表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/38

5人目 Ⅳ・カラマイア 月

 夕食を摂り終わり、もうそろそろ寝に入る頃おいのこと、モフモフのパジャマ姿のヒカリが、何やらローテーブルの上で作業をしていた。


 風呂上がりでホカホカ状態の彼女は、抱き枕として最適だろう。今から楽しみで仕方がない。


 きっといい匂い。


 ベッドの縁に腰を落ち着けて、ヒカリの作業を眺めていると、不意に彼女が立ち上がり身体を伸ばし始めた。


「んん~〜っ…!っと…今日はおしまいにしよう」


「何創ってたの?」


「あ、ずっと観てたんですね。えぇ~と、現在私が製作している魔導具なんですけど…」


 ローテーブルの上に置いてある、現在製作中と思われる〝ランプ〟を胸の高さ程まで持ち上げて続けた。


 その際に、ランプが彼女の胸にぶつかり、ソレを少し持ち上げたところを、私は見逃さなかった。


 ぷるるんとしていた。


 …ないモノねだりをしてしまいそうだ。


「一見すると、ただのランプに過ぎません。ですが、こうして魔力を流すと…」


 ランプの内側に火が灯り、一筋の光が此方へと伸びた。


 やはり普通のモノとは違う。


 そのランプは一定の方向にのみ光を発している。


「このように、魔力を込めた者の、目的とする地や物、生物の居る方向へと光が伸びます。主な使用用途として考えているのは、迷子者の数を低減させる為の道標、行方不明者の救助活動、指名手配犯の索敵等々…今はこのように、ランプの形で製作を進めていますが、使用者の要望次第では、別の形状の製作検討をしていく予定です」


「ふむ…」


 ヒカリの発明品の活躍や、その需要によっては、クロス公爵としての権力を利用して独占契約を結んでも良いのかもしれない。


 彼女の将来性には光るものがある。


 今のうちに囲っておくのも視野に入れる方が良いだろう。…いや、パパに雇われている時点で、既に契約は済まされているのかもしれない。


「今はお嬢様の方へと光が伸びてますが、ソレは私の〝求める者〟にお嬢様が当てはまったからです。例えば、トイレに行きたい…と、そう頭に思い浮かべながら魔力を流すと、〝知っている〟トイレの方へと光が伸び始めます。…ですが、この世に存在しないモノや、流した当人が認知していないモノだと、光は伸びず、その反応を示しません」


「凄い…」


「いえいえ、発表会に提出するには、こんなんじゃだめです。まだまだ改良を重ねていきます。……あ!もう寝る時間じゃないですか!すみません、没頭しすぎました!早く寝ましょう!」


 ヒカリはそう言うと、ランプをローテーブルの上にそっと置き、部屋の灯りを消してまわる。


「お部屋が広いと、灯りの数もその分多いですね〜……ん?あれ、なんか皮肉みたいになっちゃったかも…!」


「一つの魔導具で、部屋中を照らせれば良いんだけどね」


「一つだけで…ですか…メモ帳に書き足しておきます。…あ!寝ないと!」


 ヒカリは慌ただしくもベッドへと入った。


 ので、私は彼女にピタリと身体を寄せて、その胸へと顔をうずめた。フニフニとした感触が、なんとも心地良い。


 やはり、獣人は体温が高い。なんの香水をつけているのか、フローラルな香りが鼻腔をくすぐる。


 良い夢が魅れそうだ。


「お、おやすみなさいませ〜…お嬢様」


「おやすみ」


 クロス公爵領は土地柄的に、夏の暑さをそこまで感じない。


 だからだろう。すぐに睡魔が襲ってきた。


 普段なら、睡眠なんて嫌いだった。


 幼少の頃から…それこそ、物心がついてから毎日欠かさずに悪夢を魅ていた。


 しかし、〝あの日〟からは悪夢を魅る事はなくなった。それどころか、夢を魅る事自体少ない。


 呪が解けてからは、快眠の日々を過ごしている。


 …そういえば、この呪を別の方法で解く為の情報を得ようと、代々コンクルード家の観察を引き継いでいたが…その呪が解けた今、もうソレを継続する必要は無くなったのでは?


