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牢屋その三

 収容三日目の朝。この監獄での朝は点呼から始まる。空がまだ白んでいる時間帯に起こされ、牢屋の前に立たされる。


 俺は牢屋の前で直立の姿勢を保つ。隣では魔剣があくびをしながら目をこすっている。


「これより点呼をとる!」


 看守が声を張り上げている。手には鞭を携え、鋭い眼光を囚人たちに向けている。厳しそうな看守だ。


 しかし、その看守の声に反して囚人たちは私語をやめる気配はない。看守の眼光がさらに鋭くなる。


「では始め!」


「「「「「1,15,20,359,45」」」」」


 囚人が同時に自分の番号を口に出す。

 何番がいるのか全く分からない状況、しかも私語を続けている者までいる。番号に対して言っている奴が少なすぎる。看守の目が吊り上がっている。


「看守さんよぉ、全員いるみたいだな?」


 四天王第四席が看守に向けてにやりと笑う。


「そのようです! 点呼ありがとうございます!」


 看守お礼言っちゃった。全然厳しくないや。悪に屈してる看守だった。

 まぁこの監獄にいる囚人たち怖いもんね。四天王筆頭とか刺青だらけだし。


「本日は新たな囚人が収監される!」


 何事もないかのように看守が話し始める。まだ厳しそうな顔してる、よくその顔できるな。


「さぁ入れ!」


 看守に促され皆の前に出てきたのは、俺より一回りは背の高い男。髪と目は赤く燃えるような色。牢屋に入るというのに顔には笑顔があった。


 その体は囚人服に包まれているが、盛り上がる筋肉でただ者でないことがわかる。男は立ち並ぶ囚人をぐるりと見渡し、俺に視線を止めた。


「おぉ、ムアト! 元気してるか!」


「名はベラン! 禁固1週間の滞在だ! 仲良くしてやれ!」

「そこにいるムアトの父親なんだよ! 鼻筋がよく似てるだろ?」


 やめてくれ親父。ここでは他人のふりをしてくれ。そんな鼻をこすらないでくれ。あんまり似てないから。


「では食堂に移動し朝食をとる! 移動開始!」


 看守がそう言って歩き始める。囚人たちはそれにつられて歩き始めるが、その波を押しのけて筋肉だるま男が近づいてくる。誰ですかこの人知りません。


「元気そうだなムアト。牢屋に入ったと聞いて駆け付けたぞ! がっはははは!」


 できれば囚人として駆けつけてほしくなかった。母親みたいにスマートに助けてほしかった。


 親父は笑いながら俺の頭を雑に撫でる。本当に恥ずかしい。


「ほれ、飯を食いに行くぞムアト」


「おぉ?」


 俺が頭をなでられていることに無関心な魔剣がそう言って食堂に歩き出す。その様子を見て親父が頭をなでながら不思議そうな顔をする。撫でるの長いよ。


「ムアト、牢屋で友達出来たのか! いいことだ、釈放されても友達のままでいろよ」


「あんまり悪人と友達付き合いしない方がいいと思う」


 なんでうちの両親は悪人と友達を作らせたがるんだ。俺に悪の道を進んでほしいのか。いいんだな、悪の道に進んでも。親父の財布からネコババしちゃうもんね!


 それはそうと、親父になんて説明しようか。魔剣は友達というより仲間? 道具? の関係だ。これから俺についてくるのだろう。そこらへんも教えておかないとな。


 食堂に着くと四天王第三席が俺を案内してくれる。いい笑顔だ。

 魔剣はすでに席について食事を開始している。俺が見たことのない料理だ。きっと名前が長いのだろう。


 席に着くと親父も隣に座ろうとする。


「おい、ちょっと待ちな」


 四天王筆頭が親父の肩を掴む。親父は座りかけていた体を起こして筆頭と向き合う。どちらも身長の高さは同程度、囚人服からでも筋肉が盛り上がっている。


 すごいな親父、刺青入れたら悪人と見分けがつかないぞ。


「おいおい、息子との朝飯だぞ。ゆっくり食わせてくれよ」


「そこの席は俺の場所だ。あんたはもっと別の場所で食ってくれ」


 どちらも胸筋を押し付けながらの言い合い。胸筋がでかすぎて顔が近づかない。


「ふーむ、なら俺はこちら側に行こう」


「……まぁいいだろう」


「ムアト、一個どけてくれ」


 そう言いながら俺と魔剣の間に滑り込む親父。


「失礼しましたムアトさん」


 親父をはさんで、俺の隣に座る筆頭。


 結果として、俺の隣はどちらも筋肉ムキムキ男が座ることになった。


「肩身が狭い」


 この言葉を比喩ではなく現実問題として言うことになるとは思わなかった。





 ぎゅうぎゅうになりながら朝飯を食べると、次の時間はグラウンドでの運動。食後ということもありたっぷり時間がとられている。なんと驚異の5時間。運動が終わるとそのまま昼食に移行する予定だ。本当にここ監獄か?


「あんた、ただ者じゃねーな。何やってんだ?」

「俺はパン屋を営んでるぜ」

「パンヤ……何かの隠語か? 三席、意味知ってるか?」

「存じ上げませんね」

「ほら、こねたり焼いたりするんだよ」

「こねる……?」

「やく……?」


 本当のパン屋をやっているんです。あなたたちの悪人脳で解釈しないでください。親父だってもっとほかの例があっただろ。食パンとかあんぱんとか……あんぱんはだめか。


 朝食を終えた俺たちはグラウンドへ移動する。同じ釜の飯を食べることで仲良くなったのか、親父と筆頭はよくしゃべるようになった。あんまり会話がかみ合ってない時もあるが。


 グラウンドでは囚人たちが各々でスポーツを行っている。バスケにテニス、野球やサッカー。グラウンドが広すぎてほかにもスポーツができるらしい。ここってなんなの?


「それにしても、親父はなんで監獄送りになったんだ」


 スポーツ観戦用のベンチに腰を下ろしながら俺は問いかける。


「いやな、ムアトが収容されたって聞いてすぐさま城主様に会いに行ったわけよ」

「うん」

「なんか通してくれないやつがいたから殴り飛ばして進んだんだよ」

「ごめんな親父俺のために」

「そして城主様に息子を釈放してって言ったらだめって言うから殴ったらここに来た」

「さっきの謝罪やっぱり取り消す」


 明らかにそれのせいじゃねーか。なんで城主まで殴るんだよ。もっとなんかあっただろ多分。


「それで俺も捕まっちゃったんだけど、モーネが城主様に一言二言口にしたら城主様がへこへこしだしてムアトの処刑取り消してくれた」


 母さん何者なんだ。十五年一緒にいるけど俺は何も知らないな……城主様をへこへこさせる理由は知らない方がいいかも。怖いから。


「俺、処刑消えたから多分明日出所だな」

「よかったな! 俺は一週間ゆっくりするよ」


 刑務所でゆっくりするって意味わかんねーよ。





 その後、久々に親父と手合わせした。魔剣使って親父のことボコボコにしてやった。楽しかった。


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