4人目 Ⅻ・ヤクイ 朗
かくして訪れた、初代勇者の神殿(花畑)がある街は、右を視ても、左を視ても、色んなお花が飾られていた。
あのパン屋さんも、あの魔導具屋さんも、お花屋さん…は元々か。他、様々なお店の外観には、花壇が沢山伺える。
「ここが…勇者が眠る花の街、エクスーシアイ」
俺は今、上流階級御用達の宿屋のチェックインを済ませて、街を1人で闊歩している。
本日の夕食は各々で済ませており、俺は適当に入ったお店でシチュー的な食べ物をいただいた。
「星が綺麗で、花も綺麗で、ここは目の保養にはもってこいの街だな」
そうして街内を歩んでいると、とある声が耳に入って来た。
その声はどこか荒々しく、喧嘩の現場を彷彿とさせる。
「はぁ~…だーかーらー!僕は何も盗っていないよ!」
「ああん!?俺は見たぞぉ…お前が俺のカバンから金を抜き取るところを…ヒック…」
現場では、小さい子供が、酔っ払いの男に絡まれていた。
「何度言えば解るんだよ!もう!」
「うるせぇ!さっさと俺の金を返しやがれってんだ!!!」
酔っ払いの男が小さい子供に対して伸ばした。その酔っぱらいは鼻の下もこころなしか伸びている
「うわっ!いったい、何をする気だよ!」
「本当に俺の金が無いか…ヒック…確かめてやる…」
「あぁ、ちょっと!服脱がそうとするなよ!やめろって!」
流石にこれ以上は静観できないな。
そう思い、一歩を踏み出すと同時に、酔っぱらいの男が悲鳴を上げていた。
「ぎゃあああぁぁぁ…!!!お、俺の腕がぁああ!」
「…汚らしいゴミムシめ…」
そこに立っていたのは、軍服を身に包んでいる天使系の方だった。その手には刀が握られている。
軍服の背中が大胆に開けており、そこから天使の翼が広げられている。
軍服天使は、腕を失い悶えている酔っぱらいから、先ほどまで絡まれていた子供に向き直った。
「まだ何もされてないな」
「あ、はい…そ、その!ありがとうございます!」
「気にするな。それよりも、早くお家に帰りなさい」
「分かりました!お、お仕事、頑張ってください!」
そう言いながら、子供は何処かへと駆けて行った。
そして、それを視えなくなるまで見つめていた軍服天使は、バサリと翼を広げて、空へと飛び立とうとし始めた。
「ま、待ちやがれぇ!!」
片腕を失くした酔っぱらいは、もう片方の腕で軍服天使の翼を掴んだ。
それに対して、軍服天使は体勢を崩してしまったようで、驚いた調子で声を上げている。
「なっ…!」
「へへっ!俺ぁ知ってんだよぉ…天使は翼が弱点だってなあ〜!!…俺の腕を切り飛ばした仕返しだぁ!このまま…もぎ取ってや…もごご!?」
「っとと、やり過ぎだ。君も天使も」
ふぃ~…危なかったぁ〜!もう少し遅れてたら、せっかくの翼が取れちゃうとこだった。
授業真面目に受けてて良かった。さっそく役に立ったよ。
俺は今、酔っぱらいの口にハンカチを入れて、さらに、それに加えて肩の関節を外している。
そのお陰で、翼を掴んでいた方の腕は、力が抜けてダラリとしており、なんとも痛々しく映る光景ではなかろうか。
「あ、軍服天使さん、その…付け根とか痛まないですか?」
「い、いや、問題無いが…君は?」
軍服天使に手を伸ばすと、存外のこと素直に受け取ってくれた。これには、プライドが高そうだと、勝手に想像していた点に反省である。
さっと立ち上がり、軍服天使は姿勢を正して俺に向き直った。キリリとした表情がやけに似合う。
「俺は…あ、名乗る程のものではないですよ。では、これで…」
こういうのやってみたかったんだよな。
そうしてその場から去ろうとすると、翼を包み込むように展開され、俺の夢は儚くも散った。
「…な、何ですかね?」
ってか、酔っぱらい何処行った?帰ったのか?
