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4人目 Ⅻ・ヤクイ 快

「はい…はい…すみません…はい…」


「ちゃんと訊いているのか!?ここは神聖な場所なんだ!だから、関係者以外は立ち入りが禁止されている。厳重に警備もしている。なのに、お前はどうやって中に入った?」


「えっと…キェベクさんの使徒の手引で…」


「ふざけるのも大概にしなさい!!」


「いや…本当なんですよ」


 どうして俺がこうなっているのかというと、それは、眼が覚めて、辺りを見渡し、誰もいないから出入り口っぽいところへ向かい、外へ出た。


 すると、どうした事だろう。


 警備の人が、ギョッとした面持ちで俺を確保した。


 そして今、取り調べを受けているのである。


 ナンテコッタイ。


「本当なわけがあるか!」


「はい…」


「それに、何だその刀は!いったい、中で何をしていたんだ?まさか、花を刈ってないだろうな?」


「それは無いです」


「お、おお…急にスッてなるなよ。ビビるだろ…」


 そうして取り調べを受けること数分が経過し、俺は解放された。


 騒ぎを聞き付けた王様が、顔パスで解放してくれました。ありがとう。愚王なんて言ってごめん。


 今は、皆が居るという場所へと連れて行ってもらっている。


「おいおい、どうしてあんな状況になったんだ?」


 王様は俺に対してそう問い掛けた。


 その問い掛けにはどう答えたものか、頭を悩ませてしまう。


「…まぁ、纏まったら、そん時教えてくれよ。どうせ、超越者絡みなんだろうしな…その瞳と日本刀が物語ってるよ」


「あ、そういえば変わってましたね」


「会えたのか?キェベク様に」


「はい…凄い人でした…」


「だろうな…俺も、あの天使と初めて会った時、えらい目に合わされたもん。ヤクイもそうなんだろ?」


「はい、数日間は死に続けました」


「うわぁ…やっぱし容赦無いのか…あのクソ…おっと、…あの天使は」


 王様って、結構謎な立ち位置の人物だよな。


 すべてを知ってそう。なんだかそう思えてしまう。


「その刀、ずっと両手で持ってたら大変だろ?帰りはセブル家の所に行って、小さくしてもらおうぜ」


「そうですね…あの謎の技術について、詳しく知りたかったところです」


「よし、決まりだな。予め連絡を入れておこうか」


「おっ、成長したんですね」


「ああ、俺は過去の失敗から学ぶタイプだからな」


「失敗は恥ずかしい事じゃないですもんね」


「そうそう、ソレを笑うやつが恥ずかしいんだ」


「ですよね!いや〜、本当にそう思います」


 そうして俺は王様と共に、目的とする地点まで移動した。


  ▲ ▶ ▼ ◀ ▲


 かくして、俺と王様は皆の下へ到着した。


 そこには小さな祠が置いてある。


 今はそれを正面にして、左から俺、王様、ピャッチ、ギャザットの順で横並びで立っている。


「随分と重役な到着だな?」


 俺に対してピャッチが口を開いた。


「いやぁ…ちょっと色々と事情がありましてね。すみませんでした」


「いや…謝罪は別に求めてないんだが…」


「いや…これは俺の落ち度なんで」


「…まぁ、あまり気にしない事だな」


「あざます」


「あ?」


「ありがとうございます」


「おう」


 ピャッチってさ、こういうのに厳しいんだよね。


 何回かこういうやり取りしてる気がするもの。


