第十五話 ギンリュウとガゾーマ、二人の関係
今回のサブタイトル、若干長いよーな気がします。
ギンリュウ達が気が付いた時にはバスカルの村にいた。
どうやら、ハーディアの“テレポ・レインズ”は彼女のオリジナルの魔法で、それぞれ個別に別の場所を送る事ができるらしい、もちろん、ギンリュウ達は神殿の入り口にテレポされた。
それから二日後……。
第十二部隊宿舎 食堂
「しかし、ディルはどこに行ったんだ?」
村から戻ったギンリュウ達、しかし、そこにディルの姿はなかった。
「捜索はしているけど、今のところ、ディルの情報はないわね」
何故、ディルがいないのか、理由はわからなかった。
ギンリュウ達が気が付いた時にはすでにディルはいなかった。
「あのさ、可能性の一つとして、だけど……」
「なに?」
現在、宿舎にはギンリュウとリエ、アスカしかいない、他はディルを探すために動いていた。
「もしかしたらさ、ディル、あの戦乙女、メアルって言ってたっけ?あいつと一緒だったりして……」
「まさか……」
リエは苦笑した、いくら何でもそれはないだろうと思ったが……。
「でも、ありえなくないのはどうしてなの?」
「……ディルは天然だから」
「……」
二人は黙ってしまった、ディルならあり得なくなかった。
レックス本部 ガゾーマの研究室
「戦乙女が現れた、だと?」
ガゾーマは研究室で報告書を読みながら、聞き返した。
「はい、どうやらドゥアーク神殿に……」
「厄介な……」
ガゾーマは額を抑えた。
「しかし」
「?」
「零弐号、いや、今ではギンリュウでしたね、彼とエーマさんの所の戦乙女が止めたと……」
「そうか……、すまん、ありがとう、下がってくれ……」
「では……」
ガゾーマはもう一度、報告書を読み返した、送り主は“バジリクス”に潜り込ませているスパイからだった、そこには一人の少年を保護されたと言う近状報告があった。
「この名前は……?」
ガゾーマは聞き覚えのある名前があった、それはいつだったか、知り合いの魔教師が連れてきた少年。
「名前はなんだったか……、そう、ディネカル……」
偶然だろうか、しかし、確かめてみたくなった。
「さて、出かけるとするか……」
ガゾーマはサングラスに黒いコートを着て、“ゼローム”である人物にメールを送った。
「この行動が吉と出るか、凶と出るか……」
そして、ガゾーマは研究室を出た。
ディルがいなくなってから三日後 首都ベーゼル 喫茶店「ティロン」
ギンリュウはコーヒーがおいしいと有名な喫茶店でアイスコーヒーを飲みながら人を待った、隊長に用があると言って出てきたのだ。
「やぁ、零弐号……」
ギンリュウの元にサングラスを付けた男がやって来た。
「よう、零号」
「ずいぶん、懐かしい呼び方をしてくれるね……」
「てめぇもな」
サングラスをサングラス男の正体はガゾーマだった。
「さて、本題に入ろう」
ガゾーマは座り、ギンリュウに報告書を渡した。
「これは?」
「まぁ、じっくり見たまえ、アイスコーヒーを一つ」
ギンリュウはガゾーマから渡された報告書を見る内に驚愕な顔となった。
「マジかよ……」
「どうやら、当たりだったようだね」
ガゾーマはふっと笑った。
「それで、このエーマって言う研究者、どこかで……」
「君とミリア君の遊び相手になっていた研究者だよ、覚えていないかね」
「あぁ、エーマの姉さんか……、あの人は人間としても優しかったのに、なんで“バジリクス”に?」
ガゾーマは苦い顔をした。
「エーマは、君たちがドゥアーク神殿で出会ったハーディアの妹なんだ……」
「……そうか」
ギンリュウはそう言うと、後ろを振り向いた。
「隊長、いつまで隠れてるつもりですか?」
「うぐっ……」
「ふっ……、私は何もしないよ」
すると、陰からリエが出てきた。
「いつから気が付いたの?」
「最初は気が付かなかったがな、ここに来て気配を感じたから」
「……」
リエは不機嫌な顔をして、ギンリュウの隣に座った。
「だって、急に用があるって出かけるもん、暇だったし」
