表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/7

使い手テスト

 学校から徒歩数分。俺たちは街を一望できる丘の上に来ていた。

 辺りにはまばらにある木と、木造のベンチが数個置いてある。子供のころ遊びに来た思い出がある。この街の憩いの場だ。


「ここでならお二方の力を十分に発揮できると思います」


「よい街ね!」


 風によって揺れ動く髪を抑えながら聖剣が街を眺める。

 魔剣は興味がないのかベンチにどっかり座っている。


 この場に来ているのは、俺と聖剣と魔剣、校長に教師数人だ。

 教師は皆固まって手を握り合っている。よく見ると震えている人もいる。そんなに怯えないでよ……


「はい! この街は城主様によって正しく運営され、繁栄の一途をたどっております。あそこに見える大きな城が城主様のお住まいでございます。住民みな城主様に感謝しております」


 校長の指さす方に大きな城が見える。サイハン様ありがとう。これからは感謝するね。自分の街の偉い人って知らないもんだよ。


「じゃあ始めましょうか!」


 聖剣がそう言うと俺の方を振り向いて走り出してきた。しかも体が発光しているし。逃げていいかな。


「へんしん!」


 聖剣が叫ぶと、走りながら飛び上がり、光で覆われた人型のシルエットがぐにゃりと曲がる。

 その変形している途中で俺のところに降ってきた。危ないから避ける。


『いった!』


 すぐそばで衝撃音が響き、そして光が収まる。そこには神聖さを感じさせる剣が地面に突き刺さっていた。おぉ、人が剣になったぞ。


『なんで避けるのよ!』


「いや怖くて」


 人が頭上から降ってきたら避けるだろ。というか剣だったし。もしこれが避けずに俺の体に当たったら裂けちゃうよ。


『今度からはしっかりつかんでね!』


「今度があったらね」


 危険がなくなったので聖剣を手に取る。抵抗なく握れるし重さもそこまで感じない。

 地面から引き抜き太陽の日にかざす。光が反射しキラキラとした模様を見せる。かっこよくていいね!


 とりあえず聖剣は持つことができたけど、これでテスト合格か?

 それとも聖剣の使い手テストは実際に剣を振るうのか?


「木でも切り倒せばいいのか?」


『そうじゃないわ。聖剣の使い手は聖剣独自の能力を引き出せるの』


 祈りをささげた時みたいに脳内に聖剣の声が聞こえてくる。


『この能力はあなた独自のもので、あなたにしか使い方はわからないわ。歴代の使い手もみな違った能力を持っていたわ。今はあなた自身の能力しか使えないけど、成長したらもっといろいろできるわ!』


「どんな能力があったんだ?」


『魔物だけを切り殺す能力や、悪徳を積み上げた人間を呪い殺す能力、血を吸い上げる能力もあったわ!』


「聖なる剣がしていいことじゃないね」


 魔剣の能力と言っても疑わないラインナップだぞ。


『とりあえずあなたの能力を使ってみましょう!』


「怖いなぁ」


 聖剣の勧めに応じて能力を出す準備を進める。

 今のところ、何かできそうな感覚は聖剣を握った時から感じている。これをそのまま放てばよいのだろうか? 何かしら対象になるものは……


「ちらっ」


「「「ひぃっ」」」


 教師たちが悲鳴を上げる。子供のやることだから大人は笑って許してくれるよね?

 たとえ血を全部抜き取ってもまた入れてあげられるから多分。


 教師たちが全力で逃げるので、対象物を変更。近くの木に対してやってみよう。

 葉の生い茂る数が少ない栄養失調樹木、君に決めた! 木の場合樹液が抜き取れるのかな? 俺の能力何か知らないけど。


 木の前に立ち聖剣をゆっくり横なぎに振るう。

 力を込めずに振るっているが、聖剣は木の幹にするりと入り込んでいる。幹自体に全く切った跡がついていない。切った感触も感じない、霞に剣を振るっている感覚だ。


 切れていないが幹の一刀両断を行い、聖剣が木から離れる。


 すると、切りつけた樹木が震え急激に成長していく。

 葉は活力にあふれた緑色を彩り数多く芽吹く。幹はほかの木の倍にもなる太さに広がり、高さも頭一つ抜きん出た。根っこは太すぎて地面から盛り上がっている。


 マッチョ樹木が完成した。


「なにこれぇ」


 つまり、俺の能力は——


『ムアト、あなたの能力は“活性”よ! 人を癒し、人を奮起させ、人を成長させる! 聖なるあなたは人を救いたいという願望がこの能力を発現させたのよ!』


「そんな願望ないぞ」


 というか、お前剣なんだよな? なんで切れずに癒すという真反対の能力持ってるの?