「よし!お参り来たし、次はゴール行こうか」


「え…?まだ、何もしてなくないですか?」


「だって、ただの中継地点だからな。ここは一応祠を拝みに来ただけだ」


「えぇ…」


「さぁ、次の街はアンゲロイだ。そこにある祠が俺達のゴールだな」


「アンゲロイ…」


「予定としては、今日の夕刻にアンゲロイの宿に到着して、そこで夕食を食べて…で、次の朝に俺のご先祖様、初代国王の祠へと向かう」


「なるほど」


「さぁ、馬車も用意してあるから、のんびり向かうぞー!」


  ▲ ▶ ▼ ◀ ▲


 それから俺達は、王様の用意した馬車へと乗り込んだ。


 今回も2台での移動であり、前を進むのは王様とピャッチの乗る馬車、俺はそれに続く馬車に、ギャザットと共に乗っている。


 あれから彼女と二人きりになる機会はあまり無かったので、今回の組分けは王様に感謝である。


 俺は少し緊張しながらも、対面に腰を落ち着けているギャザットへ挨拶をした。


「えと…おはよう、ギャザットさん」


「おはようございます。ヤクイくん」


「ほほほ…かぁいいわ」


 俺からしたら数日ぶりの出会いだからな。


 身体は疲れてないけど、精神的には疲れてるのよ俺。だから、めっちゃ今癒やされてる。


 あ!ニコッとしてくれた!


 ああ〜…疲れた精神に染みるぅ!


 現代世界でも恋人がいれば、仕事…頑張れたのかな。…まぁ、そんな事どうでもいい。


 今の俺は、この世界で生きている。


 彼女が俺を好いていてくれているうちに、沢山堪能しよう。


「その眼…」


「あぁ…これ、やっぱし変かな…?」


「いいえ。格好良いです」


「ありがとねぇ〜、ギャザットさんも三つ編みが可愛いよ」


「ありがとうございます」


 …俺が幸せな気持ちになっていいんだろうか…?


 良いんだよ!楽しもうよ、幸せなうちに…。


 でも…でも…俺に幸せなんて似合わない。


「うおっと…え?ど、どうしたの?」


「…………」


 ギャザットが対面から隣に移動して、俺に抱き着いた。


 フワリと香るソレは、天使の花畑にあるどんな花よりも、とても良いものである。


「…………」


「あの…?」


 可愛い…いい香り…温かい…可愛い…柔らかい…可愛い…力強い…。


「…………」


「ギャザット…さん?」


 そうして数秒が経過し、彼女は口を開いた。


「ヤクイくんが辛そうな顔をしていると、私も辛くなります」


「…………」


「なので、お互いに支え合って、そこに一本ずつ線を引きましょう」


「………幸せかぁ…」


「幸せになるのに権利は必要ありません。ヤクイくんはヤクイくんの幸せを得るべきです」


「そうか…ありがとう」


 良い子だな…この子は、どうしても卑屈になってしまう自分を治したい。


 過去の傷を癒やしたい。


「めっちゃ俺の匂い嗅ぐよね?匂いフェチなの?」


「…………」


「まぁ、俺も匂いフェチに片足突っ込んでるからな。存分に堪能してくれたまえ」


「そうします」


 二人きりだと積極的に絡んでくる子、俺は大好物です。


 ………伝えよう。今の俺は、今の俺だ。過去なんて関係ない。


「ギャザットさん」


「はい」


「…………」


「…………」


「…好き…で…すぅ…」


「もっと、ハキハキと言って欲しいです」


 くぅ~…ええい!ぶち撒けてしまえ!


 変わるのだ!俺は!


