1人目 Ⅴ・ヤクイ 転
その書き置きの内容は、たった2文字。
「私のものには合格…と書いてありますが…皆さんは?」
「俺も…だな」
「ぼ、僕のやつも…」
ヴィーン……
今度は服が出てきたようだ。
それぞれの手前まで運ばれた。
「これって、制服だよな?」
「ええ、そう見えますが…」
「僕たちってもう、入学を認められたってことで良いのかなぁ?」
ジ…ジジ……ブォン…
うわ、何か急に人の立体映像が出てきた。って、王様だ。
[合格おめでとう!!君たち3人は一般枠の合格者だ!本当はあと1人いるけど、遅刻してるらしくてね。ああ、紹介が遅れた。現国王である、ニギ・ナフカードだ]
「わぁ!王様ってこういう人なんだぁ!僕初めてみた」
[そうだな、初めましてウリキドくん]
「わぁ!初めまして王様!」
初めてこの人の名前聞いたな。それと、一昨日とは違って真面目モードっぽい。
[それでは、その服に着替えてくれ。2次試験を始める]
「2次試験?」
「皆さんはご存知でしたか?2次試験なんてものがあるのを」
「しらんよ。初めて聞いた」
「僕も知らないなぁ」
[俺も2次試験は初めてだな]
なんでだよ。
[今回から導入したからね。今後、一般枠の1次試験をクリアした者には2次試験を受けてもらうようになったからね。ささ、時間を取るからちゃちゃっと着替えちゃいな]
ガサゴソ……
おお!軽いぞ!制服は動きづらいものとして認識してきたが、これは違う!超動きやすいし、着心地もいい!最高じゃん!
[おお!皆似合ってるぞ]
俺は鈴と同じ赤色ベースの制服だったけど、他の人もそれぞれの鈴の色が基本になっているようだ。
[どうだ?サイズは合ってるか?]
「私は問題ないです」
「俺も大丈夫だな。ウリキドも大丈夫そうか?」
「うん!心配ご無用、シンデレラフィットしてるよ」
「よかったな」
[ではこれより2次試験を開始する!!準備はいいな?それでは、内容を発表する]
ゴクリッ……
[その内容は、今から俺がお前たちを牢獄に【移動】させる、そこから協力して出てこい。細かいことは後で伝える]
え?
[では、有無を言わさず【移動】!!]
ヒュンッ……
なっ、何処だここ!
「ここが牢獄なんですか?何にもない、ただ空間が広がっているだけのように見えますが」
他の人もいるのか。良かった。
「ここ…来たことある」
「本当かい?こんなところに来たことがあるって」
「うん。10年くらい前…4歳くらいのときにね。その時は、パパがここから出してくれたけど、どう出たんだっけな〜!」
今14歳なのか…わっけぇ…
「若…」
これにはハルルも心の声を漏らしたようだ。というかハルルは何歳なんだろうか?10〜20の間だとは思うが。
「う~んと…確か、階段を上ってここから出た気がする」
「階段ねぇ…」
何も無いんだよな。見渡す限り無が広がってる。
「っ!?」
「ハルル?」
「ヴヴヴッ!?消えろ!グヴヴァァ!」
「ハルル!?」
唐突にハルルが暴れ始めた。まるで、体から何かを振り落とすような動きだ。
「ハルルくん!落ち着いて!それは幻覚だから!」
「だとしてもこれは!ヴヴァァァ!」
ピカッ……ピカッ…パチッ…パチバチバチ…バリリリ…
〘ガアアアァァァ!!〙
「ハルル!?なんだよその姿は!まるでフェニックス、いや…ドラゴンの様に見えるが!」
「今助ける!下がってヤクイくん!『創作 チェンジ』!」
なんだ?ウリキドが出した魔法陣がハルルの体を包みこんだと思ったら、突然輝き出したぞ!
プシュー………
「…………」
数瞬の後に、元の姿の状態でぐったりとしているハルルがいた。
「ハルルッ!……脈拍よし、呼吸のリズムよし、瞳孔…怖い。気絶してるのか…眠ってるのかだな」
「はぁ~…危なかったぁ〜」
「すごいなウリキド。いったいどうやったんだ?」
「………秘密じゃぁだめかな?」
「そうか…正直めっちゃ聞きたいけど、それでいいよ」
一言多いか?
