5 目覚め
よろしくお願いします。誤字報告ありがとうございます。
カリナが眠りに就いている間に両親は王子の浮気の真相を集め始めた。
しかし令嬢の虚言だけで事実は無かった。一度わざとぶつかりに行って関わりを持とうとしただけだった。アレクサンドル王子は存外馬鹿では無いらしいと残念な思いのシュトレイン侯爵だった。
侯爵は王宮魔術師を辞めた。国に尽くす気持ちは娘を蔑ろにされて消えた。妻と眠っている娘を連れて一度領地に帰ることにした。
怒りで宮殿を吹き飛ばさなかったと自分で自分を褒めておいた。
なるべく早く隣国へ引っ越すつもりだった。この国の領地の運営は親戚筋から真面目な者を選んだ。きっと上手くやってくれるだろう。準備は整っていた。
妻は隣国の公爵家の末娘だった。現在の当主は妻の兄である。行けば伯爵位と領地を分けてくれると言われた。妹が可愛くて仕様がない義兄は姪のことも可愛がっていたので、今回の件は我慢がならないらしい。喜んで迎え入れてくれた。侯爵は領地の運営を上手く行かせてから魔術師に戻るかどうか考え中だ。
魔力が強大とばれると碌なことがない。
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ミーナはどうにかして王子様に近づこうと授業が終わってから、いち早く教室から飛び出していた。しかし護衛が周りを固めていて遠くで見る事しか出来なかった。思い余ったミーナは
「殿下、この間の打ち身が痛いです」
と大声で叫んだ。貴族令嬢が大声を出すのは恥ずかしいとされている世の中で。
アレクサンドルは侍従に何か指示を出し王宮に帰る馬車に乗り込んで帰って行った。
「殿下は打ち身に効く薬を届けよと仰せだ。何処に貼るのだ、申せ」
「ええと、額です」
「では見せてみよ、何ともなっていないではないか。殿下を謀ったのか、手打ちにするぞ」
「ええと、恥ずかしくて言えなかったのですが胸です」
「女性の騎士に確かめさせよう、空き教室について来い」
「もう良いです。失礼します」
「嘘をついたのか、不敬で牢に連れていくぞ」
「嘘ではありません。ですが胸を見せるのは恥ずかしいのでもう良いです」
「高位の令息には見せているのにか」
「な、何を言われているのか分かりかねます」
「殿下に近づくものは徹底的に調べられる。覚えておくことだ」
「申し訳ありませんでした、失礼します」
やっとその場を離れられたミーナは怖さで座り込んでしまった。一部始終を見ていた生徒から話が広まったのは言うまでもない。噂はあっという間に広まりミーナは学園に来るのが辛くなり退学した。
サウザンド子爵家の金鉱山はそれから一年もしないうちに廃山になった。上手く資金を蓄えたのか散財を尽くしたのかは知られていないが、人々の記憶からいつしか消えていった。
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何もかも片付いた頃カリナの中に入った香里奈が目を覚ました。薄らと目を開けると見た事のない部屋だった。
ベッドの側のベルを鳴らすと侍女が急いでやって来た。
「お嬢様目を覚まされたのですね、旦那様と奥様に急いでお知らせしないと」
「その前にお水をもらえないかしら」
「急いで用意いたします」
「カリナ、漸く起きてくれたんだんだね。眠っている間に全部片付いたよ。もう何も心配はない。この部屋は隣国の義兄上の屋敷に手を入れて新しくした。さあ、お腹が空いただろう。軽いスープから持ってこさせよう」
いきなり抱きしめて来た人はカリナ様のお父様だ。イケオジ過ぎる。格好良い。良い匂いがする。
お父様を邪魔にして退かせようとしている儚げな美女がお母様だ。流石あのお姫様にしてこの美人ありだわ。いや反対だわ、この両親であのお姫様が誕生したのね。
「カリナ、やっと目覚める気になったのね。私達の愛しい娘、もうどこにもやらないわ。さあスープを食べたらもう少し眠る?」
「もう沢山眠ったので起きようと思います。歩く練習もしなくては駄目ですもの」
「じゃあ支度をしたら教えてくれるかい?お父様が抱き上げて、暖かいサンルームに連れて行こう」
私は侍女にお湯を持ってきてもらい顔を洗ってから、薄桃色のワンピースに着替えた。髪を梳かす為に鏡の前に座ったがカリナちゃんだ。
相変わらずの美少女。何が不服でこの可愛い子を忘れたのよ、ボケナス‼
いけないわ、もう全て片付いたとイケオジのお父様が仰っていたじゃないの。忘れなくては。
眠っている間に身体は十四才になっていたが、ワンピースもそれに合わせて沢山用意されていた。色とりどりだ。愛されてるなカリナちゃん。少しだけ身体をお借りしますねと心の中で呟いた。
「まずはお茶をお飲みなさい。お菓子も用意したけど今日は少しにしなさいね」
「はい、お母様」
「疲れたら言うのよ」
「無理を言って眠らせていただきお父様にもお母様にも感謝しております。おかげ様で心がすっきりいたしました。何も考えずに眠れてとても良かったですわ。白い世界に行き神様から幸運の加護を受けましたの」
「そんな事が起きるなんて、貴方、神様が見ていて下さったのですわ」
「ああ、これからは悪い事は起こらないのかもしれないな」
「幸運を使って我が家に幸福を呼び込みますわ」
「カリナが起きたことが幸せだ。無理をしなくては良いのだぞ。また三人で食事をしたりお茶を飲むことが出来るなんて奇跡のようだ」
それからカリナ(香里奈)は眠っている間に起きた事を聞き、軽い夕食を食べて身体強化の魔法を掛けてゆっくりお風呂に入った。これから何をしようかと考え始めた。
ミーナのざまあが緩いと思われた皆様、後編で出てきて同じ事を繰り返すので罰を受けます。
安心(?)して下さい。