「あ、愛してる!」


「私もです」


「めっちゃ好き!」


「私も好きです」


「片眼鏡無い時のギャップとか、凄くキュンって来た!」


「そ、そうなのですか?」


「あと結構……大きく喘ぐ…ところ…好き…」


「…そそ、そんなに…大きくなってましたか?」


「力強いのに受けなのも…個人的に良き」


「…………」


「あと……舌にゅ…にゃんでしょうか」


 ギャザットにほっぺをつねられてしまった。


「喋り過ぎです…!」


 顔を真赤にして、とても恥ずかしそうにそう彼女はそう言った。


 なんて素晴らしい事だろうか。


「…もう。良くないですよ」


 彼女はそう言いながら、俺の頬から手を離した。


「…ギャザット」


 ギャザットの顎に手を添えて、少し上を向けさせる。


 そして俺は、そのままフレンチなキスをした。


「んむっ…」


 1秒でも長く、幸せでいたい。


 1秒でも長く、幸せにしたい。


 1秒でも長く、彼女を感じたい…感じていたい。


「っぷぁ……終わりですか?」


「…………うん」


「そうですか…」


「嘘だよ」


「んむむっ…」


 あぁ…俺は今…生きている。


 これが幸せなのかもしれない。


 これが、俺の…ニシロ ヤクイの…幸せだ。


「っぷぁ……足りません。もう一回欲しいです」


「…ステイ、窓の外から視られてる」


 誰も外には居ないが、俺の眼には視えている。


 俺は窓を開けて、その名前を呼んだ。


「ソーシャル、こんなところで何してんだ?」


 2回目のフレンチを愉しんでいた際に、並走している軍服天使を視つけた。


 めっちゃくちゃ眼と口を開きながら、此方を窓越しに視ていたのである。


「い、いや、私の事は気にするな」


「そう?なら色々しちゃうけども…」


「や、やっぱり、中に入れてくれ…!」


「え…中に?」


「あぁー…もう!お前が言うと…取り敢えず馬車の中へ入らせてくれ!」


「いいよ、扉は無理だから、窓から入ってね」


 良かったね、この馬車の窓がデカくて。


 全開にした窓から内側へと入った軍服天使は、俺とギャザットの対面に腰を落ち着けた。


 だが、想定よりも腰が沈んだようで、驚きの声を上げている。


「おわぁ…凄…」


「…………」


「な、何だよ、その顔でこっち視んな」


 すると、すぐ隣から声が掛けられた。


 どうやら、この軍服天使が視えるようになったらしい。この天使は透明化的なものを解除したっぽいな。まぁ、俺には無意味だったけど…。


「ヤクイさん、この天使さんはどちら様でしょうか?」


「この天使さんは…まぁ、簡単に言うと、俺の御付きの子だな」


「御付きの…ですか?それは…エッチな事とかは…」


「してないって!恋人以外とそんなことしないよ。……どうした、ソーシャル?そんなに眼を泳がして…」


「い、いや!気にするな!イチャイチャを視せられて…ど、どうど…動揺しているだけだ。気にする事は無い、断じてな」


 軍服天使の参加により、随分と賑やかになった馬車に居る俺は、気が付けば時間や年齢を忘れて、燥いでいた。


 少しハイになっている自覚はある。


 だが、それに気が付くたびに、ギャザットは俺を落ち着かせてくれる。お陰で、不祥事が起きない、安心安全なトークを進められた。


 本当に有り難い限りである。


  ▲ ▶ ▼ ◀ ▲


 かくして訪れたるは、アンゲロイの高級宿の一室である。


 既に夕食を食べ終わり、お風呂にも入ったので、後は寝るだけといった具合だ。


 俺は今、その部屋の中で日本刀を取り出して鑑賞している。因みに、部屋に入るなり、軍服天使はいの一番に一つしかないベッドを占領していた。


 先の方から持ち手側に向けて、ジットリと視線を動かす。


 すると、そうした一連の行動に文句を言う天使が現れた。


 ソーシャルである。


「おいっ!辞めろよ、その…眼の動かし方!」


「眼の動かし方!?」


「そう、そのねっとりとしたやつ。鳥肌が立つ」


「ひ…酷い」


 あ…何かこの日本刀の…柄に近い所に文字が彫られてる…?


 西と,(てん)と口?


 あっ!繋がって…ふぅ~ん?洒落た事するじゃんか。


 要は、西からπを引いたやつと、口がうまく合わさって、西呂になっているって事だ。


 で…これ、誰が彫ったの?


 どうして西呂っていう漢字を知っているの?


 俺が使う事を前提に造られた刀って事か?


 …この世界って何なんだ?


「バイナリぃ…」


 ふと、キェベクが言っていた人物の名前を思い出した。


 アダムはまだ解る。ファミリーの方々を統制しているドンで、空が飛べる。あと、俺を器にしようとしてた。


 だが、バイナリぃはミリしらである。


 恐らくは、その人物も超越者なのだろう。


 王様の話によれば、超越者は7名。


 そして、今判明しているのは、バイナリぃ、エフェトバタラ、アダム、キェベク、セクタの5名。いや、もしかしたら…初代国王の人が俺に何かを与えるかもしれない。


 なら…6名…?あれ…残りの1人はいったい…?