「名乗るんだ、ちゃんとな」
「あっ、はい」
こんな小スペースで刀を向けないでくださいよ。怖いじゃないですか。
ってか、翼こんなに大きかったっけ?伸縮可能ってこと?
「ニシロ ヤクイです、ヤクイでいいですよ」
「ヤクイ…ふむ……君か」
こちらに向けていた刀を、腰についている鞘へと戻した。際しては、翼も元の大きさへと縮んでいた。
ひとまず、人心地がついたといったところだろうか。
すると、どうした事だろうか、軍服天使は綺麗に腰を折って、俺に対して謝罪をし始めた。
「卿、先程の無礼な対応を、我儘ながらどうか許して欲しい。誠に申し訳ない」
「別に気にしてないけども…因みにさ、卿って何の話?」
「私の主がそう呼ぶようにと、言っていたが故、そう呼ばせてもらった」
「主ねぇ…」
「それにしても残念だ。私が導かないといけない人間が、こんなにも弱々しいとは…だが、これも使命、致し方なしだ」
「導く…あ~ね、頭痛くなるやつだ。因みに性別とお名前は…?」
暗いし、帽子を被っているしで、軍服天使の性別が分からない。
もしも女性だったとしても、俺は克服してきているから問題ない。…なんか、会いたくなってきた。
「ソーシャル・アイだ。これからよろしく頼む」
「これから……?」
「ああ、私は卿を導かねばならないからな。これからは行動を共にさせてもらおう」
俺は思った。
あれ?なんか既視感…。
こうも思った。
帰り道付いてくるとかないよな?……訊いてみよう。
「行動を共にっていうのは、もしかして、帰り道とか付いて来るの?」
「ああ、不本意ながらそうなるな。上等な寝床を求む」
「…ハルル…お前んとこの子、めっちゃ良い子だな…」
天を仰ぎそう呟いた。
なんとも生意気そうな軍服天使が、俺のお付になってしまった。
断れないものなんだろうなと、既に察しはついている。
「じゃあ、これからよろしくね。ソーシャル」
「はぁ~…」
こいつ…溜め息吐いてるわ。
いつか絶対に威厳的なものを見せつけんとな。じゃないと舐められっぱなしだ。
「ソーシャル、性別は?」
ん?なんかちょっとAIに訊いてるみたいだな。まぁ…アイだしそんなに変わらんか。
「…………」
何だよその顔?何を考えてる顔なの?ジッとこっち視ながら何を考えているの?
「…まぁ、いいよ。風呂ん時には判明するだろうしな」
「いや待て、何故一緒に入る前提で進めているんだ」
「さて、宿はこっちだから、しっかりと付いて来なよ」
「良い所でなければ、私は卿を恨む」
「はいはい」
それから俺は、チェックインを済ませている宿へと足を進めた。
こいつの驚く顔が今から楽しみである。
▲ ▶ ▼ ◀ ▲
宿へと辿り着き、荷物を預けていた部屋へと到達した。
軍服天使は、ふてぶてしくも、いの一番にベッドを占領した。際しては、俺に対して床で寝るようにと促している。
流石にイラッときた俺は、眼の前で寝間着に着替えてやった。眼を背けた位置にわざわざ移動を繰り返してやったわ。
だからだろうな、怒らせてしまった。
「なー、ごめんって。執拗に裸視せてごめん」
「最っ低」
軍服天使は翼でその身を包み込んでおり、その姿からは蚕の繭を連想してしまう。
素人目にも、なかなかに器用な芸当のように思える。
「この際もう性別だとかはどうでもいいから、これからも関わることが確定している子に嫌われるのだけは嫌だ」
「…なら、もう二度とセクハラはしないことだな」
「はい…すみませんでした!」
「ふん…!もう寝る」