「うぅ……」
「意識が戻ってきてる。起きろ、ハルル!」
「っはい、すみません!……え?私今何してました?」
「それは…話していいものか…」
「ハルルくんは、自分の力が制御できなくて、暴走していたんだ。覚えてない?幻覚を見て、それに抗って無意識であの形態を開花させたんでしょ?」
話していいのかそれ?何見てたのか知らないけど、幻覚を思い出してまた暴走するんじゃ…
「……なるほど、そうだったんですか。力が暴走を………あの形態とは?」
「うん、フェニックスとドラゴンを融合したみたいな姿にね」
「ああ、凄かったぞあの姿」
「……え、私知らないですそれ…怖」
ええ…知らないんか。今回が初ってこと?
しかし改めて彼の姿を見ると、たしかにそれっぽい。角があり、尻尾があり、瞳孔がダイヤの形で怖い。
ドラゴンベースのキメラって感じ?彼の出生については知らないけど、それが後天的なのは分かりやすい。明らかに慣れていない感がある。
あからさまに尻尾や角を気にしているかのような挙動が垣間見える。
「ハルルは、いつキメラみたいになったんだ?」
「…何故、あとからこうなったと思うんですか?」
「いや…なんか、やけに気にしてたから。角とか尻尾とかを」
「……私は、気がついたらこの姿になっていました」
「気がついたら?」
「ええ、去年この世界に【呼び出し】で呼ばれてからですね。私も元々はただの人間の姿でしたよ」
やはり後でその姿になったのか。
いやまて、今なにかとても聴き逃せない内容があったな。
彼も、【呼び出し】を使われてこの世界へ?
…………俺と同じ日本人?いや、まだその裏付けとなるものが足りない。探りをいれるか。
「元々、この世界にいた訳ではないのか?」
「ええまあ、私は元々、別の世界にある日本という国に住んでいたので」
彼は俺と同じ日本人だ。
「実は俺も日本からこの世界に来たんだ」
「え!?そうなのですか!?」
ガヤガヤ……
どうやらハルルとは気が合いそうだ。
「えぇ~、あのお菓子もう販売してないんですか」
「そうなんだよ!気に入ってたのに」
「お~い、二人共。話はそのくらいにして、ここから出る方法を探そう?」
「ああ、すみません。つい熱が入ってしまいました」
「ごめんウリキド」
「別に大丈夫だけど、何か孤立しちゃってる感があるなぁ」
「おっと、それは申し訳ない」
ハルルとの話を終えて、ここから出る作戦を考えようとしていたところ、王様から連絡が来た。
[今、4人目の合格者がそっちに行くからな。そしたら、2次試験を本格的に開始する]
おや、どうやら最後となる4人目の合格者が到着したようだ。どういう人なんだろうか?
本格的に2次試験を始めるということは、俺たちはスタートラインにも立っていなかったってことね。そもそも、談義しかしてなかったわけだけど。
すると、空間の一点が歪みだした。
グニャリ……ドロ………フッ…
「あ…ごめんね…自分朝弱くて…寝坊してしまいました。自分が1次試験を突破できたのは…ただの偶然で…何か強みがあるわけでもないから…あんま期待しないで…」
ほぉ~…これはまた随分と特殊な方が来たな。
背丈は俺よりも幾らか下だな。160cm代かな?
白髪で、目元の辺りまで前髪が伸びてる。所謂、メカクレ系の人だ。
この人にも鈴がついていると思うけど……見っけ、足首に黒い鈴があった。足輪を装着している感じかな?まあ、他にも足枷っていう表現もあるが……実際そっちのほうがしっくりくる。黒い足枷か…
この人の制服も鈴の色と合わせて黒ベースとなっている。あっ、何かフードついてる。いいなぁ。
「えと…自分はラフアンていいます……よろしくお願いします」
「よろしくな、ラフアン」
[さて、これで4人全員揃ったわけだし、今から君たちにミッションを与える。それが達成できればここから出られる仕組みだ。まあ、自力で出る方法もあるけど。そして、そのミッションというのは2人1組で行動して、牢獄に居る強敵を撃破してくれ。これは親睦を深めるための簡単なレクリエーションとでも思ってくれればいい。よし、説明は以上だ。無理せず本気で頑張れよ!それじゃあ、外で待ってるからな]
ジジ………ジ…シュンッ
「二人一組ねぇ…」
こういうときに、学生時代の俺は一人余ってたが、今回は偶数だから助かる。
さて、誰と組むか。
………ところで強敵ってどんなのだろう?魔物とかいるのだろうか?
