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シャバの空気はうまかった

 収容三日目。そして出所の日でもあった。

 天気は快晴、出所するのに最適だ。監獄とシャバを隔てる関門をくぐり抜ける。


「また来てくださいね、魔剣様! ムアトさん」


 四天王筆頭が声を張り上げて見送る。来るわけないだろ犯罪者が。


「モーネに伝えておいてくれ。『すぐ戻る』ってな」


 親父がサムズアップしながら口を開く。かっこつけるな犯罪者が。


「三日間と短いバカンスじゃったな」

「バカンス気分かよ」


 隣で魔剣が背伸びしながらそんなことを言う。俺はひやひやしたぞ。処刑なんて、権力者に冗談でも言われたくない言葉トップスリーに入る。


 むさくるしい男たちの言葉を背中に受けながら、俺たちは街中へと戻っていった。





「それにしても、聖剣は何してるんだ?」


 俺たちが牢屋に入れられた初日、聖剣は助けるために動いていると魔剣が言っていた。しかし、その後音沙汰はない。今こうしてシャバに出てこれているのは、母さんの恐ろしい力によるものなんだ。


「まぁ白いのは少し頭が弱くてな」


 魔剣がこめかみを抑えながら溜息を吐く。そうか、バカな子なのか。


 そんなこと会話をしていると、久しぶりに見慣れた街に戻って来た。監獄はこの街から少し離れた森の中に存在しているため、歩いて街に戻ることが可能だった。


「安いよ安いよー!」

 八百屋の店主が客引きをしている。


「募金のご協力お願いします!」

 ボランティアの人の掛け声が聞こえる。


「できたてほやほやだよ!」

 きっと揚げ物屋の声だろう。


「ここの城主は不当逮捕をしているわ! 皆で革命を起こす時よ!」


 革命家の扇動も響いている。女の声で、子守歌に最適な声色だ。


 ……


「おい、何やってんだよ」


「いいところに来たわねお兄さん! ここに署名するだけで助かる命がある……あれ、ムアト! 出てこれたのね!」


 紙とペンを渡そうとした聖剣が俺だと気づいて声を上げる。何の署名だよ。署名で助けようとせずに、聖なる力とかなんとかで助けてくれよ。


「お前、俺たちが釈放されるために何かしてたんじゃないのか?」


「そうよ! だからここにいる革命家たちの手伝いをしていたの。ここの人たち曰く、ここの城主は悪徳の限りを尽くしているそうよ!」


「革命家ならそう言うだろ」


「ほらな、頭が弱いんじゃ」


「あ、黒いのも出てきたのね。なーんだ、なら私この革命軍抜けるわ」


 ペンと紙を近くの人に押し付け、その場を離れる。


「待ってください聖剣様! あんたは人を救済することを使命としているのではないのですか!?」


「人の子よ、自らの足で試練を乗り越えてこその人生よ! 幸あれ子らよ」


 いいのかそれで。聖の字が泣いてる気がしないでもない。


「監獄はどうだった?」

「悪人だらけじゃった」

「正義の心を持った人はいなかったの?」

「監獄じゃしな」


 俺の両隣でのんびりと会話を始める聖剣と魔剣。とりあえず二人……二本揃った。色々説明したいし、休みたいし、家に帰るとするか。





 俺の家は大通りに面したところにある。しかも、単なる家ではなく、両親がパン屋を営んでいるため店兼家だ。パンの匂いをかぐことにより、帰って来たと実感する。


「美味しいパンができたてですよ」


 妹メルルが店の外で呼び込みをしている。そうか親父いないしな、手伝いしてるのか。


「メルル」

「……お兄ちゃん」

「ただいま」


 軽く手を上げながらメルルに声をかける。こちらに気づいたメルルが数秒俺を見つめ、俺に近づいてくる。出所した兄貴との再会だ、ハグでもしてやろう。しょうがない妹——


「ぐぼっ!」


「何手を広げるんですか? ハグでもすると? バカなお兄ちゃんです」


 俺の鳩尾をぶん殴ってきた。苦悶。


