5人目 Ⅳ・カラマイア 日
カインが去ってから気がついた事が幾つかある。
それは、私があの特殊な縄を解いてからの記憶が曖昧な事だ。
恐らく私は、ソレを解いた瞬間に、またもや魔力を流されたのだろう。今度は洗脳する為に。
でも、それに気が付いてからでは時すでに遅し。既にカインは何処かへと去った後だ。これではどうしようにも何もできない。
ので、私はこれからのテストに備えることに決めた。
クラスBを担当しているヒメノ・フキ先生との一騎打ち及びタイマンは中々に厳しいものになるのではなかろうか。
かくして訪れたテスト日…の前日。
同クラスのトップであるハルルが、同性の私から視ても、なんとも可愛らしい女の子とともに教室内へと登校してきた。端から聴いた限りではあるが、名をアクリアというらしい。
そして、その日にクラスCの子が、私の所属するクラスBへと訪れた。
すると、その子が突然にもその眼を見開き、制服の下からコウモリのような羽を突き出させた。お陰で、背中側が大きく開けてしまっており、視てる身としてはハラハラしてしまう。
クラスCの子の姿を確認したアクリアは、窓を開ける余裕が無かったのか、そのままソレを突き破って外へと身を投げ出した。
ぷにぷにそうに視えて、以外にも身体は頑丈そうだ。いつか触らせてもらおう。
それからは、外へ飛び出したクラスCの子とアクリアが空中にて追いかけっこを始めた。
空中に浮くだけならまだしも、空を飛ぶ方法はかなり限られている。羽根や翼の類が見受けられないアクリアはいったい何者何だろうか。
空を飛べる時点で、私よりも強いのは確定だろう。アレは制御を間違えれば、簡単に身体の骨を折ってしまうらしい。
空を魔力のみで飛ぶ場合、その魔力をかなり消耗する事がネックらしく、長時間の使用は難しいとのこと。教科書にそう載っていた。
そうしてしばらく空を眺めていると、クラスCの子の姿がパッと消えた。
何処に行ったのかと視線を動かすと、地上にいた。
恐らくクラスCの子と同じクラスの人だと思われる、ボサボサ赤毛ロングの人物が、クラスCの子を抱きかかえていた。
空を飛んだ形跡が視られない為、恐らくは跳躍であの高さまで跳び、一瞬で回収したのだろう。そして、赤毛の人は謝礼の言葉を述べ、自身のクラスへと帰っていた。いったい何者なのだろうか。
クラス合同での授業を増やして欲しい旨を王様に伝えてみるのも悪くないかもしれない。
それからは、アクリアが酔っ払ったり、クラスAからハルルの彼女さんが来たりと、校庭はてんやわんやし始めた。
アクリアが酔っ払っている事に気が付いたハルルは、屋上に向かって魔法の弓を創造して、空へと魔法の矢を打ち放った。
教室内から視てる私には、ハルルが何を狙ったのかが分からない。ので、『固有 第二眼』を使用して何が起きたのかを確認した。
どうやら、ヒメノ先生が手元の酒瓶から、お酒を『創作 魔法化』により、アクリアの口へと運んでいたようだ。
それからは、1日前倒しでハルルの一騎打ちが始められた。
しかし残念な事に、ハルルが『固有 変身』によりその姿を変えると、ヒメノ先生はすぐに白旗を上げて降参を申し出てしまった。
少しだけ期待をしていた私としては、アノ状態のハルルの強さを視ておきたかった。ので、今回の結果はとても残念である。
そして日を跨ぎ、テストが始まった。
私は最後に一騎打ちをするとのことだが、他のクラスメイトの成績が芳しく無く、ヒメノ先生をギリギリで倒したのが1人、それ以外は負けてしまっていた。もしくは、魔力切れによりリタイアしている。
クラスメイトと先生の一騎打ちを眺めて作戦をたててはいるが、恐らく上手くはいかないだろう。
そう考えながら、先生の前へと移動した。
下記のこれはその時の記憶である。
△ ▷ △ ◁ △
ヒメノ先生と数メートル離してその対面へと移動し、そのままヒメノ先生の方へと向き直った。
