2人目 Ⅹ・カラマイア 起
………まただ、何処かから視線を感じる。
「………」
周りを見渡しても誰も余を見ていない。
では…何処から?誰が?
△ ▷ ▽ ◁ △
彼は今、とある学校の試験に合格し、暇を持て余している。
入学後、最初の授業が始まるのは、遂に明日からだ。彼は、クラス内でどんな風に振る舞うかの研究をしている。
彼の候補としては、インテリ、厨二病、不思議キャラ、紳士などがあり、かなり幅広く自分のキャラについて考えていた。
因みに、彼について詳しく言えば、名前をカタバ・コンクルードといい、魔王の直系の子孫である。
身の丈は180程、年齢は17歳、マゼンタの髪色、種族は多分人間である。
▲ ▶ ▼ ◀ ▲
やはり…誰もいない。これはおかしい。
確かに何処かから視線を感じる。
「まぁ、今に始まったことではないが…」
学校で用意された寮に住み始めてから、視線を感じることが度々ある。
それは街中や廊下、食堂であれば別に気にすることもない。しかし、この部屋で視線を感じるのは居心地が悪い。
気づいていないフリを継続していれば、相手側からボロを出すのではと考えてはいる。
だが、一向にその正体を明かさないので、そろそろ痺れを切らしているのもまた事実。
さて、そろそろ正体を暴きに行こうか。
………その前にトイレだ。
△ ▷ ▽ ◁ △
彼はトイレに向かった。
彼のトイレはいつも長い。此方からすれば、これ程何も出来ない時間はない。また、風呂も同様だ。
10分程度経過して、彼はトイレから出てきた。
彼の観察を始めてから3日が経過しようとしているが、毎回10分程かかっている。彼は腹の調子でも悪いのだろうか。
彼は寮の部屋から出て、別の人の部屋に向かったようだ。
そして、ある扉の前に立ち止まった。
彼の部屋は、2階建ての寮(屋敷C)の中の一番上の階、その右端に位置する。
そして彼はベルを鳴らし、その部屋の住人に自分が来たことを伝えた。
数秒後に扉が開かれ、彼はその部屋の中へ入った。
………今日はこのくらいにしておこう。
「彼についての情報は、かなり得ることができた。もういいだろう。明日から学校が始まる。今日の残りの時間はその準備に充てよう」
…が、もう少しでお昼になる。食堂に行ってからでも、明日の準備は出来る。まずは食事を摂り、腹を満たそう。
ガチャッ
一階の右端の部屋から、食堂に向かう。
「食堂は同じく1階、寮の玄関から入って、曲がらずまっすぐ進むことで着く」
独り言をブツブツと言っているうちに、目的の場所へ到着した。
ここの料理は、思わず舌鼓を打つほど美味しい。
「今日は…オムライスでも食べよう」
そして、メニュー表の前から移動し、彼の下へ向かった。
「いらっしゃい。今日は何を食べるんだい?」
「今日はオムライスをお願いします」
「いつもみたいに、大盛りで?」
「ええ、そうしてくれると助かります」
「じゃあ、オムライスができるまで適当なところへ座っててくれ」
「わかりました」
彼はこの寮の料理長。褐色の肌と、その長身が特徴的な男性だ。
いつも通り、食堂の一番端の席に腰を落ち着ける。
まだ、人の量は多くない。私を含めても、片手で数えられる程度だ。
食事を待っていると、食堂の扉が開かれた。
私が観察しているカタバと、そのお隣さん。計3名で食堂に来たようだ。
▲ ▶ ▼ ◀ ▲
「あ…見つけた」
食堂に向かった我々は、怪しいと思っている人物を早速見つけた。
腰の辺りまで伸びているであろう、綺麗な鶯色の髪。そして、余と同じ赤色の瞳。整った顔立ち。
彼女の名前は、カラマイア・N・クロスというらしい。
一緒に行動している、ハルルという男に教えてもらった。彼はどうやら、誰かの正体を暴くのが得意らしい。
恐らく、彼女が余のことを監視しているであろう人間だ。
彼女の下へ一直線に進もうとしたところ。ハルルと、その同居人のウリキドという男に止められた。
「ちょっ、ちょっとまってよ」
「何故止める?彼女がそうなのだろう?」
「いやいや、まだ確証も無いし、もっと慎重にいこう?」
「そうですよ、まずはメニューでも見に行きましょう?」
「……わかった」
目の前に犯人が居るというのに、どうしてこんなに回りくどいことを?直接確かめに行けば良いだろうに。
メニューが書かれている場所まで移動し、それぞれの注文するものを決めた。
「僕はナポリタンにしようかな…」
「私もナポリタンにします」
「……オムライスに決めた」
「おじちゃ〜ん!」
注文を終えて、彼女の隣の席に向かった。
2人の静止命令は余の耳には届かない。
「隣、失礼する」
「あ…どうぞ」
△ ▷ ▽ ◁ △
隣に来た。どうしてなのだろう。
食堂はまだ空いているのに、何故隣に?