 いや、初代国王がバイナリぃ?…う~ん…。


「私は寝させてもらう。…変な事はするんじゃないぞ?」


「あぁ、居たな。そういえば…」


「はぁ!?…っくそ、私は今どんな感情を持てばいいんだ…?」


「安心してよ、そっちから手を出してこない限りは、俺は何もしないから」


「手を…なら、大丈夫だな。ああ、私は手なんて出していない。出さない」


「なんか微妙に…噛み合わん感覚がある…」


「では、静かに過ごせよ」


 そう言うと、軍服天使はベッドの上で気持ち良さそうに眼を閉じた。


 これは女の子でしょうな。


 何なら、キェベクは彼女って言ってたしな。


 …さて、俺もそろそろ寝よう。


 ラッキーな事に、此処にはソファーがある。


 今日はそこで眠りにつくとしよう。


「おやすみ…」


 そう言うと、どうした事だろう。お返事が来てしまった。


「お…おやすみ」


 普通に習慣で言ってただけなのに…別に返答しなくてもいいやつなのに…なのに、返事をされてしまった。


 これには口角が吊り上がってしまう。


 今日は良い夢が魅れそうだ。


  ▲ ▶ ▼ ◀ ▲


 現在は、皆でお昼を摂り終わり、祠の前までもう少しといった頃合い。


 左からピャッチ、ギャザット、王様、俺の順で横並びとなり道を歩んでいる。


 軍服天使は透明モードで空を飛び、付いてきている。影は視えないけど、姿は伺えるという、俺視点だとなんとも謎な透明化である。


 そうして歩いていると、王様が急に足を止めた。


「…訊こえるぞ…鈴の音が…」


 王様は、何やら気になる発言を口から溢し、これから進む道とは別の方向へと、その足を向けた。


「悪いな!ちょっと、神域の方行ってくるわ…!皆は先にお参りしといてくれ!」


「ああ。終わったら自由でいいな?」


「おう!流石にピャッチは察しが早いな」


「残念な事に…付き合いだけは誰よりも長いからな」


「んじゃっ!また後で…!」


 そう言い残して、何処へともなく駆け出してゆく王様。


 その表情からは、ワクワクとしたものを感じ取れた。


「っあ!俺も、俺も付いていきます!」


「ああ、多分ヤクイも来たほうが良い!そのまま付いてきてくれ!」


「はい!」


 それからは、俺と王様は初代国王の神域へと駆け出した。軍服天使もそれに続くように飛んでいる。


 刀って思ってるよりも重たいのね…。左半身が動かし辛いです。


  ▲ ▶ ▼ ◀ ▲


 かくして到着した神域の前。


 そこは、キェベクの神域と同様に、大きな壁にぐるりと一周囲われていた。


 因みに、キェベクの所が石壁であるのに対して、こちらは木製の壁である。


 恐らくは、上空からそれを覗くと、くり抜かれた切り株のようになっているのだろう事が伺えた。


 唯一の出入り口である大きな門の前には、前回と同様に、門番の方が居る。


 王様はその門番に構うこともなく、その門に手を掛けて中へと入った。


 あまりにも堂々としていたので、門番の人も目を丸くしていた。


 ならばと、俺も堂々とそれに続かせてもらった。


 視界の端で人の慌てる動きが視えた気がするが、そんなことはどうでもいい。


 俺の興味は超越者の神域に向いている。


「お…おお…!」


 凄いぞ、今回の神域は…!


 門の中へと入ると、そこに広がっていたのは圧倒的な数の和風な建築物である。


 右を視ても、左を視ても、軒を連ねるのは城下街然とした建物達。


「誰も居ない…王様も…見当たらないな。あと、軍服天使も」


 …取り敢えず、向かうべきはあのお城だろうな。


 そこに超越者が居るとみた。


 そうして目的地を決めた俺が、そこへ向けて一歩を踏み出すと同時に、すぐ近くから声が掛けられた。


「ねぇ〜?君、もしかしてヤクイって人間かなぁ〜?」


 俺は咄嗟に、声のした方向から離れた。


 だが、何故だろうか?離れた先でも耳元から声が訊こえてきたではないか。


「おっとっとぉ…もぅ!危ないでしょ〜?落ちちゃったらどうするのぉ!」


「あ…もしかして…」


 頭の上へと手を伸ばすと、ふにふにと柔らかい感触が指先に伝わった。


「あははは!ちょっとぉ!擽ったいよぉ!あはは!」


 えぇ…小さい…小人的な?それとも、妖精的な?


