4人目 Ⅻ・ヤクイ 氵
俺の首は、初代国王の手により切り飛ばされた。
「え…え!いや、殺すつもりは無かったんだがな…」
自由落下をしていく俺の首を、初代国王はキャッチしながら着地した。
「どうしよう…バイナリぃに殺されるんじゃないかこれは…!と、取り敢えず、【完全回復】を使っておこう!」
初代国王の刀と鎧がドロリと溶け出し、人の姿へと形を変えた。
そして現れたスライムっ娘は、初代国王よりも大慌てである。
「ど、どど、ど、どうしよぉ〜!!セリョウ様がヤクイを殺しちゃったぁ〜!」
「い、いや、待て!まだ完全に死んだと決めつけるのは早い!」
「ぼぉくでも知ってるよぉ!人間は首を切られたら死ぬぅ!そして、ヤクイは首を切り飛ばされたぁ!」
「お、落ち着くんだ…!【完全回復】が効いてくるのを待つんだ!」
「でもぉ!それって即効性だったよねぇ!ねぇ!?つまりはそういう事だよぉ〜!」
「ならば、【蘇生】を使おう!それなら確実だ…!」
初代国王は俺の生首に向かい【蘇生】を使用した。
だが、何も反応は起きない。
「あれぇ〜!どうしてぇ…!」
「セリョウ様のキャラが崩れてきてるぅ…つまり、本当にやばいってことだよぉ〜…」
「子孫に顔向けできないよぉ…どうしよう…これから会いに行く予定だったのにぃ…」
………ど、どうしよう。
実は生きてるけど…何か、言い辛いな。
完全にタイミングを失ってしまっている。
今なら傷の一つでもつけられるかも知れないけど…ってか、その作戦だったけど…罪悪感が凄い!
出来ない!そんなこと!
ってかさ、俺の身体は未だに空を飛んでいるってこと…気が付いていないのかな?
一応地面に着地しようか…。
因みに、あの人達には俺の生首に視えてるんだろうけど、本当は俺の思念により姿を変えた、マイ日本刀だよ。
刀に【完全回復】とか【蘇生】を使っても…そりゃあ、無意味だよね。反応は無いよね。
よし、声を掛けてみよう!
取り敢えずは、俺が生きていることを伝えて安心させねば!
それから俺は、俺の生首を見つめて、大慌ての2名に声を掛けた。
「あ、あの〜、それは刀ですよ…?本物はこっちです、生きてますよ…な、なので、落ち着いてください…!」
すると、俺の声が届いた2名は、バッとこちらに首を動かした。
両者共に眼を見開いて驚いている。
「あ、あの?なんか…すみません!」
俺は罪悪感から、腰を綺麗に折って謝罪した。
本当にごめんなさい!こうなるとは思わんですやん!
「よ、良かったよぉ〜!生きててよかったぁ!ぼぉくね本当に死んじゃったって思ったんだからねぇ!」
「す、すみません!」
スライムっ娘に抱き着かれたけども、冷てえぇ!!
いきなりアイスバケツチャレンジを始めたみたいな冷たさしてる!
これを身に包んで動いていた初代国王はいったい何者だ?
「えぉっほん!…今回の戦闘の勝者はヤクイだ、俺に傷をつけられる状況だった。だから、俺の負けだ。………生きてて良かったわぁ〜…!本当に焦ったよ俺」
「それは本当にすみません…!やり過ぎました!」
「まぁ、勝ちは勝ちだから、ほら、そのスライムあげるよ」
「え?」
「えぇ~!ぼぉく、そんなこと一言も訊いて無いよぉ!?」
「ごめんよ、メイクン。それくらいしか、対価がないんだよ」
「えぇ~…こ、この人にぃ…」
そんな眼で視ないでおくれよ、罪悪感がぶち上がりしてしまうよ。
「絶対に…オ●ホにされるよぉ…毎晩ズポズポされるんだぁ…」
「しないわ!やめてっ!俺、彼女いるから!」
急にぶっ込んで来るじゃん!下ネタ全開はビビるよ?
