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4人目 Ⅻ・ヤクイ 舌

「よし、決まりだな!」


 今回の対神様の戦闘メンバーは、王様、俺、軍服天使、スライムっ娘の4名が選ばれた。


 因みに、この人選は王様が決めている。


「んじゃっ、早速追い払いに行くぞ!神は天界に帰れってな」


 王様が先導して山の中へ入り、俺と使徒達はそれに続いた。


 王様の足取りは一度も止まることもなく、草木を掻き分けて進んでいる。


 御一行はやがて、開けた場所へと到達し、その足を止めた。


「これは……なるほどな…俺達は騙されたって訳だ」


 王様が視線で指し示した先には、金色に塗られているお墓がぽつねんとしている。


 そのお墓に書いてある名前を読むと、なるほど、王様の言っていることの意味が理解できた。


「アズマル・シュヴァルツ・アンゲロイ…?」


「この街の管理者は既に死んでいたのか…まさかの11ヶ月前…俺が去年お参りに来たあとに息を引き取ったと…」


「じゃあ、あの屋敷のエルフは…?」


「ヤクイ、使徒達、街へ戻るぞ!」


「は、はい!」


「【特定】…【移動】!」


 王様がそう言うと、一瞬の暗転を受け、山の中から場所を変えていた。


 場所はお屋敷の一室、お客用の部屋である。


「居るんだろ!懲らしめてやるよカグツチ…!」


 王様の声は客室内に響き渡った。


 だがしかし、目的の人物は影も形もない。


「くそっ…!【特定】…街中に移ったのか…!【移動】だ!」


 再度視界が暗転し、今度は街中の風景が広がった。


 だが、その風景は昨日に視てまわった時とは180度違うものとなっている。


 建物は倒壊し、地面には亀裂が走っている。そしてこの地響き。


 ぐるりと辺りを見渡すと、目的の人物をすぐに捉えることが出来た。


 倒壊した家々の残骸で出来た瓦礫の上にどっしりと身を置いている神様が一人。


 推定、カグツチである。


「おいおい!随分といい顔してんじゃねぇかよ!!ははっ!儂を追い払うだぁ…?はははっ!無理に決まっておろうに!!」


 その神はかなりの巨体の持ち主であり、目測ではあるが、身の丈は3メートル程だと思われる。その身を包んでいる甚兵衛羽織や大きな下駄は、いったい何処から仕入れたのだろうか。