 ……気が付いたら目標を達成していた?


 これからは暇な時間が増えるということか…。


 でも、私は特に趣味が無い。………クスルと会話をするか、魔法の訓練的なものでもすればいいか。


 今度、カタバ達の模擬戦に混ぜてもらおう。


  △ ▷ ▽ ◁ △


「……ん……あれ…?」


 もう数刻が経過すれば日が昇り始めるといった頃おい、私は身体に違和感を感じて起床した。


「あれ…ヒカリってこんなに小さかったかな…」


 いや…違う。


 〝私〟が…大きくなってる?


「『固有 第二躰ティフィティ』」


 そのまま寝たい気持ちを抑えながら、第三者視点にて自身の様態を確認した。


 だが…そこには知らない〝私〟がいた。


 130程度しかなかった背丈が、目測ではあるが…恐らく、175程まで伸びている、だが胸は変わらない。


 いったい何があって…こうなったのだろうか…。


 固有魔法を解いて、視界を元に戻した。


「胸だけ…そのまま」


 身体の成長?に伴い、服が弾け、全裸になってしまっている。


 ベッドの上から降り、姿見の前まで移動した。


「…どうして大きくなったんだろう?」


 そうしてしばらく自身の身体を眺めていると、不意に背後から声が掛けられた。


 際しては、首元に槍の穂先が添えられている事が、眼前に備えられている姿見から伺えた。


「誰ですか貴方!お嬢様をどこに!」


 どうやら、今の私を不審者だと勘違いしたようだ。


 冷静に考えても無理は無い。


 隣で寝ていた筈のお嬢様がいない代わりに、見知らぬ長身全裸の女性が室内に居るのだから。


 取り敢えず、誤解を解かなければ。


「ヒカリちゃん、何か…急成長したみたい」


「……何を…言っているんですか…?流石に無理があると思いますよ…!」


 適度な距離を保ち、此方に槍の穂先を向ける彼女は、ソレを首にピタリと付けながら再度訊いてきた。


 その声色には、怯えも含まれている事が有り有りと伺える。


 それ程までに、彼女の声は震えている。


「お嬢様を…何処へ…!答えろ!…そして、お前はいったい何者なんだ…!!」


「…『固有 第二躰(ティフィティ)』…これで証明出来るかな?」


 2つ目の身体でヒカリの槍を抜き取り、そっとローテーブルの上へと置いた。


「なっ…その魔法は…」


 私はヒカリの方へと向き直り、より確実な証明をする為に、自身の瞳を彼女と合わせた。


「ほら、私だよ。ヒカリちゃん」


「ほ、本当にお嬢様なのですか?…確かに、あの魔法とその瞳は、誰にも再現出来ないと思いますが…」


「初対面の時に、ヒカリちゃんは私のお茶菓子を摘み食いしていた」


「うっ…」


「そして、追加のお茶菓子を持って来るために部屋を出た際に、箒を忘れた」


「うっ…!」


「新しく持ってきたお茶菓子を、部屋の扉の前で落としかけた」


「うっ!!」


「犬系の獣人で何らかの芸が出来る発明家」


「なるほど…すみませんでした…!お嬢様に…実戦用魔導武具を向けてしまいました!ご無礼をおかけしてしまいました!」


 綺麗に腰を折り、ヒカリは頭を下げて謝った。


「仕方ないよ。…新しい服、用意してほしいな」


「は、はい!只今!」


 指示を受けたヒカリは、ドタバタと慌ただしく部屋を出て、私の身体のサイズに合う服を取りに行った。


「ふぅ…危なかった…」


 あの場で〝魔力封じの縄〟を巻かれていたら、自身を証明する判断材料が減っていただろう。ヒカリがそれを携帯していないのはかなりラッキーだった。


 もしかしたらあのまま、何も出来ずに命を落としていたかもしれなかった。


 ……魔法以外の戦闘も学ぶべきだろうか…?


