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牢屋その二

「おい、あの噂聞いたか?」

「あぁ、監獄四天王第二席のアンコクウがやられたんだってな」

「しかも収容二日目の新人らしい」

「見に行こうぜ」


 監獄の囚人たちは一つの噂でもちきりだった。

 いわく、“新人が監獄の主要な囚人どもを狩っている”という噂だ。


 誰しもばかばかしいと思っていた。この監獄に収容されている囚人たちは、みな悪の中の悪だった。

 その中でも特大の悪が監獄四天王たちだ。彼らが何をしたのか知っている囚人はほとんどいない。


 そして、四天王の姿を見た囚人たちが口をそろえて言った言葉がある。


『強大な悪がにじみ出ている』


 それほどまでに四天王たちは恐れられている。


 監獄の中で過ごす囚人たち。そこに人間がいれば必ず組織も形成される。

 頂点に立ちこき使う者、上位者に機嫌を取りこき使われる者。

 この監獄でも、その二種類の人間に分けられた。


 場所は食堂。毎朝囚人たちが皆で食事をとる。

 ここには決まりごとがいくつも存在していた。


 四天王の姿を見たら挨拶すること。

 四天王の座る位置は最も奥側であり、最も広いテーブルであること。

 絶対に粗相をしないこと。


 数々の決まりごとに反した囚人は、四天王自らが罰を下すことがある。

 今まさに罰を受けている者がいた。


「何をしておる、サッサと椅子を作らんか」

「は、はひ」

「おい、どこに行く。お主自身が椅子になれと言っておる」

「わかりました!」

「もっと背中を伸ばさんか!」

「はいぃ!」


 椅子になる者と椅子に座る者。

 人の尊厳を踏みにじる最悪の罰であった。


「おい、椅子になったアンコクウの顔見てみろよ」

「あぁ、幸せいっぱいって顔だ」

「しかも今、飯を取りに行ってるのは四天王筆頭らしい」

「なに! あの全身刺青だらけムキムキで最も悪がにじみ出ている筆頭が!」

「もう四天王は全滅だな」

「まったくだ……おい新人、お前も気を付けろよ」

「やらかすなよ。お前名前は?」


 近くに座っていた見知らぬ顔の男に声をかける。

 ここでの決まり事で、新人に色々教えてやるというものもあった。


 その新人は食事の手を止め口を開いた。


「俺の名前はムアトです」


「おいムアト! なぜ離れて食べておる! こっち来てこの椅子に座ってみろ、案外悪くないぞ!」


 その場にいた囚人たちは一斉にムアトのそばを離れた。





 せっかくの監獄ライフが台無しだ。無関係を装っていたのに。


 とぼとぼ歩きながら魔剣と同じテーブルに座る。

 すぐさま四天王第三席が、赤い液体の入ったグラスを渡してくれる。匂いからしてワインだった。


「どうぞお飲みください」

「ありがとうございます」


 第三席はにっこり微笑んでその場を離れた。いい人だ。自然とワインを渡してくるけどいい人だ。


「持ってきました!」

「遅いぞ筆頭!」

「そうだそうだ! 魔剣様をお待たせするな!」


 二人分のトレーを持ってきたのが四天王筆頭。

 俺が牢屋に入った時に一緒にいた全身刺青だらけの男だった。怖かったけど今ではいい人だ。


 筆頭に意見を言っているのは椅子になっている第二席と、魔剣の要望で腹踊りをしている第四席だった。

 どちらもいい笑顔でその職務を全うしている。変な人だ。


「こちらをどうぞ魔剣様。本日の朝食は自家燻製したノルエンサーモンと、帆立貝柱のムースのキャベツ包み蒸し、生雲丹とパセリのヴルーテでございます」

「うむ」


「ムアトさんは同じの食べなくていいんですか?」

「いいよ別に」


 朝から料理人を疲れさせるなよ。大変なんだぞ朝の仕込みって。手伝ったことあるからわかる。


「てか、こんな満喫してていいのか?」


 俺、明後日処刑なんだけど。


「構わん。聖剣が何かしらを見つけてくるであろう。もしくは我が手を加えてやれば——」

「そ、そんな必要ありませんよ魔剣様!」

「えぇえぇ、私共にお任せください!」

「ここの看守とは仲がいいんです!」