「あの、セリョウさん…」
「ん?なんだ?」
「要らないです」
「要らない?そのスライムは、鎧にもなり、剣にもなれる。ヤクイが持つ刀と遜色ない性能を発揮出来るだろう」
「…要らないです。ごめんなさい」
「…そうか」
すると、俺の対応に不満でもあったのか、スライムっ娘が声を上げた。
「えっ、ちょっとぉ!要らないって言わないでよぉ!貰ってぇ!ぼぉくの事貰ってよぉ〜!…別にぼぉくからは嫌って言ってないでしょぉ…!ねぇ~え〜…」
うわっ…泣いた…でもこれは罪悪感が湧かない。何で?
「わ、分かったから!泣かないで!ごめんね!貰う!君を貰わせていただくから、一緒に生活しよ…?」
「1人にしないって誓えるぅ?」
「しない!ってか、心配で1人に出来ない…!」
「やったぁ〜!ぼぉくの事、離さないでね…だぁりん♡」
ちくしょう!そのまま死んだふりして帰ればよかった!
意図せずスライムがパーティーに加わってしまった!どんまい…俺!
ナンテコッタイ!!
▲ ▶ ▼ ◀ ▲
超越者セリョウ・ナフカードに勝利した俺は、スライムっ娘を報酬として受け取った。
本当に…いや止めとこう、言わない。
初代国王は、子孫に顔を出してくると言って以降、お城に戻って来る気配はない。
「……帰るか」
痺れを切らした俺は、ここいらでお暇させて頂く事にした。
そうしてその場から立ち上がり、お城の出口へと足を動かすと、頭の上から反応がきた。
「お家どんな所かなぁ〜。楽しみだなぁ〜」
スライムっ娘は今、ファーストコンタクト時と同様に、ノーマルスライムの状態で頭の上に乗っている。
旋毛がヒンヤリとしており、なんとも芳しくない状態である。
COLDからHOTになって欲しい。そう切に願います。
「数日は宿だよ、それからはお屋敷になって、更にしたら寮になるかな」
「えぇ~!もしかしてぇ〜、お貴族様だったりするのぉ〜?」
「違うかな。俺はお貴族様の執事ポジションやってるから」
「確かにぃ…言われてみれば、だぁりんは執事服きてるもんねぇ」
「俺をだぁりんと呼ばないでくれ…」
「えぇ~!だぁりんが駄目ならぁ、なんて呼べばいぃ〜のぉ?」
「そうだなぁ…」
なんて呼ばせようか…少なくとも、誤解をされるような呼び方は駄目だな。
「じゃあ、マスターって呼んで」
「りょうかぁい、ますたぁ〜!」
「なんかフワフワとした呼び方だな…まぁ、良いか。可愛いは正義って言葉もあるし」
「そうだよぉ〜?ぼぉくはかぁわいいんだからぁ〜!」
そんなに頭の上でゴロゴロと動かれると、旋毛が冷えて頭痛が起き始めてしまうじゃないか。
でも、他にどこに置けばいいんだろう…?
人形の状態で隣を歩かせるのは、なんとも侍らせている感が出てきてしまうため、除外済みである。
………よし、軍服天使を視つけたら、このスライムっ娘のお世話を任せよう。そうしよう!
「はいはい、可愛い可愛い」
「でしょぉ〜?ますたぁ〜ってば、わかってるぅ!」
「いやぁ…実際可愛いからね」
特に声がね。
「えぇ~?なになにぃ〜?もしかしてぇ…ぼぉくのことぉ、口説いてるのかなぁ〜?」
「うん」
「…えぇ?…あ…えとぉ…」
よし、静かになった。
こころなしか、旋毛も温かい。
要は一石二鳥ってやつだ。
それからは、特に大した会話も無く、出入り口まで辿り着いた。
扉のノブに手を掛けて外へと出ると、そこには、王様と軍服天使がこちらを待っていたかのように待機していた。
「おっ、来たか。さっさと祠に行くぞ………ってか…」
王様は軍服天使を親指でピッと指し示し、話を続けた。
「キェベクの使徒を侍らすとはな。あと、その頭に乗ってるスライムはセリョウの使徒だろ?…コンプでもするつもりか?」
「待てっ!侍らすとは訊き捨てならない。私が、いつ、あんなのに、侍らさせたというんだ!人間如きが調子に乗るなよ?」
王様の素っ頓狂な物言いを受けて、いの一番に反応を示したのは軍服天使である。
本当に嫌そうな顔をしているので、俺は傷ついた。
そこまで嫌ですか…?