 何故か身体が大きい今なら、相応に筋肉も増えたことだろう。


 なら、体術や武具の扱い方を学ぶのも視野に入れたほうが良い…あと…2日後には、恐らく戦闘をしないといけなくなる。


 ならば、それまでに頭と身体に染み付かせておいたほうが得策だ。手数が大いに越したことはないのだから。


 まぁ、それまでこの状態かどうかは分からないけれど。


 …あ、カイスとカタバにどう説明すれば良いだろうか?…それも2日後までに考えておこう。


「も、戻りましたー!」


 扉をガチャリと開き、ヒカリは室内へと足を踏み入れた。その手には一枚の布が握られている。


 …何故?


「それは…?」


 先程湧いた疑問をヒカリへと問い掛けた。


 何故衣服ではなく、一枚の布なのか?と。


 その問い掛けに対して、モフモフパジャマのヒカリは真剣な面持ちで答えた。


「これは…旧セルルマス王朝跡の鉱山にて採れる、〝思念植物ソーツ〟と、同じく旧セルルマス王朝跡の宝物庫に保管されていると考えられている〝万象鉱石オルシン〟を用いて、三千と数百年前に編まれた思念布しねんふです。コレは、現在の技術では再現不可能なモノなんです。…〝思念シリーズ〟はこの世界に数個程度しかない希少なモノなのですが、コレの所有者及び、使用権限保有者は私です」


「…ヒカリちゃんってもしかして、私が想定しているよりも…凄い人なの?」


「先祖が凄いだけで、私は別に違います。…えー…権限が私にあるので、コレをどう扱うかも私次第ということです。なので、お嬢様にはコレを着用してもらいたいと思います。一見では、ただの一枚の布なのですが、このように…念じると…」


 ヒカリの手に乗っている真っ白の布が、生きているかの様にクネクネと動き出し始めた。


「うわ…」


 繊維状になるまで細かく分裂した布が、私の身体へと巻き付いてきた。…せめて下着は着たかったな。


 そして気が付けば、貴族仕様の一張羅をこの身に纏っている。しかも何故か女性用のドレス等ではなく、男性用とおもしきタキシードだ。


 姿見に視線を移して自身の姿を確認すると、案外様になっているものだから、なんとも不思議な感慨を覚える。


 気分的には男装だ。


 腰まである髪をザックリと短くしたら、よりソレの完成度が上がるだろう。


「この通り、頭に思い描いた形に変わります。これぐらいの大きさが限界だろう…などの先入観を無くせればですが、屋敷を覆える程まで大きくすることも可能とされています。因みにですが、その思念布は刃を通しません。…なので、IMUでは今でも議論が交わされています。…どうやって加工していたのか?と」


「ふ〜ん……でも、形変えようとしてるけど、変わらない…」


「あぁ…それはですね。その思念布の使用権限が私に有るからです。なので、今から『契約』をして、使用者権限の移譲をします」


「『契約』で…」


 『契約』は便利な魔法だ。


 魔法が一般化してから、その代のナフカード王により開発・提供された魔法とのこと。


 昔は悪用される事が多く、契約魔法禁止令が発せられた事もあるらしい。コレは史学の授業にて学んだ。


 だが、今は〝革新的政策パワープレイ〟により、取締がしっかりとなされている為、かなり安全なものとなっている。


 その〝革新的政策パワープレイ〟とは、〝世界王〟を『契約』の中間地点に置く事により、不正な内容の『契約』が無いかを判断してもらうというものだ。


 お陰で、『契約』を用いた犯罪はそれ以降0件らしい。


 なんとも忙しそうな仕事を、世界王は押し付けられた形である。


 史学の担当は王様なのだが、いつも虚空を眺めながらソレを読み上げている為、彼がいったいどんな魔法を扱って授業を進めているのかが、毎度気になって仕方がない。


 その行動について〝質問〟をしてみても、求める答えが帰ってこないので、お手上げ状態である。


「では、『契約』です。お嬢様」


「うん」


「『契約』。私が所有していたこの思念布は、たった今からお嬢様のモノとなる。使用権限や移譲権限などの各種権限も然り、お嬢様へと移る。よろしいですか?お嬢様」


「うん。受諾するよ、ヒカリちゃん」


「なら、『契約成立』ですね。さっそく、その思念布を変形させてみてください。権限が移ったので、念じれば動く筈です」


 …取り敢えず、パジャマにでもしてみよう。


 何だかんだ眠いのだ。


 そうして、タキシードを象っている思念布に念じた。ヒカリが着用している、モヒモフのパジャマを頭に思い浮かべて。


 タキシードがシュルシュルと蠢き始め、次第にその質感や肌触りが変化していくのを感じる。


 あ…何か適当な下着を着てから念じればよかった…。


 今からでもキャンセル出来るだろうか?


