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5人目 Ⅳ・カラマイア 活(四)

 西日がクロス公爵領を朱に染め始めた頃おい、私はレヴォルと共に、ロレル宅へと訪れた。


 レヴォルはその両の手で木箱を持っており、その中に彼の実家から送られたという二枚貝がパンパンに詰まっている。


「ロレルさん、カラマイアです」


 扉を5回ノックしてそう言った。


 今回の来訪については、レヴォル宅から出て修練場へ戻って来たタイミングで、直接ロレルに伝えてある。


 扉をガチャリと少し開き、ヒョコッと恐る恐るといった具合で顔を覗かせたロレル。


「よっ!ロレルン」


 扉が開いたことを確認して声を上げたレヴォル。


 ロレルン…?そこまで仲が良かったようには視えなかったが…まぁ…レヴォルだし、あまり気にしなくても良いだろう。


 此方の顔を確認してホッとした顔になり、扉を開いて、中へ入るようにとダミ声で促してくれた。


「ロレルンだって…?あいつの血…濃すぎるだろ……」


 ロレル自身にしか聴こえない大きさで、彼はボソリとそう呟いた…つもりのようだ。レヴォルに聴こえていたかは定かではないが、少なくとも私には聴こえた。


 …あいつの血って誰の血の事だろう?


 アルバと性のつく人の誰か?


「…中へ入ってくれ。歓迎するよ」


「お!〝歓迎〟だってよ!もしかして…お嬢のお陰かな〜?」


「どうだろう…?…だと良いな」


 そうして家の中へお邪魔すると、此方の会話を聴いていたロレルが、私達の誤解を解くかのように言葉を発した。


「私は別に人間が嫌いな訳では無い。ただ…身体が警戒してしまうだけだ」


「え!人間が嫌いな訳じゃないの!?んじゃ、俺と是非仲良くなろうロレルン!魂からのお願い!」


 と、手を合わせて懇願するレヴォル。それに対して何かを懐かしむように、長く尖った耳をピコピコとさせながらロレルは返した。


 無意識で動いているのだろうか…?触ってみたい…凄く。


 そういえば、カイスもこんな感じの尖った耳だったな…。彼に触らせてもらうのもアリかもしれない。


「あ…ああ、既視感というのはこういうモノを言うのだろうな。レヴォルの先祖も、同じような口ぶりでそんなことを言ってきた。…お嬢は好きな所で寛いでてくれ」


「分かった」


 先日のお昼にも座った椅子へと腰を下ろした。


 ロレルはレヴォルの御先祖様と知り合いなのだろうか…?まぁ…可能性としては無くはないか。ロレルは長く生きているし。


「俺ん先祖…?ん~…おっと、忘れてた。味噌汁ん準備しないと」


「キッチンは此方だ、案内する」


「センキューロレルン」


「…本当に〝Code:N〟の生き写しみたいだな」


「こーどえぬ…?知らん…よな…?う〜ん…やっぱ分かんねぇわ」


「…そうか。いかんな、この歳になると、過去のことばかり気にしてしまう」


「見た目は若いんだけどな…」


 段々とキッチンの方向へと遠退いていく二人の声。


 …暇になっちゃった。


「…あ」


 部屋の中を見渡すと、中に数冊だけ入っている本棚を見つけた。


 …料理が出来るまで読んでようかな。


 そう思い、適当に一冊だけ手に取った。


「〈テグルマニス学校設立記録〉…昨日ロレルさんに渡した本だ…」


 内容はまだ読んだことは無かったな。


 …読んでみよう。


 少し古ぼけているその本を開いた。


「…2の211年に…ナフカード国の4代目国王である…シュコウ・ナフカードが設立した…」


 土地の問題があったが…領主であるテグルマニス大公が187年間不在だった為…その土地をフルで活用…。


 交渉にはかなりの時間が掛かった…と。


 テグルマニス大公の代理で領地運営をしていた、アクリア氏…もといクァレオ・ケネオル氏は、この計画に反対の声を上げた…。


 彼女の言わんとする事は痛いほど理解出来た。実際に大公に会ったことはないが、私は彼を…心より尊敬していたからだ…。


 …だが、〝希望の子〟が告げた最期のお願いだ。反対意見が出たから中止…だなどとはいけない。


「…それに…」


 不在とは公言しているが…彼は2世紀も消息が不明。


 だから…彼が帰ってくるのを待つよりも、この計画を進めるべきだと、私は判断した。


 …最終手段として、アダム氏とアヴァン氏からも説得するように促し、結果的に設立の為の土地を得ることが出来た。


 月日が流れ、ついぞテグルマニス大公の名を冠した学び舎は設立された。


 皮肉な話だが、初代の校長はアクリア氏に任せた。設立を反対していた建物の長に…私は。


「…手記みたいだ…」


 ヤイ ココノよ。私は君の願いを叶えた。


 本当にこれで、世界の平和に…この世に実在したとされている、あの邪神の討伐に…繋がるのか…?


 私の行動は本当に正しいモノだったのか…?


「…………」


 私は数ページだけ読んで本を閉じた。


「…ふ〜……」


 この本、いや…手記は、写しが無ければだが…恐らくこの世に一冊だけ。


 パパはどうやってこんな代物を手に入れたんだろう。


「アヴァンは…知ってる」


 二代目の人だ。


 アクリアって、何者…?どうしてそんなに昔から生きて…?名前がたまたま同じというだけ?


 邪神って…何?