「はい、オムライス大盛りお待ち!」
「ありがとうございます」
取り敢えず、お腹を満たそう。
「いただきます」
隣から常に見られているような気がする。
相変わらず、ここの料理は美味しい。
「……余も、オムライスを頼んだのだ」
「…あ、そうなんですか」
話しかけられた。どうして急に?
昨日や一昨日は、普通に過ごしていたのに。
「美味いのか?」
「はい…とても、美味しいですよ」
「そうか…」
さっきから何なのだろう。
腕を組みながら隣に座っている彼、カタバ・コンクルードが、積極的に人と会話しているような所はここ数日の観察では見られなかった。
どうして急に?
「なぜ、今まで接点が全く無かったのに、こうして積極的に話しかけてくるのか、気になるのではないか?」
どうしてそれを?まるで心でも読まれたかのようだ。
「かのようだ…ではない。読まれているのだ。ただ、対象の半径1mの付近まで近づかないといけないがな」
心が読めるのか。まあ、対して驚くことでもない。
取り敢えず今落としてしまったスプーンを拾おう。
「……余が、新しいのに取り替えて来よう。渡すと良い」
▲ ▶ ▼ ◀ ▲
落ちたスプーンを手に料理長の下へ向かう。
「すまない、彼女が余に驚いて落としてしまった。綺麗なスプーンと取り替えてほしい」
「おお、そうか!よし、ちょっと待ってろよ。綺麗な物を持ってくる」
「うむ」
…………………めっちゃ、可愛かった。
あぁ、勘違いするなよ?料理長ではなく、彼女、カラマイア嬢だ。
隣に座ったのは良いものの、頭の中は真っ白になっていた。本来の目的を忘れ、変なことばかり喋ってしまった。今度こそ、何故余のことを監視していたのか、問いたださねば。
「ほれ、持ってきたぞ」
「感謝する」
さて、彼女の下へ戻ろう。
何故余の名前を知っているのか、どうやって監視しているのか、好きなタイプはなんなのか、聞き出してやる。
「先程は驚かせてしまい申し訳ない。新しいスプーンを貰ってきた」
「あ、ありがとうございます」
また右隣に座り、食堂内をぐるりと眺めていると、二人の元へ、ナポリタンが届けられていた。
そろそろ、余のオムライスも届くことだろう。
「…なんだ?」
今は心を読む力をOFFにしている。常に声が聞こえては、鬱陶しいことこの上ないからな。
「いや、左目の目尻にホクロあるんだなって思って…」
「ああ…これは、遺伝なんだ。父も祖父も、同じところにホクロがある」
「ふ~ん」
そんなに変なのか?
…いや、普通だと思うがな。余以外にも、目元にホクロのある人間はいるだろう。
「じゃあ、私が貴方の子を産んだら、その子も同じ位置にホクロがあるのかな?」
「あ、ああ、そう…なるんじゃないか?」
……急に何を言い出すんだ?いや、最近の子って皆そうなのであろうか?ハルルやウリキドも、いや、主にウリキドが何故かそういう遺伝云々の事情に興味津々であった。
辺境から来た身の上、あまり身内以外の人間と話す機会もなかった。機会があるとすれば、たまに此方に訪れる商人やパルファム公爵くらいだろう。
父はその公爵と何らかのコネがあるようで、いつも下手に出ていたことを記憶している。
まぁ、ある年を境に姿を現さなくなったがな。
彼は余と同じくらいの年頃の娘がいると言っていたが、その言葉が正しければ、もしかしたら同じ学校にいるのかもしれない。
そういえば、父はその公爵に対して、血の入った小瓶をよく渡していたな。
あれは一体何だったのだろう?