 彼の傍らに突き立っている刀は、カグツチよりも大きく映る。ゴウゴウとした炎がその刀からは常時出ており、なんとも格好良い。


 燃え盛るような真っ赤な頭髪に、ギラリと輝く黄色の瞳は、太陽を連想させる。


 眉間にシワが寄っているが、その口元は二カッとしている。


 すると、王様が一歩を踏み出して、カグツチへと近づいた。その表情は怒り心頭といったものである。


「あんなに綺麗だったのに、随分と勿体ないことをするな?」


「おうおう、お怒りかぁ?」


「ここは俺のご先祖様の神域がある街なんだよ。…はぁ…流石にイラッと来るじゃねぇの」


「お前もこの瓦礫の下敷きになりたくなければ、さっさと帰るんだな!」


「いや、帰るわけないだろ。カグツチ、お前を今日、ここで討伐する!『カード』K・カール大帝!」


「ほう、ならやってみろ!人間如きが神を討伐などと、寝言は寝て言えってんだよ!」


  ▲ ▶ ▼ ◀ ▲


 かくして、王様御一行VSカグツチの戦いは始まった。因みに、いつぞやの謎の銀髪長身も、王様御一行の中に居る。


 つまり、5対1である。


 数だけならば有利な様にも伺えるが、残念な事に、相手は腐っても鯛である。


 現在戦場では、五分五分の戦いが続いている。


 いや、少しずつ王様御一行が勢いを落としてきている。


 カグツチが元気一杯であるのに対して、彼等はゼェゼェと疲れを顕にしていた。かれこれ数時間は戦闘を続けているので、それも当然の事だろう。


「っぐ…!…【移動】!」


 王様は器用に立ち回りながら、少しずつながらもカグツチへ攻撃を当てている。しかしそれはかすり傷程度のものであり、大したダメージには至っていないようだ。


 カグツチの表情は余裕綽々といった具合である。


「ぬはははは!もっとだ!もっと儂を愉しませろ!」


 なんて奴だ…疲れ知らずとは、まさにこのことだな。


 カグツチと戦闘開始時点から、ずっと対等な戦いをしている謎の銀髪長身の人も、なんだか芳しく無い表情をしている。カール大帝って言われてたっけな…。


 …俺もそろそろ限界が近い、流石に疲れてきている。


 数時間は空を飛び回りながらの魔法ブッパをしている。


 偶に刀を伸ばして遠距離からチクチクとしているが、全然刃が通らないので今はもうただの装飾品となってしまっている。


 そうして空を飛び回っていると、別所から訊いたことのある声が耳に届いた。入学式の日だったり、初登校の日などにも訊いた、独特な声である。


〚げ、まじか…お前ら何してんの?〛


「アベル!?」


 俺はつい声を上げてしまった。


 だって、なんでアベルがこんな所に居るのって話だもの。もしかしてカインも居たりするのだろうか。


 あっ、そういえば『固有 カイン召喚』ってのあったな…応じなくなって以降使用してなかったけど。


〚って、カグツチじゃん、おひさ〜。性懲りもなくまた降りてきたんだな〛


「なっ!お、お前は…!許せぬ…許せぬ!!」


〚まぁ、そうカッカすんなって。あの時は外野から視てたけど、酷かったもんな!惨敗だったもんな!〛


「はぁ?何を言っていやがるんだ!貴様もあの場で、儂をぶん投げただろ!」


〚確かに、山まで投げられてたな!あれは面白かったぞ!〛


「とぼけおって…儂の事を愚弄しているのか…!憎き憎き…コッホよ!!」


〚残念ながら、コッホの身体ってだけで、俺は違うな。あの時の俺は、傍らでふよってるだけの大悪魔だったから〛


「何をぬかしたことを!あの日の恨み…!二千年前の恨み…!!ここで果たしてやる!」


 王様御一行は、戦闘の手を止めて二人の会話を傍から眺めるばかりである。


 二人は知り合い?なのだろうか。


 なんだか因縁の相手って感じがあるな…ん?二千年前?


 んん?ギルトって今何歳?


〚まぁ、あのときに負けたのも無理は無いと思うぜ?だって、俺でもあのパーティーには勝てっこないもん。タイマンで…も無理だな。特にあの日本人、思念刀の扱いがほんとに上手いんだから〛