今どき珍しい、The・貴族という感じの身なりやその立ち振舞からは、彼自身の自己評価の高さが垣間見える。
「では、貴方で終わりですね。早速始めましょう」
「はい、先生。よろしくお願いします」
先生がそれっぽい構えをとったので、私も目隠しで両目を覆った。
お試しだ。
今回は両目を使わずに、『固有 第二眼』のみで戦闘してみよう。そう考えてのアクションである。
先生が地面を適当に魔法で掘り起こし、その手に土の塊をスタンバイ。
「『創作 魔法化』、『シャインブラスト』へ」
先生の手にあった土の塊が、楕円の形をした光の球へと姿を変えた。
「君たちの使う【変換】。それが羨ましくてね、学生の時に創ったんだ…さて、自分語りはこれくらいにして、終わらせようか。流石に疲れが来ているんだよ」
「なら、私にも勝機はあるかもしれませんね」
「ランクなんて、所詮は飾りだからな。相性次第では、ランクFでも、ランクSに勝てるんだ。現に、学生の時にこの眼で視てしまった。つまりは、君は私に勝てるかもしれないね」
両目を閉じたのは、私の考えを検証する為であり、勝つ為ではない。
「いつでも来ていいですよ。だが、出来れば早めがいい」
「………はい。なら、遠慮なく」
魔法を使用するときに、イメージを固定化させてはいけない。
『ファイアーボール』だから、炎の球体が出てくる訳では無い。
炎の球体が出ると考えながら『ファイアーボール』を放つから、炎の球体が出てくるのだ。
そう、パパは言っていた…気がする。
なら…私の両目を閉じたら、『固有 第二眼』から視える情報だけが、私の視界になる。
その視界には、両目を覆った私と、魔法を片手に構えている先生がいる。
この視界はもう一人の私の視界だ。そう考えると音が聴こえるのはおかしい。
なら、試してみよう。
眼だけじゃないのかもしれない。
「いつまでそうしているんだい?カラマイアもカウンター狙いだったりするのか?なら、私から向かう事も吝かではないのだが…」
「『クロス・ファイア』」
私がそう言うと、視界のすぐ近くから魔法が撃ち出された。
バツの字の蒼炎がゴウゴウとうねりをみせており、その周囲をユラユラと歪ませている。
その炎が向かう先は先生の背中であり、このまま炎がぶつかれば、先生の身体は跡形もなく塵になってしまうだろう。
だから今、先生に気付いて欲しい気持ちと、気付いて欲しくないという気持ちが、心の中でごちゃ混ぜになっている。
つまり、ドキドキハラハラしている。
「さて、『シャインブラスト』、出番だ」
先生はそう言うと、手元にて浮かばせていたソレを蒼炎へとノールックで射出した。
パッと、手元から打ち出された楕円の光球は、段々とその速度を増していき、やがて蒼炎へと衝突した。
それにより蒼炎は消えてしまったが、先生に遠慮はいらない事を確認できた。
なら、今度は眼前に出してみよう。
「『クロス・フレイムランス』」
私がそう唱えると同時に先生の顔の前から姿を現したのは、先程と同様にゴウゴウと燃え盛る蒼炎の槍だ。
ソレに対して先生はかなり冷静に対応してみせる。
「『創作 魔法化』、『フルエレメント』」
先生がそう言い放つと同時に、その身体が白色に輝き始めた。なんとも眼に悪い眩しさだろうか。
私の出した蒼炎の槍は、先生の身体に飲み込まれてそのまま消えてしまった。いや、吸収されてしまったようだ。
「凄い。魔法が効かなくなるんだね」
「魔法だけを使う相手ならば、極論これだけで完封出来るだろうな。さて、降参するか?」
「いいえ、ヒメノ先生。まだ試したい事が残ってます」
「魔法が封じられたというのに…なんとも恐ろしいな。いいだろう、試してみたまえ」
なら、早速試してみよう。
魔法が出せる事は確認できた、なら、物を掴んだりとかは可能なのだろうか。
今からそれを確かめる。
取り敢えず、ビンタとかは出来るかな?