「ねぇハルルくん、僕と組まない?」
「いいですよ。よろしくお願いしますね」
「うん!任せて!僕はこう見えて、結構強いから」
「ほう、それはまた頼り甲斐がありますね」
おや、もうペアが出来ている。となると俺のペアは…
「じゃあ宜しくな、ラフアン」
「はい…精々足を引っ張らないように頑張ります…えと、なんて呼べば?」
そうか、そういえばまだ自己紹介してなかったっけか。
「自己紹介が遅れたけど、俺の名前はヤクイ。よろしくね。で、あのキメラみたいな人がハルル。その隣の子がウリキドだ」
てか、もう出発してるな。少し遠い位置にいる。
「なるほど…ありがとうございます…あっ、よろしくお願いします…」
「それじゃあ、行こうか」
▲ ▶ ▼ ◀ ▲
そういえば、彼等とは反対の方向に歩き出したけど、強敵とやらはどこなのか。
まあ、適当に歩いてればいつかは見つかるだろう。
そういえば、俺今耳飾り付けてたな。
音が鳴らないから忘れていた。普通に考えて、歩くたびに耳元で音がすると思うんだけど。一回外してみるか。
…もしかしてこれって、鳴ってほしいときだけ鳴るのかな。今適当に手元で振ってるけど、音でないし。それじゃあ、お願いします鳴ってください!音が聞きたいです!
………チリーンッ…
おっ、鳴ったぞ。なるほどな、やはり必要なときに音が鳴るらしい。はたしてそれになんの意味や効果があるのか分からないが、まあ、知識として頭の片隅にでもしまっておこう。
「あ、あの…ヤクイさん。あれって…」
「あれ?」
ラフアンが指を差した方へと目線を移す。するとそこには、ヒト…がいた。いや、マネキン?
取り敢えず警戒しながら近づいてみると、それから声が聞こえた。
「2つの魔力を感知。戦闘用アンドロイド、カイン、起動。戦闘を開始します」
おや?アンドロイドか?かなりクオリティの高…
チリーンッ!!!
「うわっ!なんだ!?」
音に反応したのも束の間、魔法が放たれた。
俺は咄嗟に避け、この鈴の機能を一つ知った。
それは、危険が近づくと音が鳴ることだ。耳元であの大きさの音が鳴ったの本当に心臓に悪かった。
「ヤクイさん!大丈夫…ですか?」
「ギリギリセーフ!気を引き締めていこうか!多分これが、強敵だから!」
「はい!全力で…頑張ります」
あんにゃろう、剣も持ってやがる。遠近抜かりないってことじゃないか。
さて、どう倒す?
「取り敢えず、火球でも食らえ!」
片手を敵の方へと突き出し、手のひらを相手に向ける。手のひらから少し離れた位置で魔法陣が展開され、次の瞬間にはバスケットボール並みの火球が、豪速球で打ち出された。…が。
ヒューッ!…スルリ…ガシッ
「あっ、掴まれた」
何で掴める?魔法って掴めるもんなの?
そして次の瞬間には、大きな鈴の音と共に、アンドロイドは振りかぶる体制となった。
ブンッ!!!
っやばい!当たる!
「『バリア』!!」
バリアなんてあるの?取り敢えず礼を。
「助かった!ありがとう、ラフアン」
「いえ…お気になさらず。どんどん…攻めてってください…後方支援は…自分の専売特許です」
後衛が得意なのか。それはありがたい。
攻撃の魔法は知っているが、それ以外は知らないからな。とても助かる。
「有り難い!」
物量で押すか?
