1神の庭の出会い
どうぞよろしくお願いします。沢山の作品の中で見つけていただき感謝に堪えません。
大人の童話のつもりです。こんな奇跡が起きると良いなと思って書きました。
気に入っていただけると良いのですが。
香里奈は親からネグレクトを受けていたが、離れて住む祖父母に引き取られ過保護なくらい溺愛して貰えたので捻くれずに真面目な女の子に育った。気がついた時、親は香里奈のことには全く興味がないのだと気が付いて随分と傷つき寂しい思いをした。
友達の家はお父さんとお母さんがいて普通の家庭というものが随分羨ましかった。いつも心の中に穴が空いている様な気がして過ごしていた。
そのあと妹が二人も生まれたが自分の居場所はそこにはなかった。彼らだけが家族だった。親に愛されなかったのでお母さんともお父さんとも自分が結婚するまで呼ぶことが出来なかった。義両親をお義父さんお義母さんと呼ぶのだからと無理やり納得させようやく口に出すことが出来た。
普通の家庭に憧れていた香里奈は結婚をし子供を産んで亡くなったのだと思う。
☆☆☆☆☆
気がつけば白い霧の中で膝を抱えて座って泣いていた。身体は十三歳くらいに戻っていた。気が済むまで泣いた香里奈は辺りを見回した。いつの間にか超絶美形の神様らしき人が側にいた。
「ここは天国なのでしょうか?」
「まだ天国ではないよ。ここは神の庭だ。もう一人泣いている娘がいてね君に会わせたい。その子も思うことがあってどこにも行けないでいる。思い残すことがない人生が送れたら輪廻の輪に乗ることが出来る」
「私は普通の人生を送ってきました。思い残すことなんて無いと思うんですが」
「寂しさから逃れられなくて泣いていたじゃないか、もう一人の彼女を紹介するよ」
神様が紹介してくれたのは中世のお姫様だった。顔は小さく緩やかなウェーブのブロンドの髪に、緑色の瞳は大きく睫毛は烟るように長い。細い腰に形のいい胸、脚も長くドレスも上等のものだと分かる。AIで描かれたお姫様のようにこの世のものとは思えない美しさだった。
「彼女は長く婚約者がいたのに、彼が突然無関心になったそうだ。ずっと約束を破られ続けとても傷ついて自分の魔力で眠りに落ちている。自分で起きる気にならないと目を覚まさず亡くなって永遠に魂だけが彷徨うんだ。危険な魔術なのに平気で使ってしまった。こんな事は初めてで驚いてしまってね、魂が共鳴する君がいたから二人を引き合わせてみたんだよ。どうかな、彼女の両親は温かい人達だよ。幸運の加護を与えるから器だけ替えて人生を少しだけやり直してみてくれないかな?」
お姫様はとても悲しそうに香里奈を見た。儚げで守ってあげたくなった。
「私なんかの人生をお姫様が生きてくださるのですか?」
「全く同じにはならないと約束するよ。違う世界がお互いにいい影響を及ぼすかも知れない。やってみてくれないかな」
香里奈はお姫様を助けたいと思ってしまった。こんなに可愛いお姫様を捨てて無関心になるクズをやり込めてやりたいと思った。
「幸運の加護をくださるんですよね?必ず役に立ててクズを地獄の底に叩き落としてやりますよ」
「君は頼もしいね。記憶は向こうの世界に行ってから入ってくるようになっているから、何の心配もないよ。それでは宜しくね」
「お姫様、頑張りますからね。私の名は香里奈です」
「私もカリナなの、あなたの幸せを祈っているわ。私は自由を味わってみたい」
「お互いに幸せになってもう一度ここで会いたいですね。それまで頑張りましょう。神様宜しくお願いします」
「ああ、それでは二人に幸運の加護を」
☆☆☆☆☆
香里奈は夢を見ていた。これはカリナの記憶だ。
五歳の時高位貴族令嬢と令息を集めたお茶会が王城で開かれた。体の良い婚約者候補探しと側近探しのためのお茶会だった。王子様は十歳、七歳、五歳の三人だった。王女様は三歳だった。
公爵家が五、侯爵家が十、伯爵家は二十。王子様や王女様の誕生に合わせてそれぞれ子供を誕生させているので数としては充分でまさか五歳の娘が婚約者候補に選ばれると思っていなかったカリナの両親だった。しかし油断は出来ないので挨拶だけしたらさっさと連れて帰るつもりだった。
カリナは一人娘でどこにもやらず婿を取って側においておくつもりだった。結婚三年目でようやくできた可愛い娘だったのだから。
魔力の多い父親はなかなか子供が出来にくい体質だった。
カリナは宮殿に来ることが初めてだった。真っ白な壁と金色の蔦の模様や大きなステンドグラスの天井、全てキラキラしていて侯爵家とは違っていた。
何より興味を惹かれたのが美味しそうな王宮のお菓子だった。
「おかあさま、ごあいさつがおわったらあのおかしいただいてもいいでしょうか?」
「今日はあまりにも人が多いからご挨拶が終わったら直ぐに失礼しようと思うの。お菓子は帰りに街で評判のお店で買ってあげるから我慢してちょうだいね」
「わかりました、こうしゃくけのシェフのおかしもおいしいからまっすぐかえりましょう。おかあさまおつかれみたい、かおいろが良くないわ」
「優しいわね、ありがとう。評判の店のお菓子はメイドに買ってきてもらいましょうね」
「サマンサ、本当に顔色が悪いな、早く帰ろう。陛下に一言申し上げて来るから失礼しよう。カリナ、お母様を少しの間頼めるかい?」
「まかせて、おとうさま」カリナはお母様の冷たくなった手を握った。
お父様はすぐに帰って来てお母様をお姫様抱っこをして馬車まで連れて行った。私は会場の中に控えていた騎士様に抱っこされて馬車まで連れて行ってもらえた。こうして初めてのお茶会は幕を閉じた。まさかこの後思いもかけない事が起きるなんて誰も予想できなかった。