「ほっ…!」
先生の頬にめがけて、掌を振るうイメージをしてみた。
すると、反応は即座に返ってきた。どうやら成功したようだ。
「え、痛っ…何今の…?」
「よし」
「カラマイア、一旦タンマ出来るかい?」
次は剣を持っているイメージをしてみよう。
先生の服の先を少し切るイメージで、空想の剣を振りかざしてみた。
すると、先生の袖がスパッと落ちた。
…ごめんなさい。
衣服の裾が無くなってしまった先生は、その顔に笑顔を浮かばせた。少し不気味に映る、そんな笑顔である。
先生は再度地面を掘り起こした。今度はかなり深く、人が一人分入れそうな程である。
「『創作 魔法化』、いでよ『シャインペガサス』!私の愛馬よ!」
掘り起こされ山となった大量の土が、段々と光りに包まれ始め、その形を変え始めた。
「凄い…」
「『創作 魔法化』、『フルエレメントソード』そして、『フルエレメントアーマー』。私はこれで、魔法も物理も効かない完全防備だ。いつでもかかってきなさい」
「では、遠慮なく」
…とは言ったものの、策が思いつかない。
どうしよう。
取り敢えず…先生の馬と鎧の強度を確かめよう。
「『クロス・アンフェア』」
「聴かない名前の魔法だね。いったいどんなやつなんだい?」
「その名前の通りです」
クロス家は歴史が深い、故に、こういうことも出来たりする。
今度は全方位から『クロス・フレイムランス』を出した。
今回は射出ではなく、伸ばして突き刺すイメージでの使用である。
「またその魔法なんだ。レパートリーが少なかったりするのかい?」
「その鎧と馬、没収させてもらいます」
「はい?没収?」
先生の鎧と馬だけを狙って蒼炎の槍を伸ばした。
全方位から無数の槍が迫りくる様子は、いったいどのような感じなのだろう。
「うわっ…!魔法や物理は効かないって言ってたのにな…これじゃ、先生は嘘を言ったことになってしまうね」
槍に突かれた馬と鎧はパッと消えた。
これは生物には適用されないが、それ以外ならイメージ次第で適用可能の攻撃である。
そして、次に狙うのは先生だ。
蒼炎の槍が引っ込み、再度伸び始める。
「さて、そろそろお昼だね。終わらせようか」
「はい、すぐに終わります」
「この槍、一本貰うね」
先生は、自身に向かい真っ直ぐと伸びるソレを、華麗にスルスルと避けていく。
そしてその中から一本を掴み取り、その場からドロリと地面へ消えた。それはまるで、バケツの水をある程度の高さからひっくり返したかのようだ。
「どうやって掴んだんだろう」
そう疑問をボソリと呟いていると、地面から蒼炎の槍が突き出てきた。
ので、私は咄嗟に後方へと跳び、自身を盾で包むイメージをした。剛鉄のボールの内側に入っているようなイメージだ。
地面から出てきた槍は、ガキンッと音を立てて折れた。ひとまずは人心地といったところだろう。
そう自身の胸を撫で下ろしていると、今度は校庭全体が輝き始めた。
…嫌な予感がする。
「どうしたらいいんだろう?」
そうして頭を働かせていると、校庭の地面がめくり上がり、私を包み込むような動きを見せ始めた。
これは対処できない…訳ではないが、負けないと勝てないは別である。
私と先生では、戦闘時の相性が悪いのだろう。どこまで行っても平行線だと思われる。
土が私を包み始めているこの現状は、窒息の危険性がある。
「コレから脱しないといけない」
だが、アイデアが湧かない。
時間が過ぎ、寮に戻ったら、次々と解決策が湧いてくるのだろう。だが、それでは遅い。
「…降参です。ヒメノ先生」
ここは潔く、私の手数の少なさを反省しよう。
私は目隠しを外した。眼に差し込む太陽光が、やけに眩しく感じられる。
「おぉ…」
土の壁が眼の前に迫っていた事を知っていたが、自分の眼で視るとその迫力が良く分かる。
これは流石にどうしようもない。
「お見事です。副局長」
校庭が少しずつ元の形に戻っていく。
すると、地面から這い上がるようにして、先生が地上へと出てきた。
「本職の役職で呼ばないでくれないか?」
「地中で息が出来るとは思えませんが、どう対処したのですか?」
「それは…潜る前に大きく息を吸っただけだな。…はぁ、君の質問には抵抗すらできないね。流石は最高尋問官の娘だな。……さて、採点結果は後日お知らせする。午後は各自自習でいいからな。それでは、解散!」
かくして、先生との一騎打ちは終えられた。
△ ▷ ▽ ◁ △
私は先生に勝つ手段が無く、敗北してしまった。
ハルルとの件ではすぐに白旗を振っていたが、あれはつまり、ハルルとは相性が悪かったという事なのだろうか?