 だが、そんな考えも虚しく、私の心身を覆ったのはモフモフのパジャマである。因みに、此方はフードを付きだ。


 ノーブラノーパンのせいか、なんとも落ち着かない。


「おお!しっかりと継承出来ましたね!私の姿を視て、その服装に変えたのですよね?しかもアレンジまで加えて…とても良い想像力です!」


「……ヒカリちゃん、一つ〝訊かせて〟」


「はい、何でしょう?私に答えられることなら何なりと」


「…………」


 何故こんなにも様々なモノをくれるのだろうか?


 初対面からほんの数分で『プロト・ネオ』を譲ってくれた時もそんな疑問を抱いてはいたが、今回の件でそれが膨張した。


 貢ぎ癖でもあるのだろうか?


「どうして、『プロト・ネオ』や思念布を私に?希少なモノだから…尚更気になる」


「それはですね…」


 私の質問に対して、淡々と答えを連ねてみせるヒカリ。


「扇子の方はただの媚売ですが…思念布の方は〝ランプ〟がお嬢様を指し示した、というのが理由ですかね…」


 ヒカリはローテーブルの上に置いてあるランプを持ち上げて更に言葉を続けた。


「就寝前にも行った説明の通り、このランプは求めるモノの方向や位置を指し示してくれる魔導具です。…そして、説明の際に私が〝求めた〟のは、その思念布を持つに〝相応しい存在〟でした。そして、ランプが指し示したのはお嬢様です」


「だから、私に各種権限を含めて譲ってくれた…と」


「はい!そうです!」


 私が…思念布に相応しい存在?


 何故?


 いくらなんでも自分の魔導具を過信しすぎなのでは?


「…………」


「お嬢様、まさか返却しようと考えている訳ではないですよね?」


「…あ、ごめん。ボーっとしてた」


 ランプをローテーブルに置いて此方へ近づき、私の手を取るヒカリ。


「お嬢様…貰ってください!このヒカリ・アルバが保証しますよ!思念布を持つに相応しいのは、カラマイアお嬢様だって!」


「アルバ…?」


 何処かで見聞きしたような性だ…だが、思い出せない。


 何だっただろうか?