「儂は負けてなどいない!!現に、ヤイ ココノは死に、儂は生きている!つまりは、あいつの負けだ!」


〚二千年も天界に引き籠もってよく言うぜ…リベンジしたいなら、何回でも出来たろ?怖気づいたから、人間でも天使でも確実に寿命で死ぬ、二千年間も引き籠もったんだろ〛


 すると、アベルは空を見上げて、フヨフヨと浮いている俺に向かい言葉を発した。


 その金色の瞳は、俺の姿をまっすぐと捉えている。


〚ヤクイ!その思念刀、俺に貸してくれ!こいつのせいで遅延してんだろ?ささっと終わらせるからさぁ!早くセラフィムの神域まで来いよ?ずっと待ってんのもしんどいわ!〛


「し、信用して良いんだな?」


〚ああ!今の俺はファミリーのアベルとしてではなく、超越者のギルトとして動いているからな!その間はヤクイに味方させてもらうぜ!〛


「超越者?アベルがか…?」


〚何だよ悪いか?セクタだって、ファミリーで超越者だったろ!それにアダムもな!〛


§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§


 超越者・強欲 


 種族王 ギルト・フランベルジュ・ヴォルガルム


§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§


「わ、分かったよ!その代わり、ちゃんと倒せよ!」


〚おう、俺はあのパーティー程は優しくはないからな!このギルトに任せとけ〛


「その二千年前のパーティーがどうとか、そんなのは分からないけど、ほら!受け取れ!」


 俺がギルトの方へと刀を投げ渡すと、彼は大きく跳躍してそれを空中にてキャッチした。


〚思念刀よ!その姿を俺の思う通りに変えろ!俺が望むのは『天之尾羽張アメノオハバリ』、コッホが使役していた神剣、そのレプリカだ!〛


 ギルトがそう言うと、俺の日本刀はグネグネとその姿を変えた。


「そ、その武器は…!また…!」


 神剣のレプリカだというそれを視たカグツチは、顕著な反応をしてみせた。その顔には恐怖すら浮かんでいるように思える。


 刀の変形が終わると同時に、ギルトはカグツチへ一歩を踏み出す。その足取りはフラフラとしたものであり、なんとも頼り甲斐の無いものに映る。


「ま、待て!来るな!その武器を儂に近づけるな!」


〚あ~あ、この神が一人減っちゃうと…残りの神はあと9人になっちゃうのか…でもまぁ、絶滅はしないし、問題ねぇや!〛


「だ、駄目だ!問題しかない!儂が死ねば、儂と『契約』を結んだ多くの人間が死ぬぞ…!」


〚いいよ!人間は多いから、管理が雑多でも生き残るんだ!少し減ったところで、何も変わらない!〛


「そ、それに!儂が死ねば、邪神の復活も早まるぞ!いいのか!?」


〚大丈夫!超越者とファミリーでそれぞれ育成中だから!だ、か、ら〜!じゃあな!カグツチ!〛


「や、やめろ!うわああぁぁあっ!!」


〚カカカっ!逃げる背中を追うのは、なんとも気が引けるなぁ!カカカカ!〛


「悪魔は数千年すれば寿命を迎えるだろ…!さっさと天界に戻って、こいつが死ぬのを待とう!」


 なりふり構わず逃げ始めたカグツチに対して、ギルトは満面の笑みでその歩みを進めている。


 すると、突然にもギルトの背中が服の下からでも判る程、ボコボコとし始めた。沸騰した水面を眺めているような、そんな感じになっている。


 次第にそれは形をなしていき、服を突き破って現れた。


 ギルトの背に現れたのは真っ黒の羽であり、それはコウモリのそれを彷彿とさせられる。


 また、その頭部にも変化は現れており、二本の羊のような巻角が生えていた。黒い髪や褐色な肌が、その白い角の存在を際立たせている。


〚こいつを殺せばあと9体か…まだ先は長いな〛


 ギルトはそう呟き、その羽根をバサリと羽ばたかせてカグツチとの距離を一息で詰めた。


「なっ!クソ!クソクソクソォ!!殺されてたまるかあぁぁあ!」


 カグツチは逃げる姿勢から、大きく振り返り、勢いもそのままに巨大な刀を横薙ぎに振るった。狙う先はギルトの首である。


 それに対して片腕ピタリとで受け止めるのがギルトである。