リエはだっだしの所をかなり強要して言った。
「で、一つ聞きたい事があるんだけど」
「何かね?」
「あなた達、敵じゃないの?」
もっともな質問だと思う、この二人は敵同士だと思われてもしょうがいないと思った。
「んー、ちょっと違うな、彼に条件付きで任務を任せたんだよ」
「任務?」
「ハーディアと言う奴を抹殺、それが俺に任せられた任務だ」
ギンリュウは少し暗い顔をして、言った。
「ハーディアって、ドゥアーク神殿で会った女性の事?」
ギンリュウは頷いた。
「三年前、ハーディアはその時までの聖鬼神の資料を盗み、我々を欺いて“レックス”を抜け出した」
「何故?」
「私が研究者となり、ギンリュウ君達を保護したからさ」
「どういう事?」
「実はガゾーマは元々は研究者じゃなかったんだ」
「え?」
リエは驚く、ガゾーマが最初から研究者でない事に……。
「私も聖鬼神、世界で初めて発見された聖鬼神なのさ」
「……!」
リエは思わず、立ち上がった。
「系統は隕石系、実験番号は零、ギンリュウ君とは血の繋がっていない兄弟と言ってもいいな」
「お前に兄弟って言われたかねーよ」
「ちょっと、待ってよ、あなたが聖鬼神なら、なんで研究者なんかに!?」
「私は別にどうでも良かった、しかし、ギンリュウ君達が来てから考えが変わったんだよ」
「……」
リエは再び座った。
「で、ギンリュウが出した条件って?」
「俺とミリア以外の姉弟はまだ“レックス”にいる、だから研究所から連れ出して一緒に住ませる、それが条件さ」
ギンリュウがそう言うと、残りのアイスコーヒーを飲み干した。
「……でさ、ディネカルの事なんだけど」
リエはこれ以上深く突っ込むのを辞めて話題を変えた。
「ディルはエーマ・ガマルと言う研究員の所にいる」
「エーマ?」
「エーマは元“レックス”の研究員でね、研究者としても人間としても信頼できる、安心していいよ」
「そう……」
リエは安心したのか、椅子に寄りかかった。
「で、そのエーマって奴はどこにいるのよ」
「それが……」
「そこが問題なんだよ」
ギンリュウとガゾーマはため息をついた。
「えっと、どういう事?」
「「エーマ(の姉さん)は放浪癖があるんだよ」」
「つまり……」
「「どこにいるか、まったく不明」」」
「うわ~」
三人はそのまま黙ってしまった。
???
暗い暗い部屋に唯一の光は医療用のカプセルだけだった。
「マリンの様子はどう?」
「いったて正常です、もう少しで完治します」
「そう……」
白衣をまとい、どこか冷たい感じがする顔立ち、暗い藍色をした長髪、それがハーディアだった。
「エーマは?」
「連絡はありません……」
「あのバカ妹が……」
ハーディアはコーヒーを飲みながら、近くにあった椅子に座った。
「零弐号、それと零号、あの二人が最大の障害ね……」
「戦乙女、マリン様、完治いたしました」
「……わかったわ、回復液を無くして、カプセルを開きなさい」
「わかりました」
研究員が機械を操作するとカプセル内に満たされていた回復液は無くなり、カプセルの半分が倒れるように開く。
「う……あ……」
「すぐに……」
「はい」
何人かの研究員はマリンを支える。
「マリン……」
「……お姉さま?」
「大丈夫?」
ハーディアはマリンに優しく微笑む。
「申し訳ございません、まさか、ディーンに邪魔をされるとは……」
マリンは嫉妬深い顔をした。
「しょうがないわ、ディーンは親友を大切にする愚弄だもの」
ハーディアはその優しい微笑みに加え冷たい笑顔になった。
「今日はゆっくりと休みなさい、マリン」
「……」
マリンは黙ったまま部屋を出た、ハーディアはそのまま残りデータを見た。
「零弐号……!私はあなたを許さない、絶対に絶対に潰してやる」
ハーディアはギンリュウの顔写真にナイフを突き立てた。
「見てなさい、絶対に最強の力を手に入れてやる!」
その時のハーディアの顔は、人間の怒りではなく、あまりに恐怖を感じる微笑みだった。
次で第二章は終わります。