「本当に…ごめん。…お腹痛くなってきた…」
あ~…あの時の記憶が蘇ってくるわ…。
ちくしょう…腹痛ぇ…。
「さっさと風呂入って…床で寝よう…」
それからは、そそくさと同室の浴室へと入り、いつもよりも少し長めの入浴をした。
そして浴室から出て、髪をタオルで拭い、服を着て寝室へと向かった。
すると、ベッドの上で体育座りをしている軍服天使と眼が合った。
「あれ…?寝るんじゃなかったんですか?」
「…………」
「まぁ…すみませんでした」
自身の荷物が収まる鞄を、枕代わりとして頭の下に敷き、そのまま床へと横になった。
風呂上がりで身体はポカポカとしているので、眠りに入るのに、あまり時間は掛からないだろう。
ってか、部屋の灯り消してなかったわ。
そう思い、少し眠たくなってきた眼を開けると、これは驚いた。
こちらの顔を覗き込むようにして、軍服天使が眼の前にしゃがんでいた。
「え…なんすか…?」
「やっぱり理解できないな。この男の何が良いのか、私にはさっぱりだ」
「あの…部屋の灯りを消そうと思うんですけども…まだ起きてますか?」
「ああ、もう少しだけ起きている」
「はい…分かりました」
俺は再び眼を閉じた。
疲れた頭に思い浮かんでしまったのは、昨日のギャザットの淫らな姿である。
「あ、ヤベ…」
ちくしょう…部屋に一人なら、別に気にしなかったのにな。
セクハラを控えようと決めたのになぁ…。
頼む!もうベッドの上に戻っていてくれ!
そう願いながら恐る恐る眼を開くも、現実は非常なり、ポカーンとした顔でブツを見つめる軍服天使がいた。
「うわ、でっか…」
俺は諦めた。
もう寝よう。どうせ、朝起きてもそうなるんだ。
ウザいよなぁ、健康の証なんだけど、朝勃ちってウザくね?俺はウザいって思う。
幸いなことに、睡魔はすぐに舞い降りてきてくれた。
お陰様で熟睡です。ありがとう睡魔、今ほど感謝したことは無いよ。
▲ ▶ ▼ ◀ ▲
翌日の朝、俺は窓から差し込む光に当てられて眼を覚ました。
「朝か…会社は…いや、無いか」
少し痛む身体を起こすと、あることに気が付いた。
「あれ…?軍服天使は…どこや?」
少なくとも寝室の中には、その姿は伺えない。
「トイレか?…まぁ、ノックでもして、存在を確認するか」
その場から立ち上がり、寝室を抜ける。
そのまま廊下へと足を踏み入れ、トイレの前まで移動した。
「お~い…居るか?」
ノックを2回してそう問い掛けるも、返事は帰ってこない。
ここに居ないなら、風呂にでも入ってんのか?まぁ、確認すっかな。
それから俺は、風呂に繋がる更衣室の扉の前へと移動し、一応、更衣室の扉をノックをした。着替え中の可能性もあるからな。
コンコンと、小気味の良い音を鳴らしなから、俺は声を出した。
「ソーシャル?…居る?」
すると、更衣室の中から、ガタンッと音が訊こえた。驚かせてしまったのだろうか?だとしたら、何とも申し訳ない。
「あ、ごめん!驚かせた?」
俺のその問い掛けに対して、更衣室の中からお返事がきた。
その声からは、何かを口に含んでいるかのような感慨を受けられる。
「…いや、別に気にするな。卿は寝室で…んぐ…待機していてくれ」
「は~い」
今、何かを飲み込んだよな?…あれか?歯を磨いた後のやつ…飲み込むタイプの方か?ん~、まぁ、だとしたら、モゴモゴとした喋り方にも納得がいくな。
更衣室に向いていた足先を寝室の方向へと戻し、そのまま寝室へと戻った。
「ってか、今日はなんか朝勃ちしてなかったな。ラッキー」