 王様に訊いてみる…?でも、王様には〝質問〟が通らない。…でも、ダメ元で訊いてみるのも良いかも。


 今度機会があれば、訊いてみようかな。


「やっぱり…本って面白いな」


 〝知らない〟を〝知る〟に裏返す感覚が…とても癖になる。


 でも…この手記はもういいや。本棚に戻しておこう。


 なんだか…誰かの報告書を読んでいるかのような気分になる。まだ学生のうちは、仕事に関することは考えたくない。パパから任される仕事は別だけど…。


「…ふあぁぁ〜ぁ…」


 今日はずっと訓練漬けで、疲労が溜まっているからだろう。とても眠たくなってきた。


 …料理が出来るまで、仮眠でもしようかな。


 私は椅子からソファーへと移動し、肘置きを枕にするようにして横になった。


「…………」


 すぐに睡魔は私の意識を包み込み、暗い方へと運んで行く。


 気軽に睡眠が出来るという幸せを、飽和しないうちに楽しんだ。


  △ ▷ ▽ ◁ △


「お嬢〜…ご飯できたよ〜。早く起きないとキスしちゃうぞ〜」


 身体を揺すられる感覚に眼が覚めた。


「…キス…?別に…いいけど…?」


「えっ、していいの!?…な、な〜んて…さては、寝ぼけてんな」


 身を起こし、重たい瞼を開き、朧気ながらもレヴォルの輪郭を視界内に掴んだ。


 彼の両頬へ手を添え、そのまま。


「え…お嬢…?ちょっ…!…い、いいのかよ!?おはようのキスが俺でも!」


 そっと額に口づけをしようと、自身の顔を近づけると、突然にも視界内に壁が降りてきた。


「んむっ……お盆だ。…お腹すいた」


「お嬢、食事の支度が完了した。冷めないうちに食べよう」


「うん、分かった」


 レヴォルの両頬から手を離し、湯気を立てているご飯のもとへ足を向けた。匂いだけでも、用意されたご飯の美味しさが、良く伝わってくる。


「ほら、レヴォルもテーブルへ」


「…………っはぁ〜ぁ…」


「…すまなかったな。〝そういうの〟は、私の家の中では厳禁だ」


「ロレルン…!今の止めちゃ駄目だって…!俺んこと…嫌いなのか…?」


「いや、レヴォルは……そうだな…」


「一考しないで即答してもらいたいんだけど…」


「嫌いではない。更に言えば、他の人間達よりも好ましく思えるな。レヴォルはCode:Nの面影が強いからだろう。親しみやすい」


「おおぉ…!ロレルン…!」


「ほら、蹲ってないで立ち上がれ。またチャンスは来るさ。…まだ若いだろう?」


「若いけど…ショタっ子に言われるとなぁ。何か、いずいわぁ」


「そうか…。身体の成長が止まってしまっているから、これに関してはもうどうしようもないのだが…」


 レヴォルはしゃがりこんだ体勢から立ち上がり、椅子に座って騎士二名を待っている、カラマイアの対面へ腰を下ろした。その隣にロレルも腰を下ろす。


 本日の夕飯は、白米、二枚貝の味噌汁、海藻サラダ、柔骨魚と牛酪茸のホイル焼きだ。食後にはロレル特製のアイスが待っている。


 なんという贅沢っぷりだろうか。


「さて、いただこうか。おかわりが欲しければ、言ってほしい。すぐに持ってこよう」


「この味噌汁、俺ん料理力が最大限に活かされてっから、美味さは確約するぜ。料理が出来て、イケメンで〜…高身長。腕っぷしも素晴らしい…後は俺ん性格以外全て完璧だな」


「確かにな」


「ちょっとロレルン…!慰めるもんだよ、普通」


「なら、食事時にネガティブを出すな。男なら胸張ってなんぼだろ。違うか?」


「う…う〜む、そんとうりだな……っていうか食うべ。停滞させてたの誰だよって話なんだけどな!」


 食卓を囲む三名は手を合わせ、食前の挨拶を済ませてから食事を始めた。


 他愛のない話をしながら、その幸せな空間は着々と過ぎていく。


 後日には、カイスの復讐を果たす手伝いをするという、任務とも仕事とも言えない、私情が控えている。


 明日に何が起きるか分からないからこそ、今日だけは少しだけ大胆にカラマイアは動いていた。寝ぼけたふりをして、レヴォルへキスをしようとしていた事が、良い例として挙げられる。


 レヴォルが私を拒むことはない、そう確信している上で、ちょっと興味本位でシてみようとした。という感じだろう。


 深いところまでは判らないが、彼女が彼に対して好意的であるのは間違いない。


「ごちそうさまでした。美味しかったです」


「いつもより甘めに作ったアイスも、お嬢の口にあったようで何よりだ」


「定期的に食べたいです。ロレルさんのアイス」


「いつでも言うといい。すぐに用意しよう」


 その後は、ロレルが片付けをパパッと終わらせ、カラマイアとレヴォルの見送りをして夕食は終えられた。


 レヴォルはカラマイアを屋敷まで送り、そこで二人も別れる。


 自宅へ向かうレヴォルの後ろ姿をジッと見送り、カラマイアは風呂に浸かり、自室へと帰り、床についた。


 次の日は早めに起きて集合場所へ向かう予定のようで、本日の就寝はいつもよりも早めだ。ヒカリもソレに合わせて本日は早めに床についている。


 テラスに通じる大きな窓から、陽光を反射した月明かりが差し込む。


 …本日の夜はやけにあたたかい。

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