〚あちゃ〜、刃こぼれしちゃったね、折角の刀なのに。んじゃ、これで一人目は討伐終了だ!!お前の敗因は、その逃げ癖だ!〛


「や、やめろおぉぉぉお!」


 ギルトは残るもう片方の手で『天之尾羽張(アメノオハバリ)』のレプリカを振るった。


 その一閃は目を覆うほどの閃光を放ち、次に目を開く頃には、首をなくしたカグツチの身体が、一帯を赤く染め上げるほどの量の血を噴き出している。


 関心の首はといえば、天に向かい見せつけるかのようにして、ギルトが空に飛んだ状態のまま、その髪を掴んで掲げていた。


〚ク…ククッ……クフッ…カカカカカカッ!〛


  ▲ ▶ ▼ ◀ ▲


 対カグツチ戦は、アンゲロイの街に甚大な被害を残して閉じられた。


 カグツチの遺体と血液は、ギルトが痕跡も遺さずにすべて回収し、俺の所来るのは来年でいい、と言い残してその場を去って行った。因みに、刀もその時に返された。


 現在は宿にて荷物を纏めている最中である。


 王様曰く、この街を出てナフカード国までまっすぐ帰ろう、とのこと。


 この街の復興活動はナフカード国が責任者として執り行う予定らしい。これが最後の仕事だと言わんばかりに、王様は倒壊した街を眺めていた。


 その後姿が、俺の眼にはえらく印象的に映った。


「マスター、王様が呼んでいるぞ」


「今行くよ、よっと…」


 軍服天使の声掛けを受けて、そう多くない荷物を纏めた鞄を背負った。それなのに、いつもよりも重たく感じるのは、俺が疲れているから、だけではないのだろう。


 部屋を出て、そのまま宿の外へと足を動かす。その道中でピャッチやギャザットの女子2名と合流した。


 宿の扉を押して外へと出ると、王様の姿と共に、ナフカード国の王宮から出発して、今の今までお世話になっていた馬車の姿が伺えた。


 俺は王様の手招きにより、先頭を進む方の馬車に乗り込む。使徒達と女子2名は、それに追従する方の馬車へと移った。


 あまり面識のない、使徒達と女子2名の乗る馬車には、なんとも言えない気まずさが流れているのではないだろうか。


 そうして進み始めた馬車に、身体を揺られること数分、王様が誰に語りかけるでもなく喋り始めた。足を仰々しく組んで、外へと視線を向けながらのアクションである。


「…あと322日か…今はこんなにピンピンしてんのに、信じられねぇ…」


「…………」


「突然死でもするのかねぇ…ってか、来年からの校長と、王様やってくれる奴探さないとな」


「…………」


「次の王様は誰がいいかな〜…」


「…………」


「グクス宰相にでも継いでもらうか、あいつが37代目の国王だ。よし!決定!」


「グクス…宰相?」


「で、次は校長だよな…まぁ、無難にクロス公爵かな。彼は信頼できるし、俺よりもそういうのに向いてると思うしな」


「クロス公爵…」


「帰って復興手続き済ませたら、彼等に伝えるか。きっと困るだろうけど、そこは職権乱用させてもらおう。んで、スイートピーに記事を作ってもらって…」


「王様、一つ訊いてもいいですか?」


「ん、何だ?」


 王様はその視線を外から俺の方へと移した。


 お陰でパッチリと紫色の眼と赤五芒星の眼が合う。


「王様は、寿命の事について俺以外の人に話してないんですか?」


「…まあな」


「理由を訊いても?」


「…しいてあげるなら…皆に気を使われたくなかったからだな。それでもヤクイに話したのは、希望の子だからってのもあるが…誰かに打ち明けたい気持ちを発散したかったからだ」


「そう…なんですか…」


 希望の子って、何の話だろうか?


 訊いてみるか…答えてくるかは分からないけども。


「希望の子って、何…ですかね?」


 怖ず怖ずといった調子で王様へそう問い掛けた。


 そういったこちらの気持ちとは裏腹に、スラスラと答えてくれるのが、我らが王様である。


「希望の子ってのは、邪神っていう理不尽な存在に対抗出来る奴のことだ。二千年前くらいに、邪神が別世界の人間の手により封印されてから、それ以降、別世界の人間のことを希望の子って呼ぶようになったらしい」