 いや…それにしては柔らかすぎる…あと冷たすぎる。


「ひゃぁ〜!ちよっとちょっとぉ!もう辞めてよぉ!あははは…疲れてきたよぉ…」


「ああ、ごめんね」


 すると、頭からボトリと何かが落ちた感覚がした。


 そして足元を視ると、なるほど、そういうことか。


「スライムだ〜!うぉ〜!っぽいな!」


 だからあんなに不思議な感触だったんだな!


 なにげに人生初スライムだな。


「あ~あぁ…落ちちゃったぁ」


 半透明な白いスライム。


 眼も無いし、口も無い。一見するとあんこの無い水まんじゅうだな。


「ふふふっ…見惚れるのは良いことだよぉ!ほら、もっと存分にこのぼぉくの麗しい身体をご照覧あれぇ〜!」


「……んじゃっ、俺はあの城にようがあるから」


 正直、スライム自体にはさほど興味は無い。


 遊び方も知らない。


「あぁ~…もぉ!わかったょう!成れば良いんでしょう?人間の姿にさぁ…!セリョウ様もそっちの方が悦ぶしねぇ…執拗にタプタプしてくるもん」


 俺は足を止めてそのスライムへと向き直った。


 どうやら、このスライムは人間に成れるタイプのスライムらしい。


 そういうことなら…まぁ、視たくなってくるよな。


「へ~〜ん…しんっ!」


「うわ…眩しっ…」


 スライムがそう言うと、その身体は光に包まれ始めた。


 それは次第に大きくなり始め、段々と人の形へと変わっていった。


「さてさてぇ…!今一度、ぼぉくのこの、麗しくぅ、綺麗でぇ、尚且つ…プリティなこの姿を、ご覧あれぇ〜!」


 スライムがそう言うと、光は収まりを見せ始めた。


 そうして姿を現したのは、王子様系な美少女である。


 その第一印象としては、塗装をする前のフィギュアが頭に思い浮かんだ。


 このスライムはそれくらい真っ白である。


 さらに、残念な事にこのスライムは服を着ている。フリフリが沢山付いているタイプの可愛い服だ。


 きっと…この子を絵にしたら、下絵だと勘違いされるのだろうな。


「どうどう?麗しぃ〜ぼぉくの人間フォルムはぁ。ほぉら、このお尻のラインとかぁ、ムチィ〜っとしている太ももとかぁ〜、大分いい感じでしょぉ?」


「……色が無くて…ちょっと分かんないすわ。…んじゃあね、名も知らぬスライムっ娘よ」


 足の向きを再びお城へと向けて、そのまま歩き始めた。


「いや、飛んでくか…」


 そう思い、身体をフワリと浮かせた頃合いに、足にヒンヤリとした物が巻き付いた。


 それに気が付き、足元へ視線を向けると、これは凄い。


 スライムっ娘が腕を伸ばして、俺の左足にグルグルと巻いていた。


「ちょっとぉ…ちゃぁんと案内するからぁ…ぼぉくを置いてかないでよぉ〜」


「……分かりましたよ。置いていかないから。……ほら、地上に降りましたよ」


「よぉーし!あのお城まで、このメイク・ピーが案内するよぉ!」


「よろしくね、メイク…ちゃん?さん…?」


「くん!」


「よろしくね、メイクくん」


「ちょぉっと違うなぁ…メイクンって呼んでぇ」


「確かにそっちのが語呂がいいな。…メイくん、案内お願いします」


「はぁ~い!では早速、ぼぉくのお尻を追いかけて来てねぇ!」


「…言い方がなぁ…」


  ▲ ▶ ▼ ◀ ▲


 それから俺は、スライムっ娘の案内の下、超越者が居るというお城の最上階へと到着した。


「この部屋の中に居るんですね…」


「あぁ~!もしかしてぇ、緊張してたりするのかなぁ?」


「そりゃあ…碌な経験して無いですし…」


「ふぅ~ん」


「何ですか?そんなにジロジロと…」


「まぁ…少し厳しそうかなぁ〜」


「…?何がです?」


 俺の問いかけも虚しく、スライムっ娘は部屋の扉を勢いよく開けた。


 それはもう、スパァンッと大きな音が出ていました。


「セリョウ様〜、ヤクイが来たよぉ〜」


 開かれた部屋の中には、和服姿の美女が1人。


 その威風堂々とした立ち姿には、ある人物の姿が重なる。


「もっと静かに戸を開けなさい。まったく…これでは、俺の面目が立たないだろう」