一旦、トライアンドエラーでやるしかないな。いざとなったら切り札もある。それまでは攻略法の模索を続けよう。
じゃあ、何使おうかな?アンドロイドから攻撃魔法は常に放たれてるし。でも、ラフアンのおかげで直立で動かなくてもダメージを食らわない。
優秀すぎんか?
てか、そろそろ魔法で視界が覆われるのだけど……
チリーンッ!
「うわっ!!」
ブンッ!
危なかった、急接近からの斬撃は殺意高いわ。普通に死にかけた。
「ヤクイ…さん!自分…物理は…お助けになれなそうです!」
「OK!」
まじか、『バリア』は魔法が効かないけど、物理は通ると。まあ、それでも優秀なことには変わりなく。
彼は支援系だから、俺が攻撃するしかないと思われる。
「よしっ、決めた!」
全部使うか!上級を一通り同時にね。
上級シリーズの魔法陣は全て昨日覚えさせてもらっている。
上級シリーズ、火球、水球、大竜巻、イカヅチ、あと……なんだったか、テンパってて思考がまとまらん!戦闘経験皆無なんだぞ…ええい!取り敢えずその4つを発動!
「これで決まれ!」
「上級魔法を検知。バリアを展開します」
「なっ」
これは想定外だ!
「バリア…解除!!」
ドドドドッ……
「ナイスだ!ラフアン!」
本当に優秀すぎるし有難すぎる!
ピピピッ……
「通常形態では勝利が困難と判断された為、スピード特化形態へ変形します。残機は残り1です」
「別形態!?だるすぎるだろ!」
残機1ってなんだ!あと1回こいつを倒せばいいのか?スピード特化に変形すると言っていたな、取り敢えずはそれを倒せばクリアって訳だ!
「ラフアン!変形してるうちに倒すぞ!」
「え…良いんですか?それ…」
「変形されたら、勝てる見込みは少なくなる!だから、隙だらけな今のうちにだ!」
「わ、わかりました…バフかけときますね…『身体能力の向上』…『MP譲渡』」
「有り難い!助かる!」
よし、これで準備は万端だ!ぶっ倒す!
「使うべきは今!!切り札発動!!」
今まさに形が変わっていくアンドロイドに今度は両手を突き出して、その名を叫んだ。
「【変換】!!」
さあ!果たして何が起こる?
……ガコン……ガコン…プシューッ
「スピード特化形態への変形が完了しました。これより、戦闘を再開します」
「何故!?」
くそぅ!何かに変わると思っていたのに!
いったい何なんだ?【変換】とは!
「ヤクイさん!避けて!」
「え?」
大きな鈴の音と彼の声が俺の耳に届いたときには、既に目の前までアンドロイドは接近していた。
ブォンッ!
あっっっぶない!!死にかけた!刃が顔面近くまで迫っていた!だが、身体能力が向上しているおかげか、反射神経も爆発的に上がっている。
まじで、ラフアン様々だな!
「自分も前線に……出ます!」
「悪いが手伝ってほしい!」
「はい!」
だが!だが!避けるのに精一杯で、攻撃ができない!何なんだ!強すぎるだろ!イライラしてきている!
「ヤクイさん…空…飛んでる!」
「あぁ?うわっ!マジだ!」
何だこれ、どうなってんだこれ!
だけど!なぜだか、違和感なく飛べる!元からそうであったかのように!
「『速度上昇』!『自己集中』!ひぃ〜、こっち来たぁ!ヤクイ…さん!デコイとして…頑張るので…攻撃を!」
まじかよ、本当に頼もしいな。
「有り難い!!」
「『ロック』!今…です!」
本当に最強かよ!支援系のポジションとして最上級の働きだろ!
よし!今、思い出した!この魔法の正式な名前を!
「当たれ!『フレイム・サウザンドアロー』!!」
簡単な名前なのに、出てこなかった!
「魔法による攻撃を感知。多重バリアを展開します」
「多重!?それは…無理!一枚しか…解除できない!」
まじか!………いや、トライアンドエラーだ!
「【変換】『銀の槍』!!」
「物理による攻撃を確認。受け止めます」
「させ…るか!『ロック』!」
「ナイスだ!」
ザシュッ!…………チリンッ!!