寝室に到着するなり、俺は執事服へと着替え、外出の支度を整えた。
それから少しして軍服天使が部屋に入ってきた。
俺はこれからの予定を伝えて、軍服天使を引き連れて外へと向かった。
事前に訊いていた目的地は、神殿代わりの花畑エリア前である。
▲ ▶ ▼ ◀ ▲
途中道に迷ったが、軍服天使の手引により、俺はなんとか目的地へと辿り着いた。
どうやら俺が一番乗りのようで、そこには誰もいない。
そこは巨大な壁にぐるりと一周囲われており、中の様子が外側からだと伺えないようにできていた。
俺は今、神域である花畑の中に、軍服天使と並んで立っている。
「うわぁ~、綺麗だなぁ」
眼の前に広がる景色は、花畑でいっぱいである。日本にもこういうのあったよね。
ここに植えられている花は、一つ一つが違う形をしており、その種類も別の物と思われる。
恐らくは、世界中のすべての種類の花がここに植えられているのではないだろうか。そう思えるほどに、同じ種類っぽい花が見当たらない。
ワンペアなんて、ここには無いのだろうな。
そうして景気に見惚れていると、軍服天使がタイミングを見計らったかのように、突然にも声を上げた。
「キェベク様!目的の人物をお連れ……」
その声は最後まで訊こえることもなく、フッと消えた。
それに気が付き周辺を見渡したが、その頃には既に軍服天使の姿は何処にもない。
ただ、その代わりとして、別の天使が翼を広げて空に浮かんでいた。
「よっ!ニシロ ヤクイ」
象さえも覆えてしまうのでは?と思える程に大きく開かれた純白の翼は、太陽の光を受けてキラキラと輝いている。
その頭髪はシルキーホワイトといった具合の色をしており、短く刈り上げられている。
彼の瞳は特徴的で、澄み渡る青空のような色合いで、五芒星が浮かび上がっている。
また、左耳にはエメラルドグリーンのピアスが幾つか付けられている。
「かっけぇ…」
気が付けばそう口から溢れていた。
多分、この天使がキェベクなのだろう。
「ヤクイ、俺の使徒が迷惑をかけたな」
「…使徒?…ソーシャルのことですか?」
「そう、その子。彼女ってば、産まれたばかりだからさ、許してやってくれ」
「別に許すも何も…気にしてないですけど」
この天使いつまで空を飛んでいるんだろうか?
一向に降りてくる気配はない。
これは…つまり、俺が向かうのか?
なら…飛ぶか。
「よっ…と」
「おおっ!」
身体をふわりと浮かせて、天使と同じ高さまで浮上した。
そして、俺は気がついた。この天使…でけぇ!
…2メートルはあるぞ。
遠近法ってば、すぐに俺の脳みそを騙すんだから。本当に迷惑しちゃう。
「それは、セクタの力だな?はは~ん…つまり、俺が一番じゃなかったって事か、残念残念」
「セクタ…も超越者なのかは知りませんけども、多分貴方で3人目です」
「はぁ!?えっ…誰だろうな…バイナリぃは絶対に違うし…消去法的には……なるほど、エフェトバタラか」
「多分そうです」
「あの子、そんなに積極的だったかな…?楽しみにしてたのは、俺とバイナリぃ…あと、アダムくらいだし。まっ、ただの気まぐれか」
アダム?…めっちゃ気になるな…。
ノア曰く…ファミリーのドンらしいからな。
お前の部下どうなってんだって、文句の一つでも言ってやりたいわ。
「さて、これからヤクイには、力を追加するんだけど、その前に…俺と遊ぼう!」
「あ…やっぱり何か貰えるんですね」
超越者達は俺をどうしたいんだろうか?
俺の事を強化をして、何か良いことでもあるのだろうか?