「わ…わかった」


 ペカーっといい笑みでヒカリが言う。


「さぁ、まだ起きるには早すぎますし、二度寝でもしましょうか!」


 あ…思い出した。


 〝アルバ〟はこの世界で一番多い性だ。


 …スッキリ。


「大きくなっても、中身は変わらないんですね」


 私をベッドへ誘導しながらヒカリが言った。


 そして気が付けばベッドの上である。


 緊張が緩んだおかげか、睡魔が再び訪れている。


 思考能力もこころなしか低減しているように思える。


「本当に大きくなっただけなのでしょうか…?それによる筋力の上昇や…いや…身体が急に成長したとして、その皮と肉はどこから?…うーん……。…わふっ…!」


 隣で横になるヒカリを抱きしめて、眼を閉じた。


 今は私の方が大きいので、先ほどとは立場が逆転している。…抱きついているのは依然として此方なのだが。


 …改めて思う、獣人は温かいと。


「おやすみ、ヒカリ」


「はい。おやすみなさいませ、お嬢様」


 そうして2度目の眠りに就いた。


  △ ▷ ▽ ◁ △


「…そうか。カラマイアには来ないものとして考えていたが…どうやら、来たようだな。〝爆発的成長グレードアップ〟が」


 翌日の早朝、執務室へと赴き、身体の異変についてパパに訊いてみると、聴き慣れない単語がその口から言い放たれた。


 因みに、ヒカリはメイドとして屋敷内の清掃中である。


 …爆発的成長グレードアップ


 その疑問に首を傾げる私に対し、パパは説明を続けた。


 目線はデスク上に積まれている書類に向いたままで、その手はペンを持ちながら忙しなく動いている。


 本日も朝からハードワークのようだ。


「本来ならば、もっと早く訪れるものなのだが…カラマイアは少しばかり遅れて発現したようだ」


 書き終えた書類を三つ折りにし、封筒の中へとソレ移したパパは、デスクの傍らに掛けられていた上着を手に取りハットを被った。


「クロス家の特徴といえば良いのか…私も幼いときは驚いた。…身体に悪影響は無い、あまり気にしなくても良い。それと、急ですまないが、〝仕事〟が入った。日が昇る頃には帰ってこれるだろう」


 早朝に仕事へ赴き、次の早朝で屋敷に戻る。


 それでも早い方なので、将来ソレを引き継ぐ可能性があると考えると、今から心臓が苦しくなってくる。


 左手で食事を摂りながら、右手で仕事。


 半身浴を愉しみながら魔法を用いて、遠隔でペンを走らせる。


 私が幼少の頃から、パパはそうして仕事をしていた。


 なのに、眼の下には隈一つない。


 とんだ化物である。


「いってらっしゃい、パパ」


「ああ、帰りに老舗のラングドシャを買ってくるよ。楽しみにして、身体を休めていると良い」


 チラリと此方に視線を移したパパは、すぐに扉へと手を掛けて屋敷の外へと足早に移動していった。


「身体を休める…」


 そんなことを言われても、特にすることが無い。


 …修練場にいる騎士達と模擬戦でもしようかな。固有魔法の訓練もしたいし。


  △ ▷ ▽ ◁ △


「よっ!!ここか!?こっちか!?…痛え!また叩かれた!」


 あれから騎士達の修練場へと向かい、たった今、一対一の模擬戦中である。


 魔法を扱えないが、それでも戦線を立ちたい者は騎士になり、日々武力の向上に務めて研鑽を積む。


 因みに、修練場の隅で暇そうにしていた騎士を一人借りて現在に至っている。


「っどら!このっ!…っ痛え!?畜生!何処から叩いてんだよ!?」


 視えない何かに向かって必死に木剣を振り回すのは、レヴォルという名前の青年だ。


 訊くと、彼の性も〝アルバ〟とのこと。


 黒いワシャワシャの髪が目を隠しており、その肌は日焼けしてなのか、健康的な褐色となっている。


 彼の背はだいぶ高く、今の私でも少し見上げる程だ。


 虚空に向かい木剣を振るう彼に私は声を掛けた。


「本体を潰したほうか早いと思うけど…」


 その言葉に対してレヴォルは、此方に視線を向けることもなく木剣を振り続ける。


 彼の目的は何だろうか?…と、そう考えながら固有魔法を展開していたのが良くなかったのだろう。


 気が付けば私は…スタン中だ。


 魔法が扱えず、身体も動かせず、息苦しさも感じられる。


 そんな私にレヴォルは近づき、木剣の腹でポンと頭を叩いた。


「はい、俺ん勝ち!『革命カクメイ惹鬼(ジャッキ)』成功!凄いべ、俺ん剣技は!」


「これ…どうやったの?」


「ん?そんはな…」


 レヴォルはニカッと笑い、私の頭をワシャワシャと撫でながら答えを述べた。


 それは単純なモノで、それでいて強力なモノだった。


「俺ん剣技は、魔法を切れば、その魔法を使った奴をスタン出来んだよね。要は…対魔法使いに特化した剣技を扱えるんだ。だから、お嬢が負けんのも仕方がない事なんだよな。…それにしても…」


 未だにスタン中の私の身体を見やりながら、残念そうにレヴォルは続けた。


「いつの間にデカくなったんだ…?お嬢は俺ん趣味ドストライクの身体つきしてたのに…まぁ、こっちもこっちで悪くないんだけどな!」


 今度は私の頬をモニモニとしながら言葉を続けた。


「かんわいいな〜!お嬢が通う学校、俺ん家から遠いからな…通うってなるとキツイんだよな…。無理してでも試験受け行けば良かったんかな…ん~…」


 スタンが解けた私は、レヴォルのゴツゴツとした手を止めて、残念そう面持ちをしている彼に向き直った。


「テグルマニス学校は全寮制だから、交通関係の問題は無いと思うけど」


「え!?全寮制だったん?……よし決めた!転入するわ、お嬢の学校。今の学校から転校するわ俺。年齢も問題ないし、適当に転入試験合格すればいけんだろ。そうと決まれば…王様ん所行って、手続きさせてもらおっかな。よし、今日の訓練はサボるわ」