「甚大な損傷を確認。損傷率80%。これより対象名ヤクイへ『死へのカウントダウン』の始動」
「うぅぐっ!」
急に訪れた胸の苦しさに、その体は浮くことを忘れ地面にダイブ。
うゔ!体が動かない!心臓が苦しい……クソ!!なんだこれ…地面に落ちた衝撃で…絶対何処か折れた!
「ヤクイさん!」
「っ…あと少しだ!いける!」
「っ!…っはい!」
掠れゆく意識の中で、今自分が助かる方法を模索している。
一つ見つけてはいる。だが、一度それを使うと今後何かあるたびに使い続けてしまうだろう。
だから、出来れば使いたくない。
もうほとんど見えない…貧血で立ち眩みを起こしたかのようだ。
「『固有 融解』!!」
んだよそれ…なんかかっこいい。音しか聞こえてないけど、彼のことだ、きっと凄いのだろうな。
「損傷率96%。お見事。祝福を…2名へ授けます。対象名ヤクイ。貴方には『固有 カイン召喚』を。対象名ラフアン。貴方には『固有 多重バリア』をそれぞれ…譲渡…し…ます…約20分間…お疲れ様でした」
ピピッ……ブウゥゥン…カランッ
「よし…よし!やったよ…ヤクイさん!……ヤクイさん?……ヤクイさん!!…『即時回復』!『解呪』…あと、あと………っ誰!……き、君…は」
▲ ▶ ▼ ◀ ▲
「……うっ!ゲホッガハッ、うグッ…ゲェ…」
ビチャビチャ…
「うう…吐いたかと思ったら…血かよ…」
気絶していたのか?いったいどのくらいの間、気を失っていたのだろうか。
「っ!!ヤクイ…さん!よかった〜」
「ちょっ、抱きつかないでくれ!イダダダ!」
…目元が腫れている。泣いていた?
ってか、すごい汗だな。
「あっ…ごめんなさい…でも…よかった」
「ふぅ~……で?どうやったんだ?」
「へ?」
「どう、死へのなんだかを止めた…消した?…まあ、取り敢えずどう無くしたんだ?」
「それは……」
……相手が勿体ぶるときはいつも、俺がやっぱり良いやと言うのだが、今回は言うつもりはない。
「他に誰かいたとか?」
「っ!」
「…そうか」
となると誰が?ハルルやウリキドは違うだろうし。まさか王様?…な訳ないか。
「自分の…自分にとって…余り良い印象ではない人が…急にここに来て…それで…」
「ああ、そのペースでいい。俺は最後まで聞くから」
牢獄…といったか?ここに入ると、何か…自分にとって嫌なものが見えるのか?ハルルはそれで暴走したのかもな。
だが、それのおかげでハルルは自分でも知らないような、新しい姿へとなれた。もう一回変身してくれといったら、出来るのだろうか?
「うん…ありがとう。それで、自分は…その、彼と一悶着あったけど…最終的には話し合いで解決出来たんだ。…あのときに出来なかった話し合いで」
「ほう…」
彼にも辛い過去があるのだろうな。
ここではきっと、人生でも辛い記憶が幻覚として現れるのだろう。なんて最悪な。
王様は何を考えているのだろう。
「そしたら…彼が、彼の得意だった魔法を…教えてくれたんだ。…しっかり話してみたらさ…思ったよりも気があって、あのときちゃんと話してればって…」
「それで、俺を治したと…」
まだ喉が痛い…きっとこれは傷があるから痛いとかではなく、喉がカラカラすぎて痛いのだろう。
水球って飲めるかな?
「水球…」
ピチョンッ…
……飲んだ瞬間ダメージ食らわないよな?
ゴクッ…ゴクッ……ゴクッゲホ…ガハッ…
「だ、大丈夫?…どうして急に……あ、喉が渇いてた…の?」
「ああ、でももう満たされた」
スタスタ……
「おっ…そっちもやったか?お疲れ………」
……なんてことだ…俺にも来てしまったのか?
幻覚が。
何で…何でここにいんだよ…
「ママ………」