話し合い
「なんでお主がここにいるんじゃ!」
「それはこっちのセリフよ!」
二人の女は口を引っ張り、髪を引っ張り、その見た目からは想像もつかない品性のない喧嘩を始めていた。
「二千年前真っ二つに壊してやったのに、まだ懲りんか!」
「ふんっ、千五百年前に粉々に砕けたのはどこの魔剣かしら!」
もういいよ、勝手にやってくれよ。そんなことより俺のカンタタムがどこに行ったか知らない?
確か贈り物として下ったはずなんだ……そう、そのはずだ……
「俺のカンタタム……」
「ホ、ホムトくん!」
椅子の下にもぐっていると後ろから教師が声をかけてきた。
何ですか先生、今カンタタム探しに忙しいんです。俺のカンタタムは初心ですから隠れちゃってるんですよ。
「何を探しているのか知りませんけど、あの喧嘩を止めてください!」
「いやいや、ほっときましょうよ。女の喧嘩に首を突っ込んでいいことないって親父言ってました」
「あのお二方をそんじゃそこらの女と一緒にしないでください!」
あんまそういうこと教師が言わない方がいいんじゃないか?
まぁ、さっきの二人なんか俺の名前呼んでたし俺関係あるかも……
「わかりましたよ。代わりにカンタタム探しといてください」
「カンタタム探ししてたんですか学校で! 何してるんですか!」
……言われてみれば確かに。だがカンタタムの魅力は無限大だ。先生がカンタタム見つけるのを期待しよう。
とりあえず、喧嘩している二人に近づく。
「相変わらず小さくてかわいらしいのぉ聖剣! 踏みつぶしてしまいそうじゃ!」
「あなたは身長しか大きくないでしょ! 私みたいな海より大きい器を見習いなさい!」
「あの」
「なんじゃ!」
「なによ!」
女の人怖いよぉ。
「こんにちは、ムアトです。俺の名前呼んでましたよね?」
埃まみれになった二人がしばし手を止め俺を見てくる。美人と可愛い人の怒った顔は迫力がある。ぞくぞくするよ。
「……お主がムアトか」
「……あなたがムアトなのね」
「「んっ?」」
どちらも俺の名前を呼んでまたにらみ合う。用があるんですか無いんですか、どっちなんですか。
「あ、あの~」
おずおずと声を出したのは教師。お前カンタタム探しとけよ。
「お話の場をご用意いたしましたので、ぜひそちらに移られましたら……」
二人の女はしばし黙って、同時に頷いた。
「先生、カンタタムありました?」
「もぅ黙りなさい! 今の状況を見てよく聞けますね!」
その感じだと無かったのか……やはり俺の願いは届かなかった。
ため息をつきながら部屋の中を見る。
「いかがでしょうか聖剣様。この地方で採れた芳醇な果物でございます。聖なる方々の庇護によって我々は今日も生きていくことができております」
「美味しいわね!」
この部屋は校長室。俺も入ったことはない。校長はいつも威厳たっぷりな顔と声で生徒に指導を行っているため、生徒はみな怖がっている。
「いかがでしょうか魔剣様。遠方より取り寄せた甘くとろけるチョコレートでございます。魔なる方々の覇道や偉業はこのちっぽけな街にすら響き渡ってございます」
「くるしゅうないぞ」
校長は気に入らない教師がいたらすぐに辞めさせるほど苛烈な性格を持っている。そのため教師からも恐れられているらしい。
「本校にとってあなた方聖剣様と魔剣様を歓待できる栄誉、まこと嬉しく思います。何かありましたら雑用でも使い走りでも、わたくし校長が承っておりますので何なりとお申し付けくださいませ」
二人の女に対して手を揉みながら愛想笑いしているのはその校長だった。校長……思わず涙がこぼれそうだ。権力は更なる権力に屈さざるを得ない。世の無常だ。大人の大変さを知った。
いつも威張っている校長がへーこらしている姿なんて到底見られるものじゃない。校長を怖がっている教師なら、今の状況を写真で撮って校内にビラを配り隣町まで宣伝しそうなものだ。
しかし、隣で座っている教師は顔を青くして何も言葉を口にしていない。固まったままだ。何してんだよ教師、校長が歓待してんだぞお前も動け。校長からクビ宣告されるぞ。
「それでお二方は、一体どのようなご用件で現世へと顕現なさったのでしょうか」
校長、笑顔がぎこちないよ……それなら笑わない方がいいって。
「それはな」
「それはね」
手に持っていたチョコや果物を置き、俺に指をさしてきた。
「「ムアトを使い手と認めたから」」
「それはそれはそれはそれは」
校長は眼を回しながら狂ったように同じ言葉を発し続ける。混乱してるのか? 気持ちはわかるぞ校長。
「俺が使い手? 何を使うんだ?」
この人たち何者なの?
「察しが悪い奴よのぉ。お主が我を使いこの世に覇を唱えるのじゃ」
「この黒いのの言うことは気にしなくていいわ。聖なる心を持つあなたには救済こそがお似合いよ」
どちらも顔を押し合いながら俺に話しかける。どちらも特に興味はないけど、気になることはある。
「剣なの? 人なの?」
「「どっちも」」
「俺は聖なの? 魔なの?」
「「聖魔じゃよ」」
「俺はどっちを使えばいいの?」
「「わわたれし!!」」
愉快な二人、仲良くなれそうだ。
笑う俺をよそにまたいがみ合いを始めた二人。それを気にしながらも校長は俺に近づき声をかけてきた。
「ムアトさん、言葉遣いを気を付けてください!」
「校長先生こそやめてください」
自分よりも何歳も年上のハゲに敬語使われるなんて、気持ち悪くてしょうがない。
「で、では……いいかムアト。このお二方をご存じでないのか?」
「全く知りません」
物語に出てくる単語だよね、聖剣とか魔剣とか。
「いいかムアト。この世界に存在する“大いなる五つの勢力”。そのうちの“聖なる勢力”、“魔なる勢力”。その二つの勢力で最も尊き存在にあらせられるのがこのお二方なのだ」
ふーむ、なんとなく授業で聞いたことがある言葉が出たな。
“大いなる五つの勢力”。
確か、この世界に存在する五つの大陸それぞれを治める超巨大組織。街や国はそれぞれの勢力に従属し庇護を受ける。それには貢物や何かしらの協力が必要だとか。確か俺が今いる大陸は“聖なる勢力”の庇護圏だったかな。
「つまりでかすぎる組織の偉すぎる人というわけですね」
「不敬すぎる表現だがそれで正しい」
「じゃあ俺はものすごく偉くなって贅沢三昧?」
とんでもない偉い人にヘッドハンティングされたってことか。やったぜ、妹メルルに自慢しよう。
「いや、そうとも言い切れない。なぜなら……」
校長が口を開きそうになった時、聖剣と魔剣が立ち上がった。
「ムアト、我はおぬしにある魔をみた。しかし白いのもおぬしにある聖をみた」
「これまでこんなことはなかったわ。聖剣と魔剣は常に相反するものだから」
「だから我らの判断が間違っておったのか、それとも本当に聖剣と魔剣を扱えるのか」
「それを確かめるために、ムアト」
ビシッと俺に指をさしてきた。
「あなたにテストを受けてもらうわ!」
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