……でも、貰えるもんは貰っとこうか。
「遊ぶ…?何の遊びですかね…」
少し不安が募る…だって、超越者の方の第一コンタクトが芳しくない。
蹴られたり…幻覚で嫌なもん魅せられたり…いったいどんな遊びを用意されているんだろう…。
「今回俺が用意したのは…ダラララララララ…ダンッ!!…指定したお花を見つけろーー!」
「指定したお花…?…ん?この中から…?」
無理だな。
無理だよね。
無理すぎるな。
無理ゲーすぎる。
ってか、いつまで空飛んで…あ~、花を見つけるなら、歩くよりも飛んだほうが見つけやすいか。だから飛んでいるんだろうな…憶測に過ぎないけども。
「ルールは簡単。このゲームはターン制で、片方が花を指定する。そして、もう片方がその花を見つけて、手で掴んで持ってくる。それの繰り返し。あと、君は一回見つけられれば勝ちでいいよ。その時点で力を与えてやるから」
「一回でいいんですか?なら…」
「でも、時間制限内で見つけないといけない。もしそれを過ぎれば…まぁ、その時のお楽しみだな」
「えぇ…怖い」
「君が勝つ方法は2つ。一つは指定された花を見つけて持ってくること…もう一つは、指定した花を見つけさせない、または、俺が指定された花を時間内に持ってこれなかった場合。その2つだ」
なるほど…確かにシンプルだな。
だがしかし、懸念すべき点が一つ。
それは、……俺はこの世界の花の名前を知らない。何一つとして知らない。
現代世界でも危ういのに…ヒメジョオンとハルジョオンぐらいしか詳しく知らない。
これは…確率を引くしか無いのか?
完全にクソゲーじゃねぇかよ。
「分かりました…頑張ります…」
「因みに、ここは特別でね…ここにいる間は、外の時間は進まない。だから、安心してね」
「なるほど、了解です」
ノアの時もそうだったけども、なんとも不思議な空間だな…。
「さぁ!早速始めよう、お花探しの開幕だ!」
天使は手を合わせて、パンッと大きな音を出した。
すると、どうした事だろうか。
目下に広がる花畑の、その一本一本がランダムに移動を始めた。
つまりは、一回裏返すごとに、すべてを並べ直す神経衰弱だ。
詰んだ。罪ですこれは、本当に犯罪級なクソゲーですよ。
「終わった…何ヶ月掛かるんだよ…これ」
「さて、俺が先行を行かせてもらおう。ヤクイ、君に持ってきてもらいたいのは、千弁花だ。さぁ、1分以内に持ってきてくれよ?開始だ!!」
「えぇ~…センベンカ?」
と、取り敢えず、それっぽいのを持っていこう。
数をこなして、覚えていこう。
最初はそう思っていた。
▲ ▶ ▼ ◀ ▲
「じゃあっ!お次は…砂弁花!1分以内に持ってこーい!」
「はぁ…はぁ…サベンカって、どれすか…!」
かれこれ数日間はこうして花を探している。
「は~い、終了ー!失敗って事で、斬首ー!」
「ぎぇっ…!」
俺は、お花探しに失敗すると、首を切り落とされる。そして、俺のターンが来る。
どうして無事なのか?
それは、この天使がそういうルールを追加したからだ。
彼は、付加王という肩書の通り、この世の理に干渉して、強制的にルールを捻じ曲げられる存在だった。
要は、火傷をしない炎や、塩分のない海を作れる人物ということだ。
とんだ化け物である。
超越者は皆こうなのだろうか?
「さぁ、どんな花でも良いよ?言ってごらんよ」
最初はこの世界に無い花の名前、チューリップとか、パンジーとかを言ってみた。
だが、それも無意味だったんだ。
彼は理を捻じ曲げる、つまりはそういう事である。
「君のお陰で、ドンドンコレクションが増えてくよ〜!ありがとう、もっと沢山頂戴ね」
「っくそ!」
何を言えばいいんだよ!
もうないって、引き出し空っぽだよ!
「早くしないと、俺の番になるよ?」
何か、な何かないのか…?
「ん~、次に俺の番が来たら、何にしようかな?臭いが独特の花しか、そろそろ残ってないしな…」
臭い…そうか!
