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熟成ネタ

作者: 押口恭子
掲載日:2026/02/10

 幼馴染というのは時に有難く、時に鬱陶しいものだと思う。失恋したタイミングを、どんな絡繰りかは分からないがいつもこいつは警察犬よろしく嗅ぎ付ける。そうして「そろそろだろ?」と自分の店に誘ってくれるのだ。



「会社のね、先輩なの」甘エビを口に放り込む。とろける程に美味しい。「告ろうとしたわけ、来週先輩の誕生日だし、一緒に過ごせたらなぁって。したらさぁ、今日の朝礼で結婚報告よ。玉砕なわけよ――どうしてこのタイミングで玉? オヤジか」


「お前が『玉砕』って言った瞬間に偶然玉子が出来上がっただけだ。狙ってるわけじゃない」「いーや! 玉もそうだし店に誘うのもタイミングばっちりだし、あれでしょ、絶対心が読めるんでしょ。プライバシーの侵害だわ」

「お前のプライバシーにもプライベートにも興味ない」

「ひっどい! 寿司馬鹿もここまで極まればご立派だわ」

「その寿司馬鹿の店に、毎度律儀に失恋報告しに来るお前も相当ご立派だよ」



 店じまいされた空間に二人だけ。こいつが父親の店を継いでからだから、かれこれ8年この習慣は続いてることになる。滅多に会えないから口実代わりも兼ねて失恋してるんだと知ったら、一体何て言うんだろう。心が読めない男で本当に助かった。



「どーせ私生活に興味を持たれない程度の人間ですよ、ったく。お勘定!」「今回は早いな」

「明日から出張なの。入社した時指導してくれた先輩なんだけど、遅刻にうるさくってね」



 勘定を終えて店の外に出れば冬の風。ご馳走様と告げた声が思わず震えた。



「……勘違いしてるみたいだけど」



 振り返るが、店の明かりで逆光になった男の表情は良く見えない。



「俺なしのお前の私生活には興味がないってだけで、そこに俺の存在があるなら別ってことだ」


「え?」

「おやすみ。気を付けて行けよ」



 ぴしゃりと鼻先で引き戸が閉まった。影が頭を掻くのが見える。



「……8年早く言えっての」



 緩む頬もそのままに、店の裏口へ足を向けた。

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