「ソーシャル、この子のお世話してみない?」
スライムっ娘を頭から手に移し、軍服天使の方へと差し出した。
すると、軍服天使はギョッとした顔になり、こちらをチラチラとし始めた。
「お、おお…お、お前!これ…」
「あぁ~!お久しぶりだねぇ〜!!元気してたぁ?」
「…………」
「ソーシャルってぇ、初めて会った時からその服装だよねぇ」
「メイクかよ、驚かせやがって…」
先程までの焦り顔とは一変して、ギロリとこちらを睨み始める軍服天使。
何がそんなに気に食わん?
適切な距離は保ってると思うんだけどな。
「で、私はメイクの世話を任されたのか?…言っておくが、普通に嫌だぞ?」
「嫌だって言わないでぇ!眼の前にいるんだよぉ?それにさぁ〜、ぼぉくにも感情はあるんだぞぉ〜!」
「だって、メイクって、面倒くさいじゃん」
「はぁ~?そういうこと言っちゃうんだぁ~?…ならぁ、ぼぉくにも考えがあるぞぉ〜?」
「何だよ?」
「うわあぁぁ〜ん!面倒くさいってぇ、面倒くさいって言われたぁ〜!酷いよぉ〜…!」
「ほら、面倒くさい」
悪態をつきながらも、軍服天使は俺の手からメンヘラスライムを受け取り、頭にかぶっている帽子の上へと移した。
「ほら、これで良いんだろ?」
「おお、素直だね」
「ますたぁ~!この帽子硬いぃ〜!外してぇ!」
「マスター…?」
「うん、俺がマスター。ソーシャルもこれからは、俺の事マスターって呼んでよ」
「いい趣味してんな。…して、マスター、メイクに黙るように指示してくれ。煩くてかなわん」
「あぁ〜ん!ひどぉ〜い!そんなこと言うのぉ?ぼぉくの方が年長さんだよぉ?」
すると、丁度良い頃合いを視つけたのか、王様が使徒2名に声を掛けた。
「天使、スライム、お前達はもう渡したのか?」
「…いや、すっかり忘れていたな」
「そういえばぁ〜…なんかあったねぇ。でもぉ、数百年生きてる身としてはぁ、忘れてても仕方ないんじゃないかなぁ?」
「なら、今からでも渡しとけ。今後、動きやすくなるだろうしな」
「はぁ~…」
「はぁ~い!ソーシャルとは違ってぇ、ぼぉくは素直なのでぇ、渡しまぁす!」
…なんの話や?
渡すものがある?