「はい、オムライスお待ちどうさん!」
「うむ、感謝する」
さてと、一体どれほど旨いのか。
「いただきます……今度は何だ?」
また見つめられた。何か気になることがあるのだろう。彼女は余と同じ赤色の目を持つ。見つめられる側に立って初めて気がついたが、赤い目に見つめられると何だか威圧感を感じてしまう。
だからなのだろう。他の合格者と交友を謀ろうとして、ことごとく失敗に終わったのは。
「コンクルード家でも、いただきますは言うのね」
「何を言っているんだ?当たり前だろう」
余の家系にどんな偏見を向けているのだろうか?
だが、そういった偏見を持つのも仕方のない事か。
余の先祖は魔王と呼ばれた男なのだから。
コンクルード家を知っていれば、その事実も当然知っていることだろう。余が次代の魔王になるやもと、そのように考える者をチラホラとこの寮で見かけた。まぁ、成れるのなら成りたいがな。
うむ、確かにこれは絶品と言えよう。
「ごちそうさまでした」
「むぅ…かなり早いな。大盛りを頼んだのではなかったのか?」
「うん。大盛りだよ」
彼女はそう言うと、そそくさと食べ終わった食器を片付け、食堂を後にした。
「…余は、また聞きそびれてしまったな」
気がつけばあの2人も、いつの間にか食べ終わり、食堂から出ていたようだ。
「……暇になってしまったな。本の一冊でも持ってくればよかった」
1人黙々と食べ進め、残り三分の一になった頃合い。見知らぬ人間に話しかけられた。
蒼く短い髪に、黄色い目、耳には剣を模したイヤリング。余と同じくらいの背丈。そして、一見男性のように見える風貌。
……セブル家か。
「貴方も1人かしら?」
「…………ごちそうさま」
席を立ち、食器を片付け………ようとしていたのだが、肩を掴まれ止められた。
「ちょ、ちょっと!無視は酷くないかしら?」
「何用だ?余は忙しいのだ。手短に要件を述べよ」
「一人称…余なんだ」
「特に要件が無いのであれば、これで失礼させてもらう」
「あっ!ちょっと!」
「……知らないようなら教えてやろう。余に近づきすぎると…」
「心を読まれるんでしょ?それくらい知ってるわ」
「…………」
「そ、そんなに迷惑そうな顔をしないでくれない?それで、要件なのだけれど…」
「早く言え」
「そんなに急かさないでもらえるかしら?」
「早く言え」
「あっ、また!もう!」
「では、改めて問おう。なぜ、余に話しかけたのだ?」
「貴方が魔王の子孫だって聞いたわ」
「いかにも」
「だから、勇者の子孫について…ビギニング家について詳しく知らないかしら?」
「……すまないが、話はこれまでだ。余は助けになれん」
「なっ、なんでよ?第三者に漏れてはいけない情報でもあるのかしら?」
「別にそのようなものではない。余は、いや、コンクルード家は…」
「コンクルード家は…?」
「ビギニング家を認識出来ないのだ」
「え?」
「存在しているというのは認識出来るのだが、そのビギニング家の人間だけはどうにも認識が出来ない。透明人間とでも言えばわかりやすいのか」
「それって…どうして」
「まぁ、呪いの後遺症とでも言っておこう」
「そう…」
「つまりは、餅は餅屋だ。直接聞きに行くのが手っ取り早いだろう。この寮の中には、居るらしいからな」
「確かにそうね。ありがとう、話に乗ってくれて」
「大したことはしていない。…もしも、目的の人間に会えたら、どういう人物か教えてくれ」
「ええ!約束するわ。また会いましょう」
そう言うと、彼女は食堂を後にした。
「そうだった、食器を片付けねばならぬのだった」
△ ▷ ▽ ◁ △
今考えると、かなり変な事を彼に聞いた気がする。
今更恥ずかしくなり、部屋のベッドの上でジタバタと動き回り、後悔している。
