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5人目 Ⅳ・カラマイア 活(二)

 クロスフィード騎士団の副団長、エリエルとの模擬戦を終えて、私は一度お風呂に入り汗を流した。


 そしてまた修練場へと戻り、皆の訓練の様子を眺めること数分、オールバックの髪型の人物が此方へ声を掛けた。


 褐色肌の青年が灰色の瞳を此方に向けている。


「お嬢、暇なら俺ん訓練手伝ってよ」


「どちら様?」


「…あぁ〜…」


 彼は髪を留めていたカチューシャを取り、前髪を前へと下ろした。


 …なるほど…レヴォルだったか。


「そんな顔だったんだ」


「俺ん顔、イケメンだべ?」


「うん。…でも、思ってたよりも童顔なんだね」


「よく言われんだよなソレ…じゃなかった、模擬戦しよーや、お嬢。エリエルが強かったって言ってたから、成長具合診てやんよ」


「いいよ。…何処のスペース使う?」


「ん~…適当な所でいいべ。…昨日の今日でパワーアップする訳が無いかんな…いや、クロス家ならそれも有り得る…?んま、取り敢えずソコの開けたトコ使おうぜ」


 修練場の中央の少し開けた辺りを視線で指し示し、そこへ向かうべく歩き出し始めたレヴォル。


 再び前髪をカチューシャで留めながら進むレヴォルの後ろ姿を眺めながら、私はペタペタと彼に続いた。


  △ ▷ ▽ ◁ △


「んじゃ、行くぞ〜?」


「うん。今回は勝つ」


 修練場の中央のスペースにて、お互いに向かい合う私とレヴォル。


 この模擬戦では魔法は使用できない。…が、腕力や脚力が上昇している事に気がついた私なら、もしかしたら勝てるかもしれない。


 木剣の切っ先を此方に向けて、レヴォルがボソリと呟く。


「その思念布…本当に面倒なんだよな」


 ゆらりとその身体を左右に揺らしながら、ダラダラと此方に近づくレヴォル。


「今回は魔法を使わないから」


「あら、そう?別にどちらでもいいんだけど…」


 修練場の備品から、槍を一本くすねて来ている。


 今回はソレに思念布を巻き付けて模擬戦にあたるつもりだ。


 巻くだけでも耐久は上がるというのは、エリエル戦で実際に確かめることが出来ていた。ので、いくらレヴォルが力自慢だとしても、簡単には折れないだろうと期待している。


「行くぜ…お嬢…!」


「っ…!」


 レヴォルが一気に距離を詰めて木剣を横薙ぎに振るった。私はソレを思念布を巻いた槍で受け止める。


 木剣と槍が勢いよくかち合い、修練場にガインッとゴング代わりの鈍い音が響き、本格的に模擬戦が開始された。


 やはり…レヴォルの一撃は大分重たい。槍と自身の手を思念布で繋いでいなかったら、普通に弾き飛ばされていただろう。…にしても手がジンジンする。


「よっ…!」


「っう…!?」


 普通に蹴り飛ばされた。


 完全に油断していた…木剣以外を視野に入れていなかった。


 気を付けないと…。


「あ…!!ごめんお嬢、普通に蹴っちゃった…!大丈ブグッ…!?」


「問題無し」


 此方に焦り顔で駆けて来たレヴォルを、私は地面に伏した体勢のまま蹴り上げた。


「そ…そうか…頑丈なんだな。…なら、次は追撃するかんな。…仕切り直すべ」


「うん」


 もう一度最初からだ。


 再び修練場の中央に向かい合うようにして立つ。


 お互いに武器を構えて距離を取り、眼を合わせる。


「エリエルは10秒とか言ってたな……ん~、なら俺は5秒…いや、7秒…8秒…?よし、8秒だ。8秒だけ〝本気〟出して勝つ」


「8秒…?」


「そ。俺ん本気はそんくらいよ」


 二ヘラと童顔を歪ませていたレヴォルは、木剣を左手に逆手に持ち、腰を落としてスンッと珍しくも真剣な表情をとった。


 私の一挙一動を逃さんとばかりに彼はグワッと眼を開いている。


 任務で現場に居る時も、このように注意深く〝対象〟を視界内に捉えているのだろう。


「……ふっ…!」


 レヴォルが地面を抉りながら、此方に距離を詰めるようにして近づき始めた。


「思念布…」


 私は思念布を地面に広げるようにして伸ばした。


 イメージは私を中心とした大きめの水溜り。それもただの水ではなく、滑るようなツルツル具合を再現している。


 レヴォルが滑って少しでも動きが乱れれば、展開した思念布を畳み、彼を食虫植物に捕まった蟲のように包み込み離さない作戦だ。


 そして、コレを避けるようにして宙に跳んだら、槍を思念布で持ち操作する。……何なら思念布を槍にして…そうしよう。


 また地中から来たとしても、地面に展開された思念布がソレを阻止するだろう。


 …作戦は終わり。


「上手い作戦は立てられたか?お嬢」


「今回は勝つよ」


「そう…?俺ん事甘く見積もってる可能性あるんだけ…どっ…!」


 レヴォルは地面に展開された思念布を避けるために空中へと跳んだ。


 ので、私は思念布を螺旋状に巻き上げ、槍へと形を変えたり、手持ちの槍を思念布で包んで彼の方へと突き出した。


