第二十話 協力と潜入
今回は前回より早めに更新ができました。
ディルは唖然としていた。まさか、ここが城の敷地内で、さらに目の前にいるのがこの国を王女なのだから。
「何故、バーシュがこの国を裏切ったかはわからん、だが、私にはわかる。バーシュはこの国を愛しているのだと。だからこそ、この国を出ていったのだと」
「ちょっと待って、正直、話についていけてないんだが……」
ディーンがそう言うと、メイドであるメルルが口を開いた。
「この国は今、このルーチェ様が治めています。しかし、実際はこの国の大臣が政治を行っており。近衛兵の間では、大臣のせいでこの国の治安や経済が悪化していると噂をしているのです」
「でもでも、この子が王女様なら口出しくらいはできるじゃないのかな?」
エーマが疑問を言うと、それもメルルが答えてくれた。
「確かにそうです。現在の王はルーチェ様、だから、この国の事を思わなければならければなりません」
「実際、我は近衛兵を使って、城下町の状況や近辺の情報を得ているぞ」
「でも、ナチュリコムにいた時の噂では、治安が悪くなっていく一方だって」
次はディルが疑問を言った。
「実は我らの意見は無視されているようなのじゃ」
「無視されている?」
「はい、大臣はルーチェ様の意見は批判して、自分の意見を無理矢理、肯定しているようです」
「ひどいですね」
メアルはひどくうなだれた。ディル達もそう思った。
「ですが、大臣は恐れているのです」
「恐れている?」
「はい、五年前に追い出したバーシュさんがこの国にいると言う報告を……」
「バーシュさんがここにいる!?」
ディルは驚いた。まさか、こんな国にバーシュがいるとは思ってもいなかった。しかし、次のメルルの一言でさらにディルは驚愕する事になる。
「それだけではなく、ギンリュウ・スペイエル、他三名の仲間と共にいるそうです」
「え……、えぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!??」
ディルは三度目の驚きの声を上げた。
一方、宿に泊まっていたギンリュウ達は意外な人物達と再会していた。
「まさか、君たちがこの宿に泊まっていたとはね」
「俺も驚いたよ、ガゾーマ」
そう、意外な人物とはガゾーマとナミアであった。ギンリュウ達が夕食を食べようと食堂に向かったらガゾーマ達がいたのだ。今、ナミアはリエとミリア、ルエの話し相手になっていた。バーシュはギンリュウの隣で黙って二人の話を聞いていた。
「なんで、この国に来たんだ?」
「もちろん、エーマを説得しにね。彼女は姉という理由で“バジリスク”に入ったはずだ。だが、多分もう、愛想尽かしているんじゃないかなと思ってね」
「まぁ、俺たちも一度、そのハーディアって奴と出会ったが、嫌な気配しか感じなかった」
ギンリュウは夕飯後のお茶を一口、飲んで、話を続けた。
「ハーディアは君も私も知らなかった存在だ。今までどこで研究をしていたか、わからない」
「エーマの姉さんはその事を話さなかったのか?」
「一度だけ、姉がいるという事は聞いたが、それっきりだ」
「確か、ディルはエーマの姉さんの所にいるんだよな。今、どこにいるか、わかるか?」
ギンリュウがその事を聞くと、ガゾーマは苦い顔をした。
「実は、だな。居場所は特定できたのだが……」
「「?」」
ギンリュウとバーシュは頭を傾げた。
「その居場所というのが、バゼルンド城の敷地内なのだ」
「「……はぁ?」」
二人は気の抜けた顔に思わずなってしまった。そして……。
「「はぁいーーーーーーーーーー!?」」
思わず、大声を出してしまった。
「ギンリュウ、うるさい!」
リエはギンリュウにだけ怒鳴った。
「なぜ、俺だけなんだ!?」
「それより、どういう事だ。城の防衛力はかなりのもの、そう、やすやすと入れるわけが……」
「あぁ、そう言うことか……」
ギンリュウは納得したような声を出した。
「ふむ、そう言うことだ」
「どういう事だ?」
バーシュはギンリュウに質問をした。すると今度はギンリュウが苦い顔をした。
「エーマの姉さんって人が、今、ディルと一緒にいるらしいんだけど。その人、強引かつ超絶方向音痴でな。何故、その道でここに出るのだってくらい、迷子の達人なんだ」
「……」
バーシュは呆れて物も言えなかった。
「それよりもどうする?やっぱり、城に侵入するのかい?」
「するに決まっている。姫の無事を確かめたいのだ……」
「だったら、この時だけ、お互い協力しないか?」
ガゾーマの言葉に反応したのはリエとナミアだった。
「なんで、あんた達と協力しなければならないのよ!」
「ガゾーマ様、私は反対です!ギンリュウとミリアだけならともかく……」
「いいんじゃないか?」
ギンリュウはガゾーマの提案に賛成した。ミリアとバーシュとルエはこくりと頷いた。
「ちょっと、ギンリュウ!こいつは敵なんじゃないの?」
「それはこっちのセリフよ!」
リエとナミアは相性が悪いと、この場にいた全員が確信した。
「じゃあさ、どうやって城に潜入するんだ?」
「「勝手に話を進めないでよ!!!」」
リエとナミアは反論したが、この後、ミリアにお仕置きという名の着せ替えさせられるとはまだ誰も知らない。
「実は、この宿と城の中庭は地下室で繋がっているのだ。俺が五年前、脱走した時に使ったから」
(脱走って、あんた、一体何をしたんだ!?)
部隊に入隊して、かなり経つが今ひとつ、わからない所がある。それがバーシュだ。
「じゃあ、明日だな」
「ふむ、ではそうしよう」
ギンリュウとガゾーマ達は明日、バゼルンド城に潜入する事を決めた。
バゼルンド城 大臣室
「ドーダ様、裏切りのバーシュについて新しい情報が入りました」
蝋燭一本で照らされた部屋に月夜を見ている老人がいた。この人物こそが悪名高い大臣、ドーダ・ゴゼルだった。
「ほう、話してみよ」
「ガーディアンの犬共から聞いた話ですが、どうやらバーシュは仲間を捜している模様で」
「仲間?」
「はい、この者です」
部下がそう言うと、まとめた資料をドーダに渡し、ドーダはそれを見た。
「ふむ、この小僧か。ん?」
「どうかなさいましたか?」
「なるほど、こいつは使えるな」
部下がわけわからない顔をしていると、ドーダは陰険な笑みを浮かべた。
「こいつは幻とされている職業、魔教師だ。こいつを取り入れれば、バーシュなど、怖くはない」
「なるほど、では早速」
「ふむ、すぐさま探させよ!ディネカル・オークソンを!」
だが、ドーダは知らなかった。まさか、その探しているディルがすでに近くにいる事を、そして、自分の悪事を王女から聞かされている事を……。
翌日、ギンリュウ達は宿の食堂室に集まっていた。が、リエとナミアは不機嫌な顔をした。
「隊長、いくらガゾーマと姉さんが嫌いだからって不機嫌になるなよ」
「ナミア、これは仕方ない事だ。協力すれば、それだけで会える確率は上がるのだ」
「さて、では開けるぞ」
バーシュと宿の旦那、バーゼンは床を剥がし始めた。すると、隠し通路が現れた。
「ここからなら、城に入れる。だが、五年前とは違い、警備兵がいるかもしれない。全員、注意してくれ」
「よし、入るか」
ギンリュウを先頭に地下通路に入る。ギンリュウ達はなんとかしてディル達に会ってやるっと心の中で決意をした。
最近、“ガーディアン”の仕事してなくね?っと思っています。