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5人目 Ⅳ・カラマイア 活(一)

 修練場の壁沿いのベンチで水分補給をしていると、エリエルから声を掛けられた。


 因みに、団長は模擬戦が終わった後に、レヴォルの方へと足を向けている。今頃は模擬戦用の広いスペースでドンパチとやっているのではないだろうか。


 エリエルの金色の瞳が私を捉える。


 顔…首…鎖骨…胸…腰…胸の順で舐め回すように眼が動いていくのは、なんとも言えない感覚に襲われる。不快感と言い表せば良いのだろうか?


 エリエル曰く、先の模擬戦はドンマイだな…。さて、次は僕とヤラない?と。


 まんまそう声を掛けられた。


「良いけど」


「よ~し、決まり。そいじゃあ〜……あっちの広いスペース…いや、模擬戦用スペース行こか。ね、お嬢」


 外野を気にせず、集中して訓練に打ち込めるようにと、パパは自身の手でそのスペースを建設した。


 模擬戦用スペースは修練場に隣接されており、Aスペース〜Gスペースまで部屋が分けられている。


 因みに、団長とレヴォルがいるのは、比較的一番広いAスペースだ。


 パパ曰く、最初に建設したスペースなので配分を間違えた、とのこと。


「あ~…団長達の隣は集中できなそうだし…一番離れているG行こか」


 エリエルはそう言うと、Gのスペースの方へと足を動かした。私もそれに続いて足を動かす。


 次は副団長のエリエル戦だ。


  △ ▷ ▽ ◁ △


 場所は模擬戦用のGスペース。


 足を伸ばす等のストレッチをしているエリエルと、そこから適度な距離を開けて私が居る。


 エリエルの傍らには2メートル程度の槍が地面に突き立てられている。


 黒と金で塗装の施されたソレは、クロス家の屋敷に合わせてのモノだと考えられる。


「いっち…にー…さん…っと…!うぅ~っしゃ…ストレッチ終了ぃ!」


 ストレッチを終えたエリエルは、その傍らの槍を引き抜き、私の方へと切っ先を向けて腰を低く構えた。


 私も〝槍〟はよく扱う。魔法の槍だけれど。


 …相手が槍ということは、私にとって絶好の勉強の機会ではなかろうか。


 槍を扱うエリエルの動き方を少しでも吸収してみよう。


「そいじゃよろしく。勿論、全力で来てね」


「当然。本気で勝ちにいく」


「おっ、言うねぇ?…そうだ、十秒耐えられたらお嬢の勝ちにして良いよ?僕もそっちのがヤる気がビンビンになるし」


 ニィ…不審な笑みを浮かべ、眼を細くして此方へ提案をしたエリエル。


「良いの?普通に勝てそうだけど…」


「いいのいいの。ちょいとばかし、〝お嬢に近づいて抱き上げる〟だけだから!」


「…そう」


 ソレを予め言われたら、勝手に身体が警戒を始めてしまうな。


 胸に手を当てて軽く息を整え、身体の強張りを解す。


 今回の戦略は、敢えて騎士達との模擬戦でやらなかった事をする。あまりにも相手が不利になりそうだから、フェアじゃないと思ったから、今まではソレはやらなかった。


 だが、今回はソレをしてみよう。


 私の守りがどれだけ硬くなるのか試してみたい。


「さて、ヤッちゃうか。開始は…そうだな、この槍が地面に当たったらで…!!」


 エリエルは真上に槍を投げ飛ばした。


 ソレが地面に到達した瞬間から開始される。


 なら、落ちる前に事前準備をしておこう。


「『固有 第二躰ティフィティ』」


 身体の周りを強固な鉄壁で包むようなイメージを持つ。


「『クロス・フレイムランス』」


 自身の手に交・炎槍を出現させる。


 そうだ…今回は相手の周囲を囲むようにしても良いかも…二重、三重で出現させてみよう。


 それと、前回は地面に逃げられたし、一本だけ地中にクロス闇槍ダークランスを忍ばせておこう。


 念には念をでね。


「思念布」


 手元へ出した交・炎槍を思念布で包み込む。


