8.鈴城紫苑 三姉妹会議
今日は叔母ちゃんのお手伝い・二十九日目でした。
鈴城紫苑は国府田未紀お姉ちゃんと一緒に金庫番をしていて、そこは冷房が効いていて、気づけば少し寝てしまいました。皆さんごめんなさい。
未紀お姉ちゃんも寝ていたそうで、相庭梨華お姉ちゃんに「でこぴん」を、姫風ちゃんに「じゃいあんとすいんぐ」と言う技を使われて可哀想なことになっていました。
途中で、優哉が割って入らなければ、大惨事になっていた、と鳳祐介お兄ちゃんが溜め息をついていました。
そうです。お兄ちゃんと言えば、この一ヶ月間、しぃは幸せです。
会いたくて声が聞きたくて温もりを感じたくて抱き締めて欲しくて求めて求めて求めて止まなかったお兄ちゃんが、一年と半年ぶりに、しぃの目の前に居る現実。
名前を呼んでぎゅってして貰えるだけで幸せです。
お兄ちゃん大好き。
午後の八時頃、お兄ちゃんの部屋から戻ってきた姫風ちゃんが、しぃと椿ちゃんを呼び寄せてこう告げました。
「会議を開く」
「え?」とつぅちゃん。
「なになに?」
ひぃちゃんが宣言します。
「第八〇七一回 鈴城優哉ラブ会議」
「あれ? 前は八〇〇二回じゃなかったかな?」
「椿は必要ないから呼ばむぐっ」
しぃは急いでひぃちゃんの口を塞ぎました。
「つぅちゃんは六十九回席を外してたんだよ!」
「そうか、それなら仕方ないな」
波風を立てたくないから言わないけど、六十九回も声をかけてもらえなかったら不自然だって気付こうよつぅちゃん……。
次の日は叔母ちゃんのお手伝い最終日でした。
しぃは相庭梨華お姉ちゃん、国府田未紀お姉ちゃんと一緒に遊具の貸出しを担当させてもらいました。
そこは冷房が効いていましたが、今日は頑張って寝ませんでした。あとでお兄ちゃんが誉めてくれて嬉しかったです。
けれど、今日も未紀お姉ちゃんは寝ていたそうで、居眠りを発見された相庭梨華お姉ちゃんに「あいあんくろー」を、姫風ちゃんに「ふらんけんしゅたいなー」と言う技を使われて、可哀想なことになっていました。
途中で、お兄ちゃんが割って入らなければ、大惨事になっていた、と坂本寛貴お兄ちゃんが冷や汗を流しながら言ってました。
現在は深夜です。時計盤は《02:34》を示しています。
人の気配を感じて目を覚ますと、そこに居たのは姫風ちゃん。
外出から戻ってきたひぃちゃんの無表情は、出て行った時と打って変わって、珍しく翳っていました。
「ひぃちゃんどうしたの?」
窓際に腰かけたひぃちゃんは、夜空に浮かぶ月を眺め始めました。
「最近ゆうが優しすぎる」
「それ良いことだと思うよ?」
しぃは優しいお兄ちゃんが大好きです。
「ふふ、姫風はいつもゆうやのことばかりだね」
目を覚ました椿ちゃんが、ゆらりと立ち上がり、演技めいた感じで、フッと笑います。
「姫風?」
つぅちゃんを無視したひぃちゃんは、夜空を見上げ続けます。
「姫風」
窓際へ近寄ったつぅちゃんが、嘆息混じりにひぃちゃんの横顔を見下ろします。
「十年ほど前から私の扱いが酷いが、それはゆうやのせいではないよね?」
ひぃちゃんはつぅちゃんを一瞥して鼻で嗤い、視線を空に浮かぶ月へ戻します。
「……当たりか。酷いじゃないか姫風。もっと私の相手もするべきだ」
ひぃちゃんは、またつぅちゃんを無視しました。
ひぃちゃんを溺愛するつぅちゃんが、少し涙ぐんでくすんと鼻を鳴らします。
つぅちゃんのひぃちゃんに対する免疫力はゼロで、打たれ弱さは天下一品です。
「紫苑」とひぃちゃんがしぃを呼びます。
「私は?」とつぅちゃんか自分に指を差しています。
コソコソと一分ほど内緒話。
「えっと、つまり、しぃとひぃちゃんで、お兄ちゃんを共有するの?」
「最終的にはそうなる。私が信じられるのはゆうだけ。ゆうが心を許しているのは私と紫苑だけ」
「私はっ!?」
ひぃちゃんはつぅちゃんを一瞥して、また鼻で嗤いました。
つぅちゃんは泣き崩れました。