「はぁ~い!次から気を付けまぁ〜す!」


「……して、よく来てくれた。俺の子孫が迷惑を掛けてすまないな」


 おっと、声が掛けられた。


 俺系美女なんだね、なるほど。


「あぁ、いえいえ、いつも何気ない気遣いとかしてもらってますし、全然迷惑とかは掛けられていないですよ。むしろ…こっち側が迷惑を掛けているぐらい…です」


「ほう…そうかそうか、気遣いが出来る子に育っているのか」


 おお…嬉しそうな顔してるな…。


 しっかし…改めて視ると、王様の面影が…うん?王様はこの人の面影…いや、なんか違うな。


 丁度いい言葉が浮かばない。


「おっとすまないね、自己紹介をすっかり忘れていた。俺の名前はセリョウ・ナフカード。ナフカード国の初代国王をやっていた者だよ」


§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§


 超越者・嫉妬 


 贈呈王セリョウ・ナフカード


§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§


 紫色の頭髪に、王様と同じ紫色の瞳。


 その身の丈は190はある。体面まで移動すれば、恐らく此方が見上げる事になるだろう。


「どうも、初めまして。俺はニシロ ヤクイといいます。ヤクイと呼んでください」


「おう、よろしくな。…さて、始めっかな」


 初代国王はそう言うと、俺の隣に立つスライムっ娘に手招きをした。


 すると、スライムっ娘は駆け足で初代国王の傍らまで移動し、その身体をバシャリと広げて初代国王の身体を包み込んだ。


 気がつけば、初代国王はその身に鎧を纏っている。


 あのスライムっ娘は、案外器用なことが出来るらしい。


 ってか、もしかしてだけど、キェベクが言ってた鎧って、このスライムの事じゃないの?


「さぁ、刀を交えよう。俺の身体に傷をつけられたら、ヤクイの勝ちだ。だが、一週間以内にそれが達成出来なければ、その刀は俺が貰う」


「難しいことを言うじゃないですか…」


「さて、場所を移そう。俺は逃げも隠れもしないからな。正々堂々が好きなんだ」


「お、お手柔らかに…」


 かくして、スライムの鎧を身に着けた、初代国王との戦闘は始まった。


  ▲ ▶ ▼ ◀ ▲


「よし、ここで良いね」


「で、では、よろしくお願いします」


 現在は、周囲を見渡しても建築物が眼に入らない、そして、地面は平で走りやすい、そんな場所にいる。


 到着の知らせを受けた俺は、腰から刀を抜き、両手で構えた。


 ズッシリとした刀の重みが、俺の腕を勝手に低くさせる。


 相手もこちらに向き直った。


 すると、手ぶらの筈だったその手には、真っ白の刀が握られていた。


 恐らくは、スライムの刀なのだろう。


 はたして、それは強いのだろうか?


「準備はいいかい?」


「は、はい!いつでも大丈夫です!」


 お互いに数メートルの間隔を開けて、お見合いをしている。


 警戒すべきは初見殺しだろう。


 開幕空に飛んで…魔法ブッパとか、ありじゃないだろうか?


 正々堂々のポリシー的には無しだが、俺の心情は正々堂々じゃない。だから、問題はない。


「作戦は纏まったかい?じゃあ、早速始めるよ!」


「はい!」


 相手がこちらに駆け出した事を確認し、俺は空へと退避、……今気がついたんだけど、刀を浮かせれば…戦闘で楽になるのではないだろうか?


 試してみようか。後で。


「ふんっ!」


 …ん?ここ、かなり高い位置なんだけど、跳躍で正面まで来たぞこの人…てか待って!やっばい!


「それっ!」


 初代国王はその手に握っているスライム刀を、勢いよく横ぶりしてきた。


「……え?…え!ほ、本当に言っているのかい!?」


 俺の首は、綺麗に弧を描いて地面へと自由落下を始めた。


 初代国王は、落ちていく首を見つめて呆然としている。

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