「はぁい、どうぞぉ〜」
スライムっ娘が、人の形となり、此方に手を差し出した。
その上には、指輪らしき物が伺える。
「どうも…」
それを取って、適当に指に嵌めてみるが、特に何かが変わった感覚はない。
本当にただ、指輪を身に着けたってだけである。
「その指輪はねぇ、ぼぉく達使徒が一人一人所持しているものでねぇ、その指輪に念じればぁ、いつでもぼぉくが呼べるようになるよぉ」
「ほぉ…それって、魔力の消費とかは…?」
「なぁい!」
「ほほぉ……さて、ソーシャル」
「嫌だ」
「まぁまぁ、今後楽になるよ?」
「…嫌だ」
「そ、そんなに嫌ですか?」
「私はマスターを信用しきれない。くだらないタイミングで呼ばれる可能性だってある」
ここ数日間で、初対面の時よりは親睦が深まったと考えていたけど、全然そんな事無かったね。
ってか、このスライムっ娘は帽子についてもう何も言わなくなったな。一度、意識が別なところに移ったからだろうか。
現に、ノーマル状態へと戻ったスライムっ娘は、普通に軍服天使の帽子の上に鎮座しているもの。
そういえば…軍服天使って、寝るときも帽子取らないよな。
うわ…気になってきちゃった。…でも、好感度が落ちそうだから辞めとこう。
▲ ▶ ▼ ◀ ▲
セリョウの祠へと移動した御一行は今、その祠へと向き直り、手を合わせている。
「セリョウ、俺達を見守っててください」
「普通に呼び捨てなんですね」
「本人からそう言われたしな」
そうして深くお辞儀をした王様は、俺の方へと身体を向けて、手を差し伸べた。
「ヤクイ、悪いがその耳飾りを少し貸してくれ」
「あぁ、はい」
そういえば、鈴の付いた耳飾りを付けていたな。
最近はすっかり鳴らなくなったから、全然忘れていた。
「はい、どうぞ」
「サンキュー」
王様へ耳飾りを渡すと、彼はそれを両手で包み込み始めた。際しては、ブツブツと呪文的な何かを呟いている。
なんて言っているのかは定かではないが、耳飾りに魔力的な、何か特別なものを流しているのは理解できた。スイ先生の授業で習ったからこその理解である。
そうしてボーっと王様の手元を眺めること数十秒、目的が済んだのか、王様はその手で包んでいた耳飾りをこちらへと差し出した。
「ほれ、付けてみてくれ」
「ありがとうございます…」
「よし、避けろよ?」
「…はい?」
すると、突然にも鈴が鳴り出した。
耳元で大きく鳴り響くその音は、入学式の際にも訊いたものである。
「っ!」
鈴の音が鳴ったと当時に、俺は空へと急上昇をした。キェベク戦を乗り越えてスピードの上がったそれは、瞬く間に上空へと俺を飛ばしてくれた。
急にエグいな…と、首を下に向けると、どうした事か、王様が軍服天使と鍔迫り合いをしているではないか。
いや、正確には王様が実現させたと思われる謎の銀髪長身の男性と、スライムの鎧を身に纏った軍服天使が鍔迫り合いをしている。
そうした只中でも、王様の眼は俺を捉えてやまない。
軍服天使の方をチラリとも眼を向けないのは、謎の銀髪長身が負けない事を確信しているからなのだろう。
「よーし!ちゃんと機能したな?」
地上にいる王様から、上空数メートルの位置にいる俺へ声が掛けられた。
「はい!訊こえました!鈴の音!」
「なら良かった!今まではエネルギー切れで機能停止してたけど、祠からちょっと拝借して補充しといたから、数年は持つぞ!」
「エネルギーで動いてるんですかこれ!」
「ああ!取り敢えず降りてこいよ!天使とスライムを止めてくれ!」
「はーい!今降ります!」
自身の高度を下げて、必死の形相で鍔迫り合いをしているスライム鎧天使に声を掛けた。
すると、声を掛けると同時に、謎の銀髪長身はパッとその姿をくらました。
いったい何処へ消えたのだろうか。
「ソーシャル、メイくん!王様は俺を信用したうえで、耳飾りの機能を試しただけだから、落ち着いて!」
「……っふん!無駄な体力を使ってしまった」
「ちょぉ〜っとだけ心配が勝っちゃってぇ、つい動いちゃったんだよねぇ、ぼぉく達はぁ」
「ってか、ソーシャルが動くとは思わなかったよ」
「マスターが攻撃されたんだから、当然動くだろう。それに、私には君を導く使命がある。ここで怪我をされては堪らない」
「なるほど…そいつは有り難いですね」
危険な状況に陥ったとしても、軍服天使やスライムっ娘が助けてくれるっぽいな。今回の件でそれを知れた。
俺は地上へと降り、王様へこれからの予定を尋ねた。
明日まで自由時間なら、ギャザットをデートに誘おうと考えている。
「王様、今日は後、なにか予定ありますか?」
「ん~…特にねぇかな…明日の朝に此処を発つくらいだな」
「なるほど…」
「なに?誰かと遊ぶのか?」
「そうですね…」
「…っえ!そうだったの!?いつの間に…」
突然にも王様が燥ぎだしたぞ?