それとも、本当にハルルが先生を超えていたのか。
どちらにせよ、彼は強い。
それから時間が経過して、学校は夏休みを迎えた。
テグルマニス学校の夏休みの期間が2ヶ月間ある理由は、推測に過ぎないが、先生達や王様の本職の仕事を片付ける為ではないだろうか?多分に仕事が溜まっているのではと思う。
いくら「休みの週」という制度があるといっても、その期間に熟すのは2週間分の仕事である。
到底間に合わせられるとは思えない。
故に、2ヶ月間なのだろう。
そう考えると、先生達はかなり大変である。常に仕事をしていると言っても過言ではない。
「っと、これくらいにしよう」
屋敷へと進んでいた馬車が止まった。
ふと窓の外へと視線を向けると、そこには自身の屋敷が見受けられた。黒と金の装飾に彩られた、王城と比肩するほどに豪奢な我が家である。
馬車の扉を執事の人が開き、手を差し伸べてくれた。
私はその手を取り、今まで乗っていた馬車から身を降ろし、屋敷の入口まで歩いた。
その道中ですれ違う使用人達は、私を視るなり腰を深くおって挨拶をしてくれる。
正直あまり良い気分にはなれない。
だが、自身が公爵令嬢という都合上、それが普通である。これもやむなしなのかもしれない。
それからは屋敷の中へと入り、自室へと足を動かした。ほんの数ヶ月程度しか此処を離れていないのに、なんとも懐かしさを覚えてしまう。
一応、今後の予定としては、3日後にカイスやカタバと合流をするというものがある。これは、カイスの敵討ちの件の解決を計るというものだ。
なので、それまでは心身をしっかりと休めたいと考えている。
そうして考え事をしていると、気が付けば私は自室へと辿り着いていた。
ノブに手を掛けてその扉を開き中へと入った。
「…何してるの?」
「ングッ!ッケホゲホ!お、お嬢様!?お、おか、ぉお帰りなさいませ!…これは…お、お茶菓子の摘み食いをしていました…申し訳ありません!!」
見知らぬメイドがソファーの上に腰を落ち着けて、ローテーブルに置いてあるお茶菓子をパクパクとしていた。
私が学校にいる間に、新しく雇われた子なのだろう。
壁に箒が立て掛けられていることを鑑みるに、部屋の掃除でもしていたのだろう事が想像できた。
「まだ残ってる?」
「え…あ、はい!」
「一緒に食べよう」
「よ、よろしいのですか!?…あ!ど、どうも初めまして!紹介が遅れました!ヒカリと申します!よろしくお願いします!」
「ヒカリちゃん、追加でお茶菓子頼んでも良い?あと、2人分の紅茶も」
「分かりました!行ってきます!」
ドタバタと足音を立てて、新人メイドのヒカリはこの部屋を後にした。扉の向こうから訊こえる足音が、凄い勢いで遠のいていくのを感じる。
大丈夫だろうか?
