息を吹き返すが焼け死ぬ恐怖を見る
時は昭和中期 まだ土葬も有ったりする時代です。
自分はこの村の火葬場で働いてます。
自分の仕事はご遺体の入った棺桶を焼却炉に入れて、火をつけること。そして、焼き終わる迄見届けて冷めるのを待つことです。
他人から見れば、なんとも不気味な仕事ではありましょうが、人の最期を見届ける大切な仕事でもあります。
とは言っても、山の中腹にある火葬場はとても寂しい場所です。
廻りは山の木と古い墓場。
焼き場の仕事をしたがる者は中々おりますまい。
やはり怖さが1番に来て、しかも安月給とくれば、誰もがやりたくはないでしょう。
かく言う自分も進んでやっている訳では無いのです。やる人間がおらず、され度、誰かがやらねば故人を送ることが出来ずに体は朽ち果てて逝く。
誰かに感謝して貰える訳でも無いそんな仕事。
ただ一人で人間の終焉と向き合う毎日。
この仕事の本当に恐ろしいはじまりは、夜中まで業務が続いてしまう時です。
………
―流れとしては―
この火葬場の焼却炉は二ヵ所、要は二体の御遺体のみ焼却出来ると言うことです。
焼却炉の重く分厚い扉を開けお運び台を施設の入り口に移動させておく。御葬儀が済んでお見送りの方々が霊柩車、あるいはリヤカー等で到着、皆さんの手でお運び台の上に棺桶を乗せ手続き、焼却炉の前に移動させます。そして最後のお別れをし皆で合掌、皆さんで焼却炉の鉄板の上を滑らせるように中に押し入れていきます。
扉を閉じご遺族に礼を済ませ炉の裏手に廻ります。
ここからは時間がかかるためお帰りになる方が多いです。夜を挟むときは骨上げが明日朝に為るため全員が一旦お帰りになる事がほとんどです。
こうなれば焼き場の棟には自分一人になります。
この焼却炉に係わるのは自分の仕事の範囲です。
これは本当に恐ろしいし怖いです。
炉の裏手は昼間でもほの暗く暗闇の方を見るのは勇気がいるものです。裏手の小さめな小窓から見ながらボイラーのスイッチを押して火がついたことを確認、ドキドキする。
焼却中はその場にと止まり用がない限りは座っています。読者家であれば本でも読むのでしょうが生憎本には無縁、うとうとしながら火に異常がないか見ているだけ。
それでも昼間はまだまし、夜の恐怖は言葉では表現が難しいですね。
酒の席なんかじゃ楽な仕事だなと言う者もいますが「それなら代わってやるよ。」
と言えば「いやいや そんなつもりはないさ。」と逃げる
「なら最初から言うな。」と。
学生の頃度胸試しをしようってなったときに
墓場が見えた瞬間 わーって大声だして真っ先に逃げ出した
村一番の臆病で怖がり家だが、皆でいるときは何故かおおへいで絶えず威張りんぼう。暗いところが苦手な奴だ。
そういう集まりの時には何度かせっかれて火葬場であった不思議な恐怖体験を話して聞かせています。
………
あぁ話して聞かせよう。
あそこの火葬場はもう随分古いから怨念とかそんなものが
渦巻いていそうで恐ろしいぞ。墓場は火の玉が飛んでるしな。あぁ火の玉はりんりんと輝いてるんだそしてスーッと移動してくんだ。それこそ魂が燃えてるように燃え尽くす迄輝いてやるぞとな。
、、、、、
棺桶に火を着けるとな、 一気に火が吹き出す。いつもここで ー"うああ!!!"ー
と心臓がバクバクするんだ。(今のように凄まじい火力とまではいかないと思う)
棺桶に火が着くのを確認、ちゃんと火がついたかじっと観察だ。普段はな、遺体が燃えていく時には恐ろしくて見ていられなくなるんだ。チラチラ見ながら南無三と言ってるんだけどな。
燃えていく様を見続けるのは どうしても何度経験しても慣れることはないさ。ちゃんと焼けていく様を最後まで見ていなければいけないのはなかなか勇気や根性がいると思うぞ。
「今日は穏やかに焼けてくれ、目を覚ますな、起き上がらないでくれよ。」 ナンマンダナンマンダ
ついつい声が出る。何時もの慣れ親しんだお経を口ずさみながら見続ける。
慣れたんじゃないのか?って。まさか、慣れるはずないだろ。
普段はまだいいさ、
あぁその日はいつもとなんか違う、
そう感じた時だったよ!
遺体がな、遺体が起きあがったんだ。火だるまになりながら 叫んでるんだ。うわぁー熱い熱い助けてくれ!ってな。
そう言ってるように聴こえるんだ。
ぼうぼう燃えてる中で熱さで生き返ったんだぞ。
どうすりゃいいんだ。あぁ恐ろしいなんて言葉じゃいい表せないよ。
時間にしたら短いと思うがそりゃ見てらんないぞ。
確かに死んだはずの遺体が熱さで目覚めるんだ。
俺は生き返った人間を助けることも出来ずに恐ろしさで震えるだけさ。それが知り合いだったらそれこそトラウマもんだ。
助けてやりたくてもダメなんだ、今更火を止めても
無理だ。熱さで喉が焼け体も焼けていくんだから
じきに倒れて皮膚は無くなり骨が見えるさ。
一瞬なのか五分十分なのか?何も考えられず
頭の中は恐怖不安 そして
罪悪感だ。
焼き始めたら何があっても焼き続ける事、
それも決め事だ。
毎晩夢に見てしまうんだ。
真っ赤な火柱の中に人がいるんだよなぁ、
可哀想だよなぁ。
どうする事も出来ない。
病気なのか事故なのか?おそらく穏やかに亡くなったなんて少数だと思う。病人はみんな死にたく無い死にたく無いと思い考えながら自分の死を待ってる
んだ。あぁ俺の親父もそうだったな。
俺らは見送るだけだ。だが
それが原因で辞めてく奴も居るのを止める事なんか出来やしないさ。
ああ俺はこれが三度目だ。一度は体が熱で跳ねただけだったがそれでももう心臓が爆発しそうだったぞ。
言葉にできないくらいの恐怖さ。
足ががくがくで暫くは動けなかったさ。
「そんなことがホントにあるもんか。」
そうだな、信じられないさな。
まあいいさ!信じようが信じまいが勝手さ。
好きにするといい。
終わったら冷めるまで見てるんだけど
もうここからはわりとのんびりできるんだ。
俺は報告しなくちゃならん。事務所に報告だ。
暫くは事務所で待機させてもらうんだ。
まだまだ神経が高ぶってるから戻るのが恐ろしい。
事務員もわかってるから茶を淹れてくれる。
朝日が昇ってくれば落ち着いて来るから不思議だよ。
実は事務員も体験者だったりするんだ。
滅多にあることじゃ無いけどな。
これが俺が体験した恐怖の話さ。
どうだった、恐ろしいだろ!
もうこんな経験はしたくないさね!




