグラビティ・レイをそこら中に放つ、研究機材は破壊され、壁や天井に大きな穴が空く。
「ギンリュウ!やめなさい!」
「カエセ!カエセ!カゾクヲカエセー!」
「声が届いていない……?」
ギンリュウは手の中に重力のエネルギーをためている。
「あれは!みなさん、ここから離れて!」
「え、なに?」
「まずい!」
「ガアァァァァァァ!」
ギンリュウは重力の玉を空高く上げると、玉は弾け、そのまま雨のように降り注ぎリエ達を襲う。
「きゃぁぁぁ!」
「な、なんだ!?」
「きゃぁ!?」
「ナミア!」
重力の弾の一つがナミアの腕をかすめる。
「だ、大丈夫です……、それより」
ナミアは腕を押さえながらも立ち上がる。
「シネ!ガゾール!」
ギンリュウはまた新たなる魔法の準備していた。
「……!ここまですか……」
「ホーリー・クロス!」
「ミリア姉!」
その時、ギンリュウの背中に純白なクロスが当たる。
「ガァ、ア」
黒いオーラと翼は消え、髪も目も元に戻り、ギンリュウは元に戻った。
「うぅ……」
「ギンくん!」
「ギンリュウ!」
リエとミリアは倒れたギンリュウの元に向かう、ギンリュウの顔は赤くなっており苦しそうな顔をしていた。
「これは……枯渇病!?」
「邪神状態が解かれると、必ず枯渇病になるんです」
人間や魔族には魔法を使うために魔力がある、その魔力を尽きた事で高熱が発し、まともに立てなくなる状態を枯渇病と言う。
「まいりましたね、まさか、邪神状態になるなんて」
ガゾーマはナミアを抱き上げ、リエ達を方を向いた。
「ここの研究所はもうだめですね、一回本部に戻るとしますか」
「な、待て!」
「いつでも、オッケーだぜ、ガゾーマ様」
ショウはダンジャルと同じ宝石を手に持っていた。
「くそ!テレポをする気か!」
「待ちなさい、ガゾーマ!」
「リエと言ったね、君に二つ程言いたい事があるよ」
「何よ」
ガゾーマは今までの残虐な表情とは違い、真面目なのか悲しそうな顔をした。
「この先、ギンリュウくんとミリアくんを狙う者達が現れるのならば、気を付けてほしい」
「狙う者達?」
「そう、私はこう呼んでいる、戦乙女と」
「戦乙女?」
リエは聞いた事もない事、名前を聞かされた。
「そして、どうか彼をバケモノと呼ばないでほしい」
「……?」
ガゾーマが言った意味をリエはわからなかった。あんなの見せられて、誰もギンリュウをバケモノと思わない者はまず、いないだろう。
「彼だって望んでその力を手にしたわけではないのでね、恨まれるのは私だけで十分だよ」
ガゾーマはショウに合図を送り、ショウは魔法を唱えて、三人はどこかへ消えてしまった。
「……」
リエ達はなんかすっきりしなかった。ギンリュウやミリアに何があったのだろう、リエはそんな事を考えていた。
「とりあえず、砂嵐を起こした装置は壊された事だし、任務は完了、ギンリュウの事もありますから速やかに帰還するわよ」
こうして、リエ達はダンジャルのテレポでヘリの所に戻っていった。