いつも自身の興味を優先してしまうので、こういうことはよくある。だが、性に関する質問は今回が初だ。
「まぁ~た荒ぶってるニャ。どうせまた後先考えず自分の興味を優先してして質問してたニャ」
「……うん。遺伝についての質問をした」
「あぁ~…なんかもう大体分かったニャ」
彼女は私のルームメイトである。別に猫耳があるわけでもない。尻尾も生えてない。本人曰く、キャラ付けとのこと。
そして恐らくは彼女は純粋な人間ではない。
彼女の名前はクスル・グクス。
いつも目が細く、目の色は見たことがない。彼女曰く、自身の目がコンプレックスなため、わざと目を細くしているらしい。……気になる。
身の丈は160と幾らか。見た目の割に力が強く、よく重い物を持ってくれる。髪色は黒で、赤いインナーカラーが入っている。
そして、八重歯が可愛くて羨ましい。
「………明日の準備しよ」
「切り替えが早いのは良いことニャンね〜」
「貴方は準備をしなくてもいいの?」
「後でやるニャ」
「相変わらず面倒くさがり」
とは言っても、何が行われるかは分からない。
彼女の様に、何も準備していなくともなんとかなるのかも。
少し時間が経ち、一通りの準備が終わった。
「よし…」
「そういえば、監視はまだしてるニャ?」
「監視じゃなくて観察。仕事だもん、勿論続けてる」
「クロス家って大変なんだニャ〜」
「結構面白いけどね」
「………それってどこまで見てるニャ?」
「トイレやお風呂は見てないよ」
「ニャ~んだ」
「プライベートな所は見ない」
「………何をプライベートと考えるか、人それぞれだニャ。ニャーは口出ししないニャ」
「何か変なこと言ってたかな?」
「何にも無いニャ〜」
「ならいいけど」
後は何をして過ごそう。今日はもう特にすることが無い。
「………お散歩してくる。貴方も一緒に来る?」
「暇だし、行かせてもらおうかニャ」
部屋を出て階段を上り、2階へ向かった。
目的地はカタバの真正面の部屋。
ベルを鳴らしてその人を呼んだ。
「ヴィルさん、カラマイアです。暇なので相手をしてください」
すぐに声は返ってきた。
「鍵は空いています。入って来てください」
「失礼します」
扉を開けて、部屋の中に入った。
出迎えてくれたのは、ヴィル・ナクトという人だ。
「相変わらず何もない部屋ニャ」
「物欲は無いので」
「逆に他の欲はあるニャ?」
「………」
ヴィルさんの性別は分からない。どういう外見なのかも。どうやらヴィルさんは封印されている状態らしく、かなり昔から生きているとのこと。
この人を初めて見たときは、解れた黒い毛糸玉を連想した。
そして【さとり】を保持しており、心を読める。
こんばんは、ヴィルさん。
「こんばんは、カラマイアさん」
「ニャ?…っあ〜」
ここで夜になるまでのんびり過ごそう。
▲ ▶ ▼ ◀ ▲
「明日からか…楽しみだな」
「うむ、余も胸が高鳴っている」
今は昼食を摂り終わり、何時間か経過した頃合い。既に夕食も食べ終わっている。
部屋に女子しか居ないから気まずい、ということで、ヤクイという人間が余の部屋に訪れている。この男とは波長が合う。同じクラスだと良いなと、唯一思っている。
体躯は余より少し下。黒い髪、焦茶色の目という珍しい組み合わせだ。年の功は余より1つ上、18とのこと。
「今日も模擬戦を頼みたい。出来るか?」
「モチのロン。俺も模擬戦好きだし」
この男の言動には少々癖があるが、慣れてしまえばそれもまた一興というものだ。
「んじゃっ、ホール行くか」
「うむ」
「どっこいしょと…」
それから余とヤクイ殿は部屋を後にし、ホールへと向かった。
位置としては、1階に食堂、2階にホールといった具合だ。
「さてと…準備運動はすんだ?」
「ヤクイ殿はもっと体を解したほうが良いのではないか?前回負けた言い訳が、ストレッチをあんまりしていなかったから、であっただろう?」