「あ、そういえば、ギルトも邪神がどうとかって言ってましたね」


「そうだな。解説役になり始めてる俺が、邪神について教えよう」


「お、お願いします…」


 王様曰く、邪神とはこの世界を滅ぼさんとしている神らしく、二千年程前にヤイ ココノという日本人の手により封印されたとのこと。


 邪神は、この世界の生物は自身に傷をつけられず封印も出来ない、という『契約』を当時の世界王へと持ちかけた。


 『契約』を結ぶ以前の邪神は、多大なる功績を多数収めており、全生物に尊敬されるなど、かなりの徳を積んでいたために、世界王はそれを容認した。


 すると、突然にも邪神は豹変し、世界中を我が物とするために、当時の世界王を殺害して、この世界の頂点に君臨した。


 契約者を殺害した彼を止められるのは、この世界には存在しない。


 でも、セクタが別世界からヤイ ココノを呼び寄せたため、邪神は封印された。


「セクタって、思ったよりも多芸なんですかね」


「まぁ、出来ない事の方が少ないだろうな」


「質問攻めで申し訳無いですけども、ヤイ ココノっていったい何者…何でしょうか…?」


「う~ん……ん~…分からんわ。応答なし」


「さいですか…」


 応答なし…?いったいどんな魔法…力?を使っているんだろうか。検索をかけてるみたいな感じっぽいよな。説明もウィキを読み上げてるみたいな感じだし。


「よし、ヤクイとピャッチの位置を【移動】させてもらう。後は別に動かす予定はないから、イチャイチャしてていいぜ」


「…いや、使徒達がいますし、無理ですよ」


「あぁ、そういえばそうだな…」


 俺はここで、今まで気になっていた疑問を王様へと問い掛けた。


「あの、王様と…ピャッチの関係って…」


「おっ!やっぱり気になる?」


「そりゃあ気になりますよ」


「まぁ…言わないし、言えないけどな。…さてっ!」


 王様は手を合わせて、パンッと子気味の良い音を鳴らした。


「【移動】!」


  ▲ ▶ ▼ ◀ ▲


 一瞬の暗転を受けて周囲の様子を伺うと、隣にギャザット、対面に軍服天使、斜め前にちょこんとスライムっ娘の姿が伺えた。


 誰も彼もが俺に視線を向けており、なんとも気まずい感慨を覚えてしまう。


「ますたぁ~!ねぇ、訊いてよぉ〜!」


「辞めろメイク!余計な事を言うな!」


 膝の上にピョンと乗ってきたスライムっ娘が、俺に対して何かを言おうとしたが、軍服天使がそれを止めた。


 いったいなんと言おうとしたのだろうか。…それはさておき、膝がとても冷たい。部活終わりにアイシングでもしている気分である。


「ヤクイさん、怪我などはしていませんか?」


「いや全然、それよりもギャザットさんは大丈夫だった?俺はそっちのが心配だよ」


「いえ、私は遠くから眺めていただけですので、この通り、どこにも悪いところはありませんよ」


「そっか…良かった」


 心配の声を掛けてくれるギャザットさんマジ好き。


 その勢いで自分のことも好きになれたら良いのにな…。


 そのままギャザットとイチャイチャし始めようと考えていると、不意に膝が温まり始めた。


「ちょっとぉ〜!ぼぉくがいるのにぃ〜、浮気とは良いご身分だよねぇ〜!!」


「…?なにが?」


「えぇ~!まさか忘れたとは言わせないよぉ〜?ますたぁ~ってば、ぼぉくのこと口説いてきたじゃん!」


「あ〜…!したね!口説いたな、確か…。まぁ、でもあれは、お喋りさんを静かにしようと考えてのものだから」


「えぇ〜…じゃあ…」


 スライムっ娘はノーマルスライムの状態から、イケメン系且つ王子様系の美少女の姿へと変形した。昨日にもこの眼で拝んだ容姿である。


 ただ、前回と違う点を上げるならば、その身体に色がついていることである。


 線画の状態から、一気に完成されていた。


「ますたぁ~の為に調節したこの姿もぉ〜、無駄になっちゃったのかなぁ〜…」


 灰色の髪に、同じく灰色の瞳、何気に好きなウルフカット。ちゃっかりインナーまで入ってるもんだから、俺の眼はがん開きだ。


 今までは無かった吐息や体温まで感じられるから、俺はこのガチ恋距離に心臓を暴れさせてしまう。


「これは…ドストライク…だな」


「でもぉ…」


「付き合おう!メイくんが良ければだけど!」


「良いのぉ?」


「モチのロン!逆にこんなクズで良ければって感じだよ!」


 すると、隣から声が上がった。


 流石にかぁ…と、クズ思考をしていると、こちらの気持ちとは裏腹に、だいぶ好意的な声が上げられていた。


「良いですね!この性癖に刺さる美少女…逃す手はありません!」


「えぇ〜、ぼぉくはそっちの気は無いよぉ!」


「出来ます!」


「何がぁ!?ますたぁ~!この子ヤバいよぉ〜!」


「メイくん、付き合おう!」


「良いよぉ!けどぉ、お手柔らかにねぇ…?」


 やったね!彼女が増えたよ!