「それで、あなたたちは誰ですか?」


 俺をよそにメルルは聖剣と魔剣に声をかけた。もっとお兄ちゃんを大事にしてくれ。


「聖剣よ!」

「魔剣じゃ」


「……お母さーん! お兄ちゃんが変な女連れてきました! しかも二人!」


 店の前でそんなこと叫ぶんじゃない。『あのパン屋の息子変な女引っかけてきたんですって。しかも二人』とか噂されちゃうでしょ。登下校時に変な目で見られるでしょ。


「こらメルル、そんなこと言っちゃダメでしょ。申し訳ありません、聖剣セラナ様、魔剣マレシア様。どうぞおあがりください」


 店の中から母さんが出てきて丁寧に腰を折る。そういえばそんな名前してたな二人とも。


「ありがとう!」

「うむうむ」


 聖剣セラナと魔剣マレシアは母さんの言葉に頷き、家に上がる。


「ムアト、おかえり。手を洗ったら居間に来てくださいね」


 さらりと俺に声をかけて家に戻っていく。誰か体の心配をしてくれよ……俺、地面でうずくまっているんだぜ?


 何とか気を奮い立たせて立ち上がり、手を洗う。そして言われた通り居間に入る。


「セラナさんって何してきたんですか?」


「そうね、復讐に燃える男を手助けして一国を滅ぼしたりしたわ!」


「千年ほど前の“聖なる行進”ですね。マレシア様は当時、種族戦争に巻き込まれていたと伝えられていますが」


「良く知っておるの。まさに種と種の存亡をかけた戦いじゃった」


 きゃぴきゃぴしてるかと思ったら、予想以上に血なまぐさい話してた。もっと女子会みたいにしなよ……最近のおしゃれ事情とかさ……いや、子供に人妻、後は無機物しかいないのか。なら無理か。


「あぁムアト、来たのね。そこに座って」


 母に促され席に座る。やはり自宅はいいな、ずいぶんと落ち着く。もうだらけ気分だ。


「セラナ様とマレシア様にどうしてもお聞きしたいことがございます」


 母さんがとても真剣な声色で話し始めた。だらけた姿勢で聞いていい話ですか?


「息子の命に関わりますので」


 すぐに背筋を伸ばした。まさか処刑を回避したすぐ後に命に関わる話がされるとは。だらけた姿勢で聞いてダメな話ですね。


「セラナ様やマレシア様に使い手として選ばれた人物たちは皆、偉業を成してきたことで知られています。……息子にもそんな運命があるのでしょうか?」


 母さんがじっと聖剣セラナと魔剣マレシアを見つめて答えを待つ。


 確かに、“聖剣”や“魔剣”という言葉は物語にも出てくるほど有名だ。だいたいが何かを救う、何かを壊すために使われてきた。

 この物語みたいなことが俺にも起きるということか?


「いや、正確には違うの」


 セラナが、テーブルに置いてある茶を飲んだ後そう言った。


「私たちは何も強制しないし、導くことすらしない。ただ提示するだけ。それを掴もうと挑戦した人たちが偉業として後世に語り継がれる。つまり、彼ら自身でその運命を選んだの」


 セラナは母さんに答えるように、じっと真剣な表情を向ける。


「提示することは依頼。そしてその依頼達成に対する報酬じゃ」

「その報酬はなんでもありよ。使い切れないお金、誰も作り出せない神器、およそ寿命が存在しない種への改変まで、なんでも」

「そして報酬は、使い手として選ばれた者の過去に関係しておる」


「ねぇムアト、あなたが今すぐ思い出せる、大きな過去の出来事を聞かせてくれない? それはきっとつらいでしょう。でも、あなたの新しい未来を作り出すきっかけなの」


 ……俺が思い出せる、大きな過去の出来事。


「俺は……」


 家でこの話をするのは、二度目だ。気分もあまりよくはない。しかし、過去は過去だ。過去を超えて未来に進むことが正しいはずだ。


「兄貴がいた。兄貴は笑って死んでった。それを俺は見届けた。俺の顔は笑ってた」


面白かったらいいね、ブックマークよろしくお願いします。

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