牢屋
「ゆるしてください!」
俺は悪いこと何もしてないよ! 悪いのは魔剣だよ! 名前からして悪そうじゃん!
牢屋に入れられた俺は鉄格子を握りしめながら叫ぶ。
だが声は無機質な廊下を反響したまま、答えが返ってこない。
出してください! ここにいたくない! だって……
「よぉぼうず。何か悪いことでもしたのかぁ?」
全身刺青が入った筋肉もりもりで体の大きい男がいるんです!
なんで一緒の牢屋に入れた! 食べられちゃうでしょうが!
「俺はそこまで悪いことしてないです……」
「嘘つくんじゃねぇよ。ここは極悪人しか入ることのない、ランク五つ星牢屋だぜ?」
城主俺に激おこじゃないか……。
じゃあそんな牢屋に入ってるこの男は一体何したんだよ。怖いけど聞いてみよう、気になるから。
「ちなみに、あなたは何したんですか?」
「俺もそこまで悪いことしてないんだけどよぉ……人身売買にパーツ売り、あとは臓器も売っていた」
「ここに極悪人がいます捕まえて!」
鉄格子を必死に揺らす。このままじゃ食べられはしないけど売られちゃう!
全身そのままか臓器取り出されて売り飛ばされちゃう!
「俺は言ったぞぉ。お前は何したんだ?」
「俺は、城主様の城を半壊させただけです」
「……お、おぉ。中々すごいっすね。自分、肩もみますよ」
極悪人が俺を恐れてる……どんだけ悪いことなんだよ城半壊。あと肩は揉んでもらおう。
「少し黙っておれムアト。騒がれてはかなわん」
極悪人が俺の肩をもんでいる隣で、魔剣が椅子に足を組みながら座っている。
そういえばこいつもいたな。
城半壊裁判では俺と魔剣が出廷した。そこで両方ともに三日後の処刑が命じられた。
こいつは魔剣だと俺が言っても城主は鼻で笑ってた。その顔にシャボン玉をぶつけてやりたかった。
判決が下されてそのまま連行されたけど、魔剣は特に反抗していなかった。言われた通り牢屋に入っていた。
「なぁ、なんで大人しくついてきたんだ?」
もしかしてこいついい奴か?
「そんなこと決まっておろう」
魔剣は椅子から立ち上がって手を広げてシャボン玉を作り出す。
「我を閉じ込めようとした施設建物を粉みじんにするためじゃ」
「ここにも極悪人がいます捕まえて!」
鉄格子を命がけで揺らす。極悪人も一緒に揺らす。
魔剣はいいかもしれないけど俺はいやだよ! 生き埋めになって死んじゃうよ!
「まぁ、魔剣ジョークという奴じゃ」
手に生じさせていたシャボン玉を消し、にやりと笑う。
俺と極悪人はほっと一息つく。可愛いところあるじゃん。行動は可愛くないけど。
「そういえば聖剣はどうしたの?」
「あ奴は誤解を解こうといろんなところに出向いておるわ。『聖剣の使い手が不憫な目に合うのはお約束よ!』とも言っていたな」
「聖剣……」
頼んだぞ、お前に俺の命はかかってる。
「あのー、ちょっといいすか?」
極悪人がおずおずと手を上げる。ずいぶんと背を丸めてるじゃないか?
もっとシャキッとしろシャキッと、男だろ。
「ん、どした? 話してみろよ」
「そこな女性は魔剣様であらせられるんですか?」
「そうじゃ」
「うわーまじすか! 悪のカリスマじゃないですか! 握手してもらってもいいですか?」
「いやじゃ」
「そうですよね! ありがとうございます!」
なにこれ。
拒否されてすぐさま頭を下げ感謝する極悪人。表情はとてもいい笑顔だった。ならいいか。
「魔剣が悪のカリスマ?」
この極悪人、魔剣について知ってるのか?
「そうっす。この魔剣様は様々な偉業を成し遂げられ、それらが悪人たちに称えられ“悪のカリスマ”と尊敬されるようになりました」
「不名誉な称号じゃ」
ほんとだよ。悪人から尊敬されるなんて並大抵のことじゃないぞ。
「ちなみに何したの?」
「魔剣様は、今“魔なる勢力”が置かれている大陸を征服するのに尽力されたり、一度は世界征服も達成されたと聞き及んでおりますが……」
「どちらも事実じゃ」
「さすがです!」
悪が限界突破している。極悪人の賞賛を聞いて、魔剣なんだかうれしそうな顔してるし。
「もう一度したいのぉ、世界征服」
ちらりと俺を見る魔剣と極悪人。絶対やらないぞ、絶対!
いや、やらないじゃなくてできないよ!
いやそれよりも、魔剣って“魔なる勢力”のいる大陸を征服したのか。
確かこれらの勢力ってずいぶん昔から存在してるんじゃなかったっけ?
「なぁ魔剣。お前って何歳なんだ?」
いや、正確に言うなら製造は何年前ですか?
「そうじゃのぉ、確か三千年は経っておるかの」
「三千年って、天地創造の時……つまり神話の時代ですね」
極悪人が目をキラキラさせながら話を聞いている。
魔剣は懐かしそうに目を細めて天井を見上げる。
「いろいろあった。敵を切り、屠り、滅してきた」
「血にまみれてんな」
「あたりまえじゃ。我は魔剣ぞ?」
にやりと笑った魔剣の顔は、少しかっこよく見えた。
そうか、こいつこの世界の誕生した時から生きる証人なのか。結構すごい奴なんだな。
「なぁ、何でお前みたいなすごい奴が俺の元に来たんだ?」
こいつはきっと俺の想像以上にすごい奴なんだろう。なのになんで俺の元に来たんだ?
俺がすごい奴だったらまだわかる。すごく強いとか、勇気があるとか。
でも、そんなもの決して持ち合わせていない。何が魔剣を引きつけたんだ?
「その話は、今すべきじゃない。白いのと一緒なタイミングで話すべきじゃな」
魔剣はそう言うと、立ち上がって牢屋の入り口に近づいた。
バツンッ。
牢屋の鍵穴の部分が小さく球状に消し飛び、扉が開く。
「腹が減った。メシを食うぞ」
「はい、ただいま!」
外に出た魔剣に続いて極悪人も外に出る。
「まったく……」
俺はふっと苦笑を漏らし立ち上がる。
そしてまた座る。
いや、何自然と脱獄してんだよ二人とも……ここ牢屋だけど。
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