いったいどうしたのだろうか。
………王様って、【さとり】とか使えるのかな。…心を読んでのこの反応なら、まぁ、納得である。
ほら、王様もこっちを視ながら頷いてる。つまりは確定だ。
王様って色々知ってるんじゃなくて、色々知れるのかもな。
「ヤクイやるな〜!俺はてっきり、ラフアンと御セるのかと…」
「御セる?…あぁ。よくもまぁ、そんな言葉を思いつきますね」
「まさかの一目惚れねぇ…」
「そんなこと言われたら、付き合うしかないですよ」
「…で、ラフアンの事はいいのか?」
「…実は、ラフアンには一度告ってるんですよね」
そう、俺は一度勇気を出して告った。
だが、結果はあえなく惨敗。
理由を訊いてみれば、まだ心の準備が出来ていないからとのこと、そして、ビギニング家は一夫多妻制が普通だから、準備が出来るまでの間に他に恋人を作っててもいいとも言われた。
すぐに靡いてしまうダメ男の俺からすれば、なんとも有り難い制度である。
なんとも有り難い制度である。
「キェベクに感謝だな。それはあのクソ天使が定めた制度だし」
普通に心の声訊いて会話するんですね。
あれ、口に出してたっけ?ってなっちゃいましたよ俺。
「一応言ってくけど、【さとり】だけを使ってるわけじゃないからな」
「はぁ…そうなんですね」
「取り敢えず、明日の朝まで暇だから、アンゲロイのオススメスポット教えるけど訊くか?」
「ぜひ!」
▲ ▶ ▼ ◀ ▲
俺はあれからギャザットと合流をし、そのままデートを始めた。
使徒達にはソレゾレお小遣いを渡して、アンゲロイの街をお散歩させている。
かくいう俺も、ギャザットと二人でのんびりお散歩を楽しんでいる。
そして今、王様から伝えられていた場所へと到着を果たした。
そして今、王様にしてやられた事に気が付いた。
「今からスルのですか?」
「あぁ、いや、まさかラブホだとは…」
ってかこの世界にラブホなんてあるのか…。
「私は何方でも構いません」
「っく…どうしよう…!」
今からするとなると…残りの自由時間はほとんど無くなってしまう事になる。でも、幸せである事には違いない。
そんなに真っ直ぐ視つめられると、ちょっと照れちゃうな。
ってか…あれ?そういえば訊いてたっけな……。
「ギャザットさん、そういえば何だけどさ」
「はい、どうしましたか」
「一夫多妻制…ってどう思いますかね…?」
何か心臓バクバクしてきたな、緊張してきているのだろうな。自分が思っているよりも、顔に出ているかもしれない。
「いいですよ。ヤクイくんが複数の人と交際をしても、第一夫人は私なので」
「お、おおぅ…」
「他にお付き合いをしたい方が?」
「はい…ラフアンとも…付き合いたいんです…」
「ラフアンさんですか!」
「え、あ…はい」
何だ?急に声が大きくなり始めたぞ?
