第三話 最悪の初日
第十二部隊、通称“聖女部隊”。部隊の大半が女性という変わり種ではあるが全体的に実力の高い部隊であり、さらに隊員は色んな分野を得意とするため様々な任務をこなせる、適応力の高い部隊である。
(しかし、ここまで女性が多いとは・・・・・・)
「私がこの部隊の隊長を務める、リエ・マレンデカルよ、早速だけど自己紹介をしてもらえるかしら」
「第五十期卒業訓練生!ディネカル・アークソンです。よろしくお願いします!」
「同じく第五十期卒業訓練生、ミリア・スペイエルです。頑張ります!」
「第百期試験を合格いたしました。バーシュ・ガランフィルです」
「同じく第百期試験を合格しました!ギンリュウ・スペイエルです、今日からお世話になります」
「・・・・・・」
一通りの自己紹介をした後、リエからとんでもない言葉が出てきた。
「最初に言っておくけど、この宿舎の掃除、洗濯、庭掃除は男がやるから、その所、理解してね」
「「えぇーー!」
ギンリュウとディルは思わず絶叫した、まさか入隊初日でこんな事を言われるなんて思いも寄らなかったからだ。
「また、始まったか・・・・・・」
ルエは思わず手を顔に当て、苦い表情となった。
「何故、ですか?隊長殿」
「理由は単純よ、男が嫌いだから」
「待ってください、じゃあ、なんで男を入れているのですか?」
「“ガーディアン”の規定でね、どちらかが多くてもいいから男と女、人間と魔族を両方入れなきゃいけないのよ」
ギンリュウは納得のいかない顔をした、いくら男が嫌いだからってここまでする必要はないじゃないかと思っていた。その考えをリエは見破った。
「あら、なんか不満げな奴が一人いるようだけど」
「あぁ、なんか、むかつくんだよ」
ギンリュウは睨んだ、元々鋭い目つきがさらに鋭くなった感じであったが、リエもギンリュウを睨んだ。
「言っておくけど、この部隊の隊長は私よ」
「そうですね、だけど俺があんたの事を嫌いなのは別でしょ?」
リエは不機嫌な顔になった、今まで文句を言う人達はいたけれど、無理矢理、納得させてた。しかしギンリュウは本当に敵意というものを感じさせる程、睨んでいた。
「・・・・・・どうやら、私たちは気が合わないみたいね」
「そうみたいですね」
二人はまるで水と油、犬と猿、みたいに対極になっており。そして二人の間に誰も入り込めなくなってしまった。
「あ、あの、二人共その辺にしといたら・・・・・・」
「「ルエさんは黙ってください!」」
「わ、悪かった」
ルエはそそくさと後ろに下がった。
二人はお互いに睨み合い動かない、それを見ている人たちはどうしたらいいか悩んでいた。
「あ、あの二人、いつまでああしているんだ?」
「し、知らないわよ」
その時、二人の頭を拳骨で殴った者がいた。
「いた!」
「きゃ!」
「あんたら、いい加減にしないか、他の者が怯えきっているぞ」
すっかり重たい空気になってしまった雰囲気をうち破ったのバーシュだった。
「な、何するのよ、あなた!」
「何をするんですか、バーシュさん」
「まったく、入隊初日でこの雰囲気と先が思いやれる」
「邪魔を・・・・・・」
バーシュはかなり厳格のある目つきでリエを睨んだ。
「とにかく、二人とも今日の所はここまでにしてほしいが、依存はないな?」
「「はい・・・・・・」」
「じゃあ、新人は部屋を案内するから、来てくれ」
ギンリュウとリエはまたお互い睨み、そっぽを向いた。その場にいた全員がやれやれと肩をすくめ、ギンリュウ達はルエに部屋を案内してもらうため、会議室を出た。
第十二部隊宿舎 二階住居スペース
部隊によって違うが第十二部隊の場合、二階が住居スペース、一階が会議室や食堂など様々な理由で使われている多目的スペースとなっていた。
「まったく、いきなりケンカを売ってるんじゃないわよ、しかも隊長に」
「はん、本当にむかついたんだから、しょうがねーだろ」
ミリアはギンリュウの性格を良く知っている、冷静だけどケンカ早くって、なんでも口に出さないと気が済まない素直な性格、それがギンリュウだった。
「悪いな、でも隊長も本当は優しい人なんだ、許してやってくれ」
「まぁ、ルエさんが言うなら・・・・・・、でも俺はあいつの事、大嫌いですから」
「おおう、そこまで言うか」
ルエはギンリュウの強気な態度に苦笑をした。まさか、隊長であるリエに逆らう新人がいるとは思わなかったからだ。
「えっと、ここがギンリュウとディネカルの部屋、バーシュさんはロウガって奴と同じ部屋、ミリアは俺と一緒の部屋だ、よろしくな」
「はい!」
「よろしくな、ディル」
「はい、こちらこそ」
「ロウガ殿か・・・・・・、一体どんな人なんだろうな」
最悪な初日となってしまったがなんとかやっていこうとギンリュウは決めた。
ギンリュウとディルの部屋は十五畳の広さでベットは二つに机も二つ、大きめのタンスが一つと必要最低限の物が揃っていた。
「じゃあ、おやすみなさい、ギンリュウさん」
「あぁ、おやすみ」
夜、ディルは寝て、ギンリュウは窓から見える星空を見上げていた。
(・・・・・・ここからだ、待っててくれハル、必ず助けてやるからな・・・・・・)
ハルと言う名前を思い浮かべたギンリュウもそのままベットで寝た。