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(ちょっと待って……!?)

 神術で抱きかかえられているという状況だけでなく、先ほどから、何かすごく既視感がある気がする。今のこの浮遊感ではなく、最初に抱き上げられたとき……

「……あの、もしかして……オード様……アリューゼムでも私をこんな風に助けてくださいました……?」

「ああ。気を失いかけていたようだったが覚えていたか。……まあ、俺の顔までは見ていなかったようだが」

(うう……ちょっと根に持たれている……)

 初対面で死神呼ばわりしたのを当てこすられている。リンデはますます身を縮めた。

 だが、言葉ではそう言いつつ、オードはそこまで怒っているわけではなさそうだ。語調に怒気がないどころか、むしろ優しい。

 そもそも、あの場で誰かに抱き上げられた感触がしたのに信じられずにいたのは、今世のリンデをそんなふうに丁重に扱ってくれる人がいなかったからだ。ましてあの時、倒れ込んだリンデの体も服装もみすぼらしく汚れていたのだ。そんなふうに手を差し伸べてくれることがあるなんて夢にも思わなかった。

「……改めて、オード様。助けてくださり、ありがとうございました。汚れていたのに、手を差し伸べてくださって……」

 お礼を述べ、自分の心中を少し言葉にする。それにオードは少し笑った。

「汚れていたのに、手を差し伸べて……な」

「……? はい……」

 何かおかしなことを言っただろうか。答えを探すようにオードを見上げるが、とくに不機嫌そうな様子はない。むしろ上機嫌そうだ。首を傾げつつ、まあいいかと思うことにする。

 そんなふうに話していたおかげだろうか。頭がだんだんとはっきりしてきた。気分もだいぶましになった。オードに断り、床に下ろして立たせてもらう。足に力が入らないようなこともなく、大丈夫そうだ。

「すみません、ご迷惑をおかけしました……」

「いや。そもそも疲れが溜まっていると思ったから連れ出したんだ。予測して然るべきだった」

 気遣いがありがたい。だが、じゃあ帰りましょうとは言えない雰囲気だ。しかもオードは何やら支払いを済ませている。

「ではお客様、こちらへ……」

「え!? 私ですか!? あの……?」

 店員に促され、焦ってオードに助けを求める。だが、オードは少し手を振ってみせただけだ。

「とりあえず着替えてこい。支払いは済んだし、せっかく買ったものなのだから使わなければな」

「買った!? って、何をです!?」

「ここには服しか売っていないぞ」

 もっともな言葉を返され、リンデは返答に窮した。どうやらリンデの気が遠くなっていた間に店員が手際よく見立てを済ませていたらしい。背丈などを軽く測られている途中に倒れてしまったのだが、ちゃんと事態は進んでいたようだ。

 こうなったら仕方ない。オードは引く気がなさそうだし、事態は進んでいるし、買ったものとやらを着ないことには店を出られなさそうだ。リンデは店員に促されるまま場所を変えて更衣を済ませた。

「ふうん、なるほど。そういう感じか。似合うな」

 着替えたリンデを見たオードの第一声がそれだった。白いブラウスにカーディガン、落ち着いた色合いのスカート、くるぶし丈のブーツといった装いだ。無難だが温かみのある感じに仕上がっている。大人しげで、前世の自分なら地味だと切り捨てていただろう雰囲気だ。ただ、今世の自分には馴染んでいると思う。手入れされていない髪や肌はいかんともしがたいが、そのあたりがもっとましになればもっとまともに見えそうだ。

 リンデは思わず瞬いた。新しい服を着ることが嬉しいと思ったのがひとつ。今世ではそんな贅沢に縁がなかったし、畏れ多い状況だとも思うのだが、それでも真新しい服の匂いには心が躍った。自分にそんな感覚があることに驚いた。

 もう一つ。着替えたリンデを見たオードが、なんだかリンデ自身と同じような感慨を抱いたらしいことへの違和感だ。前世のリンデがどんな人か知らないはずの彼が、知っているリンデと同じような反応を示す。そのことが不思議だ。

(オード様、まさか私の前世をご存知でいらっしゃる……わけ、ないわよね……)

 自分で打ち消し、服のお礼だけを言う。今更ここで遠慮しても、オードも店員をも困らせるだけだろう。とりあえずこの場では受け取ることにして、オードにもう一度、店員にもお礼を言い、リンデはオードに手を引かれて店を出た。

 不思議なもので、服装が変わると気分も変わる。当然だが、他人からの視線も変わる。ガラスに映り込んだ自分の姿を偶然目にすると、自分でも意外なほど街に溶け込んだ自分が映っていて驚いた。道行く人も、最底辺の生まれの孤児に向けるものとは全く違った視線を送ってくる。

(……とはいえ……オード様の隣を歩くのは、まったく次元の違う問題なのだけど……)

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