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「分かった。それなら」

 オードは頷くと、ひょいっとリンデを抱き上げた。

「ひゃあっ!?」

「暴れないでもらえると助かる。移動の神術の行使中にはぐれたら厄介だ。どこに振り落とされるか分からん」

「え……それは、そうですが……!」

 神術を使うために座標の指定が必要なのは分かる。そのためになるべく近くにいなければならないのも分かる。だが、いきなり抱え上げるのはやめてほしい。心臓が口から飛び出そうだ。

 そう訴えると、オードは意地悪気に目を細めて笑った。

「抱き上げられるのが嫌なら、抱きしめようか。それでも構わんが」

「…………!」

 それもそれで恥ずかしい。どっちがましか分からないが、他の方法はないのだろうか。

「……その、オード様。もっとやりようがあるのでは……」

「だから乗り物を頼むかと尋ねたんだが。いらないというなら自前の神術を使うしかないだろう。お前は神術を使えないのだから、術者の俺のなるべく近くにいてもらった方が確実だ」

「う……それも、そうですが……!」

 確かに乗り物を断ったのはリンデだ。その後のこと考えていなかった。

 自分が考えなしだったせいだが、ついつい恨みがましい目を向けてしまう。

「でも、そもそもオード様……歩いて行くと仰いませんでした?」

「少し歩く、と言っただけだ。もちろん神術で。乗り物を頼む必要があるくらいの距離なのだから、神術なしで普通に歩いていくのはなかなか厳しいと思うが」

「…………。ちなみに、ここから大神殿まで普通に歩くと……?」

「六時間くらいあれば着けると思うが」

「…………」

 それは無理だ。無理すれば歩けないこともないが、帰れなくなる。そもそもオードをそんなことに付き合わせることなどできない。

「大神殿に行きたいんだろう? だったら連れて行ってやるから、ちょっとの間いい子で大人しくしてろ」

「……私、十六歳ですよ? ちょっと成長が遅いのは認めますが。いい子で、なんて……」

「子ども扱いが嫌なら、大人扱いしてやろうか?」

「…………!」

 そんなふうに耳元で囁かれる。ついでにオードの手が髪をかき分け、指の腹で撫でるようにされたのも感じた。なぜかそれに、首筋に甘い痺れが走る。

「っ……」

「…………悪い、やりすぎた。からかいすぎた。謝るからやめてくれ。頼むから」

「……私、何もしていませんよ?」

 なぜかオードがいきなり懇願しだしたが、やめるも何も、リンデは何もしていない。オードの顔を見返すと、なぜかその頬が赤い。たぶん自分の頬も赤いのだろうし、なぜかお互いの息が乱れかけているし、先ほどの息を詰めるような声が不快だったのかもしれないが。

 オードはよそを向いて数度深呼吸し、気持ちを落ち着かせたようだった。そして再び、腕に力を込める。

「ずっとこうしているのはよくな……いや、意味がないからな。さっさと移動することにする。少しの間だけだから、俺の首に腕を回してしっかり掴まっておいてくれ」

「分かりました。お願いします」

 言われたことは納得できるものだったから、リンデは頷いてその通りにした。しっかりとしがみついておけば、術者の負担が少なくなる。もちろんオードほどの術者であれば多少の負担はものともしないのだろうが、こちらの気持ちの問題だ。連れて行ってもらうのだから、かける負荷もとい迷惑はなるべく少なくしたい。

 抱き上げられた状態のまま、オードの首にしがみつく。柔らかそうに見えて意外と硬い髪の質感とか、リンデの髪が頬にかかったせいか少し息をつめた様子とか、なぜかオードの側が体を固くしたらしいこととか、いろいろ気づいたことはあるがあえて追及するほどの話でもないだろう。リンデは目をつむり、浮遊感のある移動の神術に意識をゆだねた。


 神術での移動は一ほとんど一瞬で終わった。術者のオードの力量があらためて強調されたことくらいしか特筆すべきことがない。前世ではおなじみだったが今世では初めて使ってもらった移動の神術、その感覚が久しぶりに戻ってくる。少し高くなった場所から飛び降りたときの一瞬の浮遊感、あれに似たものが続くのだ。

(……術者自身は違うのかもしれないけれど。それでもやっぱりこういうのは負担になるわよね。ふだん使わない筋肉を使ったような感覚というか……)

 そのことを思うと、オードはよく北部のアリューゼムから一日で首都までリンデを運べたものだ。術者自身は気にならないたぐいのことなのか、それともこうした感覚を我慢してリンデを連れ帰ってくれたのか、どちらにしてもありがたいと頭を下げるしかない。

 ようやく地面に下ろしてもらい――なぜだかオードが一瞬だけ寂しそうな顔をしたようだったが、たぶん見間違いだろう――、リンデは心からのお礼を伝えた。

「オード様。私を連れてきてくださってありがとうございます。大神殿だけではなく、研究所へも……」

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