「さて…あと10秒以内にお題の花を言わないと、俺の番だな」
「持っていられるなら、持ってろよ?」
「おっ、決まったのか。随分と遅かったな?」
「俺が持ってきてほしい花は、ドラクンクルス ブリガリスだ。3秒で持ってこいよ!」
「おっ、なんか格好良い名前だな、さて、いでよ!」
ルールの追加が始まった。
この世界にはドラクンクルス ブリガリスがあり、且つ、天使の手に握られている、と。
「さてさて、どんなお花なのかな?」
「ちゃんと俺に渡してくださいよ?しっかりと、手で掴んでな…!」
「っうわ!」
その花が手に現れた瞬間に、彼はその手から花を落としてしまったようだ。
それもそのはず、ドラクンクルス ブリガリスの特徴は、鼻腔を劈く腐臭である。
「ぐっ…こんなになんだ…」
俺がいる位置でもその臭いを感じ取れる。
腐った肉の強烈な臭いがする。
それを手元に持ってきてしまった天使は、なんとも愚かな顔を晒している。
顔をクシャリと顰めて、嗚咽混じりに咳を混んでいる。
どうやら、臭い物に耐性がないらしい。
「っな、なんてものを…!!ぐふっ…ゲホッゲホ…」
卑怯かもしれないが、俺の勝ちだ。
名前が長いし、冷静さを失っていたせいで、思い出すのに時間が掛かりすぎてしまった。
「俺の勝ちだぁ~!!」
俺はそう叫びながら、天使の位置に向かい超特急で近づいた。
そしてそのままの勢いで傍らを通り過ぎる。
「カハッ…!」
キェベク・ビギニング
それは、俺がたった今、その片翼と首を切り飛ばした者の名前だ。
「あれ…何だこの刀…?」
そういえば、どうして切り飛ばせたんだろう?
いつの間にか、両手で刀を握っている。
すると、背後から拍手の音と共に称賛の声が訊こえてきた。
「いやぁ~!おめでとうおめでとう!俺初めて死んだよ!この数日間で随分と移動スピードが上がったんじゃないの?」
「言われてみれば…確かに」
今のコンディションならば、仙台から会津まで20秒で到着できるかもしれない。
そして、声が訊こえてきた方向へと向き直ると、五体満足…プラス二翼の天使が満面の笑みで飛んでいた。相変わらずその翼はでかい。
「その日本刀、俺に勝ったら与えるっていうルールだったんだよね。だから、君は俺に勝ったのに追い打ちしてくれたんだよ」
「まぁ、安牌では?」
「…まぁ、首をガード出来なかったのは俺だし、それは許そう」
「あれ?俺からのプレゼント、どこやったんですか?」
「…無くした。この世から」
「あらら…」
「何なんだ?あの花は…」
「俺は、語呂が好きで覚えてたんですよ。小学生くらいの時に…必死になって口ずさんでました」
「……ははは!気に入った!本来ならばその日本刀だけだが、まぁ、これは討伐報酬というものだ。受け取りたければ、ここにチュッだ」
手の甲を差し出してそう言った。
「何が貰えるのかな…?」
そう呟きながら、差し出された手の甲にキスをした。
そして、自身身体を色々とチェックしてみた。
手、腕、お腹、足、左手の甲、太腿、足の裏、取り敢えず、視えるところは確認した。だが、紋章的な何かは伺えない。
いったい何だろうか。
「はははは!そんなに探しても見つけられないって。だって、君の瞳に変化が起きたんだもん」
「瞳?」
「ああ、本来ならば、青色の筈なんだけど…なんか赤くなってるね。まっ、権能は変わらないと思うけど」
「へ?」
「君の瞳には、赤い五芒星が浮かび上がった。これからは…その瞳のまま生きていくことになる。どんまい」
「赤い五芒星…瞳に?」
それから俺は、この瞳の取説を訊いた。
どうやら、この瞳はバフや魔法等をストックしておく事が可能なようだ。
ただし、それも合計3つまで。なんともバランスの取れた権能ではないだろうか。
俺はさらに、クリア報酬である日本刀についても訪ねた。
そして、帰ってきた文言はといえば、こうである。
この手に握っている日本刀は、この世界で採れる特殊な鉱石と植物を使用して作られたものであり、持ち主のイメージを強く反映するものだそうな。
因みに、鎧もセットでこの世界の何処かにあるらしい。
「それじゃあっ、また遊ぼうな!」
「次は俺が遊びを決めます…」
「おっ、言ったな?じゃあ、次会えるのを楽しみにしとくから、またな!」
「はい、また…」
そして、俺は眼を覚ました。




