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7.新海沙雪  嫉妬の嵐


 時は夏休み。

 今はバイト二日目の夜十時。

 リビングにて、偶々たまたまわたしと優哉くんは二人きりになり、わたしが優哉くんに対して、話しかけるタイミングをドキドキしながらうかがっていたところ、鈴城紫苑しぃちゃんこと優哉くんの妹さんが現れた。

 テーブルを挟んだわたしの対面で胡座(あぐら)をかいていた優哉くんの膝の上に、妹さんが自然と腰を下ろした。

 ついで妹さんはポソポソとか細い声音で優哉くんにこうささやく。

「……お兄ちゃん、しぃアップルパイが食べたい」

 膝の上の妹さんに戸惑うことがない優哉くんは、テーブルに置いてある皿からパイ生地を一切れとると、

「しぃちゃん、あ〜んは?」

 もたれかかる妹さんの口元に差し出した。

「……あ〜ん」

 微かに頬を染めた妹さんが、アップルパイを小さくついばんでもぐもぐゴクン。

 座位置の関係で、優哉くんと視線の位置が同じとなった妹さんが、次を望むように薄紅色の唇を開いた。

「しぃちゃん、あ〜んは?」

「……あ〜ん」

 鈴城姫風さんといい、妹さんといい、兄妹で必要以上にベタベタするのは羨ましいので本当にやめて欲しい。

 仲睦なかむつまじい兄妹の姿に、ちょっとイライラするわたし。

「……す、鈴城くん、ちょっとそれはオカシイと思う」

「「?」」

 優哉くんと妹さんが顔を見合せる。

「どこが?」

 適齢期を過ぎた二人の兄妹には理解ができないようだ。

「どこがって、その状態が、だよ」

「「?」」

 優哉くんと妹さんが顔を見合せる。

「普通だよね?」

「……うん」

 なにがオカシイの? とばかりに純粋な四つのひとみがわたしを射抜いた。

 たじろいていたわたしは、それでも言葉を選びながら、どうにかこうにか指摘する。

「十代も半ばを過ぎれば、兄妹同士で、べ、ベタベタくっつかないモノだと思うよ、普通は」

 わたしは嫉妬四割、羨望五割、呆然一割の意味合いを言葉の内に含ませた。

 この二人は自分達が異常に仲の良い兄妹だとまるで自覚がないらしい。

「「?」」

 優哉くんと妹さんがユニゾンさせる。

「なにその反応!? まるでわたしがオカシイ人みたいだよ!?」

「「え?」」

 優哉くんと妹さんが声音をユニゾンさせる。

「んいいいいいいいいいいっ!!」

 わたし絶叫。

「落ち着いて新海さん」と優哉くん。

「仲が良い事は善い事だと思うよ?」

 優哉くんが微笑みながらわたしを見つめる。

 優哉くん、もっとわたしを見て。わたしだけを見て。

「……お兄ちゃん、大好き」

 優哉くんにもたれかかっていた妹さんが、ヒシッと優哉くんに抱き付いた。

「僕もしぃちゃんが大好きだよ」

 抱き付いてくる妹さんの頭を優哉くんがよしよしとでる。

 されるがまま、気持ち良さそうに目を細める妹さん。

 この子、優哉くんのことが大好きなんだろうなぁ。

 一つ一つの行動に悪気がない分、鈴城姫風さんよりも強敵かも知れない。

「……お兄ちゃん、もっとぎゅってして欲しい」

「しぃちゃんぎゅっ」

 ……んいいいいいいい。


 ギリギリギりと、わたしの歯軋はぎしりは止まらない。




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