「いいの?」


「おう!問題ないんだよ、俺ん力は団長よりも強いからな!さて、ササッと謁見しに行くか。多分暇してんだろ、愚王ニギは」


 王様を呼び捨てするのは流石にどうかと思う。


 あの人じゃなかったら、不敬罪は免れないだろう。


 レヴォルはその場でくるりと回り、修練場の出入り口へと足を向ける。


 どうやら本当に今から行くようだ。


「んじゃ、またね〜!俺ん剣技の対策、考えてみてくれよな。そこからまた俺ん剣技は成長するからよっ!」


 大きく手を振りその場を後にしたレヴォル。


 少しばかり…自由が過ぎている気がする。


「お、お嬢様!次は俺と…!」


 出入り口を見つめながら考え事をしていると、別の騎士から声が掛けられた。


 どうやらこの人も模擬戦をしたいらしい。


「あっ!おいっ!次は俺だ!」「いやいやいや…!順番なんて決めてなかったでしょう!?」「落ち着けお前ら。次に行くのは私だから、君等で模擬戦してれば?」「年功序列を宣言させてくれ!わしは御年50歳だ!どうだ!?これを超える者はいないだろう?」


 何やら喧嘩が始まりそうな雰囲気だ。


「おい!クソジジイ!年功序列だと!?」「遂に頭が衰えたか?ここの最年長っつったら…」「あ…忘れておったわ」「おい、クソジジイ…本当に老いたな…」


 言い争い合っていた騎士達は、壁沿いのベンチで水分補給をしている少年へと視線を向けた。


 私もそれに習い視線を向けている。


 すると、此方からの視線に気がついた少年は、何だと言わんばかりに此方を睨み返してきた。


「あの子は…確か…ロレルさん」


 彼はダークエルフであり、御年二千歳以上だ。


 彼は、パパが闇市の現場の取締を行った際に、ついでに連れて帰ってきた子だ。


 彼は男娼として売られそうになっていたらしい。〝魔力封じの縄〟に巻かれ、手足が切断されてダルマの状態だった彼は今も記憶に新しい。


 だが、王様が【完全回復】で治してくれたお陰で今は五体満足だ。


 その経験が原因か、未だ誰にも心を開いていない。


 なのに、同じ空間で訓練をしてくれているのは、完全に心を閉じている訳ではないということなんだろう。


 そして、彼は魔法が扱える。


 悲惨な経験が起因してか、自身の身体を鍛える為に騎士団の訓練に参加しているようだ。


 …私も魔法が封じられたら何もできない。


 私も彼を見習うべきだろう。


 ロレルは壁沿いのベンチから立ち上がり、皆から集まる視線で居心地が悪いと言わんばかりに修練場を後にした。


「あいつ……凄えよな」「人間にえげつない事されてんのに、それでも俺達と訓練してんだぜ?」「今日も〝持ってく〟?」「そうだな、少しでもリラックスしてほしいしな」「よし…じゃあ、今日は俺が〝一番〟な?」「えぇ〜、じゃんけんして決めようよ」


 ……ん?何だろうあれ。


 ロレルの座っていたベンチから、何かキラリと光る者が視えた。


 そこまで近づき確かめてみると、その正体は指輪だった。


 少し曲がり、形が歪な指輪だ。


 何かの魔導具だと一瞬考えたが、それらしい魔力は何も感じられない。


 本当にただの指輪のようだ。


「…届けよう。大切なものかもしれない」


 ポケットからハンカチを取り出し、指輪を包んだ。


「【特定】…お家に向かってる…」


 目的地はロレルのために建設された家だ。


 私は指輪を包んだハンカチを片手にそこへと向かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