 これなら槍同士で打ち合っても簡単には折れないはずだ。


 意外と柔いのがこの槍の弱点だったので、コレで少しは軽減されるだろう。


 それに、手元と槍が思念布により固定できている為、槍が弾かれて飛ばされるなんてことも対策出来ている。


 今の私は〝爆発的成長グレードアップ〟により大幅に力が増幅しているようだし、実際に打ち合ったとして押し勝てる可能性もある。


「おっほほぉ〜!お嬢準備し過ぎだよ!そんなのされたら、余計にムラついてくるじゃんね…」


 エリエルは相変わらず、センシティブに片足を踏み込んだ言い回しが好きなようだ。


 先程からスルーはしているが、拾われなかったらもっと大きいモノを落とすタイプの人だから、コレを普段から相手している騎士団の人達は少し可哀想だ。


 …まぁ、大体は団長が彼の口を塞いで窒息させて終わるんだけど。


 …にしても、どれだけの腕力と精度があれば、あれだけ垂直に高く投げられるというのか。あと数秒は落ちてこなさそうだ。


「お嬢は完全防備、どう攻略したものか…!ッカカ…テンション上がってきた〜!普通に負けちゃうかもな〜…ッカカカ」


 槍が地面に近づくにつれて、彼の笑みはどんどん狂気じみたモノへと移り変わっていく。


 私を見つめる眼も、じっとりとしたモノへと変わっている。


「クル、クルぞ…!どうしよう、まだ決まってないのにな。………キタ!」


 投げられてから数十秒の間落ちてこなかった槍が遂に地面へとぶつかる。


 10…。


 それに合わせて私は交・炎槍を周囲に三重、交・闇槍を地中に一本出現させた。


 対してエリエルは、槍が落ちた瞬間にソレを手に取り、狂気に満ちた表情でそれをグルグルと振り回す。


 お陰で私の出した魔法の槍は、地面に埋まっているもの以外全て折られて消された。


 魔法の武器は、基本的にその形が崩されると消失してしまう。だが、人によっては崩さずに残しておけるらしい。


「『クロス・ダークランス』…上へ!」


 私はすかさずに地面からソレを突き出す。


 だが…交・闇槍の穂先が視えた瞬間にバックステップを踏みソレを避け、足で蹴り槍をへし折った。


 9…。


 エリエルは槍を蹴った足の勢いをそのまま利用して、その場から急加速をした。


 …ので、私は固有魔法で壁をイメージし進行を阻む。


「ッヘブ…!?イッテェ…!何だこれ透明な壁か!?ひかも囲まれてるし!」


 8…。


「でも…僕には効かないかも?」


 彼は槍を薙ぎ下ろし、固有魔法で制作した壁を攻撃した。


「凄い…」


 彼もまた、特殊な剣技…いや、槍技があるようだ。


 彼が槍を薙いだ空間は陽炎の如く歪み、少しだけ〝開いた〟ように視えた。


 つまりは…そういう事だろう。


 エリエルは、槍の穂先で空間を裂いた。


 そして、開いたスペースに身体をねじ込み突破。


「っしゃあ!!謎壁突破ァ!」


 7…。


 再び駆け出すエリエル。


 再度、壁を彼の前へ出現させるも、槍をブンブン振りながら〝開いた道〟を進む彼には意味がないようだ。


 それはつまり、今私を守っている鉄壁イメージの固有魔法は無意味という事だ。


 なら、私から向かおう。


 今の私は強いかもしれないから。


「おっ、お嬢から来るんだ」


「うん」


 6…。


 思念布を帯びた交・炎槍を片手に、エリエルの方へと駆け出しソレを振るう。


 エリエルは私の槍を足蹴にして軌道を逸らし、彼自身の槍を右手で持ち、此方へと突き出した。


「思念布…!」


 迫りくる槍の穂先を、咄嗟に思念布を巻き付ける。


 そうして槍を止めつつ、槍伝いに思念布を彼の身体へと伸ばした。それにプラスして、固有魔法で彼の背後から(クロス)(ファイア)を放つ。


 コレで、彼は槍を離さないといけなくなる。それに、交・炎の対処も行わないと駄目。


 ソレが起きると仮定して、私は次を用意しないといけない。……難しいけど、凄く楽しい…!!


