1人目 エピローグ 100年ぶりの2者面談
本日は、寮生活2日目だ。
「準備はできた?俺はいくらでも待つ自信あるけど」
「そんなに…待たせないよ…でも…もう少しだけ待ってて」
今日はお出掛けだ。
ラフアンと共に街を散歩する予定だ。下見は昨日のうちに済ませたし、脳内シミュレーションもバッチリ。何も問題がない。
「よ…よし!これでいい…よ!」
彼女は今日の服装を、昨晩のうちから悩んでいた。
どうやら結局、黒いワンピースに落ち着いたようだ。別の部屋に行って着替えては、またこちらの部屋に戻り、姿見で自身の姿を確認する。
その繰り返しを延々と眺めるのも、楽しいと感じた。そんなに服持ってたんだ、とは、心の中で密かに呟かれた言葉だ。
「うん!似合ってるよ」
なんかこう…もっと語彙力というか…何か言えればなぁ。相手に最低限だけ伝えられれば、それで良いという心情のもとこれまでの人生を歩んできた。それが、今となってしっぺ返しだ。
「ありがとう。ヤクイさんも…似合ってる」
先日の下見の際に、一式買ってきた。下見中に、自身の服が制服と執事服しかないことに気がつけてよかった。
………いや、制服で外出をすることにより、学生気分を存分に味わえるのでは………
また今度、ラフアンを散歩に誘うか。
「…うし!早速街に下りようか。エスコートはあんまり期待しないでね」
「うん。大丈夫だよ」
そして、身支度を整えた2人は街へと向かった。
今は、予め目星をつけていた所を周っている。食べ歩き最高!朝食を抜いたからか、さらに美味しく感じる。空腹は最高のスパイスだとは、よく言ったものだ。まさにその通りだ。
「この串うま!もう一本買ってこよ…」
「あっ…自分のもお願い…」
「オッケー。おじさん!串2つおかわり!」
先程からモグモグしているのは焼いた鶏肉に串を刺したもの。ようは、焼鳥だ。因みに、ここの屋台のメニューはモモのみ。…ネギマ食いてぇ。
そして、次の場所へ足を進めた。
焼鳥の次は、そのまま餃子のような食べ物を売っている屋台に向かおうと考えていたが、ラフアンが道中で気になるものを見つけたようだ。
「クレープだ…美味しそう」
「よし、買ってくる」
「え!あ…いや、気にしないで…」
「いいよ、いいよ。シンプルに俺が食いたくなっただけだから」
「あ、じゃあ…自分のも欲しい…です」
「おけ!ちょっと買ってくるわ」
この世界の食文化は、元いた世界とあまり変わらないみたいで、どれも初見ながら拒絶感は無い。
早々にクレープを食べ終えて、街の中を適当に2人で歩く。
「こうして…ゆっくり過ごすのも…いいね」
「うん。今度また一緒に散歩しない?」
「うん…する」
「やった〜」
お昼になり、適当に入った飲食店が人でごった返しになっている中、個室に案内された。どうやら、テグルマニス学校の生徒は、VIP対応らしい。
まぁ確かに、この街の位置取りを考えると、学校が領主の家で、この街がその領って感じだもんな。
そういえば、この街の管理をしている人は誰だろう?領主がいると思うんだよな。
「へぇ~!天ぷらなんてあるんだ!」
「自分…天ぷら食べたことない…です」
「よし。せっかくの機会だし、俺は天丼頼むことにした」
「……天ぷら蕎麦ってのにしようかな」
「おっ!いいねそれ」
そうして、店員さんに注文をして、あまり待たずに注文した品が届けられた。揚げたての天ぷらは、何気に初かもしれない。ラフアンの天ぷら蕎麦も美味しそうだ。
おしゃべりしながら食べると、一瞬で丼は消えた。美味しかったし、程よくお腹に溜まった。正直、胃もたれを起こしてしまわないか心配だったが、余裕でぺろりだ。
それから店を出て、街の中心に向けて足を進めている。先日の下見の際に、綺麗な噴水のある公園を見つけているので、少しの間だけそこのベンチにでも座りながらゆったりと過ごすつもりだ。
気がつけば、噴水の所まで来ていた。友人との会話は、時間と疲れを忘れさせてくれるから、とても有難い。
2人で同じベンチ横並びにに座った。少し空いたお互いの隙間に、心の距離を感じる。いつかは、もっと近くに座れるのだろうか。女性が苦手でも、親しく成れればそれが可能なのだろうか。
くだらない事を考えていると、彼女から声が掛かった。
「見てあれ…!凄いね…」
どうやら噴水がパフォーマンスを披露していたようだ。俺はくだらないことを考えているうちに、見逃してしまっていた。
「もう一回見れるかな?」
「見れると思う……けど、見れなかったら…また来よう?」
「………うん」
さてと、せっかくのお出かけなんだ。変な事考えてないで、楽しまないとな。
…お!噴水が…確かにこれは凄いな。
ふと横を見ると、噴水よりももっと綺麗なものが見えた。
「本当に…綺麗…」
「ああ。かなり綺麗だな」
やはり、男は単純だな。……俺が、靡きやすいだけかもしれないが。