「箒も持ってけば良かったのに…」
ソファーへと腰を落ち着けて、適当にラングドシャをかじる。
私が好きなお菓子ということもあり、元々用意されている分を視ても、他のものよりも8割ほど多い。
「…あ、手洗ってない。………まぁ、もう食べてしまったし、仕方ないか」
そうして再びラングドシャへと手を伸ばすと、ドアの外からドタドタと駆ける音が訊こえてきた。
流石に速すぎないだろうか?
「只今戻りました…っとと…!うわわわわ…!!」
扉の外からなんとも危うげな声が聴こえる。
「…第……『固有 第二躰』」
自身の眼を閉じて、扉の外へと視界を移動させると、今にも体勢を崩しそうなヒカリの姿がそこにはあった。
ので、ヒカリの身体を支えるようにして触れ、扉を開いた。
ソレを体験したヒカリは、ポカンと呆け顔となっている。
「大丈夫?」
ソファーに腰を落ち着けたまま、首を扉の方へと向けてそう問い掛けた。
それに返事をするヒカリの声は、先程の怪奇現象を体験してか、少し緊張しているように思える。
「は、はい!お陰様…?で、なんとかなりました!あ、ありがとうございます!」
「良かった」
ヒカリはローテーブルの上にクッキーやら、紅茶やらを並べ終えると、此方に向かい軽く会釈をして隣に腰を下ろした。
一応、ローテーブルを挟んだ対面にも、たった今腰を落ち着けているモノと同様のソファーがあるのだが、ヒカリは何故か隣に座ったようだ。
「あ、あの!お嬢様はいったい…どのような魔法が扱えるのでしょうか…!先程の不思議な現象は…お嬢様の魔法によるもの…ですよね?」
ヒカリは恐る恐ると、それでいてワクワクといった面持ちで、此方にそう問い掛けた。
「うん、特殊な魔法を扱える。…ヒカリちゃんは何か、魔法が使えるの?」
「あぁ~…私は、魔法を扱うタイプじゃないんですよ。私は魔導具の研究をしているタイプです。ですので、こういったモノで…お嬢様を守護します」
ヒカリはその肩から下げていたポーチへと手を伸ばし、何やらガサゴソとし始めた。
さほど大きくはないポーチなので、どうやってそんなに腕を突っ込んでいるのか良く解らない。恐らくは、そのポーチも魔導具なのだろう事が想像できる。
やがて、目的のモノを発見出来たのか、ヒカリはポーチの内からその手を引いた。
そうして姿を表したのは、黒と金の色で装飾されている一本の扇子である。…いったいどのような魔導具なのだろうか。
そうした疑問が胸の内に湧く程に、その効果が想像できない。
「じゃ~ん!コレです!この扇子です!」
「ソレは…どんな効果があるの?」
「この魔導具は、開いている状態と閉じている状態でその効果が変わります!開いている状態での効果は、歴史上、勇者と魔王…もとい魔法王しか扱えなかった『バリア』……ソレを擬似的に再現したモノが展開されます!!そして!閉じている今の状態!この状態のときの効果は、闇系統のビームをその先端から打ち出せます!その威力は所持者により変動しますので、正確なモノは誰にも判りません…」
開くと『疑似バリア』…閉じると『ダークビーム』…『ダークビーム』はどの程度魔力を使用するのだろうか。それ如何によっては、是非とも量産したい一品である。
「この扇子、『プロト・ネオ』はお嬢様に差し上げます!是非ともお嬢様のお力になれれば幸いです!」
「……三つ、気になるところがある。…一つ目は『ダークビーム』時の使用魔力量について、…二つ目はその安全性、…三つ目は一本を創る為に必要な費用について。教えて」
「はい!えぇ~…まずは『ダークビーム』使用時の消費魔力についてですが、これは普通に『ダークビーム』を撃ち出したときとあまり差異はありません!…で!安全性についてですが、それは創作段階にて試験を行っていますので保証できます!〝IMU(国際魔導具連合)〟からも〝お墨付き〟も頂いてます!!ですが…素材が希少なモノばかりなので、一本を製造するのにも、各国から多大な支援を頂けなければいけません…」