 なんとも言えない表情で此方を眺めている軍服天使は、なんだか気まずそうな感じである。


 …そりゃあそうか。


「降りる」


 軍服天使が立ち上がり、窓を開けてそう言った。


 外に出て、自力で馬車に追従する予定なのだろう。


 …確かに、状況的に考えると俺でもそうするかもな。


「別に気を遣って降りなくて良いよぉ〜」


「いや、気を遣っている訳では…」


「何ならぁ、ソーシャルもどう?」


「それは…」


 チラリとこちらの方へ視線を向けたのも束の間、すぐにその視線を外して再び外へと向けた。


「そんな節操のない男など、私は好かん」


「やっぱり男は無理そぉ?」


「改善は出来てきている」


「治ればいいねぇ…」


「…………」


 軍服天使は馬車の窓を開けて、その枠へと片足をかけた。そのまま外へと翼を広げて飛び出すと、すぐにその身体を上昇させ、馬車の天井から音を出した。


 どうやら、馬車の上に乗ったようだ。


 すると、軍服天使はすぐに馬車の上から降りて、窓から車内へと戻り、俺の対面へと腰を落ち着けた。


 その顔はどこか赤くなっているような気がする。


 いったいどうしたのだろうか。


 俺は自ずと、その疑問を軍服天使へと投げ掛けていた。


「大丈夫?何かあった?」


「あぁ…いや、私のことは別に…気にしなくていい」


「そう?顔赤くなってるけども…」


「こ、これは、あ~もう!何でもない!」


「ご、ごめん…」


「いや別に、謝らなくとも…いいんだがな」


「ソーシャルってばぁ、そんなんだから、ぼぉく以外寄り付かなくなったんだよぉ?もっと柔らかぁ〜く行こうよぉ〜」


「そんなこと…既に理解している。それよりもメイク、いつまでマスターの上に乗っている。早く降りるんだ」


「はぁ~い…ますたぁ~のお膝、温かかったのになぁ〜」


「……羨ましいな。メイクのそういうところ」


 俺の膝の上から温かい感触が無くなった。


 スライムっ娘は気がつけば斜め前に腰を落ち着けている。


 因みに、いまだに人間形態のままである。


 視てて眼福だ。


「ん〜?なぁにぃ〜、ますたぁ〜?そんなにぼぉくのこと見つめてぇ〜」


 何故だろう…彼女だって認識した途端に、


「めちゃくちゃ可愛い…」


 感じに映る…困るな。なんて現象だろうか?


 別にさっきまでも、


「可愛いな…」


 とは思ってはいたけども、好きとは別のやつだったからな…。アイドルとかに向けるソレだったんよね。


「あ…ありがとうねぇ…そこまで直球ストレートだとぉ…流石に恥ずかしくなるなぁ〜…」


 …ん?あぁ、やったか俺。それならそれで良いけども。


「メイくん、お膝乗る?」


 なんか俺、ハイになってきてんな…疲れが原因か?


「ぼぉくが子供扱いされるのってぇ〜…何百年ぶりかなぁ?」


 スライムっ娘は、今度は背中をこちらに向けて俺の膝の上へと腰を落ち着けた。


 温かな感覚と共に、ズシリとした重いような、軽いような、そんな重みが伝わった。


「よいしょぉ〜…っとぉ…。失礼しまぁ~す!」


「おお、温かい…!このまま眠れそうだな…」


「一応、ぼぉくは布団にもなれるよぉ?」


「本当!?お願いします…!」


「はいはぁ~い」


 おお…!一瞬で掛け布団のような形へ変形したぞ!


 あったけぇ〜!マジでこのまま眠れるわ。


 ってか寝るわ。疲れたし、ハイになってきてるし、寝たほうが良いと思う。


「んじゃ…何かあったら起こして…俺は寝ます」


「はい、目的地に到着し次第、起こさせてもらいます。おやすみなさい、ヤクイさん」


「うん…おやすみなさい、ギャザットさん。愛してるよ…」


「私もですよ」


 それからは、俺の意識は段々と遠のいていった。


 あぁ…こんなにも幸せな入眠は、人生でも初なのではなかろうか。こんなに人?に囲まれて寝るなんて、久々だな。小学生ぶりじゃないか?


 有り難いなぁ…俺にはもったいない…。


「えぇ~!ぼぉくには言ってくれないのぉ〜?…ってぇ、本当に寝ちゃってるじゃぁ~ん!ねぇ〜え〜!ぼぉくにも言ってよぉ〜!お~い!」


「これからな…」


「これからぁ〜?」


「そうそう……これから親睦を……おやすみ」


「ふぅ~ん?…おやすみぃ〜、期待してるよぉ〜?」


 あぁ…次起きたときに、この幸せが無くなりませんように。

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