「確かにな〜、んじゃあ!今日は真面目にやるために、もっとやるか〜」
ヤクイ殿は体力を使い切ってから休憩を挟むと、異常なほど体力が上がるらしい。本人が言うにはランナーズハイの様なものだという。
ヤクイ殿の体力が切れるまで何もせず待っているのも退屈だ。であれば…走り込みをして、体力を減らそうとしているヤクイ殿に魔法を乱発させてもらおう。
余は命中率の向上を、ヤクイ殿は回避率の向上を謀れるということだ。
「しっかりと避けるのだぞ!」
「え?何が?って、うわっと危ない!」
「このほうが早く体力も無くなるだろう?それに、お互いに成長が出来る。一石二鳥と言うやつだ!」
「……なるほど!理解はした!」
「何か不満か?」
「本戦のMP残しておけよ!」
「当たり前だろう。ここで使い切っては本気で戦えない!」
「うわっ!魔法がホーミング式に切り替わった!さては言われるまでMP気にしてなかったな?」
「ああ!実はな」
「素直…」
そうして20分程が経過して、やっと体力が尽きたようだ。この体力馬鹿め。
「ぜぇ…はぁ…きゅ、休憩」
「手でTを作っているが、それは休憩の合図なのか?」
「まぁ…そんなところ」
すると不意に、ホールの扉が開いた。
そこへ目線を向けると、ハルルが立っていた。
「すみませんが、私も参加しても良いですか?」
「ああ、ちょうどいい!たった今準備運動が終わったところだ!ところでどうしてここへ?」
「ウリキドが寝てしまって暇になったのですよ」
「もう?早くないか?」
「その分早く起きれるとのことでした」
「そういうもんなのかな?」
「余に聞かれても困る」
それからしばらくして、ヤクイ殿の体力が回復した。どうやら足取りが軽そうだ。
「よし、やるか!」
「私も体が温まってきました」
ハルルはシャトルランなるものをしていた。
余が60のカウントをしていた辺りでリタイアして、先程まで休憩していた。
なかなか楽しそうであった、今度余もやってみよう。
「では、始めようか」
「うわすげぇ!ラスボスっぽい!」
「意識している訳では無いのだがな…」
「では、私が開始の合図をしますね。3…2…1…始め!」
すぐさま距離をとって、初撃の対策をする。
「くそ!」
案の定ヤクイ殿が仕掛けてきていた。
余がいた位置に氷の柱が建っている。
「私に仕掛けるべきでしたね!ヤクイさん!」
なんと!ハルルは模擬戦初参加のため、どのような攻撃をするのか分からなかったが、魔法剣を使うタイプのようだ。
何らかの炎魔法で、剣を象っているそれをヤクイ殿に向かい振るった。いや、投げた?
「うぅ〜わ!またホーミングだ!」
「高みの見物をしていると、その首が飛びますよ?…てか貴方も飛べるんですか?」
「馬鹿を言うでない!飛べるわけがなかろう?『バリア』を足元に出しているのだ」
「なるほど…それは器用ですね!」
「ふん!魔法剣を飛ばしてきたとて、それもただの魔法であろう?ならば『バリア』で対応可能だ」
そして、ハルルが飛ばしてきた雷の魔法剣を『バリア』で防ごうとしたところ、ヤクイがこちらに向かい何かを叫んだ。
「【変換】『日本刀』!」
「ニホントウ?何だそれは………なっ!」
これは魔法ではない!物理による攻撃だ!それは『バリア』では防げぬ!
クソッ!『バリア』をすり抜けおって!
……であれば。
「『固有 停止』!」
ふぅ…危ない。あと数cmで余の肌に到達していたぞ。
そして、止めたニホントウを掴み余の魔法でより扱い易いものへと換えた。
「『固有 トレード』、MP!」
「回復してるんですか?」
「便利であろう?」
……ニホンか。
「俺も負けてらんないな?うおぉぁぁあ!」
おお!先程から追尾していた魔法剣を正面から受け止めた!