 剣なのに切れないって意味わからん。


「「「おぉー!」」」


 一緒についてきた教師たちが俺に拍手を送る。ありがとうありがとう。


『これであなたは聖剣の使い手であることが証明されたわ』


 そう言うと聖剣は人の姿に戻り胸を張った。

 聖剣の使い手か。別に望んだ地位じゃないけどもらえるものはもらっておこう。


「では、次は我の番じゃ」


 そう言うと魔剣は俺に向かって歩いてくる。その歩みはゆっくりで、優雅さを漂わせていた。

 足元から黒い霧が沸きだし、魔剣の全身を包むと、霧が渦となり空へと抜けていく。


『我を手に取るとよい、ムアト』


 魔剣の声が脳内に響く。聖剣とは別の危険を感じる変身方法だ。禍々しいな。


 言われた通り魔剣を手に取り持ち上げる。……特に生命力が吸われている感覚はない。一安心だ。


『おそらく白いのから説明を受けたじゃろう。お主独自の能力が備わっている。感覚に任せ使ってみよ』


「わかった」


 こちらもなんだかできそうな感覚を感じる。さてと、何を対象にしたものか……


「ちらっ」


「ひぃっ!」


 教師の方に目を向けると、そこには校長しかいなかった。おいほかの教師どこ行ったんだよ。なんで校長しかいないんだよ。


「じゃんけんで負けて……」


 俺の顔から心情を読み取ったのか勝手に白状する校長。

 罰ゲーム気分かよ。魔剣さんやっちゃいましょうか。


『まったく、慣習が減ったのう』


 ぶつくさ魔剣が脳内に直接語り掛けてくる。独り言も流れてくるのかよ。プライバシー駄々洩れじゃねーか。


 気を取り直して集中する。先ほど出来上がったマッチョ樹木に近づき、剣を横なぎに振るう。

 すると、剣が触れる前に刀身から何かが生み出された。


 それは透明な玉であった。日の光を浴び自身の存在をこれでもかと主張する。風に乗り浮き上がり空間を漂うそれ。


 まさしく。


「シャボン玉じゃん!」


 剣なのに! もはや切る必要すらなくなっちゃった! 剣なのに!


「かわいらしい能力ですね」


 校長がニコニコしながら近づいてくる。さっきまでの怯えはどこにいったんだよ。


「いいえ、校長。黒いのを見た目で判断すれば痛い目にあうわ」


 どこか真剣な表情の聖剣が校長の言動を窘める。一体どういう——


 その言葉の意味を問いただす前に、シャボン玉がマッチョ樹木に着弾した。


 バツンッ。


 シャボン玉の割れる音と共に、着弾した幹の部分が球状に消し飛んだ。


 バツンッバツンッバツンッ。


 次々とシャボン玉は着弾し、マッチョ樹木の幹はえぐり取られゆっくりと倒木した。


「木ぃーー!」


 聖剣が叫びマッチョ樹木に飛びつく。おいおいと涙を流している。


「なぁにこれぇ」


 厳つすぎる能力——


『ムアト、主の能力は“消失”じゃ! 人を壊し、人を慄かせ、人を消し飛ばす! 魔なるお主は人を滅ぼしたいという願望がこの能力を発現させた!』


「その願望は本当に持っていない」


 まだ聖剣の願望の方が受け入れられる。何、人を滅ぼしたいって。そんなもの持ってないんだけど。ほんとうだよ?


 ちらりと校長に目を向けると、表情が抜け落ちた顔を俺に向けていた。やめてくれ校長、そんな顔を俺に見せないでくれ。


『やはり、覇道をつくる運命じゃ』


 そう言いながら魔剣は人の姿に戻ってきた。これで俺は魔剣の使い手と認められた。


「ははっ……は、おめでとうございます」


 まばらな拍手を送りながら校長がほめたたえる。本当に褒める気あるならもっと近づいてきてよ。


「木ぃ、痛かったねぇ。よしよし」


 まだ泣いていたのか聖剣。なんかごめんな。


 そう思って謝ろうと近づくと、聖剣の手が倒れたマッチョ樹木を通り抜けた。


「今治してあげるね」


 その言葉の後、マッチョ樹木の分断された幹が伸びていき二つが一つにくっついた。

 さらには、倒れていた幹がどんどん立ち直り、元の倍高い高さを誇る樹木へと成長を遂げた。


 いやいやいや。


「それ俺の能力じゃないの?」


 剣単体でも使えるの? なんか俺のアイデンティティ奪われた感覚するんだけど。


 ということは。


「魔剣も使えるの?」


「もちろんじゃ」


 そう言って魔剣は両手を合わせ胸の前に持ってくる。両手をゆっくり放していくと、そこにはシャボン玉の幕が出来上がっていた。


「ほれほれほれ」


 魔剣は両手を空に向け、シャボンダマは徐々に大きくなっていく。

 その大きさは人の背丈を超え、木の高さを超え、先ほど出来上がったマッチョ樹木と同じ高さまで成長した。


「あわあわあわ」


 口をパクパクさせた校長が俺の後ろに隠れる。いやこれが破裂したらここら一帯消し飛ぶんじゃないのか?


「わっはっはっはっは——」


 上機嫌に笑う魔剣。そこに一つの風が吹きつけた。

 ここは丘の上。先ほどから一定間隔で強い風が吹いている。


 その風にあおられ、魔剣の両手の上にあった特大シャボンダマが風に流される。


 あ。


 丘の上から風の流れに乗って漂っていくシャボン玉。

 それを呆然と口を開けた俺と、同じく口を開けた校長が眺める。


 あぁ。


 丘から見える一番大きな建物、城主が住む城に向かって進んでいくシャボンダマ。


 あぁぁ。


 一度大きく上昇したシャボンダマはゆっくり降下していき、城にある尖塔に、まるで風船をつまようじでつつくような形で突き刺さった。


 あぁぁぁ——


 瞬間、空気が震え衝撃波が飛び込んだ。俺たちは転び、しりもちをついた。


 すぐに衝撃波は止み、顔を上げる。

 すると、先ほどまで立派に建っていた城主の城は、尖塔を中心として半円状に半壊していた。


 それを呆然と見ていた俺は、後ろで全力でその場を離れている校長に気づかなかった。






「被告ムアト、城主暗殺未遂の罪により死刑。三日後に公衆の場でギロチン処刑。それまでの間悔い改めよ」


「ゆるじでぐだざい」


面白かったらいいね、ブックマーク宜しくお願い致します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