「ぜひ彼女とも付き合ってください!」
「はい…?」
「あの、わ、私、そっちの気もありまして!ラフアンさんの様なメカクレ属性の方は特に好きなんです!ストライクなんです!」
「お、おお…」
「それに、近くを通り過ぎた際に生じるあのフワッとした匂い…直で嗅いでみたいです…!」
「おお…と、取り敢えず、よかった…?」
なんと、ギャザットはオタク属性と百合属性を兼ね備えていたのか…。
でも、早口で語り始めた彼女の楽しそうな表情や、控えめな身振り手振りは、とても可愛らしいものである。
それからは、主にラフアンをテーマとした会話をしながらお散歩を再開した。
ギャザットの興味がラブホから別のものに移ったお陰で、当初の問題は切り抜けることが出来た。
あと少し遅かったら本日の自由時間は無くなっていただろう。
▲ ▶ ▼ ◀ ▲
日をまたぎ、宿の窓から朝日が差し込み始めた頃おいのこと、アンゲロイの街はいつになく賑をみせていた。
それも、良い方の賑ではなく、悪い方の賑である。
何事かと思い、宿の窓から外の様子を伺うと、どうした事か、そこかしこで火事が起きていたのだ。
どの家からもゴウゴウとした炎が立ち昇っている。
「何だこれ…と、取り敢えず消化活動…!」
それからは、使徒達と共に次々と家々の消化を進めていった。際しては、俺と軍服天使は空から水系統の魔法を用いている。スライムっ娘には、各家に取り残された人達の回収を頼んだ。
気が付けば王様達も地上から消化をしてくれている。
「王様!これはいったい…!?」
「…どうやら、この街には定期的に火災が起きるらしい!取り敢えず今は消化に専念するんだ!!」
「はい!」
王様の言う通りだな、今は消火活動に専念しよう。
残り半分くらいだろうか…このままのペースで行ければ、あと数分で片付けられるだろう。
▲ ▶ ▼ ◀ ▲
消化活動を終えた王様御一行は、この街の長だというエルフの男性の屋敷へと、今回の件について尋ねるために足を運んだ。
お客用と思われる部屋の中には、俺と王様とエルフの3名がおり、他の女子達は別室にて寛いでいる。
部屋の中央に設けられたソファーに俺と王様は横並びで腰を落ち着けており、ローテーブルを挟んだ対面のソファーにエルフが座っている。
「初めまして。私の名前はアズマル・シュヴァルツ・アンゲロイ。この街の管理をしているものです。本日の一件では、大変お世話になりました」
「アズマルさん、一つ訊いていいか?」
自己紹介を終えたアズマルに王様が質問を始めた。その表情は珍しく真剣である。
「はい、私に答えられる事なら何なりと」
「定期的にこんな感じで火災が起きてるらしいじゃんか?それって、自然現象?それとも、作為的なやつ?」
「どちらかといえば、後者ですね。この街には、つい最近から…………いえ、10ヶ月程前から、とある神様が住み着いてしまいまして…」
「ふ~ん…そいつが定期的に街を燃やしてんの?」
「そうですね。恐らくは、恐怖によりこの街を我が物にしようと考えているのではないかと」
「そいつの場所って何処か分かるのか?」
「ええ、定期的に供物としてお酒を50樽程運んでいますので」
「なるほどな…」
王様は少し考える素振りをして、再度アズマルに問い掛けた。
「困ってんなら、俺等で退治してくるけど、どうする?」
「なんと、神様を追い払えるとでも?」
「追い払うのは厳しいかもだけど、討伐は可能なんじゃねぇかな」
「左様ですか…そうですね…でしたら、頼んでもよろしいでしょうか?」
「ああ、任せとけ。ナフカード国の王様は、魔法帝国の帝王と肩を並べられるんだぜ?そりゃ行けるって話よ」
「なんと、あの帝王と渡り合えるというのですか?」
「ああ、一応負けることは無いな」
「それだけでも十分です。…どうか、この街に住み着いた神様、カグツチを退治してきてください。よろしくお願いします」
アズマルはソファーから立ち上がり、俺と王様に向けて綺麗に腰を折ってみせた。
それに対して景気よく反応するのは我らが愚王、誰に対しても敬語がないタイプの人間だ。
にしても…カグツチねぇ…それって日本の神様じゃね?イザナギとイザナミの子供で、イザナミを殺してしまった神様。で、確かイザナギに殺されるんだよな…。
「おう!報酬はナフカード国とアンゲロイの街を直通できる道を作る…な!」
「なんと…無茶な事を言いなさる。ですが、分かりました。成功を収めることが出来たのなら、私が直々に道を引きましょう」
「よし、決まりな。完成した道を視るのが楽しみだぜ…」
それからの行動は早かった。
お屋敷を出た御一行が向かうのは、アンゲロイの最北端、祠とは真反対の方向にある山の中である。
アズマルの話によれば、そこに目的とする神様が勝手に住み着いているとのこと。
そして今は、その山の麓で戦闘をするメンバーを決めている最中である。