 5…。


「僕は離さないよ?こんなに近づいたんだから…ね!」


 彼は槍を掴んだまま身体を大きくのけぞらせた。


「自滅しなよ!お嬢!」


 彼が仰け反ったが為に、交・炎は私の方へと肉薄する。


 4…。


「思念布…プラス『プロト・ネオ』の『疑似バリア』」


「何それ!魔導具?」


 思念布の服のポケットに入れていた『プロト・ネオ』を、思念布により取り出し、更にソレに思念布伝いに魔力を流しながら瞬時に開いた。


 すると、眼の前にはバリアのような膜が広がり、ソレに触れた交・炎はジュッと音を立てて消失。


 …まだ油断は出来ない。


 3…。


 槍を止めていた思念布は、エルエルの腕を完全に包み、その肩まで到達している。


 完全に動かせないとまではいかなくとも、その部分を動かすのは苦労するだろう。


「固定されてんのね〜…なら」


 エリエルは仰け反った体勢の状態で、地面を強く蹴り空中で横回転を始めた。


 私の身体は思念布でエリエルと繋がっている状態の為、このままでは彼の回転の力に持ち上げられ、勢いよく地面に叩きつけられるだろう。


 離すしか無いのだろうか…?


 …思念布を離して、彼の着地を狙おう。


 空中ならば誰しも無防備だ。魔法を扱えない騎士であるならば尚更。


「ふーん…良いんだ…?」


 2…。


 エリエルは思念布が離れた瞬間に地面に槍を下ろし、ソレを地面へと突き立て、その場でピタリと静止してみせた。


 私は一瞬、彼に釣られて身体を止めてしまう。その一瞬だけは、やけに長く感じた。


 エリエルはその隙を見逃す事も無く、瞬時に動いた。


「ッスー…………ふんっ…!」


 空中で固定していた身体を地に下ろし、私の方へと槍を縦に叩き付けた。


 地面から引き抜く事もなく、そのまま振り抜いた為に、槍が刺さっていた所は土が掘り返されている。


 しっかりと固めてある筈なのに…。


 このまま引くと穂先に当たる…引かないと柄に叩かれる。


 横に避ければ横薙ぎに変わるだろう。


 固有魔法で止めようにも、槍が私の魔法を〝開いて〟しまう。


 思念布は斬撃は防げるが、打撃系はしっかりと衝撃が来る…。


 …なら、〝私〟が直接叩きに行くしか道は無い。


 そう思い、彼の懐へと姿勢を低くしてタックルの様な体勢で距離を詰めた。


 1…。


「そう来るしか無いように…なったな…!お嬢!ッカカ」


「うわっ…」


 私が近づいた事を確認してエリエルは槍を離し、私の身体をガッシリと抱き上げて、その場で横回転。


 …勢いを殺された…!


「は~い、背骨ボキィ〜…!!僕の勝利ィ〜!!」


 0…。


 …疲れた…。


 負けたよりも先に、その言葉が出てきた。


 脳みそが焼き切れそうだ…。


 こんなに頭を回転させたのはいつぶりだろう。


「…はぁ…はぁ…」


「お嬢疲れちゃった?お姫様抱っこしてあげようか?二分の一の確率で持ち帰るけど」


「じゃあ、お願い」


「……ん…なんて?」


「どうせ手は出せないだろうし…」


「…そりゃあそうだけど…もっとこう…!焦るとかさぁ…」


 にしても、彼は疲れていないのだろうか?


 エリエルの身体は全くと言っていいほど濡れていない。汗の匂いもしない。


 私は汗だくなのに…逆に申し訳ない。彼の服が私の汗で濡れ始めている。


「そいじゃ…おんぶするから…ほら、乗りなァ!お嬢!」


 私の身体を抱き上げていた手を放し、その場に背中を向いてしゃがむエリエル。


「お姫様抱っこは辞めたの?」


「普通に無理でしょ。今の時代は、〝そういうの〟は緩和されつつあるけど、仮にもお嬢は公爵令嬢、抱こうにも抱けないよ」


「また変な言い回し。よく思いつくね」


「男のノリをそのまま流用してるだけだけどな、因みにレヴォルは大笑いするぞ?…団長は肌の色を同じにしてくるけど…」


「青痣ってこと…?」


「そうそう…ほら、この姿勢のまま会話してんの傍目から見て滑稽だから、早く乗りん」


「…大きい背中だね」


「そりゃどうも…っと。お…見た目より軽い」


 対エリエル戦は幕を下ろし、私は彼におんぶをしてもらいながら模擬戦用のGスペースを後にした。


 クロスフィード騎士団って…ちゃんと強いんだ…。

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