「…それ、本当に私が貰っても良いの?」
「はい!是非!誰に献上するかは、コレを創作した私に権限が在りますので!そちらはご心配なく!」
「貴方が制作者なの?」
「はい!私が創りました!」
ペカーッと、可愛らしい笑顔でそうヒカリは答えた。
思わず頭を撫でてしまう。
「凄いね」
「お、お嬢様!光栄です〜!!あ~撫でられるの気持ちいいです〜!」
「…あ、耳がある。獣人?」
「はい!わんちゃんです!わん!因みに、多少なら芸も出来ますよ!」
「尻尾はついてるの?」
「はい!少しばかりお手入れが大変ですが…温かくてモフモフな尻尾があります!」
「…誰かと同じベッドで寝ることに抵抗はある?」
「…?いえ、同性なら別に気にしませんけど…」
獣人は体温が高くて、モフモフな部分が多い。
実家にいる間は彼女と生活させてもらおう。
いい夢が魅れる事を期待する。
「じゃあ、今日から私の部屋で生活していいよ」
「えぇ~!良いんですか!?こんな上等なお部屋で生活なんて…私は夢でも魅ているのでしょうか!?」
「これから毎朝にキスもよろしくね」
「…え゜?…はい?わ、分かりました…?」
ヒカリからの返事を貰ってから、紅茶を一息に飲み込み、ソファーから立ち上がった。
舌がピリピリするが、この程度ならば、生活に支障はきたさない。
「あとは食べていいよ。パパに挨拶しとかないと」
「やったぁ~!ありがとうございます!」
クッキーを何枚か手に取ってから、私は部屋を後にした。
△ ▷ ▽ ◁ △
パパの執務室へと到着した私は、一応、扉を軽くノックをしてから中へと足を踏み入れた。
常に開きっぱなしなので、ノックする必要は無さそうだが、相手はパパである前に、公爵様である。
であれば、ソレが自然だろう。
「只今帰りました、パパ」
「…………そうか。済まないが…今は構えそうにない。キリが良いところまで進める。それまでは適当に座っててくれ」
「はい」
執務室の壁側にある、数々のお酒が立ち並ぶバースペースの椅子へと腰を落ち着ける。
ソファーと比較しても位置が高い座席なので、私の足はプランプランになってしまう。
それにしても…毎度思うが、仕事スペースと娯楽スペースが同室に存在しているせいで、仕事の効率が落ちるなんてことは無いのだろうか。
少なくとも、私なら効率が落ちるだろう。
「…………」
窓の外を眺めながら、床まで届かない足をしばらくプラプラとさせていると、パパがデスクから立ち上がり、軽くその身体を伸ばした後、私の隣まで来てくれた。
数カ月ぶりに視るパパの横顔は、少しだけ頬がコケており、なんとも忙しい日々を過ごしていた事が容易に想像できた。
「学校はどうだ?孤立してないか?」
「大丈夫。友達沢山出来たよ」
「そうか、なら良かった。カラマイアの性格的に、自発的に声を掛けるとは思えないからな」
パパが私の頭を撫で始めた。
とても心地良い。
「カラマイア…私は君が心配だ。親離れができるかと考えて、全寮制のテグルマニスに通わせたが、あまり効果は無さそうだな」
私の方へと視線は向いているが、目が合わない。
パパは虚空を見つめているようだ。
「カラマイア、〝質問〟だ。…私がこっそり君に流した悪夢払いの魔力が、ある日突然にも消失した感覚を覚えた。ソレに心当たりはあるか?」
「…あります。私の考察に過ぎませんが…セーブ・クロス、通称カインという男性が、私を介して何かを行おうとしていた際に、パパの魔力がカインの魔力に押し潰されたのだと思います」
「…そうか。カイン……数年前に、ニギの口から訊いた事がある名だ…確か、あのファミリーのアンダーボス。そんな立ち位置の人物だった筈だが…彼がテグルマニスへと訪れたと…?」