「替え玉処刑なんて常套手段ですよ!」


 四天王全員が魔剣の行動を止めにかかる。

 そんなに恐れてるのか魔剣のこと……全員顔が引きつってるし。


 あと替え玉処刑ってなんだよ。替え玉になる方たまったもんじゃないぞ。


「まぁでも何とかなるのならいいけど」


 グラスを回して匂いを嗅ぐ。うーんわからん。

 グラスを傾けワインを口に入れ飲み込む。うーんわからん。


 けど美味しいからもう一ぴゃい飲みまひょう。


 思考がうまく回らなくなりながらワインをまた飲もうと傾けていると、食堂に囚人が一人駆け込んできた。

 彼は大声で伝えた。


「報告します! ムアトさんの母親、モーネ殿が面会室にてお待ちです!」


 酒はこぼれ、酔いも一瞬ではじけ飛んだ。

 椅子を弾き飛ばしてすぐさま口を開く。


「おい筆頭! 面会室に案内しろ!」

「合点承知!」

「第三席! 水を持ってこい!」

「すでにお持ちしております」


 二席と四席に用はない!


「存分に語り合ってくるのだぞ~」


 食事をほおばりながら俺に手を振ってくる魔剣をよそに、俺は覚悟を決めて歩き出す。


 さぁ覚悟を決めろ! 決めるんだ! 決めたぞー! 決めたんだ!





「ムアト」

「ごめんなさい」


 面会室に入り、母さんがにっこり笑いながら俺の名前を呼ぶ。

 俺はすぐさま九十度に頭を下げた。これが覚悟だ!


 すぐさま頭を下げる覚悟が必要なんだ!


「いいから座ってください」

「はい」


 言われた通り椅子に座る。面会室はガラス越しに訪問者と囚人が対面する。


「……お酒臭いのだけれど」

「ここは治安が悪いので酒をぶっかけられました」

「そう……元気そうで何よりです」


 にっこり微笑んだ我が母モーネ。髪の色は俺と似た蒼髪、目の色も俺と似ているのだが、なぜか母さんの目は俺よりも理知的に見える。不思議だ。


「へへへ、本日はどういったご用件でこちらに?」

「息子が収監されれば会いに来ますよ。ほんとは四日後の休みの日に来たかったの」

「明後日処刑なのでそれじゃ間に合いません」

「顔が見られればよいのですよ」

「顔だけしか見られないようになってます、ギロチン処刑なので」


 この言い方だと怒ってるな母さん。息子が権力者の城壊したらそりゃ怒るか。


「あと処刑はなしになりました」

「えぇ! 聖剣が何かやってくれたんですか!?」

「聖剣……? よくわかりませんが、私が何とかしておきました」


 にっこり微笑む母親。すごい糸目になってる。


「何とか……?」

「私お友達多いんですよ」


 持つべきものは糸目にっこり母親だな。


「ありがとうございます」

「なので気楽に過ごしてください。お友達出来そうですか?」

「極悪人の友達作れって勧めてます?」

「人を見た目で判断してはいけません」

「法の下に裁かれた正式な悪人たちです」


 まぁ四天王たちはいい奴らかもしれないな。刺青は入っているけど。


「あとあなたの部屋の半分メルルにあげることにしました」

「どぉえぇ!」

「監獄に入った罰です」

「監獄に入ることがすでに罰の気がします……」


 やっぱり怒ってた……また俺の部屋が狭まる。もうベッドとタンスしか置けないよぉ。


「伝えるべきことは伝えたので、もう戻ります」

「わざわざありがとうございます」


 席を立ち上がった母さんに、もう一度礼をする。

 やはりなんだかんだ言ったって家族の姿を見られたのは嬉しい。


 魔剣とか聖剣のせいで色々大変だったけど、俺には帰るべき場所があると再認識できた。

 それに待つ人もいる。妹メルルに母モーネ、そして親父。なんだか会いたくなってきたな。


「メルルと親父によろしく言っておいて」

「メルルには言っておきます」

「親父には?」


 面会室のドアに手をかけた母親が、顔だけこちらに向けて言う。


「お父さんも近々そちらに入りますので自分で伝えてください」

「親父何した!」


面白かったらいいね、ブックマークよろしくお願いします。

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