「白刃取りしてる!凄いですね!」
「アッツゥ!【変換】『空気』!」
「………はい?」
「ッフハハ!期待以上だ!空気にして消すとは…なかなか頭が切れるようだな?」
「それじゃあ!ハルルにお返しだ!『煙幕』!」
「…ただの目眩ましですか?ならば身構える必要もありませんでしたね」
「あっはははっ!ずっと考えてたんだ!こうしたらどうなるのか!こういう魔法を【変換】したらどうなるのかを!」
「えっ?ちょまっ…」
「【変換】『電撃』!」
「グアアァァ!」
………と、咄嗟に『煙幕』から外れてよかった。
余の立ち位置は依然変わりなく、高いところで『バリア』で足場を作り、そのままではすり抜けてしまうので魔法で靴を作って立っている。
これがなかなか、集中力の必要な業でかなり疲れる。
「……カハッ…」
「どうだ!?なかなか良い範囲攻撃だっただろ?直撃したら流石にキツ…」
「『固有 変身』!」
ほう?ハルルがそう言い放ったかと思えば、瞬きをしているうちに姿が変わっていた。
「余は…この学校を選らんで正解だったな」
「ハルル?その姿は?」
〘前までは、羽毛の生えたドラゴンにしかなれなかったけど、今では鱗の生えたフェニックスに変身出来るんですよ!〙
ヤクイは、ハルルが変身出来ることを知っていたらしい。確かこの2人は一般枠での入学試験であったな。
その時に、お互いの使う魔法を大体理解していたのかもしれぬな。
それにしても…あの姿…昔読んだ本に載っていた気がするな。
「余の存在を忘れてもらっては困るぞ!『固有 停止』!」
「ぐっ…動けない。口は動くのに…どういう原理なんだよ…」
〘新形態なのに…見せ場がぁ……口は動くということは?〙
「ゆくぞ!『魔法の王』10%解放!『ダークスピア』!」
〘『ドラゴニクス・オーダー』ウリキド!〙
次の瞬間、瞼が意味をなさないほどの眩い閃光と共に彼は姿を現した。
光が収まる頃には、余の出した魔法が、余に向かって来ていた。
「もぅ〜…寝てたのに。どうしたのぉ?」
〘すみません…つい〙
「『バリア』!ッグゥ゙、重い!」
……まさか、自分自身に殺されかけるとは…思ってもいなかった。
「ふむふむぅ?この状況から察するに…カタバくんとヤクイくん、ハルルくんの3人で模擬戦をしていて、カタバくんが優勢だったんだねぇ」
やはり…このウリキドという男は全く隙がない。
視線を戻すと、ハルルが人間の姿に戻っていた。
「やっぱり、ウリキドって規格外だよな?」
「ああ…余では膝下程度だろう」
「足元よりはあるのな?」
「んじゃぁ、悪いけど今日はここまでにしよう?」
「ええ~…良いところなのに…」
「明日は学校でしょぉ?」
「ぐっ…」
「歳下に正論を言われてる…」
「聞こえてるぞハルル」
「まぁ、よいか。大体の強さ順は分かった。ここに居る4人のな」
ウリキド≫余≧ヤクイ>ハルルといった感じであろう。………化け物め。
そして、4人はホールを後にした。ウリキドは部屋に戻り、残りの3人は共有の浴場へ向かった。
「ふぃぃぃ…やはり運動したあとは風呂だな〜」
「おっさんみたいですね」
「あんたが年長だ」
「ヴッ…」
「ははっ、自爆してやんの」
「そういうヤクイ殿も、余より歳上であろう?」
「グッ…」
「さっきの言葉お返ししますよ」
「お?お返し合戦でもするか?」
さてと、あとは寝るだけだ。遂に…明日から学校が始まるのか。
そして風呂を上がり、それぞれが部屋に戻った。
「何かのキャラを演じようとしていたが、それはもう良い…余を出していこう…」
ベッドに横になりそう呟いた。
「観ているのだろう?一方通行だが……おやすみ。寝坊するでないぞ?」
△ ▷ ▽ ◁ △
「……貴方もね…」
「ニャ?何か言ったニャ?」
「何も言ってない。おやすみ」
「おやすみニャ〜」
部屋の灯りを消し床についた。ナイスファイト。