「はい」
「…ふむ」
私の頭を撫でる手が止まり、今度は私の両頬に手を当てた。
パパは私の頬をモニモニとしながら、何かを考えているようだ。
「魔力が消失してから、今日に至るまでの間、悪夢は魅たか?」
「…学校に通い始めてからは、一回も悪夢を魅る事はありませんでした」
「…そうか。2代目コンクルード王の呪が解けたのか、はたまた、その効力が時間の経過により弱まったのか……いや、違うか。解呪の方法は、コンクルード王家の者からキスを受ける事だと把握している。…つまりは、そういうことだろうな…」
「…………」
虚空を見つめていたパパの赤い瞳と眼があった。
そんな話をされたタイミングで眼をあわせられると、ついつい目線を逸らしそうになってしまう。
別に意識をしている訳では無いが、段々と顔が熱くなりゆくのを感じる。
「…正解か。二千年間成し遂げられなかったソレを、こうも容易に成すとは…流石だな。その縁は大事にしなさい」
「はい、パパ」
「……………さて、エネルギーチャージはすんだ。仕事に戻らせてもらう」
バーカウンターからデスクへとパパは戻った。
すぐにペンを持ち、山積みの書類に何かを書き込んでいる。
いずれは私がアレをする事になるのだろう。
『固有 第二躰』を使用し、パパがたった今書き進めている書類を視界に収めた。
……私への求婚の手紙だ。
年初めに18になり、結婚の適齢期のピークを迎えてしまったが故のお手紙なのだろう。………そろそろ焦った方が良いのだろうか?
それを一枚一枚丁寧にお断りの文を連ねていた。
書き慣れているのか、一枚、また一枚とスラスラと終わらせていく。
………あの山が全て求婚の…?
お、恐ろしい…。
私が結婚するとしたら、誰とになるのだろうか。……もしかしたら、このまま独り身の可能性もある。
だが、私の跡継ぎとなる子供は必要だ。つまり、このまま独り身では困る。…………卒業式を迎えるまでには、目星を付けておこう。
比較的歳が近くて、世間的に視ても問題が無いくらい爵位が高い人が良いだろう。…最悪の場合、前者は妥協しよう。
△ ▷ ▽ ◁ △
クロス家がかけられていた呪。
それは、ペケ・コンクルードの息子である2代目コンクルード王、通称魔法王、またの名を魔王。
そんな異名の多い彼がクロス家に対する復讐として、『悪夢を魅続ける呪』をクロスの〝血〟に対してかけた。
そして、その解呪方法はキス。
コンクルード家の者からキスを受けるというものだ。
決して不可能ではないが、実質的には不可能と言っても良い。そんな解呪方法を提示された。
だがしかし、当時のクロス家はプライドが無駄に高く、他の解呪方法の模索を始めた。
代々行っているコンクルード家の観察も、その一環なのだそうな。
コンクルード家以外の者からキスを受けると、気休め程度だが、呪の効果が落ち着く事が後に判明した。
ので、朝起きた時、または、夜寝る時のどちらかにキスをしてもらう習慣を始めた。
「ふ~ん…」
呪の詳細が気になり、書斎へと足を運んだ私は、〈歴代クロス家頭領の功績・貢献〉という本の、それらしい部分を読み進めている。
三千年前からクロス家って存在してたんだ…。
「キス…してもらわなくても良くなったんだ。…つまり、あの悪夢に唸される日々は…もう来ないと」
そういえば、あの日から悪夢を魅ていないな。
……また顔が勝手に熱くなり始めた。
やっぱりキスしなくても良いと、後でヒカリにも伝えとかないと。
…でも、キスされるのは心地良い。
こころなしか、キスをされる事で目覚めも良くなっている……気がする。
クスルからのチークキスが脳裏に浮かぶ。
「アレ…好きになっちゃったな…」
…気が付けばキスの事しか考えていない。
…流れが良くない。
自室へ戻ろう。