「おお…!やっぱ凄いな思念布は!……さて…」


「…え」


 逆手に持っていた木剣がガコンガコンと音を立てて一瞬でその形を変えていく。


「それ…って…?」


「じゃ~ん!!『魔導式切替武具マジカロイド回転式拳銃形態リボルバージョン』!」


 レヴォルの左手には、どう形容するのが正解か…恐らくは遠距離武器が握られていた。彼の木剣は、どうやらただの木の剣では無かったらしい。


「バァン…!」


 彼は私が反応するよりも速く、ソレで攻撃をしてきた。


 左手の武器は、攻撃の際にかなりの衝撃が伴うらしく、レヴォルの身体は後方へと傾いている。


「…あ」


 身の危険に気が付いた時には、既に額の前にソレは迫っていた。


 思念布で防ごうにも、私の思考が反映されるまでにはコンマ数秒の誤差がある。


 ならどうする…?


「〝爆発的成長グレードアップ〟…」


 ふと、その言葉が脳裏によぎる。


 私の思考能力が、頭の回転がこんなにも早いのは、ソレのお陰?


 現に、レヴォルの攻撃が迫りくるこの状態で、私は悠長にも考え事が出来ている。


 エリエル戦の時もそうだったなと、その時の自分を思い返す事も出来ている。


 …問題は思念布が動くまでに掛かるコンマ数秒だ。


 ………いや、制限をかけているのは私なのかもしれない。


 ヒカリ曰く、屋敷を包み込む事も可能とされているとのことだ。それは思念布への伝達速度も同じなのかも知れない。


 …完全に固定概念に囚われていた。〝イメージを固定化させない事〟、私はソレを忘れていた。


「…………」


 開始から7秒が過ぎたといった頃おい、反撃開始の好機が産まれた。


 作戦は、思念布で身体を強制的に動かす…だけ。


 思考が発生した瞬間にソレを再現出来るとなれば、不意打ち以外ならば対応が可能。


 つまり…私は私自身の弱点である物理攻撃に対しての対策を手に入れた。


 …勝つ。


「っ…」


 パッと思念布で身体を仰け反らせた。


 普通なら身体に反動が来るだろう速度だったが、何処にも痛みはない。…まだ来ていないだけかもしれないが。


「っえ!避けんの!?」


 私の異常な動きに対して驚きを顕にするレヴォル。


 …いける…!


「…でも」


 …でも…?


 レヴォルの瞳が、消えかけのランプが如くバチバチッと輝きを見せ始めた。彼の灰色の瞳は、ソレに応じて金色になったり、灰色に戻ったりを繰り返している。


 軽やかに地面に着地したレヴォルは言葉を続けた。


「お嬢、〝攻撃を避けたからって、その攻撃が終わった訳じゃない〟って心に刻んどいたほうがいいぜ?〝避ける=終わり〟じゃぁない…〝避ける=追撃が来る〟だ。一振り目を外した剣士が、二振り目を出さない訳がないだろ?俺ん言いたいのはソコだ」


 つまり…とその視線を私の背後へと向けた。


「まさか…!」


 そうして振り返る……が、何も無い。


「っう…!」


 この衝撃…どうやら、背中を例の遠距離武器で攻撃されたようだ。


 少しして、背後から申し訳無さそうな声が届いた。


 レヴォルの声だ。


「ごめんお嬢!フェイントなんだ…!…避けるイコールなんたらっていうのは本当に心に刻んどいて欲しいけど…リボルバーの弾は外したらお終いなんだ…!」


「え…」


「頭の回転が早い人は、そういうん騙され易いから…つい…な…!お嬢ごめん…!8秒でちゃんと勝ったけど…なんか釈然としないぜ…」


 パンッと手を合わせて謝るレヴォル。気が付けば眼のバチバチも消えて灰色一色になっている。


「や…やられた。………ふあぁぇ…」


 緊張が解けた私は、地面へ力無くへたり込んだ。際しては、思念布も元通りに。そして、くすねていた槍は地面にほっぽってある。


「…疲れた」


 …お腹も空いた。


 流石に連戦続きで身体が堪えているのだろう。立ち上がるまでに時間が掛かりそうだ。


 思念布なら強制的に歩けるが…それでは身体を休める事は出来ない…と思う。


 お風呂に入ってきたばかりなのに…もうこんなに汗をかいている。代謝も良くなったのだろうか…?


「んしっ…お嬢、どうせまた風呂で汗流すべ?もうすぐお昼時だし…良ければ俺ん家来る?簡単なモノなら用意出来んだけど…」


 私に手を差し伸べながらレヴォルが問いかけた。


 …ちょうどお腹も空いているし、汗も流してさっぱりしたい。


 それに、レヴォルの家という言葉に少し惹かれる。


 いったいどんな空間が広がっているのか…。


「…嫌過ぎて言葉に詰まったん?」


「…ううん」


 レヴォルの手を取り身体を起こしながら、言葉を続けた。


「…お邪魔してもいい?」


「モチ!」


 そうして副団長レヴォル戦は幕を下ろした。


 それにしても…瞳が金色になったり、灰色に戻ったりしてたのはいったい?あと、あの武器についても知りたい…家に到着したら訊いてみようかな。

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